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第18話 ローレライの使命

 自由になったナギサは、ローレライ協会に向けて走り続けた。


 大切な友達が連れ去られたことを、ただ見ていることしかできなかった。力になると約束をしたのに、何もできなかった。何がお父さんなら助けるだ。何がローレライは旅人を守るだ。何もできなかったことが情けなくてたまらない。


 やがてローレライ協会に到着して、突進するように飛び込んだ。


「ナギサ、どうした!?」


 いきなり建物に飛び込んできたナギサの姿を見て、ミサキが慌てて駆けてきた。

 ナギサは荒い息を吐きながら、目からは大粒の涙を流していた。その姿を見て、ミサキはただごとではないことを察したのだろう。


「いったい何があったんだよ?」


 ミサキばかりか他のローレライも心配そうな顔で集まってくるが、彼女たちに答える余裕はなく、急いでエルマがいるだろう会長室へと駆け上がる。

 そして、扉を開ければ、まだエルマとルミナが部屋の中にいた。


「ナギサさん、どうしたの?」


 ルミナもただごとではない様子に面食らっていた。


「お願いです! シャーロットさんを助けてください!」


 ナギサは大きく頭を下げて頼んだ。


「シャーロットさんが男の人たちに連れ去られて、私、助けることができなくて……ただ、連れ去られるのを見ていることしかできなくて……」


 肩をふるわせて嗚咽を漏らしながらナギサは言った。そんな彼女の側に、ルミナは慌てて駆け寄って、彼女の肩をやさしく抱いた。


「落ち着いて、ナギサさん。まずはゆっくり教えて」

「は、はい……」


 ナギサは鼻をすすってから、自分たちの身に起きたことを話した。

 必死に泣くのをこらえながらも、嗚咽をもらしながら、話を続けた。


 シャーロットが連れ去られるまでの話を聞いて、ルミナは苦渋の表情を浮かべて、エルマはただナギサを真正面から見つめて話を聞いていた。

 全てを話してから、あらためてエルマに頼んだ。


「お願いです。シャーロットさんを助けてください……」


 ナギサが深々と頭を下げると、エルマはため息をこぼした。


「アクアトリア政府は、この問題に簡単に動けないでしょう。うかつに手を出せば、アクアトリアも危険にさらされることになります」

「でも、このままじゃシャーロットさんとルーグリスが……!」


 ナギサがさらに迫った時、ふとルミナが何かに気づいた。


「ナギサさん、その胸ポケットには何がはいってるの?」


 はっとして胸ポケットを見れば、いつの間にか何かが入っていた。取り出してみれば、それはシャーロットが身につけていたペンダントだった。


「これは『海の盟約』……どうしてこれがここに?」


 そう言いながら、ナギサははっと気づいた。

『ごめんなさい、ナギサ。私のせいでこんなことに巻き込んでしまって。でも、あとのことは任せるわ。どうか立派なローレライになってね」

 これはシャーロットが別れ際に抱き締めた時、ナギサの胸ポケットにしまっていたのだ。


「まさかあの時に……!」


 その言葉を聞いて、エルマはふうと息を吐いた。


「どうやらシャーロット姫は、自分が会談に出られなくてもよいように、あなたに『海の盟約』を託したのでしょう」

「そんな……シャーロットさん……」


 シャーロットが命がけで守った宝石が今ナギサの手元にある。

 国を守るために必要なものを託してくれた。彼女はナギサを信じてくれている。もし自分がいなくなっても大切な友人が守り抜いてくれると。


 ナギサが『海の盟約』を握り締めて泣くと、青い宝石が涙を浴びてほのかに光った。そんなナギサの姿を見て、エルマは静かに伝えた。


「少なくとも『海の盟約』が無事ならば、ルーグリス公国を救う手立てはまだあります。犯人もうかつにシャーロット様に手出しもできないでしょう」


 確かにオカイの話しによれば、会談では『海の盟約』は大きな役割を担うらしい。それさえあれば、ルーグリス公国を助けることができるかもしれない。


「でも、シャーロットさんがいないと……」


 会談ではシャーロットがいなければ意味がない。彼女がいなければ、ルーグリス公国だけを救われても意味がないように思われた。


「なんとかシャーロットさんを助けられないんですか?」


 ナギサがエルマに訴えた時、部屋の中にミサキが飛び込んできた。


「大変だ! こんなものがさっき投げ込まれた!」


 ミサキから筒と一緒に手紙が手渡された。

『午後十時。シャーロット姫を取り返したければ、アクアトリア埠頭に『海の盟約』をひとりで持ってこい。さもなくば、シャーロット姫の安全は保障はできない』


 これは明らかにシャーロットを誘拐した犯人たちからの手紙だ。


「私が行きます! 私がシャーロットさんを助けます!」


 ナギサが呼びかけると、慌ててミサキが止めた。


「待てって。おまえが行って、何ができるんだよ。もしその『海の盟約』ってやつを奪われて、姫様も救えないことだってあり得るんだぞ」

「そんなことならないよ。絶対にどっちも助けてみせるよ」


 ナギサが必死に呼びかけると、エルマはため息をこぼした。


「ミサキさんの言うとおりです。相手の目的はルーグリス家とアクアトリアとエストルヴィアの同盟を結ばせないことです。シャーロット姫と『海の盟約』のどちらも奪われたら、もうルーグリス公国を救うことはできません」

「だけど、もし『海の盟約』を持っていかなければ、シャーロットさんが……!」

「話を最後まで聞きなさい。私は助けないとは言っていません。ナギサさんひとりでは行かせないと言ってるのですよ」

「……どういうことですか?」


 ナギサが涙目のままきょとんとすると、ルミナが微笑んだ。


「私たちローレライが勝手に助けたのなら、何の問題もないってことですよ。ルーグリス公国のお姫様ではなく、私たちの大切な友達を助けたってことならね」

「それって……」


 確かにローレライが勝手に助けたのであれば、アクアトリア政府が関与していないということになる。それならば、他国との関係も悪化しない。

 ナギサが呆気に取れていると、ミサキも肩に手を置いた。


「アタシはルーグリスやお姫様のことはよくわからないけど、おまえひとりだけで行かせるわけにはいかない。アタシにとって、おまえは大切な仲間なんだからな。そうでしょう、ルミナ先輩、会長?」


 ミサキが微笑みかけると、ルミナもうなずく。


「あなたをシャーロット様の側に付けたのは、私です。私にも責任があります。ですから、これはアクアトリアではなく、私たちローレライがなすべき仕事です」

「……ミサキちゃん、ルミナさん」


 ナギサが目に涙をためると、エルマが微笑んだ。


「旅人に安らぎを与え、彼らの旅を守る。それが私たちローレライでしょう?」


 このひと言に、ナギサは目元の涙を拭いてから力強く答えた。


「はい!」


 エルマとルミナは満足そうに微笑んでから伝えた。


「では、時間がありません。早速、シャーロット様を助け出す作戦を立てましょう」

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