白猫と三者面談とプチドッキリ
授業も終わって放課後。 今日も今日とて生徒会室で仕事を処理する中、今日の話題はベルの一言から始まった。
「クレハ〜 進路どうシマスー?」
「……急に何?」
会長デスクで申請書類に目を通していた紅葉が顔を上げる。 ベルは既にペンを机に置いて休憩モード。
「進路デスよ進路。 英語で言うとअवधि」
「それヒンディー語だろ」
「奏士殿はよく分かりましたね」
俺の頭には翻訳ソフトがインストールされてるからな。 スペックはこんにゃく食った時以下。 紹介文で『以下』ってワード出るんだ。
「ほら、朝のHRでこんなこと言ってたじゃないデスか」
「……クラス違う私が知ってるわけない」
「おっと。 じゃあ回想入りマス」
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「そろそろ進路の話とかするからなー 紙渡すから来週の月曜までに出せ」
朝のHRで唐突な進路の話。 もうそんな時期かーとか毎回言ってる気がする。
「それと進路含めて三者面談するから、希望する日程も書いて出せ。 親としっかり話し合って、当日は1人5分以内に終わらせて俺を楽させろ」
思っていても言わないことを平気で言う。 それがゴミ教師も助のスタイル。
「以上だ。 んじゃなー」
も助が教室を出ると普段の喧騒が戻ってくる。 雑談の内容は概ね進路希望について。
「進路かー……深くは考えなかったけど、そろそろ遊ぶのも終わりかしらねー」
「皐月ちゃんは大学とか行かないの〜? 行けばまだまだ遊べると思うな〜」
「大学でやりたい事も特に無いのよね。 漠然と行っても面倒なだけって聞くし」
「なぁ恭平。 お前どうすんの?」
「僕は進学するつもりだけど、若葉は違うのかい?」
「俺かー 俺はどうすっかな〜」
「不知火くんは進学しないの〜?」
「『できるなら進学しとけ』って親は言ってっけど、ぶっちゃけ人生かけてやりたい事なんて無いしなー 俺は楽しく遊べればそれでいいや」
「アンタねぇ……」
どうやら陽キャグループは早速ワイワイやってる様子。
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「……って」
「俺のモノローグ要る?」
『書いたはいいけどなんか違くて回想として処理した』ってのがバレバレですよ。 ちゃんと書き直せ作者。
「クレハは進路どうするんデスか?」
「……白紙提出」
「そんな……未来を諦めちゃダメデスよ!」
「……色々誤解」
「因みにワタシの進路は一本道デス」
「……聞いてない」
「どんな道か聞きたいデスか〜?」
「……言わなくても分かるからいい」
「ソージのお嫁さんデス! ソージが婿入り希望ならそっちでも可!」
「……今日は一段と話聞かない」
「それより仕事しろ」
閑話休題 お仕事終わったー (∩´∀`)∩ワーイ
「話は戻りますが、奏士殿はどうするのですか?」
「ベルは娶らんぞ」
「いえそんなどうでもいい話はしてません」
「仮にも主人の未来に対してなんて物言い!」
(仮)でいいのか? あなた達それなりに付き合い長いんだよね?
