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第11話:その「救い」は、ただの毒や

救済を装った「毒」を売る闇商人。

スラムの悲鳴を聞きつけ、ヨシコさんと六男・ロクロウが動く!

魔導具工房の過酷な労働環境を是正し、レオやニルスたちが「しっかり寝て、しっかり食う」という人間らしい生活を取り戻してから数日が経過した。

ヨシコは王都の華やかな大通りから一歩外れた、通称「吹き溜まり」と呼ばれるスラム街の入り口に立っていた。


かつてヨシコが魔王軍の総務として、種族を問わず徹底した健康診断と衛生管理を敷いていた頃には考えられないような、どす黒い「病」の気配がそこには漂っていた。


「……なんや、この匂い。ポーション特有の清涼感ある薬草臭やない。もっとどろっとした、化学薬品の腐ったような、鼻を突く嫌な匂いやわ……」


路地裏には、顔を土気色に変え、激しい咳き込みと共に力なくうずくまる人々があふれていた。

彼らが最後の一縷の望みとして縋るように手にしているのは、濁った紫色をした、ラベルもない不気味な瓶だった。


「おばちゃん、これ……本当に効くんだ。飲むと、一瞬だけ体が羽のように軽くなって、痛みも全部忘れるんだ……」


一人の少女が、焦点の合わない虚ろな目で笑いながら、その瓶を震える口元へ運ぼうとする。

ヨシコは反射的にその細い手首を掴み、瓶を取り上げた。


「あかん!こんなもん飲んだらあかん!」


「あ……返してよ、それがないと、また地獄みたいな痛みが来るの……。お願いだから、返して……」


少女の悲痛な叫びに、ヨシコは胸を締め付けられる思いがした。

彼女は迷うことなく自分の腰のポーチを開き、予備として持ち歩いていた王宮御用達の最高級ポーションを取り出した。


「……あんた、これ飲み。本物の、ええ薬や。こっちの怪しい瓶は、ウチが責任を持って預かっとくからね」


ヨシコは少女に本物を手渡し、ゆっくりと飲み干すのを母親のような眼差しで見届けた。

少女の瞳の濁りがわずかに晴れ、呼吸が整うのを確認してから、ヨシコは預かった不気味な瓶をスマホのカメラで多角的に撮影し、さらに少女の表情や震える指先の微細な動きを動画に収めた。


「……ロクロウ、あんたの出番やわ。スラムで得体の知れんもんが出回っとる。今、画像と動画送ったから、すぐに診てくれるか」


スマホの画面に、白衣を纏い、冷淡な、しかしどこか慈愛を隠し持った瞳の青年が映し出された。

ヨシコの六男・ロクロウ(総合診療医)である。


『……姉ちゃん。……ひどいな、これは。その液体の不自然な沈殿、それに患者の指先の振戦しんせん……明白な「魔力回路の強制励起れいき」による副作用だ。……それは薬なんかじゃない。一時的に感覚を麻痺させて万能感を与えるだけの、ただの「麻薬」だよ。飲み続ければ魔力回路が焼き切れ、廃人になる。……スラムの困窮に付け込んで、毒をポーションと偽って売っている奴がいるのか』


ロクロウの声は、医者としての静かな、しかしマグマのような怒りで震えていた。


「やっぱりか。……『人の弱みを、金に変える』。……これはな、ウチがこの世で一番、万死に値するほど許せんやり方やわ」


ヨシコは少女の頭を一度優しく撫でてから、スラムの中央広場へと足を踏み入れた。

そこでは、不気味な黒いマントを羽織った闇商人が、苦しむ人々を前に「奇跡の安売り」を大声で謳っていた。


「さあ、苦しみから解放されたい者は並びなさい!王宮のポーションは欲深い金持ちのものだが、我らが売るこれは、誰にでも手が届く救済だ!」


「救済?毒を盛って依存させて、死ぬまで全財産を吸い上げるんを、救済とは言わんわ!」


ヨシコの鋭い怒声が広場を切り裂き、闇商人の卑屈な笑いが止まる。


「……あんたな、自分たちが何をしとるか本当に分かってんのか。病の痛みから一秒でも逃げたい切実な人間の心に付け込んで、中身も分からん毒を『薬』や言うて飲ませる。……あんたらがやっとるんは、商売やない。ただの『緩やかな殺戮』や」


「ふん、なら奴らに王宮の高価なポーションが買えるのか?我々がいなければ、こいつらは今日をも生きられないんだ!これは必要悪だよ!」


「だから言うて、依存症にさせて骨までしゃぶってええ理由には一ミリもならんわ!……ロクロウ、準備はええな?今からスラムの入り口に、特設の『臨時診療所』を開設するで。……あんたの『神の手』で、この街に溜まった毒を根こそぎ浄化しなさい!」


ヨシコのスマホに、ロクロウからの「渡航準備完了、医療物資投下開始」の通知が入る。


「……さて。闇商人さん、覚悟しとき。……あんたが売った『毒』の数だけ、きっちり責任取ってもらうからね。……中身の分からんもんを、綺麗事並べて売る時代は、今日で終わりや!」


ヨシコの背後には、最新鋭の医療魔導具を携えたロクロウの幻影が、守護神のように立ち昇っていた。


(第12話へ続く)


依存症にさせて骨までしゃぶる?

万死に値するわ。

ロクロウ、あんたの「神の手」で毒を浄化しなさい。

次回、医療格差にメスを入れるで。

更新は不定期、チェックしときや!

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