第19話 シャーロット奪還作戦
午後九時半。ナギサはミサキや何人かのローレライと共にアクアトリアに来た。
倉庫街の裏路地から、ナギサは暗闇に沈む埠頭を見つめていた。倉庫街の建物は月光にぼんやりと浮かび、海面には白い蒸気船が停泊している。もう仕事が終わっているために、人の姿は見かけない。
今からシャーロットを犯人たちから取り戻さなければいけない。
緊張で胸が強く締め付けられる。本当にうまく取引ができるか心配でたまらない。
ナギサが大きく息を吐いていると、ミサキが歩み寄ってきた。
「マリンから連絡があった。犯人が船で来たらしい」
マリンはミサキと同じくナギサの同期のローレライだ。
「準備はいいか、ナギサ」
ナギサは緊張しながらもうなずくと、ミサキが声をかけてきた。
「大丈夫だ、ナギサ。お前ならやれる」
「えっと、ナギサちゃん。あれは……」
「ああ、なんとか間に合った。こいつだろ?」
差し出された青い宝石がついたペンダントは、冷たい光を放っていた。
「こいつがあれば、姫を必ず取り戻せる。忘れるなよ」
犯人からシャーロットを取り戻すためには大事なペンダント。
「……ありがとう。会長にもあとでお礼を言わないとね」
ミサキにお礼を言ってから、ペンダントを受け取る。
「ナギサ、作戦通りにな。絶対にあいつらから姫様を取り戻すぞ」
ナギサはペンダントを握りしめ、覚悟を胸に一歩を踏み出した。
目の前には明かりを消した倉庫街の建物と、月明かりに照らされた夜の海が見える。その先の埠頭には白塗りの小型蒸気船が停泊していた。
その景色を見ていると、胸がひどくざわつく。
(この景色……夢で見たものと同じ……)
耳鳴りが響き、ナギサは立ち止まる。
夢の中では、シャーロットが危険な目に遭い、自分が銃口を向けられていた。
(絶対にシャーロットさんを助けてみせる!)
ナギサが決意を固めていると、シャーロットの護衛だったヴェスパーが船から上がり、ナギサの元へと向かってくる。
「約束の品は持ってきただろうな?」
ヴェスパーの質問に、ナギサはうなずいて答える。
「シャーロットさんは無事なんですか?」
「心配するな。姫ならあそこにいる。我々にとっても姫は大事な存在だからな」
ヴェスパーが指をさせば、小型船からシャーロットが身を乗り出した。
「ナギサ!」
シャーロットは手を縛られて立っていた。
「どうして『海の盟約』を持ってきたの? それは明日の会談で必要なものよ!」
「どうしてもシャーロットさんを助けたかったからです!」
「それじゃあ、何のためにあなたに託したのか……」
シャーロットが批難するが、ナギサは『海の盟約』を差し出した。
「約束どおり『海の盟約』は持ってきました。ですが、もう悪いことはやめてください。この行為が明るみになれば、あなたたちの国もただではすみませんよ」
「ふっ。小娘が。そんな脅しが通用すると思っているのか?」
ヴェスパーは懐から拳銃を取り出して突きつけた。
「さあ、そいつを渡してもらおうか」
「………っ!」
ナギサがびくりと体を震わせると、ヴェスパーは無表情で手を差し出す。
「約束が違います!」
「残念だが、姫を返すわけにはいかないんでな」
ヴェスパーが迫ってくるが、シャーロットが身を乗り出して訴えかけてくる。
「ナギサ、逃げて! それを渡してはダメよ!」
「もし妙な真似をしてみろ。姫は取り返せないぞ」
「…………」
ナギサはおずおずと海の盟約を手渡した。
「いい子だ。用はもう済んだから帰るんだな」
「絶対にシャーロットさんを取り返してみせます」
ナギサが睨み付けると、ヴェスパーは「じゃあな」とふっと笑った。
ヴェスパーは急いで走って行く矢先、離れているところからミサキの叫び声が聞こえた。
「〝海よ、あいつを狙え〟!」
突然、波がヴェスパーに襲いかかるが、残念なことに波は彼とは違うところに向かった。ヴェスパーが急いで蒸気船に乗り込むと、船はそのまま発進してしまう。
「もう、ミサキちゃん、何やってるの!? 逃げちゃったでしょ!」
ナギサが抗議するが、ミサキは焦ったように答えた。
「仕方ないだろ! 暗くて相手がよく見えなかったんだよ。とにかく追いかけるぞ」
ふたりがけんかをしていると、埠頭にローレライ協会の小型蒸気船が付けられた。
「けんかしてる場合じゃありません」
小柄な少女が顔をのぞかせる。ナギサとミサキの同僚のマリン・ハーバーだ。まだ十代前半くらいにしか見えないが、ナギサと同い年だ。髪は腰にかかるほどに長く、ローレライの制服もぶかぶかだった。
「さあ、急いで乗ってください」
マリンに厳しく言われて、ナギサとミサキは小型蒸気船に飛び乗った。
そして、急いで犯人たちが乗る船を追いかけた。