「話戻しますが、奏士殿は進学と就職どちらになさるご予定で?」
「俺はどっちもせんぞ」
「つまりニートまっしぐらということですか」
「当たらずとも遠からずだけど人に言われると腹立つな」
卒業後はニートになる予定だけどさ。 趣味で稼ぐニートになる。 ニートに謝るべき侮辱だろこれ。
「そういうお前はどうすんだよ。 卒業後即結婚式か?」
「いえ、華さんの卒業後に入籍はしますが式はもっと先です」
あ、籍入れるんだ……学生結婚じゃないからまだ良し。 最近リア充に対して寛容になってきたと思う。
「……式はいつ?」
「それが奥様曰く、『式は自分の店を持てるようになってから』と」
「お、奥様……」
泉ちゃんはなにか勘違いしてるみたいだけど、ここで言う『奥様』は『薪姫の母』の事だと思う。 店主=旦那様って事で。
「……1番かけ離れてると思ってた青葉が1番早い」
「そんなにですか?」
「……訂正。 1番は奏士」
「あ゛?」
喧嘩のウィンターセールか? クーポン併用出来ますかぁ!? 更に値引こうとする節約の鏡。
「私も驚きです。 自分がここまで惚れ込むとは」
「まぁ、アオバの嗜好からすれば奇跡としか言いようがないデス」
「運命的な出会い……素敵です」
うわぁなんか莇の惚気で盛り上がってるぅー 奏士くん吐き気凄まじいからちょっと莇のズボンの中に吐いていい? 大丈夫パンツの中にも吐くから。
「それで、話それマシタケド、クレハは卒業後どうするつもりデスか?」
「……私は自由に絵がかければなんでも」
「美大志望って事デスか?」
紅葉の腕なら美大でも現役合格できそうだけど、美大だけは無いだろうなと予想。
「……美大は自由じゃないから行かない」
「そうなんですか?」
「……自由に絵を描けてご飯出てきてその他のお世話してくれる────奏士、専属メイドになる気はある?」
「色々指摘事項あるけどこれだけは言える。 絶対に嫌」
まず男だからメイドじゃねぇし、日常生活のお世話ってことは多分住み込みだよね。 そして俺は絶対あの家を離れないし紅葉も離れる気が無いからあの家に住み続けるって事だよね。この際卒業まで住むのはまぁ良しとしよう。 卒業後は出てけ。
「……大丈夫。 奏士に合うサイズのメイド服をオーダーメイドで作る。 メイドだけに」
「なんだコイツ」
どうしよう何一つ理解出来る文脈が無かった。 さっきの専属メイドって間違いじゃなくて本当に『メイド』として雇おうとしてたんだ……怖い。
「まぁソージのメイド姿は後で撮影会開くとして「は?」イズミはどうするつもりデスか?」
「わ、私はまだ先なのではっきりとは決めてません……」
「そうデスか〜」
一通り聴き終わったベルが椅子の背もたれに預けてぶらりぶらり。 バランス崩れると危ないぞ。 身体は無駄に丈夫だから多少の怪我はすぐ治るだろうけど。
「みんな色々考えるんデスね〜」
確かに脳死で進路決定してるのお前だけだもんな。
「お嬢様は旦那様の会社を継ぐのでは? その為の勉強をしているじゃないですか」
「でもそれだけじゃ面白くNothinぐえっ」
不安定な姿勢で上半身を起こすもんだから椅子諸共後ろへダイブ。 床はカーペットだからまぁ大丈夫だろ。
「おーいって……ソージィ〜 ぶつけたので撫でてクダサァ~イ♡」
「自業自得の怪我はサポート対応外」
「チッチッチッ膣……これは自業自得じゃなくて自分から危ないことしてその結果倒れただけデス!」
「ベル語じゃ違うかもしれないけど日本語ではそれを自業自得と言う」
「ワタシも日本語を喋ってマス!」
うっそでー あ、さては不慣れでカタコトだな? 海外の人が日本人の英語を聞き取りにくいのと同じで。 アラビア語くらい分からなかったぞ。
「呼ばれてないけどジャジャジャジャーン!」
「ノックしろ」
頼金(+薪姫)突然の参戦。 ちょっと専用の参戦ムービー作ってないから後にしてくれる?
