鴉が雛であった証
奏士を探しに出た紅葉。
しかし、奴は消臭スプレーを使って痕跡を消し、見事に行方を晦ませていた。
しかも、捜索中に四限が終わった事で廊下の人口が増加。 より発見が困難になった。
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「先輩って泉ちゃんに大金ポンポン渡すじゃないですか」
「それがどうした? ちゃんと泉ちゃん用の口座には2億入れてあるぞ」
「ふ、増えてる……」
「お金持ちで羨ましいですね〜」
「……ぶっちゃけ、総額幾ら持ってんるですか?」
「詳しくは言わないが、泉ちゃんに渡しても後6人は一生養える程度はある」
「6人分かぁ。 大体日本円で20億はあるってことだから、株とかその他資産合わせると倍にはなるか……先輩って魅力無いですけど、お金だけはありますよね。 天○人みたい」
「なんで俺喧嘩売られてんの?」
「ちなみになんですけど、今すぐ結婚して即離婚した場合って財産分与で私に幾ら入ります?」
「全部特有財産で0だボケ」
「チッ……じゃあ泉ちゃん娶らせてあげるんで、私にマージンください。 紹介料として」
「昔からある縁に横入りして中抜きすんな。頼金要らないだろ転売ヤーか」
「泉ちゃん結婚するんですか? 相手は選んだ方がいいですよ?」
「え、いえあの……」
「この後輩ピュアな目してちょいちょい刺してくるんだけど俺何かした?」
「許してやってください。 今日の昼休みに最愛の旦那を先輩に取られたからちょっとご機嫌ななめなんです」
「何その可愛い理由」
「あと私がちょいちょい悪評流してますからね」
「クソジャップが」
「先輩もジャップでしょうが」
「否定はしない」
「しろよ」
「千聖ちゃん。 そんなことより、そろそろ次の授業始まっちゃいますよ?」
「やっば、そういや次プールじゃん」
「プール……」
「泉ちゃんは恥ずかしがり屋ですね! 授業中は女の子しか居ないのに!」
「そーそー先輩を見習いなって。 この人生きてるだけで毎瞬醜態晒してるのにまだピンピンしてるんだから」
「お前はプールじゃなくて下水道で泳いでろ」
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奏士が後輩達とこんな会話してるとも知らず、紅葉は本を抱きしめながら学園中を駆ける。
それでも廊下は走らず早歩き。 勿論、怒られない為とかでは無く、人が多くて走りにくく、早歩きの方が早いからだ。
図書館、屋上、生徒会室etc……奏士が行きそうな所は全部回った。 目撃情報もある。 だが、すれ違うかの様に奏士は見つからない。
携帯でメッセージを送っても既読すらつかない。
校内放送はこの前奏士に乱用を怒られたばかりだから使いにくい。
試しに泉達が授業を受けているプールまで行ってみたが、そこに奏士の姿は無く、代わりに多数の男子生徒がいた。
もののついでに全員処理して捜索再開。
授業が始まり、すっかり人の居なくなった廊下を小走りで移動する。 探しやすくはなったが、依然として奏士の痕跡は無い。
「……ふぅ」
流石の紅葉も、30分近く走って捜索するのは疲れるらしく、一息つくために教室に戻り、鞄からお茶のボトルを取り出して1口。
一旦席に座って落ち着き、ボトルを鞄にしまっているとふと違和感を覚える。
紅葉の隣、窓から2列目の最後尾は奏士の席なのだが、妙にスッキリしている。
確かに元々物も少なく綺麗な方ではあるが、今回はそれとは少し違う。 例えるなら、普段付けている髪飾りが無いみたいな、何かが欠けている様な感覚。
どうしてもその違和感を拭いきれず、紅葉は奏士の机の周りをぐーるぐる。
ちょっと椅子にも座ってみたりして、普段奏士がどんな視点で生活しているのか確かめてみる。
起立、礼、おはようございます。 の三拍子で着席。 起立、礼、ありがとうございましたーの三拍子でHRが終わって帰宅。
この時、奏士は起立の時点で椅子をしまい、鞄に手をかけて────
と、紅葉が奏士の鞄に手を伸ばしたところで気付く。 鞄が無い。
試しに逆サイドのフックを見てみるが、もちろんそこにも奏士の鞄は無く、向こう側が見通せてしまう。
ロッカーの中かと思ったが、開けてもそこに鞄は無く、代わりによく分からないものが無駄に整頓されて収納してあった。
