3 形勢逆転
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「ああ、君たちか」
ギアルの冷ややかな視線の先には、クレアへ婚約破棄を言い渡したオリヴァーと、オリヴァーを略奪した令嬢アリーネがいる。
「殿下、その女は確かにこちらにいるアリーネ嬢へ嫌がらせを行なっています。俺を奪われた腹いせに嫌がらせを行う、悪女のような酷い女です。殿下が庇うような女ではありません！」
オリヴァーが声を高らかにしてそう言うと、ギアルはさも不快だと言わんばかりの顔をする。
「本当にそうなのか？アリーネ嬢。俺に対して嘘をつくことは王家に嘘をつくことと同じだ。それはわかっているんだろうな？証拠があるならばぜひ見せてほしい。そんなにも嫌がらせを受けているのであれば、一つくらいはあるんだろう」
「そ、れは……」
ギアルの言葉に、アリーネは怯えたように震えている。それを見てオリヴァーは顔を顰めながら問いただす。
「アリーネ、本当なんだろう？俺にいつもどれだけ酷いことをされているか言っていたじゃないか。殿下にちゃんとお伝えするんだ、ほら」
「ひっ！」
「あるわけがないよな。俺が従者に調べさせたところ、そんな事実はどこにもなかった。クレアを悪女に仕立てあげて面白かったか？悪女の方はむしろアリーネ嬢の方なのでは？」
ギアルが冷ややかな視線をアリーネに向けると、アリーネの顔はすっかり蒼白になる。
「アリーネ！嘘なのか？そんなまさか！」
「君は第二王子の俺の調査より、その御令嬢を信じるのか？ああ、いや、そこまで愛しているのであればそれもそれでいいだろう。だが、君たちは紛れもなく罪のない一人の令嬢を悪女に仕立て上げた、それは真実だ」
会場内が一気にざわつき始める。誰もがオリヴァーとアリーネを見て嫌悪感を露わにしていた。
「わ、私、体調が悪いので、失礼しますっ……！」
「あっ、アリーネ！」
震えながらバタバタと走り去るアリーネを、オリバーは慌てて追いかけていく。
「さて、この話はこれで終わりだ。でっち上げられた話に尾ひれをかけて広めた人間も、それを信じきってクレアを責め立てた人間も、あの男たちのように程度が低い人間だということを自覚してもらいたいね。この国の貴族であるならば、今後はそのようなことがないようにしてもらいたい」
ギアルの言葉に、ざわついていた会場が一気に静かになる。
「さて、クレア、俺たちもそろそろお暇しよう。君には正式に婚約を申し込むつもりだからそのつもりでいてくれ」
ギアルは振り向いてそう言うと、クレアの肩をグッとだいた。ギアルの突然の発言にクレアは目を大きく見開いてギアルを見上げる。
「……はい！？」
「クレアは俺と一緒になるのは不満かな？」
「えっ、ええっ！？そんな！そんなことはありませんけど……」
クレアの言葉に、ギアルは微笑んで周囲を見渡す。
「ちょうど良い、ここにいるみんなに証人になってもらおう。俺は今日、クレア嬢に婚約を申し込み、受け入れてもらえた。正式な申し込みは改めてするが、クレア嬢は俺の婚約者ということになる」
ギアルの言葉に会場が静寂に包まれるが、どこからともなく拍手の音が聞こえ出した。そして拍手はどんどん多くなり、会場内が拍手の音で包まれた。
（えっ、えっ！？何？何が起こっているの！？）
状況が全く飲み込めず脳内が完全にフリーズしたクレアはただただギアルを見つめるが、ギアルはそんなクレアを愛おしいと言わんばかりの目で見つめる。そして、周囲を見渡して満足そうに頷いた。
「どうもありがとう。それじゃ、俺たちはこれで失礼するよ」
王子スマイルを振り撒き、ギアルはクレアをエスコートしながら会場を出ていく。ギアルの笑顔に当てられた御令嬢たちからは黄色い声が聞こえてきた。