「皆さん何の話してたんですか?」
「ワタシとクレハの将来について!」
「結婚するんですか?」
「……誤解が増えた」
なんかまた面倒な事になった気がするぅー
「ほうほう進路ですか。 そういえばもうそんな時期ですね」
「1年があっという間に感じます」
流石名誉役員。 部外者だってのに物凄く自然体で紅茶飲んでる。 薪姫は日本茶派でしたか。
「チサトは卒業後はどうするとか考えてマスか?」
「私はスクープ撮れればいいので進路に拘りはそこまで無いですね」
「そういえば、千聖ちゃんっていつからカメラにハマったんですか?」
「ハマったのはカメラじゃないですけど……う〜ん物心ついた時からカメラを持ってましたし、そういう意味では多分父の影響でしょうか」
「千聖さんのお父さん、ですか?」
「どのようなお仕事をなさっておいでで?」
「考古学者です。 ついでに大学教授もやってます」
「ほえ〜 凄いデス」
「趣味は冒険です」
「それなんてインディ?」
「ちなみに蛇は平気です」
「寄せに行くな」
「結構な頻度で秘境とか行って写真のお土産くれるんで、私とカメラの人生の始まりはそれが切っ掛けだと思います」
「……ますます千聖の謎が深まった」
ここに来て父親がジョーンズかもしれない新情報出されたら困惑するわ。 読者はもう情報過多でパンク寸前。 作者はパンクした。 お前創造主だろ。
「もしかしてですけど、千聖ちゃんって結構なお嬢様だったりします?」
「どうなんでしょうか。 それなりに裕福な家庭だとは思いますけど、お嬢様レベルかって聞かれると……どうなんだろ」
「仮にもお嬢様のお前的にどう?」
「仮にもってどういう意味デスか!」
だって今のところベルにお嬢様要素がほぼ無いから……所々育ちの良さが伺えるけどそれを補って余りある(皮肉)野蛮要素。
「今思いましたけど、この学園って意外と庶民────って言ったらあれですけど、一般家庭……中流階級って言うんでしたっけ? そこ出身の学生多いですよね。 学費高いのに」
「あ〜 確かに、イズミもハナも一般家庭デス」
「焔殿も家庭は普通だと聞いたことがあります」
焔? 莇そいつ誰?
「……奏士は?」
「俺も一般家庭だぞ」
「えっ」
泉ちゃんなんで驚いてんの?
「いやソージは十分お金持ちの家庭デスよ」
「金持ってんのは俺の爺さんであって俺じゃないし」
家系図だけなら無駄に長いけど相当の歴史がある訳でもなし。 本当に無駄に長いだけ。
「……出身じゃなくて奏士本人は?」
「それなら1代分限だからそうと言える」
言うて金持ちの基準が曖昧だからなんとも言えないけどな。
「まぁ先輩の話はいいとして、お二人共学費とかどうしてるんですか?」
「ええと、私はお姉ちゃん────理事長が親と話して決めていたので分かりません」
予想だけど、俺は泉ちゃんは多分ひっそりと学費が免除されてる。 あの理事長はなんだかんだ身内に極甘だからあれこれ適当な理由通してやってる。
「ええと……豆腐金? とかなんとかで私の学費が安いってお母さんが言ってました!」
「……豆腐?」
「恐らく『給付金』の事かと」
薪姫の間違いで若干和んだ気がする。 頼金が黒いのは泉ちゃんと薪姫が白すぎるから均衡を保つためなんじゃないかと思う今日この頃。 ちなみに生徒会役員は泉ちゃんと俺を除いて全員黒い。
「この学園給付金とかやってんのか」
「先輩一応身内ですよね」
俺はつい最近まで学園に興味無さすぎて行事すら知らなかった男だぞ? その上学費の心配が無いんだから知らないに決まっているだろう。
「先輩は知らないかもですけど、宿学は一定条件満たせば誰でも奨学金貰えますよ。 しかも給付型だから返済不要」
「そのおかげで一般家庭でも設備が充実した宿学に通えるってお友達が言ってました!」
「どっちにしろ学費が高いことに変わりないので少ないですけどね」
「はーん」
ウチってそんなことしてたのか。 そういや基本的に実力重視だったな。 成果出せば相応の報酬があるなんて素晴らしいホワイト。
そして卒業生の何割がブラックに行くのだろうか。 宿木学園生徒会は常にクソブラック。 労基なんてありゃしない。 ブラック過ぎて酷職無双。 頭に『真・』が入る。
「そういえば、先輩が入ってる委員会も大半が1番家庭出身の男子でしたね」
「俺をあんな蛮族と一緒にするな」
「鏡って見たことあります?」
あれ喧嘩売られてるのかなこれ。 毎日見とるわ。 イケメンしか見えない。 これは眼科行き不可避。 もしくは脳に問題があるのかもしれない。 あ゛?
\ポーンパーンポーンピーン/
その時、帰宅を促すチャイムが鳴った。 チャイムの音程逆じゃなかった?
