友達だと思っていた女の子にさらっと見捨てられたので見返してやるぜ!と息巻く少女はなんだかんだでいつのまにかエンジョイ勢となる
私立高校、花園女子学園。
この学園に入学する生徒は三種類。
お金持ちの箱入りお嬢様。
頭のいい進学コースに入る叩き上げ。
親が多額の寄付金で無理矢理押し込めて、性格矯正を頼み込んだちゃらんぽらん。
「そんな中で、僕らは晴れて進学コースに入学だ!この学園の進学コースならまず間違いなく良い大学にいける!僕らは勝ち組だ!」
「ふふ、気が早いですよ。流花さんたら」
「咲良こそもっと喜べよなー!」
僕は友人と入学できたことを喜び、彼女もまたそんな僕をいつものように受け入れてくれていた。
この時までは。
「咲良、一緒に…」
「咲良さん、ご一緒にお昼に致しましょう?」
「え、はい。なら流花さんも」
鋭い視線を、咲良の取り巻きに投げられた。
僕はそれに怯んで、自ら退く。
「…いや、いいんだ。ごめん」
「流花さんっ」
惨めだ。
でも、これは僕の責任だ。
優しく清楚な咲良は、入学早々に友達をたくさん作った。
向こうから、成績優秀でこの学園の生徒に相応しい気品ある咲良に群がってきたのだ。
一方で粗野な言動しか取れない僕は学園に馴染めなくて、咲良とどんどん距離が離れていった。
そのうちに、イジメとまでは言わないがクラス内でハブられるようになって…ストレスから成績も落ちた。
「…僕は、咲良と一緒に居たくてこの学園に入ったのに」
咲良は幼少期から、親から虐待に近い詰め込み教育を受けていて。
それから逃れるために、全寮制の学校で進学校であるここに逃げ込んだ。
そんな咲良に、一人では不安だからそばにいて欲しいと泣きつかれて一緒に勉強を頑張ってここに入った。
でも、このまま成績が落ち続けたら特待生制度を使えなくなる。
咲良の家と違って僕の家は裕福ではないから、下手をすれば中卒になって働かないといけなくなる。
「どうにかしなくちゃ…」
食堂に時間をずらして顔を出して、ご飯を急いでかきこむ。
咲良は新しいお友達と…僕をハブる奴らと楽しそうに過ごしているのが見えた。
…理不尽かもしれない。
咲良に泣きつかれたからって、咲良と同じ学園に入ったのは僕の意思だ。
けれど…それでも、僕を誘っておいて自分だけ学園生活エンジョイは違わない?
なんか、さらっと見捨てられたように感じるんだけど?
自分の古い友達一人と自分の新しい友達みんなが対立してたらさ、もうちょっとこう…僕の味方になってくれてもよくない?
なんだか咲良に対して怒りにも似た感情が沸き立ってきた。
理不尽だとしても、この怒りは僕自身にだってどうしようもない。
咲良が憎いし、妬ましいし、ムカつく!
絶対絶対絶対に見返してやるぜ!
だから僕は…怒りの全てを、勉強にぶつけた。
学期末テスト。
咲良は惜しくも二位の成績だった。
一位は…この僕、流花だ。
落ちこぼれていたはずの僕の、突然の快進撃にみんなが驚く。
中にはカンニングを疑う生徒もいて、その生徒から僕のカンニング説はどんどん広まる。
誰もが僕に冷たい視線を向けたが…それを静観していた担任の先生が口を開いた。
「いいえ、流花さんがカンニングなどあり得ません」
「え…」
クラスがシンと静まり返る。
「流花さんは、一時的に成績は落ちましたが元々特待生。それに、成績が落ちた後勉強に励んでいました。私達教師の元へ足繁く通い、わからないことはわからないままにせず、よく勉強していました。その努力を見ていれば、カンニングなどあり得ないとわかります。皆さん、流花さんに謝罪なさい。あらぬ濡れ衣を着せるところだったのですから」
先生がそう言って、捲し立てて怒ってくれた。
勉強ついでに媚を売りまくった甲斐がある。
しかし、僕に謝りたくないらしいクラスメイトたちはシンと静まり返る。
先生がその態度にまた怒りそうになったところで、咲良が言った。
「ごめんなさい、流花さん…流花さんは努力家ですもの、そんなことしませんよね」
「咲良…」
咲良が謝ってくれたことで、クラスメイトたちは渋々私に謝る。
だが、僕が怒りを燃やしているのは咲良に対してだ。
いや、わかってるよ!理不尽な怒りだなんて!僕がハブられていても咲良に手を差し伸べる義理なんてない!
でも僕はこの学園には咲良に誘われなきゃ入ってないんだよ!
