嵐って備えても来なかったりするよね
「何をしてるも何も、ただ迎えを待ってるだけです」
「はーん」
どうしよう理由を知った途端にあっさり興味を失った。 そもそも定型文で聞いただけで最初から興味あったかすら微妙。
「お迎え待ちなら大人しく教室でおままごとでもして待ってなさい。 ほら、今なら広い教室を独り占めできるぞ」
「僕もそうしたいんですけどね。 トイレに行こうとしたら人気の無い薄暗い廊下で抱き合ってる男女が居たもので」
「抱き合ってはないよ?」
色々訂正することあるけど、なんかもう今日は疲れたしめんどくせぇからいいや。 どうせ次会った時には忘れてる。
「仲がいいのは構いませんが、そういった事は家でやるべきでは?」
「あれもしかして、俺今幼稚園児にガチ説教されてる?」
俺悪くないのに。 連帯責任は悪習だと思うんだよね。
「そんな事より、そっちはどうなんだよ。 今日も女に囲まれてたなモテ男」
「いえあれはモテてると言うよりは──あ、ちょっと。 持ち上げるのやめてください」
「まぁまぁまぁ」
あやのんの両脇に手を入れて持ち上げ、ゆらゆら揺らしながら高い高い。 これでもそこそこあやのんの事は気に入ってる奏士君。 変に泣かないから接しやすい。
「よいせっと。 ドッキーング」
持ち上げたあやのんをそのまま肩車。 子供体温で首周りが暖かい。あ〜 コリが解れそう。
「流石にこの歳で肩車は恥ずかしいのですが」
「ガキは今のうちに甘えとけ。 変に大人ぶってると俺みたいになるぞ」
「……それは嫌ですね」
「だろ?」
大人しくなったあやのんをしっかり支えてその場でくるくる回ってみたり揺らしてみたり。 気分はアトラクション。 三半規管ざぁこざぁこなのに回り回ったから吐きそう。
「それで、先程は濁されましたが、どうなんですか?」
「何が?」
「会長さんの事です。 色々思うところがあるみたいなので」
突然な事言うもんだから人間コーヒーカップが急停止しちゃったよ。 慣性の法則は恐ろしいんだぞ。 具体的には俺の首の骨が危ない。 あやのん、軽いは軽いけどkgにしたら普通に危ない重さあるんだよな。 俺の残機減っちゃう。 『首が折れる音』とか出されちゃう。
「子どもが首を突っ込む話じゃねぇよ。 大人になると色々あるってだけだ」
「そうなんですかね。 迎えが来るまで時間もありますし、話くらいは聞きますけど、どうします?」
「…………」
──────────────────────────
「……♪」
「どうした花伝。 えらくご機嫌だな」
「……理事長」
「まぁいい。 それより、花伝に渡すものがあってな」
「……?」
「今朝、お前の家に来た際にポストに入っていたものだ。 すっかり渡し忘れてな」
「……おばあちゃんから?」
────────────────────────────
「────はぁ。 そうですか」
あの後、何を思ってか彩乃とちょっとした小話をしていた。 要点だけ+大部分をぼかしてるからなんて事ない人間関係の話になっているが。
「逃げればいいのでは? 以前も『嫌なことから逃げて何が悪い』と言っていたじゃないですか」
「子どものお前に先人から教えてやる。 世の中には出来ることと出来ないことが存在する」
しゃがみこんでため息をつく。 とっくに肩車は解除してあるから、今は丁度あやのんに見下ろされてる身長差だ。 ちょっと興奮してきた。
「俺も逃げれるなら全力で拒否るけどさぁ……」
言いながらこれまでの事を振り返る。 あの時も、あの時も、あの時も……何時だって結果は同じだ。
「俺逃げ切った試し無いんだよなぁ……」
何度も追いかけっこをした。 その全てで最後は捕まっている。 そして、そのどれも非情になりきれず多少は手加減していた。
それを踏まえ、今回の追いかけっこを逃げ切れるかと聞かれると答えは沈黙。 このままじゃ俺が俺の手のひらの上で踊り狂って死にそう。 英語で言うと『crazy dance after party die』 おお学年首席とは思えない英語力だ。
「逃げきれないなら諦めて受け入れればいいのでは? どの道結果は分からないでしょう」
「それは嫌。 俺は俺のために逃げ切らなきゃならん」
「世界一の自己中ですね」
「それが俺だ。 俺に真っ当な人間性を期待されても困る」
俺は目の前で泣いてる人が居たら手を差し伸べずに『煩いから黙れよ』と思う男です。 ここまで読んでるみんなは嫌ってほど知ってるかな?