「っと、そろそろ帰らないとですね」
「チサトは何か用があって来たんじゃないんデスか?」
「いえ、そろそろ仕事終わりのお茶会やってるだろうなと思いまして」
「……お菓子食べに来ただけ?」
「えーと……~さんご馳走様でした!」
ちゃんとお礼ができるの偉いね〜薪姫くん。
でも俺の名前を忘れて濁した点についてあっちでお話しようか。 あれ俺2回は教えたよね。
「あ、先輩」
「あん?」
「私次はエクレア食べたいです」
「帰れ」
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そして期末テストも終わった2月上旬
「えーっと? あ ゛ー次はバレンタインか……めんど」
「本人目の前にして言うとは流石デス」
「霜月先生、お気持ちお察しします」
「アオバ?」
放課後の教室に人影が3つ。
「んじゃあ早速やるか。 その前に莇、お前なんで居んの?」
「私は旦那様にお嬢様について報告する義務がありますので。 ここでは隣のコレの保護者として扱いください」
「コレ?」
「……まいっかぁ……じゃあ成績の話からするぞ」
も助はダルそうにクリップボードにまとめた書類をペラペラと捲る。 一応仕事をする気はギリギリあるらしい。
「あったあった。 えーと? 年度始めの成績が無いから7月からの成績になるが、学力は徐々に上昇はしてるな。 時々ガチ寝してる事以外は授業態度も良好。 クラスメイトとの関係も悪くはない。 仲のいい友達もできてるみたいで何よりだな」
「『授業中の居眠り』っと……」
「アオバー? メモする所はもっと他にもアリマスよー?」
「全体的な成績は下の上か中の下ってところか? 特に選択科目はよくやってるって聞くぞ」
「フフーン!」
「『成績は底辺』……」
「印象操作反対!」
「生活態度は……まぁこれはいいか」
「いえ、お聞かせ願います」
「モスケ! アオバが悪いこと書かないようにいい事だけお願いシマス!」
「えー……遅刻無し・留学生でありながら生徒会副会長として立派に仕事してる・明るく元気でクラスの活力になってる」
「……ちっ」
「sorryモスケ、一旦stop。 アオバはお話がアリマス」
「霜月先生、続けて」
「んじゃあ肝心の進路の話だが」
別のクリップボードを取り出すと再びダルそうにパラパラ捲るも助。 そろそろやる気が限界に近い。
「えーっとぉ? 進路『ソージのお嫁さん』……これだけだな」
「お嬢様真面目にやってください」
「これ以上ないくらい真面目デスよ!?」
「……まぁ人の選択にアレコレ口出す気は無ぇけど」
ベルの場合これが全身全霊の本気なのがタチ悪い。 誰がなんと言おうと突き進むつもりだ。
「どっちにしろ進学か就職か、何か一つでも予備作っといた方がいいぞ。 言うて就職ならそろそろ準備終わらせなきゃヤバいかもだけどな」
「ですよお嬢様。 このままでは肩書きだけ立派な高学歴ニートになってしまいます」
「あれワタシが失敗する前提で話してる?」
「進学なら宿学の大学とかどうだ? バレンタインの成績なら────まぁ、多分エスカレーターは無理だろうけど、それでも外部受験よりは多少有利だと思うぞ」
「ほえー この学園って大学まであるんデスか」
「ああ、俺も今知って驚いた」
「貴方ここの教師ですよね」
因みに奏士も大学の存在を知らない。 近所の観光施設に行かないけど行ったら行ったで色々初見で驚く現象に近い。
「どうにしろ、俺からは恋も人生も頑張れとしか言えん。 俺は奏士が幸せになるなら誰でもいいし、ぶっちゃけ進路がどうなろうと俺は全く困らんしな」
