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第4話 ナギサの悪夢

「私がシャーロット様のお付きって、どういうことですか?」


 エルマの意外な申し出に、ナギサはただ面食らっていた。


「私、ローレライをクビになっちゃうんですか!?」


 憧れのローレライになったのに、まさか半年で首になるなんて。


「ディアナ号の着岸に失敗したせいですか? あのあの、頑張って働いて、修理費を稼ぎますから、どうかローレライをクビにするだけは、許してください!」


 涙目になりながらナギサが迫ると、エルマは苦笑した。


「誰もあなたをクビになんてしません。あなたにはアクアトリアの代表として、シャーロット姫の側についてもらいたいのです」

「……アクアトリアの代表? どういうことですか?」


 ナギサがきょとんとすると、エルマは静かに続けた。


「シャーロット姫は、しばらくアクアトリアの視察をされるそうです。その間、シャーロット姫のお話し相手になってほしいとルーグリス公国から申し出があるのです」

「そのお役目を私に?」

「ええ。シャーロット姫はまだ十八歳とお若い。お話し相手も、同じ年頃の方が仲良くできるのではないかということです」

「そういうことなんですね」


 確かに自分がシャーロット姫と同じ立場なら、見知らぬ大人が話し相手になるよりも、同年代の女の子が話し相手として側にいてくれる方が嬉しい。


「でも、どうして私なんですか?」


 ローレライや政府の関係者にも、十八歳ぐらいの女の子はたくさんいるだろうに。


「最初はルミナに依頼が来たのです。あの子はローレライとして有名ですからね。ですが、ルミナがあなたを推薦したのです。あなたなら、シャーロット姫とも仲良くなれるだろうと」

「ルミナさんが私に……!?」


 顔がにやけてしまう。尊敬する先輩から推薦をしてもらえるなんて。


「ナギサさん。これはアクアトリアとして大事な仕事でもあります。シャーロット姫が無事にアクアトリアで過ごせるように、あの方の側にしっかりついてくださいね」

「わかりました! お任せください!」


 ナギサが敬礼をすると、エルマは苦笑をこぼした。


  ◇ ◇ ◇


 その夜、ローレライの宿舎。


 ナギサは自分の部屋のベッドに寝転がりながら、イルカのぬいぐるみを抱いていた。ローレライ協会の建物の近くにある小さな宿舎に住み込んでいた。

 小さな部屋ではあったけれども、窓から港と海が一望できるのがよかった。

 月明かりを浴びた海に、ディアナ号が停泊している姿も見える。


(明日からシャーロット様の話し相手に……)


 まさか自分が国賓の相手をするなんて。

 きっと田舎の母も、外交官だった父も、喜んでくれることだろう。


 父が行方不明になって早十年経過したが、今でも父のことは思い出せる。家にはほとんどいなかったけれども、外国の様々なお土産を買ってきてくれた。


 珍しい品々を持ち帰ってくる父が、ナギサは大好きだった。

 ナギサはローレライになったけれども、外交官にも憧れていた。アクアトリアや周辺の国の人々を守るために、外交官として働いた父を今でも尊敬をしている。今でもナギサの家には外国から感謝の手紙が送られてくることがある。


(お父さん、シャーロット姫がアクアトリアを好きになれるように頑張るね)


 そう心の中に誓いながら、ナギサは眠りに落ちていった。


  ◇ ◇ ◇


 ふとナギサが気づけば、薄暗い場所に立っていた。


(あれ? 私、なんでここに……?)


 ベッドで寝ていたはずなのに、いつの間にか、ローレライの制服に着替えて蒸気船にいる。周りを見回せば、アクアトリア港から離れた場所にいた。遠くに灯台の明かりと港の建物から漏れ出る明かりがほのかに見えた。


(どうしてここにいるのだろう?)


 わけがわからずに辺りを見回していると、急に目の前に誰かが現れた。


「シャーロット姫!?」


 シャーロットは出会った時とは違い、鳥の模様があしらわれた青いドレスを着ていたが、なんと彼女は全身がずぶ濡れになっている。気づけば、ナギサ自身もいつの間にかローレライの正装がずぶ濡れになってしまっていた。


 月明かりに照らされた彼女はぐったりと身動きひとつ取らなかった。

 とにかくシャーロットを助けなければ。


「シャーロットさん! シャーロットさん!」


 ナギサはなぜかわからないけれども、シャーロットに対して「様」ではなく、友達に呼びかけるように「さん」と呼んでいた。


 状況はわからないけれども、とにかくシャーロットを助けなければいけない。


「シャーロットさん、目を覚まして!」


 何度呼びかけても、シャーロットは目を覚まさなかった。彼女の顔はひどく青ざめており、息をしている気配もなかった。


(これって溺れたってこと……?)


 ナギサが心肺蘇生をしようとした矢先、背後から急に腕を掴まれた。


「よくも邪魔してくれたな」


 振り返れば、見知らぬ男たちがふたりほど立っていた。顔は闇に包まれてよくわからない。男たちは粗い生地の服をまとい、荒れた手で拳銃を握りしめていた。暗闇から見える目には慈悲の色が一切ない。


「おまえたちのせいで、ルーグリスを奪う計画が無駄になった。責任は取ってもらう」


 男のひとりが右手に握っていたものを突きつけた。


(……拳銃!?)


 黒い拳銃の銃口がナギサの目の前に突きつけられた。初めて見る拳銃を前にして、さっとナギサの顔が青ざめてしまう。


「これで終わりだ」


 そして、男たちの引き金が引かれた瞬間、目の前が真っ白に染まった。

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