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第12話 襲撃

 ダリントンの屋敷からの帰り道。

 海岸沿いの通りをホテルに向かって歩いていたが、その間シャーロットはひと言も話そうとはしなかった。通りには楽しそうな観光客であふれているのに、シャーロットの顔はずっと落ち込んだままだった。


(シャーロット様……)


 ナギサにはふたりの会話の意味がわからなかったけれども、ルーグリスを助けるためにエストルヴィア連合王国を味方に入れようとしていたことだけはわかる。


「あの……」


 ナギサが声をかけると、シャーロットが歩きながらぽつりとつぶやく。


「さっきはごめんなさい。怒鳴ったりして」

「気にしないでください。私が勝手に話しかけたことなんですから」

「……ありがとう。あなたがかばってくれて嬉しかったわ」


 シャーロットは微笑むものの、その表情は痛ましかった。

 ダリントンの裏切りによって、ルーグリス侯爵家はかなりの危機に追い込まれたようだ。これからどうするつもりだろうと思うが、ひとまずホテルに戻らなければみんなが心配してしまうだろう。

 そんな風に考えていると、ふいにナギサは耳鳴りが聞こえてきた。


(……なに?)


 これはまた何か危険が起きる予感だ。

 周囲を見回せば、真後ろについてくるふたりの男が目にとまった。

 ふたりとも見知らぬ相手だ。背が高く、帽子を目深にかぶっている。さっきから同じ距離をあけながら、ずっとついてきている。


「……シャーロット様、知っている人ですか?」


 ナギサが質問すれば、シャーロットは首を横に振った。


「あの人たち、シャーロット様だと知って……」


 シャーロットがルーグリス公国の姫だと知って近づいてきているのではないか。新聞記者なのか、それとも別の目的で近づいているのか……。

 シャーロットは背後に気を遣いながら足早に歩いて行く。


「勘違いかもしれないから、ふたりから離れてみましょう」


 ナギサはうなずいて、シャーロットと共に早く歩き出した。すると、男たちもまた早く歩き出して、ぴったりとくっついてくる。立ち止まって振り返れば、男たちも立ち止まって、こちらに近づいてこない。

 またナギサたちが足早に歩けば、男たちもついてくる。

 これにはシャーロットも苛ついていたようだった。


「あいつらが何者なのかはっきりさせるわ」

「ええっ!? 危険ですよ!」


 ナギサは反対するが、シャーロットははっきりと言った。


「私は逃げることが嫌いなの。さあ、行くわよ!」


 そう言うや、スカートをまくって太ももで縛ると、全力で走り出した。


「ま、待ってください!」


 なんてお姫様なんだろう。まさか男たちを誘き寄せようとするなんて。

 ナギサはシャーロットと共に全力で走り続ける。彼女の後を追いかけていき、細い道を抜けて、人通りの少ない海岸の倉庫街の近くに出てきた。


「ここで止まって!」


 シャーロットに命じられて、慌ててナギサは壁際に隠れる。

 少し遅れて男たちがふたりをさがして駆けてきた。

 そこにシャーロットは待ち構えて、男たちの前に出て行った。


「あなたたち、私に何か用?」


 いきなりシャーロットが出てきたことに、男たちは面食らっていた。


「この私がシャーロット・ルーグリスだと知って尾けてきたの?」


 男たちは顔を見合わせてから答えた。


「シャーロット姫。首に飾っている『海の盟約』を渡してもらおうか」

「……『海の盟約』? なぜあなたたちがこれを……」


 そうシャーロットは首元に手をあててから、はっとしてつぶやいた。


「あなたたちダリントンの差し金ね。『海の盟約』を私から奪おうと……」

「何のことだかわからないな。さあ、さっさと渡してもらおうか」


 男たちは強引にシャーロットの腕を掴んだ。


「痛っ! 絶対に離さないわ!」


 シャーロットが悲鳴を上げるが、男たちは構わずに連れて行こうとする。

 瞬間、ナギサは大きく腕を振り上げて、大声で叫んだ。


「〝海よ、私の声に応えて(ラクレシェンド)〟!」


 声が響いた瞬間、海面が青白く光を放ち、まるで命を持ったようにうねりを上げた。そして、海岸から男たちに向かって波が襲いかかった。


「うおっ!」


 波を全身に浴びた男たちは突き飛ばされるように吹き飛んだ。

 その間に、シャーロットの腕を引っ張った。


「シャーロット様、今です!」


 ナギサはシャーロットの手を取って全力で走った。


「くそっ、追え! 逃がすな!」


 ふたりの男がふらつきながらも立ち上がり、ナギサたちを追いかけてくる。

 後ろを振り返りながら必死に走って、なんとか大通りへと逃げようとしたが、通りを曲がろうとしたところで、シャーロットが呼びかけてきた。


「ナギサ、前!」


 シャーロットに呼びかけられて前を見れば、黒い車が通りをふさいでいた。元の通りに戻ろうとすると、ふたりの男が目の前に立っていた。

 他に道はないかと辺りを見回したが、埠頭の端っこに追い詰められていく。

 シャーロットはナギサに向かって呼びかけた。


「ナギサ、私のことはいいから、あなただけ逃げなさい!」

「そんなことできません!」


 ナギサがまたローレライの力を使おうとした瞬間、不審車がこちらに突っ込んできた。


「シャーロットさん!」


 とっさにナギサはシャーロットを抱きかかえて、海の中に飛び込んだ。どぼんっと激しい水しぶきを上げて落下してしまった。


「ぷはっ!」


 顔を水面から上げてから、ナギサはシャーロットに声をかける。


「だ、大丈夫ですか、シャーロットさん!?」


 ナギサはシャーロットを抱きかかえて岸に手をかけさせる。海面から辺りを見回せば、追い回していた車は、いつの間にかいなくなっていた。

 やがて騒ぎに気づいて、倉庫の方からたくさんの人々が近づいてきた。


「なんとか助かったみたいですね……」


 ナギサが横を見れば、シャーロットが青ざめた顔で胸元を強く掴んでいた。首元が開いたドレスからは、青いペンダントが見えた。


(あの宝石は……?)


 ナギサは彼女の胸元で光る宝石に目を奪われていた。

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