第23話 シャーロットとの別れ
翌日。ルーグリス大使館で発表が行われた。
大勢の記者がいる前でシャーロットを代表として三国の同盟の発表がされた。
「ルーグリス公国とエストルヴィア連合王国は同盟を結びました。そして、これからもルーグリス侯爵家がルーグリスの正統な統治者であることを同意しました」
この発表によって、ルーグリス家が正統な統治者であることが認められた。
これによってルーグリス議会は解任議決が否定されることとなった。さらにダリントンが逮捕されたことにより、その繋がりを明かされることを恐れて、バウマンはルーグリス侯爵家の王位退任を取り下げることとなった。
この発表をナギサは発表会場の片隅から見ていた。
◇ ◇ ◇
そして、数日後。シャーロットがルーグリス公国に帰る日が来た。
ナギサはローレライとしてディアナ号が安全な海域まで連れて行った。
甲板にはナギサとシャーロットが立っている。
「ありがとう、ナギサ。あなたのおかげで、ルーグリス公国は守られたわ」
シャーロットに微笑みかけられ、ナギサは慌てて両手を振った。
「そんな。私はなんにもしてません! シャーロットさんのおかげですから!」
ナギサは彼女が事件を解決するのをほんの少し手助けしたつもりだった。
シャーロットは手を握ってから首を横に振った。
「いいえ、ナギサ。あなたがいてくれたから、無事に事件を解決できたの。もしあなたがいなければ、私はあの船の上で命を落としていたわ。あなたが見た未来のおかげよ」
「それなら、私ではなくて、ローレライに不思議な力があると思うんです」
もし予知夢を見なければ、最初に追い返された時点で、ナギサはローレライ協会に戻っていたことだろうし、そうなればルーグリス公国はバウマン首相に奪われて、アクアトリアへの侵攻も許してしまったのかもしれない。
「きっとローレライが私たちとアクアトリアを守るために呼びかけてくれたんです」
ナギサの言葉を聞いて、シャーロットもうなずく。
「そうね。アクアトリアのローレライに感謝をしなくちゃね」
ナギサが「はい!」と両手を握って答えると、ぼうっと汽笛が鳴った。
ディアナ号が出港する合図だ。別れの時だとナギサもわかった。
「ルーグリスでやらなければいけないことはあるけど、いつかまた会いましょう、ナギサ。私はまたアクアトリアに来るわ」
「はい! お待ちしていますね!」
「シャーロットさん。また絶対にアクアトリアに来てくださいね!」
「ええ。じゃあ、最後に別れの挨拶ね……」
ふいにシャーロットはナギサを抱きしめると、頬にキスをする。やわらかな唇が頬に押しつけられて、
「ふえっ!?」と目を白黒させてしまう。
「ルーグリス公国では、唇を奪われた人と再会を誓う時は、こうするのよ」
シャーロットはいたずらっぽく微笑むが、その顔は赤くなっていた。ナギサは思わぬ出来事にただ顔が熱くなってしまう。
「そ、そんな風習、ありましたっけ?」
「ええ。ルーグリス公国にはちゃんとあるわ」
シャーロットは意味深な笑みを浮かべると、お付きの人々が笑っていた。
「じゃあ、ナギサ。またね」
シャーロットは目に涙を浮かべながら伝える。
そんな彼女を見て、ナギサはもう一度抱きしめる。
「きっとまた会えます。約束です」
「……ええ。約束ね」
ナギサは笑顔で伝えると、縄ばしごを下りて、ルミナとマリンが待つ小型船へと降りていく。やがて小型船が安全な場所まで離れると、ディアナ号の汽笛が鳴って動き出した。
シャーロットが柵まで身を乗り出して手を振る。
「さよなら、ナギサ! 必ずまた会いましょう!」
「はい、シャーロットさん、お元気で!」
やがてシャーロットを乗せたディアナ号は離れていく。
ナギサは大きく息を吸い込んでから歌い始めた。
シャーロットの門出とディアナ号の無事を願って。
ナギサの歌声は船の姿が遠く見えなくなるまで、続いたのだった。




