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嵐って一拍置いて来たりするよね

「……いきなり何するの」


急にフォークを投げられ、紅葉は困惑して一瞬固まるが、すぐ様ムッとして奏士に詰め寄る。 その際、掠めたフォークが切ったであろう髪が数本、床に落ちた。


「何もクソもねぇ。 俺は何度も勧告したのに聞かないお前が悪い」


「……奏士が何で怒ってるのか分からない」


普段のマヌケ面は見る影も無い奏士の圧に、紅葉は静かな威嚇で返す。


先程までの穏やかな空気は無く、僅かに狂えば爆発する寸前。 それでもまだお互いに無事なのは、奏士の理性が人の道に留めているからか。


「2度は言わねぇ。 俺を『お兄ちゃん』と呼んでいいのは1人だけだ。 お前に呼ぶ権利は無ぇ。 分かったなら黙れ。 それとも理解する知能すら無いのか?」


「……それくらいでマジギレしてるそっちの方がおかしい」


「なるほど流石幼稚園児に大人気な生徒会長サマだ。 学力はあっても知能は幼稚園児と同等とはな。 いや、言い聞かせれば多少は聞く園児の方が上か」


「…………」


奏士からのあからさまな煽りに、紅葉の血管が限界突破した。 既にケーキの皿は机に置かれ、その手には血が出そうなくらい強く拳が握られている。


「……空想イマジナリー妹しか相手して貰えないから他の人に剣を向けるなんて醜い通り越して哀れ」


「……あ?」


落ち着いて拳を解いた紅葉の一言に奏士の目が変わる。


先までのただ圧を放つだけの眼ではない。 文字通り人を人と思わない眼。 奏士が『自分に害のある畜生ゴミ』を切り捨てようとする際の、慈悲も情も無い、感情すら無い諦めたような眼。


「っ……」


その『人』とは思えない眼に紅葉は思わず言葉が途切れるが、「ここで止まったら次は無い」とでも言わんばかりに再び口を開く。


「……妹属性が好きすぎて実妹ハーレム漫画を書いてるからって、存在しない妹に想いを馳せて呼び方まで設定して他の一切を許さないなんて正気の沙汰じゃない。 気持ち悪いを超えてるから頭を診てもらった方がいい」


「……はぁ」


紅葉が吐き捨てるように出た言葉を最後まで聞いた後、一息吐いて奏士が立ち上がる。


怒りも憎しみも無い無の眼で見られ、紅葉は思わず再び拳を握って構える。 奏士がいつ実力行使に出ても迎撃できるように。


しかし、紅葉の予想に反して奏士は殴り掛かる事は無く、その場で目を閉じて一息入れて何時ものマヌケ面に戻った。


そして、何事も無かったかの様に残ったケーキを掴んで丸呑みすると、カバンを取って生徒会室の扉を開けた。


「……待って」


「あ?」


「……どこに行く気?」


「帰る以外無いだろ。 今日の仕事は終わってるし、褒美のケーキも食い終わった。 態々学園に居る意味は無い」


「……まだ話は終わってない」


「あ、そ。 壁とか話し相手に丁度いい思うぞ」


紅葉の制止も聞かず、奏士はさっさと部屋から出る。


「…………」


静かになった生徒会室で1人、残された紅葉は力無く椅子に座る。


普段なら既に奏士を追いかけて捕縛している所だが、今回は不思議とそんな気にはなれず、少し考えてみることにした。


「…………」


何度思い返しても、先程の喧嘩が鮮明に出る。 紅葉が今日ほど奏士にムカついたことは無い。


だが、それと同時に安堵もしている。 奏士が帰ったことに。


ついさっきまで、紅葉は「奏士が何かしても勝てるだろう」と考えていた。 それはこれまでの経験から来る、至極当然の予想。


しかし、先程奏士が立ち上がって紅葉を見た時、紅葉は本能的に理解したこれまで紅葉が優位に出れたのは、対面する際に奏士が手加減していた、という事に。


対峙しただけ故に実際の結果は不明だが、少なくともあの時の奏士に『手加減』というブレーキが無かったのは明白。 それで立ち会えば、良くてお互い大怪我、最悪、一方的な駆除になっていたかもしれない。