「あーこの男遂に言い切った」
「てか、ぶっちゃけ進路なんてギリギリでも何とかなる。 俺とか3年の秋に進学する事になって無理やり大学受験させられたんだぞ」
「全くアドバイスになってない!」
「学生を導く聖職者の発言とは思えませんね」
しかし、も助のコレは今に始まった事じゃないので莇の発言はあっさりと流された。
「んじゃ次。 莇なー」
「よしモスケ! 悪い所だけ知りたい!」
「お嬢様静かにしないと旦那様にある事ないこと吹き込んでお小遣い無しにしますよ」
外道・莇の一言でベルはあっさり黙った。
「莇は────まぁこれもバレンタインと同じで夏からの成績になるが、悪くないな。 むしろ良い方だ」
「ありがとうございます」
「座学より体育の成績が良いな。選択科目は────家庭系か。 上昇速度が半端ないって聞くぞ」
「特にこれといった理由も無く選びましたが、思わぬ所で役に立ちました」
「生活・授業態度も良好。 誰に対しても丁寧な対応をするってんで、この前職員室でおばちゃん教師がべた褒めしてたぞ。『執事みたいに振る舞うからなんだかお嬢様になった気分〜』って」
「それはそれは」
「あー喉いって……生徒会活動もよくやってる。 留学生────あれお前って留学生だよな?」
「国籍という意味でしたら留学生です。 イギリスにあるので」
「そうか。 まぁ成績面はこれで終わりにして、進路の話するか」
「はい」
「つっても、内容の確認だけだけどな。 えーと『料理修行』ってのはなんだ? 山篭りして火入れの奥義でも盗みに行くのか? それとも美食○楽部にでも入会するのか? もしくは遠月○寮料理學園」
「いえ料理バトルのようなことはしませんが」
も助のネタチョイスに関しては最早誰も突っ込まない。 というより2人に伝わってない。
「私の恋人であるお方のご実家が洋食屋を営んでおりまして。 後々私達の店を持つ為に暫くはご実家で料理修行をしながら資金集め、という未来設計です」
「はーん……恋人の家で、ねぇ……」
興味無さそうにしているも助だが、この時しれっと手元のメモ帳に『莇青葉:デストロイ』と書き込んだのをベルは見逃さなかった。
「聞くが、その恋人とやらの親御さん、並びにお前の保護者に許可は取ったのか?」
「えぇ勿論。 何方も応援してくれています」
「なら、俺に言うことは無いな。 せいぜい頑張れ。 店が出来たら俺を招待して美味い飯食われてくれるならそれでいい」
「必ず。 先生にも素敵な恋人が見つかる事を願っております」
「あーうるせうるせ。 はよ出てけ」
この時、も助がメモ帳に『莇青葉:デストロイ→カタストロフィ』と書き直したのをベルは見逃さかなった。
しかし今回も見なかったことにした。 莇がどうなるのか気になったのと、これまでの恨みを兼ねて。
「失礼しました」
「しっつれいシマシター!」
2人が出ても助1人になった教室。
も助は椅子の背もたれに背中を預けて深く息を吐く。
「……きっつ」
若人の生命エネルギーにやられたも助は既に瀕死。 今日はまだ面談が残っているのに今すぐサボりたい想いではち切れそう。
「……俺も彼女欲しいなぁ」
────────────────────────────
視点変わって2-G教室
「という訳で、私は進学を選びますわ!」
「あ、うん分かったから座ろ? 扇子もしまって、ね?」
「すいませんウチのお嬢様が。 お嬢様、先生が困ってるので座りましょう」
「……神鳴、時々私を下に見てますよね?」
「(無視)それで先生、お嬢様の進路としてはどうなのでしょうか」