僕だけが嫌な思いするなんて馬鹿げてるじゃないか、咲良のちょっとくらい高く伸びすぎた鼻をへし折ってやらなきゃ気が済まないんだよ!
なので、僕は密かに頑張る。
咲良の高く高く伸びた鼻をへし折ってやるためにね。
まだ頑張る。
勉強も頑張っているけれど、体育だって美術だって家庭科だって。
なんだって完璧にこなせるようにしてみせた。
全てにおいて一位を取った。
そうしているうちに、進学コースでは僕はちょっとした有名人になった。
ポツポツと、今までごめんと頭を下げてくる人が増えて。
いつからか勉強を教えて欲しいと頼まれることも増えて。
猫被りしなくて、粗野な言動のままの僕でも新しい友達も出来て。
上の学年の先輩からも気に入られて、可愛がってもらって。
いつのまにか周りに人がいっぱいいるようになった。
咲良は咲良で、そちら側の…未だに僕をハブろうとしては失敗して悔しがるような性格ドブスの友達と連んでいるが…そのせいでなんだか、この学年は僕と咲良で二大派閥みたいになってしまった。
咲良はその状況に混乱していて、助けを求めるような目を僕に向けてくるが。
僕はあまりにもそれが愉快で、咲良への怒りはいつのまにか消えた。
代わりに愉悦がそこにあった。
「流花さんは本当に頭が良くて、お勉強を教えてもらうのが楽しいです!」
「はは、それは良かった。僕はせっかくの特待生だからね。みんな存分に使っておくれ」
「もう、流花さんたら!」
僕が新しいお友達と仲良くするたび、咲良は僕に話しかけたくてたまらない顔をする。
けれど僕はお友達に囲まれているから、そして自分も僕を嫌うお友達に囲まれているから…それはできない。
自分で言うのもなんだけど、僕は今ちょっとした学園の王子さまみたいな扱いを受けている。
何をするのも完璧にしてみせたし、見た目は元々ボーイッシュ。
この学園ではスラックスも許されているから普段はスカートよりそっち派だし、こんな粗野な言動しか出来ないのもそれに拍車をかけるみたい。
進学コースだけじゃなくて、お嬢様用の特別コースの生徒たちも僕の噂を聞きつけてファンになってくれている。
そんな僕に近寄りたがる咲良が可愛くて、もっともっと困らせたくなる。
愉悦なんて言葉で片付けられないほど楽しい。
ちなみに咲良は咲良で学園のお姫様ポジションをさらっとゲットしているから、やっぱりあの子はすごい。
すごいのはすごいのだが、あの子の取り巻きが軒並み性格最悪なのが難点で、あの子が嫌な思いをしていないといいのだけど。
まあ、今更僕には関係ないか。
しばらく近寄らないことに決めてるし。
涙目で僕と仲直りしたがるのを無視するのは最高の愉悦だ。
…けれど、あまり虐めすぎるのも可哀想だろうか。
取り巻きは性格ドブスばかりだし…あの子は気が弱いし…やっぱり仲直りしてあげるべきかな。
でもな。
「…まあ、いっか」
せっかくの学園生活、エンジョイ勢になった方が楽しいだろう。
十分あの気の弱い咲良を放置してきたのだし、そろそろ助け舟を出そうか。
「…咲良」
「流花さん!」
「いい加減、仲直りしようか」
「え…」
咲良に跪いて、手を取る。
手の甲にキスをした。
幼稚園の頃から喧嘩すると、いつもこうして僕の方から許しを乞うていた。
最初は騎士様ごっこの最中の喧嘩…だったかな。
「許してくれるだろう?僕の姫」
「…うん!ごめんなさい、流花さん、私…」
「皆まで言わないで。可愛い人」
ぎゅっと彼女を抱きしめる。
「ほら、これで仲直りだ」
「…!」
僕のお友達の黄色い声と、咲良の取り巻きの性格ドブスたちの悲鳴が聞こえた。
「流花さん…許してくれて本当にありがとう」
「うん、僕こそ君を構ってあげられなくてごめんね。これからは君を構い倒すから」
「ふふ、流花さんたら」
学園の王子と姫のじゃれあいはすぐに噂となったらしく、廊下に別のクラスのファンガールが溢れてしまったらしい。
心配しなくてもこのくらいのイチャイチャなら、これからいくらでも見せてあげるのに。
「なんかすごいことになってきたから、今日はこのくらいにしておくよ」
「流花さん、もしかしてわざとです…?」
「さて、どうかな?」
ウィンクを飛ばせば、見慣れた呆れ顔。
やっぱり、いがみ合うよりこっちの方が性に合うや。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました!
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