であれば、逆にこの場が有耶無耶になって良かったのかもしれないと少しほっとしながら、ほんのり冷めた紅茶を口にする。


だとしても、だ。


先程の奏士の豹変。 流石に異常過ぎて紅葉は未だ分からないでいた。


原因は単純、「紅葉が奏士を『お兄ちゃん』と呼んだこと」だ。


だが、それでなぜあそこまで激昂寸前に至るのかが分からない。


紅葉は『空想妹が〜』と言ったが、思い返せば奏士はそれらに対し、肯定も否定もしていない。 ただ、紅葉の言葉を聞いていただけだ。


「……絶対に何かある」


奏士は無駄話だらけで大事なことは語らない。 この1年ずっと一緒に居たが、奏士の根本的なことに関しては殆ど知らないのが現状。


流石の紅葉もデリカシーとやらは弁えている……ハズだ。 本人が嫌がるなら深くは聞かないが、事奏士に関してはもうその領域じゃない。 というか今更だ。


「……難しい」


何気初めての喧嘩。 今から問い詰めようにも、多少の気まずさはある。


これまでも言い合った事はあるが、どれも些細な件だ。 喧嘩というほどではない。 今回程となると、先月話し合った『ガーターベルトがエロいのは具体的に何処か』についてだろう。


あれも言い合ったとはいえ、お互い本音でぶつかり合い、最終的には『ガーターベルトという概念がもうエロい』に落ち着いたので、今回のようなモヤモヤする終わり方じゃない。


「…………バカ」


冷房に当てられてクリームの表面が乾いたケーキを口に運ぶ。


さっきまではあんなに美味しかったのに、なぜだか今はあまり美味しくない。


────────────────────────────

奏士 side


「あ」


「げ」


帰りにスーパーで買い出ししてたら正直年中会いたくない人とばったり正面衝突しかけた。 うーわ。


「わ〜 君って当人目の前にしてよくそんな嫌そうな顔できるね」


「正直なもんで」


同じく買い物中の人妻、もとい自称『皆のお姉ちゃん』に会ったし絡まれた。 ここまではっきり見られてると気付かないフリできないの悔しい。


「君も食材の買い出し? 時々見るけど似合わないね〜」


何だこの人喧嘩売ってるのか? 今ちょっとお釣り渡せないからレジ閉鎖してるんですわ。 クレカも電子マネーも非対応な時代遅れっぷり。


でもね、クレカも電子マネーも、導入検討しようとすると思ってたより手数料が痛い事がわかるから現金オンリーも頷けるよね。 下手すりゃ赤字になる訳だし。 誰目線?


「じゃこの辺で」


「おっと、お姉ちゃんからは逃げられないゾ☆」


退散しようとしたら肩掴まれた。 なんでこの人フェイント貫通して捕まえてんの? 俺避けたよね?


「ねぇねぇ紅葉ちゃんは? 一緒じゃないの?」


「いや今日は1人」


「何で制服…………あー、もしかして幼稚園訪問?」


「という名のタダ働きの帰り」


「も〜君は口が減らないな〜」


クラスメイトの先輩兼人妻に頬をグリグリされるこの現状。 何だか危ない感じがして怖いです。 あのウブゴリラ近くで見てないだろうな。


「紅葉ちゃんは? はっ────まさかあんな可愛い子を外で待たせてるんじゃ……」


「分かってると思うけど念の為に訂正すると、紅葉は種族的にはヒューマンよ? dogでもcatでもhumanoidでもなく」


そう。 紅葉は一応人間なのだ。 日本人だ。 つまりクソジャップ。 つまり要る?


ついでにヒューマノイドあるある。 最初「ヒューノマイド」と呼んでた。 なにこれ作者の実話?


「普通に学園に居るでしょ。 多分生徒会室でケーキ食ってる」


「ふーん。 君は何でここに居るの? 食べさせっこして一緒にお手手繋いで帰らなきゃ」


「あの子リード繋がなくても帰巣本能で勝手に帰ってきますよ? ハトみたいに」


ハトと同等の知能があるのかはともかく。 紅葉は時折野生に帰るからわからん。


「2人が一緒に居ない……それに何だか君がよそよそしい…………これはいつもの事か」


それ分かってて何で俺に突っかかってくるんですかね。 元カノに未練がある元彼くらい今彼にグイグイ来るじゃん。 どっちかってーと生みの親と育ての親だけど。 いや紅葉この人から産まれてねぇけど。


「ふむ、ふむふむふむ…………」


名前を忘れた人妻が何かを考えながらじっと目を見てくる。 そんな目で見つめるなよ▲ うん、ecstasy! いやそれよりよく見たら♠じゃなくて▲だな。


「ふむふむふーむ…………お姉ちゃんには全て丸わかりだよ!」


「何が?」


俺の今日のパンツ? イヤン。 俺今日肌色何だよね。 これは履いてないか全身タイツか。 どっちにしろヤベェやつなのは変わらねぇじゃねぇか。 ちゃんと履いてるから。 履いてないのはベルだけだから。