「なんというか……不憫ですね。 いえあなたではなく会長さんの方が」
「俺の心配は無し?」
「心配するレベルの人間じゃないと分かったので」
「辛辣だなこのガキ」
辛辣なガキには大人の怖さを教えてやらんといかんな。 ほーれ天井ギリギリの高い高〜い。
「……奏士が幼稚園児をイジメてる」
あやのんで遊んでたら世界一見られたくない人に見られた。 失せろ銀髪!
「……どこに通報すればいいのか悩む」
「早まるな紅葉。 これは遊び相手になっていただけだ」
「……イジメてる側はみんなそう言う」
「正論パンチやめろ。 人類が正論で幸せになったことがあるか?」
「……言ってる側は幸せ」
「見ろあやのん。 あれが汚い大人だ」
「自己紹介ですか?」
何だこのクソガキ。 今すぐ肩車して段差の多い砂利道走ってやろうか。
「それよか何の用だ。 片付けはもう終わったぞ」
「……そろそろお暇するから呼びに来た」
「なるほど」
もうそんな時間ですか。 夏は日が長いから時間感覚無くなるね。 冬は冬で短い。
基本的に部屋にこもってるから元から時間感覚なんて無いに等しいんだけどな。 学生やってるからギリギリ保たれてる感じあるよね。
「だそうだ。 俺は帰るが、寂しいからって泣くなよ?」
「いえ別に。 あなたは何か……『気が付いたら居る』ので」
「なんだコイツ」
クソ生意気だな。 可愛いじゃないか。 頭を撫でてやろう。
「んじゃな」
「ではまた」
────────────────────────────
『ご苦労諸君。 褒美のケーキを生徒会室の冷蔵庫に入れてある。 一休みするといい』
と、悠ちゃんに言われて先に帰ることになり、幼稚園から学園までの帰路を2人歩く。
帰路つっても、幼稚園は学園のお隣さんな訳で。 1分2分歩くだけだが。
「……♪」
「ご機嫌だな」
「……ケーキ」
「さいですか」
「……奏士は楽しみじゃない?」
「楽しみよりも別が勝る」
「?」
具体的には「あの悠ちゃんが気を使ってケーキを用意してあるだと!?」という驚き半分、何か裏を感じて怖い半分。 悪い方向で信頼強いんだ、あのロリ。
「……今日の奏士は子供に大人気」
「ちっとも嬉しくないがな。 大人の男で頑丈だからやりたい放題しやがる」
「……前は近付くだけで泣かれたのに」
「あれ未だに納得してないからな」
本当に。 折角だから少しは歩み寄ろうとしたらギャン泣きするとは思わないじゃん。 手伝いに来たのに先生の仕事増やすとか何してんのって感じよ。
「……去年はトゲだらけだったから仕方ない」
「何を言う。 俺みたいに白玉の如く柔らかな人間そうは居ないぞ」
「……奏士が柔らかいのは信念と股間のブツだけ」
「ちゃんと硬いぞ両方」
ホントホント。 まだ不全には至ってないから。 糖尿病とかじゃないから。 マジで。
……どうしよう弁明してて不安になってきた。 病院で検査しようかな。 1年未使用で機能ガタ落ちしてそうだし。
「…………てかお前はそもそもを知らねぇだろ」
「……言うだけならタダ」
「コイツを裁けない法にも問題がある」
まぁ所詮生娘の戯言よ。 気にするまでもない。
……き、気にしてなんかないんだからねっ!
