プロローグ
突発的に始めてみました。
過去に別名儀で出版歴ありますが、読者となる対象年齢を下げたかったので名義を変えています。
ファンタジーらしいファンタジー書けるのか分かりませんが、とりあえず始めてみました。
「……これは一体、どういうことや」
王都から遠く離れた山奥で、男は頬を引きつらせた。真っ赤に燃え上がる屋敷、聞こえてくる人間の悲鳴。そして、男を見下ろす赤き龍の目。
なんでこんなところに。一体誰が呼び寄せた。
円を大きく描くように、赤い鱗をまとった赤龍は夜空を悠然と泳いでいる。
大きさを見る限り、まだこどもの龍だろう。けれど危険であることには変わらない。
男は舌打ちすると、手にしていた木剣の形をした杖を構え、その切っ先を赤い龍に向けようとした。頭の中で素早く呪文を紡ごうとしたが、その手が途中で止まる。
その背に乗っているのは、男が探していた少女――自分の娘だったからだ。
「ユーリ!」
咄嗟に彼女の名前を呼んだ。
いつも穏やかで、鮮やかな翡翠色の目。だが今や、その瞳孔は龍の如く細長く、鋭いものに変化している。そして小さな体から迸る、信じられないほどの膨大な魔力。
なぜ、彼女に魔力が。
(――いや。あり得ないことは、ない)
男は再び舌打ちすると、危険を承知で浮遊した。
攻撃が飛んでくると思い男は身構えていたが、赤龍は自ら、ゆっくりと男の元へ擦り寄ってきた。攻撃の意思はないとでも言いたげに、その目は凪のように落ち着いている。
「……赤龍の子よ。ユーリを返してもらってええか」
恐る恐る、男は赤龍の鱗に触れた。炎を放つというのに、冷たく、固い肌ざわり。
すると、肯定するように金色の目は閉じられた。
「感謝するで」
男は意識がはっきりしていないユーリの体を抱えると、ゆっくりと地面へ降り立った。
赤龍はそれを見届けると、役目を終えたと言わんばかりに、南に向かって飛んでいく。
そして、抱えていたユーリの体が急に重みを増した。
聞こえてくるのは静かな寝息。どうやら完全に意識を失ったらしい。彼女の赤毛を撫で、安堵の息をつく。
一体何があったのか――。
分かっているのは、彼女の中で魔力が目覚めたということ。この年になって、だ。
魔力は基本、持って生まれるもの。成長途中で覚醒することは滅多にない。――そう、幾つかの事例を除いて。
すると、彼女の頬を涙が伝い落ちていた。
「ユーリ……?」
「いやだ……。さよなら、なんて」
一体、何に、誰との別れなのか。あの赤龍のことを言っているのか。
男は彼女の涙を指で拭ってやると、燃える屋敷の炎を消すべく魔術を放とうとした。
しかし、こちらに向かってくる複数の気配を察し、男は少女を抱えて闇の中へと姿を消した。
それから五年――。
赤龍の背に乗っていた少女は、その時の記憶がないまま、国立中央魔術学院に入学を果たすことになる。