「え、あ、うんそれに関しては問題ないかな。 小日向さんは成績良いし、向上心も強いからどの大学行っても十分通用すると思うよ」
「だ、そうです」
「勿論、当然の結果ですわ。 小日向家の才女として当たり前のことをしてるだけですの」
「ですがお嬢様、少しは僕のことも考えてくれると嬉しいなぁ」
「何を気にする必要がありまして? 貴方は私よりも成績が上でしょう」
「うん、だから僕だけ受かってお嬢様が落ちたらどうするか悩む」
神鳴の発言に小百合、キレる! ついでに手に力を入れすぎて「不撓不屈」と書かれた扇子が折れた。
「ふ、ふふ。 ふふふふふ………」
小百合が怒りのオーラを放ちながらゆっくりと立ち上がる。 何故か髪留めが解けて自由になった髪が蠢き出し、その姿は怨霊にしか見えない。
「先生、面談は以上ですか?」
「あ、うんこれで2人とも終わり、かな」
「では。 お嬢様が暴れだしそうなので失礼します」
神鳴は素早く、そして丁寧に立ち上がるとスっと教室から出ていった。
「待ちなさい神鳴! それでは先生、失礼します!」
小百合もそれに続いて出ていった。 急いでいても走らず、ついでにちゃんと椅子を整えてから出るあたり根底は冷静な様子。
そして教室に1人残されたG組担任。 今年初めて担任を持った新人教師だ。
「は〜〜…………疲れた」
新人だというのにキャラの濃い学生を相手取って相当疲労困憊の様子。
「……辞めたい」
ついボソッと出た言葉。 それに気付いて慌てて誰か見てないか確認する。
宿木学園の採用試験に合格したのだから十分優秀ではあるのだが、如何せんメンタル面の弱さには昔から定評のある女性だ。
「……辞めたい」
しかしそんなことも言ってられない。 まだ1人残っているのだ。
「次の人、どうぞー」
「……はい」
そう、まだ1人。
その1人の濃さがカル○ス原液クラスな事を除けば。
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再び変わって能無しside
「なぁ、奏士……」
「あ?」
「……もうお前でいいかもしれない」
「は?」
三者面談(親不在でタイマン)なのになんかも助のお悩み相談始まったんだけど。
「頭おかしい事言ってないではよ面談始めろ」
「だってよぉ……今更お前の何を面談しろってんだよ。 お前書類上は超絶優等生だぞ」
「なんで現実は違う感じ出したのか知んねぇけど、それでもやるのが教師だろ」
「俺、お前の前では素を見せていいと思ってる」
えぇキメ顔で返された。 キモ。
「お前学年首席じゃん?」
「うん」
「そんでもって成績はほぼ全て5じゃん? 授業に必要最低限の参加しかしないから所々4があるけど」
「グループ系はちゃんと参加してるんだがな」
「んで、その学生会副会長やってんじゃん?」
「やってるな」
「その上、進路とか聞かなくても既に稼ぎあるじゃん?」
「あるな」
「……何言えと?」
「ふーむ確かに」
親と相談する程の問題も無いし、というか親居ないし。 保護者必要な年齢でもないし、扶養も関係無い。 全て俺一人で片付く面談だ。
「て訳で俺の人生相談するから話聞いてくれ」
「なら俺を返して壁に話しかけてろ」
「頼む! 俺にはお前が必要なんだ!」
「おい誤解を生みかねん発言は止めろ」
しかもこいつ「頼む!」とか言ってっけど頭下げてねぇし。 なんなんだ本当。
「分かった分かった聞くだけ聞いてやる」
「マジか。 じゃあ早速だけど嫁に来る気はあるか?」
「結論から話すなプレゼンじゃねぇんだぞ」
それ以前にこれが結論だと思いたくない。 も助、どこで酒飲んだ?