「……最近の奏士は────気配がまろやかになった」
「言わんとしてる事は分かるが、それ味付け以外で使わねぇからな?」
まろやか……まろやかかぁ…………冷静に考えると意味わかんねぇな。 少しは丸くなったと解釈していいのか?
「……さっきも、いつものお友達と仲良くしてた」
「あれは友達じゃない。 なんかこう……イベント行ったら毎回会う人だ」
「……それはもう友達でいいと思う」
決して違うぞ。 友達は厄介な種だから1人も要らないんだ。 人間は複雑だからな。
何より、あやのんを友と呼んだら俺の初めての友達が一回り以上下の幼稚園児という事になる。 怪しすぎるだろ色々。
「……奏士、やっぱり子ども好き?」
「前から言っているが、俺が嫌いなのは『ガキ』であって子どもじゃない。 むしろ子どもは好きだ」
子どもは未来の宝だからな。 子どもが元気な国はいい世界だ。 大切にしなきゃらなん。
「……それはつまりロリコ「黙れクソガキ。 お前は嫌いだ」……まだ言い終わってないのに」
流石に幼稚園児に欲情するほど飢えてない。 3次元だし。
2次元はどうなのかって? 野暮なことは聞くなよ。 コイツを裁けない法ってどうなん? でも考えるだけなら自由だから……
「……子どもは何人欲しい?」
「要らん。 俺はこれからも1人と1匹で自由気ままに余生を謳歌する」
「……その返事は計画が狂う」
「何の計画だよ」と聞かなかった褒めて欲しい。 聞いたら後が無さそうなんだもの。 既に無いとか言うな。
「膨れてないで、さっさとケーキ食って帰るぞ。 悠ちゃんのご好意で報告書の提出は明日になったんだから」
「……報告書は副会長に任せる」
「お前も書くんだよ生徒会長」
────────────────────────────
「……奏士、暑い、エアコン」
「自分でやれ」
生徒会室に入って早々、自分は会長席に座って偉そうに部下をこき使うクソ上司に反抗するこの瞬間堪んね〜
「……奏士は私の右腕なのに」
「ハカイオーの右腕付けたアキレスも使いこなすまでラグがあっただろ。 お前もせいぜい頑張れ」
「……そんな懐かしい話をされても」
いいだろLBX。 昔はアーケードゲームもあったんだぞ。
今の画面タッチ式だとか、カードを置いて操作するタイプのアーケードゲームもそれはそれでいいけど、俺は断然昔の小さい画面と左右のボタン、真ん中にスキャナー下に排出口というあの小柄なアーケードゲームが好きです。 懐古は他所でやれ。 ここ俺の本場なんですが?
紅葉を玉座から引きずり下ろして自分でスイッチを入れさせ、革命は完遂。 後は手を洗って冷蔵庫からケーキを出し、取り皿とフォークを並べる。
「……♪」
これから開けるケーキの箱を眺めている紅葉は上機嫌。 ワクワクしてるのが見て分かる。 目とかしいたけになってるし。
「……早く」
「はいはい」
急かされて箱を開ける。 餌を前にした犬かよ。
「……おー」
中にはショートケーキとチョコケーキが1つずつ。 こういう時は喧嘩しないように同じものを2つじゃなかろうか。
「……奏士はどっちがいい?」
「お前から選べ。 俺は残った方でいい」
「……今日の功労者は奏士。 先に選ぶ権利はそっちにある」
クッソどうでもいいわ。 でも選ばないと先に進めなそうだしやるか。
「え〜…………じゃあショート「…………」やっぱチョコで」
「♪」
どんだけショートケーキ食べたかったんだコイツは。 そこまでの欲無いからいいけど。 ボクらは仲良しだから喧嘩とかしないんだ。 大体は俺が欲無さすぎて譲ってるし。 平和が1番。
『手』も洗った…『ケーキ』も移した……『紅茶』もいれた……もうどうやら安心して熟睡できないらしい。 ただし『今夜』だけだ! 黙ってケーキを食え。 はい。
手を合わせて1口。 うむ、さすがは『carin』のケーキ。 美味い。
「♪」
紅葉も大変ご満足いただいてる様子。 なんで紅茶飲んでる時だけ優雅なのかは不明。 作画変わってない?
