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最終話 アクアトリアのローレライ

 その日も、ローレライの歌声がアクアトリアの港に響いていた。

 ナギサもまたルーグリス公国の客船を港に導いていく。この日も豪華な客船が波しぶきと歌と共に着岸する。そして、誰よりも先に桟橋に降りて乗客を迎える。


「ようこそアクアトリアへ! みなさんの旅に幸があらんことを!」


 ナギサが乗客に手を振っていると、ミサキが駆け寄ってきた。


「ナギサ。今日は着岸、ばっちりだったじゃん。なかなか上達したな」

「ミサキちゃんに言われたくないよ」

「おっ? ナギサも言うようになったな」


 いつものように何気ないやりとりをする。


「なあ、あのお姫様から何か連絡は来たのか?」


 ミサキの質問に、ナギサは首を横に振った。


「なんだよ、あのお姫様も白状だな。ナギサがあんなに頑張ったのに」

「きっと今は自分の国のことで大変なんだよ」


 ナギサは昨日見た新聞のことを思い出した。

 エストルヴィア連合王国がルーグリス侯爵家が正統な統治者として認めることにより、バウマンが起こした政変は沈静化し、グレイヴァニアもまたルーグリス公国から手を引いたらしい。けれども、バウマンによって混乱させられた国が元に戻るためには、まだまだ時間がかかるようだ。


(シャーロットさん、元気でいるかな?)


 ナギサはシャーロットに何度か手紙を出したが、彼女からの手紙は一度もなかった。

 それは寂しかったけれども、仕方がない。国主の娘である以上、国内が落ち着くまでは手紙を出すことはできないのだろう。


「アクアトリアはあくまでも旅の中継地点だもんね。私たちローレライは旅人を迎え入れて、また見送るのが仕事だからね」


 それはローレライの学校で初めて学んだことだ。

 アクアトリアは人々が旅をする間に、ほんのつかの間、立ち寄る港。

 ローレライは彼らがつかの間休めるように迎えるだけだった。

 だから、いつか彼らに忘れ去られてしまう存在なのかもしれない。


「でも、なんかそれって寂しくないか? アタシたちのことを忘れられるみたいでさ」


 ミサキが頭の上で頭を組みながら、船と乗客をながめながらつぶやく。


「それでもいいんじゃないかな。アクアトリアに来た人たちが少しだけ休んで、また笑顔で出発できるのなら、それが一番だよ」


 ナギサは心の底からそう思っている。

 長い船旅の中で疲れた人々がほんの少し休める場所。アクアトリアの港はそんな場所だと思うし、彼らが癒やされるような存在でありたいと思う。


「でも、ここで起きたことは、きっと覚えててくれるよ」


 ナギサがそうつぶやいたときだった。


「そうね。私はあなたを忘れることなんてできないわ」


 急に声がかけられて、はっと振り返れば、そこには信じられない相手がいた。長い金髪は日差しを浴びて輝き、ユリオスの花が描かれた白いドレスは海風を浴びてはためいている。


「シャ、シャーロットさん!?」


 あまりにびっくりしたナギサが目をぱちくりとさせる。


「なんでお姫様がここに?」


 ミサキがたずねれば、シャーロットはいたずらっぽい顔で微笑んだ。


「ふふ、みんなをびっくりさせようと思って、内緒できたの」

「もう外国に出かけられるようになったんですか?」


 ナギサが質問すれば、シャーロットはうなずく。


「ええ。あなたたちのおかげで、私の国は少しずつ落ち着きを取り戻しているわ。だから、これからは国内だけではなく、諸外国とも結びつきを強くするために、お父様と相談して、大使に任命してもらったの」

「つまり、お姫様がルーグリス公国の大使ってことか?」


 ミサキが質問すれば、シャーロットは微笑んだ。


「じゃあ、これからは、ずっとアクアトリアにいるってことですか?」

「ええ。これからはずっとあなたの側にいるわ」

「わあ、嬉しいです!」


 ナギサが抱きつくと、シャーロットも抱きしめ返した。


「これからもよろしく頼むわね、ナギサ」

「はい! よろしくお願いします!」


 ふたりは幸せを噛みしめるように、しばらくの間、抱き締め合った。

 そんなふたりを祝福するように、アクアトリアの港にローレライの歌声が響いたのだった。


これでひとまず完結となります。

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