「一体何があった」
「実はまたアプリで失敗してな」
「まだやってんのかお前」
マッチングアプリであんなに恐ろしい経験したってのに……諦めが悪いというかなりふり構ってないというか。
「年上で見た目は好みだったんだけどなぁ……人生をギャンブルに費やした酒カスニコ中だった」
「自己紹介か?」
「俺はそこまで酷くねぇよ。 ちゃんと趣味と生活は分けてるし、というか最近酒も煙草も控えめだし……思い出したら吸いたくなってきた」
「落ち着け」
も助は白衣のポケットからタブレットを取り出して口に入れる。 禁煙タブレットって奴か? 何気に実物は初めて見た。
「つー訳で、俺は傷付いた心を癒したい」
「ほう」
「て事で嫁に来ないか?」
「心だけじゃなくて脳まで支障きたしてるな。 メンタルクリニック行ってこい」
霜月先生は既に手遅れ。 逆に手遅れじゃなかった時ってあったかなぁ……
「なぜ俺だ」
「家事万能・料理美味い・世話焼きの三拍子揃った字面だけならいい嫁だから」
「判断材料に『性別』の項目を追加しろボケ」
こいつ既に限界超えてるだろ。 目がイッてる。
「俺に頼らなくても、お前今親戚の子預かってんだろ。 確か俺と同学年で隣のお嬢様学園在籍の。 その娘に癒してもらえよ」
「いや〜 俺ガキには興味無いし」
「贅沢言うな。 すぐ側に癒してくれる存在が有るだけマシだと思え」
俺の場合、重政は超絶自由な気まぐれお猫様だから結構な頻度でお散歩してるし、泉ちゃんは近くに居ない。 その分有難みが分かる。
「そういうもんかね」
「まぁ年齢差を考えれば事案だけどな」
「最近はアラサー教師と女子校生の漫画もあるみたいだし大丈夫じゃね?」
「え、何お前下まで慰めてもらう気か?」
「いやしねぇけど。 そういうのは自分で間に合ってる」
うわー聞かなきゃ良かった。
「まぁ俺の癒しはこの際置いといて、お前の話をしようぜ」
「俺の何を話すつもりだ」
「お前の性事情」
「は?」
「間違えた。 恋愛事情」
「間違え方が極端」
根本的な意味では間違ってないと思うけど圧倒的不正解。 『地球の大気を構成する物質は何?』って聞かれて『素粒子』って書くようなもん。
「それはさて置き、最近どうなんだ?」
「何が?」
「学生会の誰とヤッた?」
「お疲れっしたー」
「待て待て待て帰るな帰るな」
荷物を持って立ち上がった俺を掴んで離さないも助。 なんだコイツ。
「なんなんだよお前。 それでも教師か」
「俺は教師である前に1人の人間でありたい」
「知らねぇよお前の人生観は」
一人の人間である前に教師であれせめて。 今日くらいは。
「んで、どうよ? 誰かとヤッたのか? もしくは全員か?」
「なんで莇入ってんだよ」
「『人の性がどうであれ、被害が無いなら受け入れるのが人生だ』って俺の婆ちゃんが言ってなかったんだけどさ」
「言ってねぇのかよなら要らねぇだろ今の時間」
「俺はお前が男に興味持ってても否定しないぞ。 俺も時々男の娘で抜く」
「話を勝手に進めるな。 そして聞いてない事を喋るな黙れ」
俺でも男に興味は無い。
うん、男の娘はほら、見るまでは女の子だから。 まぁ見た目可愛ければ別にいいよね。 あくまで二次元の話だし。
「一つ言えることは、俺がまだ童貞って事だ」
「えーつまんねー」
お前の娯楽のために捨ててたまるか。 そもそも最近朝も立たないんじゃボケェ! 真面目に病院行くレベルでは?
「じゃあ好きな女とか居ねえの? 気になる相手とか」
「え、泉ちゃん」
「お前それ異性として好きな相手じゃねぇじゃん」
だって好きな事に変わりないし。 マジIlike泉ちゃん。
「因みに見た目だけなら誰、とかも居ないのか? 学生会の女子達ってモロお前の好みじゃん」
「2次元と3次元が同期する訳なかろう」
「うーん別ベクトルで俺以上に深刻」
言うて俺はも助みたいに困窮してる訳じゃない。 渇望する程飢えてないし、何もかも間に合ってる。
「ま、あんまし本人無視して強く勧めるのもアレだしな。 もう帰って良いぞ」
「なんだったんだ本当に」
色々疑問が残る面談だったが、帰っていいとの事なので素直に帰ろう。
「んじゃなー」
教室の蛍光灯とも助の会話ですっかり忘れていたが、廊下に出ると外は既に真っ暗。 俺の未来みたいだね。 やかまし。
まだ学園に人は多く残ってるとはいえ、人の居ない廊下というのは何となく異世界な気がしてちょっとワクワク。
