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第17話 シャーロットの決意

 夕日が海を茜色に染めていた。

 ナギサとシャーロットはテラスから海をながめていた。


「よかったですね、シャーロットさん。明日の会談を再開できそうで」

「まだわからないわ。会談が再開されると決まっただけ。どうなるかは明日次第よ」

「大丈夫です! 絶対にうまくいきます!」


 ナギサが拳を握り締めながら言うと、シャーロットはくすりと笑った。


「あなたって、本当に前向きね。うらやましいわ」

「あはは。それが取り柄なので」


 ナギサが照れ笑いすると、シャーロットが手を取った。


「いいえ。私はあなたの強さに救われたわ。もし私ひとりなら心が折れていたと思う。誰かが側にいるって、こんなに素敵なことなのね。きっとナギサのお父様も、今のあなたのことを誇りに思ってくれていると思うわ」

「……シャーロットさん」


 親愛の微笑みが向けられ、ナギサの顔が熱くなってしまう。


「ありがとう、ナギサ。あなたのおかげで、初めて友達との思い出ができたわ」

「まだです! これからです!」


 ナギサが立ちあがると、シャーロットは面食らった。


「これからシャーロットさんは、いっぱい友達ができるんです! また市場に行ってクレープを食べましょう。まだまだオススメのお店がたくさんあるんですよ。それから、私の友達も紹介しますね。ミサキちゃんもすごくいい子なんですよ」

「ふふ、それは楽しみだわ」


 シャーロットが楽しそうに微笑んだ。


「もし私が国から追放されたら、アクアトリアでローレライになるのもいいかも。あなたと一緒にローレライをする毎日も楽しそうだわ」

「……シャーロットさん」


 本来ならローレライにはアクアトリア出身の女の子しかなることができないのだが、それをこんなところで言うのは野暮だ。きっとシャーロットもそれを知っていながら、口にしているのだろう。


「きっとシャーロットさんなら、素敵なローレライになれるはずです!」


 シャーロットは「ありがとう」と微笑んだ。


「でも、そのためにも最後まで私の国を守り抜いてから諦めるわ」

「はい! 私もシャーロットさんのことを全力でお助けしますね!」


 ナギサがシャーロットの手を強く握りしめた時だった。

 レストランの入口に一台の車が停まった。


「あっ、もう到着したみたいですね」


 思ったよりも早く到着したことに面食らいながら、ふたりはレストランの出口に向かう。そこにはシャーロットの護衛であるヴェスパーと数人の男たちがいた。


「姫様、お待ちしておりました。さあ、参りましょう」

「ヴェスパー。どうしてあなたがここに……?」


 ヴェスパーはシャーロットに静かに答えた。


「あなた様を迎えに来ました。さあ、私たちと共に参りましょう」

「えっ? オカイさんがシャーロットさんのために用意したんじゃ……」

「そんなはずない。ヴェスパーにはここに来ることは伝えてないわ」

「じゃあ……」


 とっさにヴェスパーの顔を見た時、ナギサの耳に危険を知らせるような耳鳴りが響いた。彼の鋭い眼光がにらみつけるのを見て、ぞくりと寒気を感じた。


「シャーロットさん逃げましょう!」


 ナギサは慌ててシャーロットの手を掴んで逃げ出した。


「逃がすな! 捕まえろ!」


 男たちが一斉にふたりを追いかけてくる。

 あっという間に追いつかれて、ふたりは取り押さえられてしまう。


「あうっ」


 無骨な手がナギサの腕を掴み、その力強さに腕が悲鳴を上げた。地面に押しつけられた際の砂の感触が頬に伝わり、息が詰まるような恐怖を感じた。


「やめなさい! 私なら行くから、ナギサに手を出さないで!」

「では、我々についてきてもらいましょうか」


 シャーロットはナギサの方を見てから、悔しそうに顔をゆがめる。


「やっぱりあなたもダリントンと同じでバウマンに従っていたのね……」

「そうです。私たちはグレイヴァニアに従うことこそが正しいと思っているのです」

「あんな武力で脅すような国の味方をするなんて……!」

「もう大人しくしてください。これ以上、我々を困らせないでもらいたい」


 拳を握り締めてから、シャーロットはヴェスパーに手を引かれて立ちあがった。


「シャーロットさん、待って!」


 ナギサが男に取り押さえられたまま言うと、シャーロットは振り返った。


「最後にお別れだけさせて。それくらいはいいでしょう?」

「ええ。もちろんです」


 ヴェスパーがうなずくと、シャーロットはナギサの元まで歩み寄ってくる。男たちもふたりを気遣ってか、ナギサを自由にした。

 レストランの側にいくと、ナギサは必死にシャーロットに小声で呼びかけた。


「今から逃げましょう。きっと近くに助けを求めれば、なんとかなるはずです!」

「いえ、ヴェスパーたちは見逃さないわ。大切な友達を私は失いたくない」


 確かにヴェスパーたちは懐に手を入れている。もしかしたら拳銃を持っているのかもしれない。そんなものを向けられたら、いくらローレライでも太刀打ちできない。


「ごめんなさい、ナギサ。私のせいでこんなことに巻き込んでしまって……」

「そんなこと言わないでください! まだ絶対に助かる方法が……!」


 シャーロットはナギサを抱き寄せると、そっと耳元でささやいた。

 

「あとのことは任せるわ。どうか立派なローレライになってね」


 そう言うと、シャーロットはナギサから離れて男たちの元に向かう。


「じゃあ、さよなら」

「シャーロットさん!」


 ナギサは追いかけようとしたが、男によって腕を掴まれて止められた。そのままシャーロットは車に乗り込むと、どこかに連れ去られていった。

 ナギサはただ遠ざかる車を見ていることしかできなかった。

 波音と共にシャーロットの『さよなら』が何度も頭の中に響いていた。

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