────────────────────────────


「ぶえーっくしょいっ!!!!」


「くしゃみでっかぁ……」


「ベルちゃん風邪〜?」


「うーん? ワタシは生まれてから風邪ひいたことなんて両手で数えられるくらいしかないデス」


「それは1度も無い時に使うものよ。 あと両手って普通に引いてるじゃない」


「夏風邪は大変だよ〜」


「ふーむ……確かに、『夏風邪はバカが引く』って言いマス。 これではワタシの隠せない天才っぷりがお隠れしちゃう! 天岩戸みたいに!」


「バカと天才は紙一重って言うわよね」


「お? なんだ喧嘩か? 皐月のア○ル処女奪いマスよ!」


「何その文「拳で」拳で!?」


「わ〜 皐月ちゃんおトイレ大変だ〜」


──────────────────────────────


「…………」


何だ今の。 まぁいい。


「お姉ちゃんには全て丸かわ……丸わかりだよ!」


あれ今噛みました? それともかみまみた?


「君〜 さては紅葉ちゃんと喧嘩したでしょ〜」


どうやらさっきのは無かったことにするらしく、ガン無視でニヤニヤしている。 じゃあなんすか? 噛んだことを弄った俺はバカってことすか?


「紅葉ちゃんと喧嘩するなんていけない子だな〜 どれ、お姉ちゃんに聞かせなさい! 何言われて泣いちゃったの?」


えぇなんでこの人俺がぼろ負けした前提なん? 無効試合に決まってるだろうが。


「それとも紅葉ちゃんを泣かした? それならちょっとお姉ちゃん怒っちゃうゾ☆」


男女の喧嘩あるある〜 何故かどっちが泣いても男が責められる。 今回は地雷踏んだ紅葉も悪いし、地雷の場所教えてない俺も悪いって事で終わったんですけど。


「ヨシっ! それじゃあ君に極秘ミッションを与えます」


「それよりここスーパーなんで、せめて黙ってくれます?」


もしくは口を閉じてくれます? 腹話術しか手段がねぇ! あれ……音が……遅れて……聞こえてくるよ? 武闘派のいっこく堂だ。


……いやよく見たら声も音だから何も変わらねぇじゃねぇか。何だよ作者ここで5分くらいツボに入って爆笑してたのに。


「君に与える指令は〜……デデン! 『明日までに紅葉ちゃんと仲直り!』 勿論、仲直り以上のことをしてもOKです」


「OKの前にKOしてやろうか」


顎出せ顎。 俺必殺の160万円右肩上がりアッパーで沈めてやるから。 さてはコイツ初期仕様のヒーロー着だな? わからん人は読み飛ばせ。


「あ、明日生徒会室まで確認に行くからそれまでに仲直りしないとダメだゾ☆ 2人が仲良しじゃないとお姉ちゃん悲しいな〜」


俺は別に悲しくないから良いかな。 よそはよそ、うちはうち。


「っと、賢星くんに暖かいご飯作って待ってなきゃ。 それじゃ!」


最初から最後までウッキウキルンルンハイテンションな自称姉。 あの人どう始末しようか。


……仲直りか〜


俺喧嘩したことないんだよな。 喧嘩する相手がいなかったし。 重政とはしょっちゅう喧嘩してるけどあれはじゃれ合いみたいなもんだから。 仲直りの方法は知ってるけど俺にする気が無いから動く気力出ね〜


そもそもこういうのが面倒だから友達作らなかったのにさ〜 だから嫌なんだよ人間って。


……………………ダっル





てか、あの人明日来るとか言ってたけど、明日は終業式だから午前帰りなの知ってんのか? 知ってたら家まで来そうだから普通にこの1件を忘れてて欲しい。


……明日午前帰りか〜


つまり夕方まで拘束されるな。 俺は知ってるんだ。 午前帰りで午前に帰れた試しは無い。 毎回何かしらの仕事持ち込まれて残業だ。 うーわじゃああの人と会うじゃん。 嫌だなーあの人苦手なんだよなー


ほんとクソダルい。 もうこうなったらこのストレスを発散しよう。 何する? 重政モフる。 やはり畜生が正義。 正義と思ってる人の呼び方じゃねぇな。


──────────────────────────────


その夜


「…………」


奏士の部屋の前でウロウロする紅葉の姿があったが、これを見たものは誰もいない。

はいどーも皆さんこんにちは

年末調整も満足にできない者代表お茶汲み係専属清掃担当の椅子こと作者です。 年末調整失敗+変態のコンボで終わってますね。


年末調整、毎年やるのに毎年分からなくなるのどうにかならないのでしょうか。 去年の書類持ってることが半ば奇跡です。



ではこの辺で

次回もお楽しみに


いつの間にか12月って怖くないですか? 私まだ2月か3月の気分です。

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