しっかし、改めて見ると長い廊下だ。 学科で校舎が別れてるからサイズ的には一般的な学校と差程変わらないが、それでもやはり少し大きく感じる。
外の暗さと点々と点いた廊下の灯りがミラクルマッチ。 その上、廊下の反対側の照明が切れてるのか暗くて見えない。
これあれじゃね? ゴゴゴゴースト出てきそうじゃね? 開眼してそう。
俺の婆ちゃんは言ってない! 『違和感を感じたらその場から離れるに限る』って。 これまた存在しないお婆ちゃん語録。
さっさと帰ろう。 帰って重政と遊ぶ。 猫じゃらしで遊ぶ。
そう決めた昇降口へ続く階段に向かおうとした時、廊下の反対側から足音が聞こえた。
凄く小さい音だけど俺の聴覚は逃さない。
あれ、これ近付いてきてるな……これなら聴き逃したかった。
奏士くんの秘められた力、魔眼を開く。 そのまま死んでも秘めとくべき痴態。
足音の主が近付いて来るのが見えた。 なんか全体的に白い。
白装束か? って思ったが、よく考えればこの学園で死者が出た記録は無い。 墓地の上に建てたとかそんな歴史も無い。
でも霊とかそういうのって日中に人が集まる所に寄ってくるって聞くしなぁ……学園とか広いし夜暗いし冷暖房完備だしネットあるし、住むには優良物件なんだろ。
そして件の主が普通の眼でも見えるくらい近付いて来たその時、一瞬で姿が消えた。
見間違いかと思ったけどなんか違う。 あれは紛れもなく存在していた。 俺の感覚は鋭い。
そしてこういう場合、大抵背後に現れるのがお約束。
「……わっ!」
後ろから声がして離れかけた魂を掴んで飲み込む。 あーあぶね。 小便漏らす所だった。
「……」
「……?」
後ろに立っていたのは紅葉でした。 あー怖かった。
「……? 反応が薄い」
「…………」
「……痛い」
ギリギリと無言で紅葉の頬を引っ張る。 限界を超えて。
「……紅葉」
「……何?」
「今日のデザート抜き」
「!?!!?!?」
「それだけだ」
「待って」
帰ろうとしたら腰を掴んできた。
「ええい邪魔だ離せ!」
「さっきの話について詳しく聞きたい」
「詳しくもクソもあるか! 今晩お前はデザート抜きだ! それ以上でも以下でも無い!」
「……意地悪は厳禁」
どの口が言うか。 人の事驚かせやがって。
「悪質な悪戯したのはお前だ。 よって罰を与える」
「……謝るから罰の執行に異議を唱える」
「そういうのは頭下げてから言うもんだ。 離せ! 帰る!」
「……帰さない」
畜生やっぱコイツ嫌いだ! 名は体を表すって言うけどミドルネームが体を表さなくてもいいだろ!
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「仲良いなーアイツら」
はいどーも毎回ここに何書こうか思い付くけど書く時に忘れる作者です。 ほぼ毎回メモ取れない時に思い付くので毎回忘れてます。 今回強いて言うなら本日放送開始する仮面ライダー楽しみですね。
この作品読んでる読者の皆様にはもうお分かりかと思いますが、私特撮、特に仮面ライダーが大好きでして。 毎回ベルトを買おうか迷ってます。
1番迷うのはDXで買うかいずれ出るであろうCSMとメモリアルに全振りするかで迷います。 でも結局放送終了で安くなったDX版を買ってしまう。
そして毎回ハイスペックベルトと台座を買い忘れる。 何してるんですか私は。
本編入りましょう。 特撮談義とか伝わる人限られますし。
今回は羽休めついでの進路相談回ということで、回想でA組の面々が出たので主要キャラ達とG組のあの2人を出しました。
そして書き終わって気付く「6人(カス・紅葉・ベル・莇・ポニテ・神鳴)全員保護者出てない」問題。 まぁそれに関してはメインキャラ5人中3人が両親不在、1名母親不明なので今更感ありますね。
というか、私の親は仕事人間で私生活の交流が殆ど無かったので学校行事にも来ませんでしたし、最終的に学校行事の存在を知らせてないのでよく分からないのが本音です。 授業参観に最後に来たのは多分小学生1年生か2年生です。 最初で最後定期。
そんなこんなでこの作品に登場する親はなんとなくのイメージを良くした感じで出してます。 まぁ親も人間なので致し方なし退路なし。
では次回、お楽しみに
そろそろあの時期ですね。 いえ月一で重い日とかじゃなくて