「…………」
そんな紅葉さん、何かに気付いてケーキの皿ごとこっちに来た。 食べてる時は出歩いちゃダメでしょ。
「……何?」
「お裾分け」
そう言いながら自らのフォークでケーキを切り、こちらに差し出してくる。 そのフォークは使わんぞ。
「そうか。 サンガツ」
紅葉のフォークを無視して紅葉の皿に手を伸ばす。 おい座りながらだと絶妙に届かない位置に逃がすな。
「……そうすると思った」
「分かってたなら最初からそっちを寄越せ」
「……」
紅葉は「聞こえません」と言わんばかりにフォークをグイグイ出してくる。 お前そのフォークに口付けたじゃん。
「……口を開けて」
「そのフォークじゃなければ食ってやる」
「……ワガママ言うのはこの口?」
意地でも口を閉ざす俺の頬を、紅葉は万力の様な力で掴んで無理やりこじ開ける。 ケーキはご褒美じゃなかったんですか?
「……すぐ終わる」
「|手を離せクソビッチがァ(へをふぁなふぇふほひっひふぁ)!」
嫌がる俺に無理やりねじ込み、素早く口を閉ざしてフォークを引き抜く。 よりにもよってフォークと濃厚接触した。
「……美味しい?」
「味が分かる状態だと思うか?」
「……美少女に食べさせて貰えただけでモテない男にとって十星級」
「星剥奪じゃボケ」
あーもう最悪。 不快感マックスなんだけど。 嫌な感覚残ってるし。
「……あーん」
「自分で食え」
「……むぅ」
流石の紅葉もこれ以上は仕方ないと思ったのか、素直に自分でチョコケーキを切って食べた。 人のフォーク使うなや。 俺素手で食う羽目になったやろがい。
「……奏士は少し潔癖」
「なんか嫌だろ。 他人が口付けた物食うとか」
「……なんでこんなのが幼稚園児にモテたのか分からない」
「何それ詳しく聞かせろ」
「……過去一食いついた」
え、何? 俺俺の知らないところでモテてたの? 園児なのが最悪に惜しいけどまぁいい。
「……別に、奏士は何も知らない人から見ると落ち着いた大人に見えるから、同級生と比べて『カッコイイ』とか『狙っちゃお』とか言われてただけ」
「『何も知らない人から』って何だよ」
知ってる人から見ると何もかも違うみたいな言い方じゃないか。
「……だから目を覚まさせるのに必死だった」
……えっ? もしかしてさっきの「拳を交えることになる云々」はそういう事? 俺の知らないモテ期終わらされたってこと? 何してくれてんの?
「……これだから奏士おじちゃんは困る」
「こっちはお前に聞きたいこと増えたんだが?」
まず正座しろや。 お説教とか色々あります。
「…………『おじちゃん』は少し違和感がある」
「さいですか」
まぁ俺が勝手にそう言ってるだけだしな。 見た目に若さは無いけど年齢は若いんだ。
「……お兄様?」
「お兄様言うな」
「……兄貴」
「黙れ」
「……お兄、兄さん、兄様、兄やん……」
「黙りなさい」
「…………………お兄ちゃん」
「だーまーれ」
紅葉は何度か自分の中で反芻した後、しっくり来たらしくうんうん頷いてる。
「……奏士は『お兄ちゃん』が1番合────」
紅葉が言い終えるより早く、フォークが紅葉の頬をかすめて壁に刺さる。
「これが最後だ。 乳臭い口を閉じろ」
はいどーも皆さんこんにちは
年末調整すら満足にできない者、作者です
何度やってもやり方を覚えないのはもう年末調整のシステムか文章が悪いと思うようになりますね。 私は再提出になりました
ではこの辺で