紅葉は嫌な予感がして、大急ぎで昇降口に行き、奏士の靴箱を開けてみる。
「…………無い」
靴箱の中には上靴と、何故か靴箱を開けると飛び出す仕掛けのカエルのおもちゃが入っており、奏士が普段履いている外靴は綺麗さっぱり無かった。
(……サボるために態々外に出た? でもこれまでの傾向から奏士は上靴で行ける場所を選ぶ。 奏士が教室を出た時に鞄は持っていなかった。 つまり後から取りに戻った)
紅葉は頭をフル回転させ、考えうる限りの予測を立てる。
この1年で奏士の行動の癖や性質は凡そ理解した。 奏士がどんなに隠していても、1年も付き合えば隠しきれないものが出てくる。
それを踏まえ、紅葉は駐輪場へ向かった。 ここが分岐点だ、と。
「……やっぱり無い」
今朝、奏士と登校した際に停めた場所。 そこに奏士の自転車は無い。
それでも決めるのはまだ早いと駐輪場全体を探しては見るものの、やはりどこにも奏士の自転車は無い。
鞄が無い、靴が無い、自転車が無い、学園の何処にも居ない。 これらを整理すると、見えてくるものは1つ。
「…………授業中に帰った」
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急いで教室に戻り、荷物をまとめて紅葉も帰宅する。 幸い、午後は特別科目ということで教員の目は少ない。 奏士が抜け出したのも、それもあっての事だろう。
「…………」
気付かれないよう、そっと玄関を開け、静かに閉める。
流石にまだ昼間だからか、家の中は静まり返っている。
ゆっくりと靴を脱ぎ、音も無く奏士の部屋の襖を開ける。 自転車があるということは部屋にいるのは確実。
紅葉はそう思っていたが、結果は残念大ハズレ。 部屋に奏士の姿は無かった。
「…………」
奏士が隠れている可能性も考えて辺りを見回してみる。 どこにも変化は無い。
テレビもパソコンも温かくないという事は、遊ぶために帰った訳では無い様子。
「…………」
紅葉は一旦鞄を置き、部屋を出て家の中を捜索する。
居間、不在。 厨房、不在。 祖父祖母の遺室、そもそも入れないが、気配的に不在。
他にも風呂場やトイレ、ベル達の部屋等、紅葉が入れる限りの場所は探してみたが影も形も無い。
自転車も車もあるということは、少なくとも奏士がどこか遠くに出かけている可能性は0に近く、自宅周辺にも居ない。 つまり敷地内に必ず居る。
家の裏かと思ったが、家の裏は自然豊かな森だ。 気軽に行く場所では無いし、奏士にも固く止められている。
奏士が裏に行った形跡も無い以上、行く意味は無いだろう。
蔵でも無い。 鍵がかかっている。 あの蔵は、確か中から鍵をかけるのは無理な作りのはずだ。
「手詰まり」紅葉はそう思い、鞄を取るためにとぼとぼと奏士の部屋に戻ると、ちょうど散歩から帰還したであろう重政が、部屋の壁を前足で叩いていた。
「……何してるの?」
「にゃ」
紅葉には何を言っているのか、正確なことは分からなかったが、どうやら壁の方に何か用がある様子。
そう解釈し、重政が叩いている壁────奏士がパソコンを置いているすぐ左の壁を見てみるが、特に何も無い壁だ。 重政が居るからと、奏士はタペストリーもポスターも部屋に飾らないので、本当に何も無いただの壁。
「重政の爪研ぎか何かだろうか」そう思いながらじっと見ていると、重政が机の上のモアイ像を噛んでいた。
「……それは奏士の大事な物だから噛んじゃダメ」
紅葉は重政を持ち上げて置物と引き離すが、重政はバタバタと足を動かして逃れようとし、ついに紅葉は離してしまう。
再び重政はモアイ像の元に行くが、今度は噛まずにテシテシと前足で叩く。 紅葉を見ながら。
「……『来い』ってこと?」
「なー」
そう言われている気がして紅葉は歩み寄り、モアイ像に触れる。 材質的に何も変わりない、ただのお土産だ。
「なー」
机から降りた重政がその場でくるくる回っている。 しっぽを追いかけているという訳でも無さそうだ。
「……『回せ』? わっ」
試しに像を捻ってみると、カチカチと引っかかりながら回る。 それでも特に変化が無いので重政を見るが、今度は逆回転している。
「…………知ってるの?」
「にゃ」
重政の返事で確信を得た紅葉は、重政の動き通りにモアイ像を動かす。 右に5周、左に8周。
すると「カチリ」という音がしてモアイ像が動かなくなる。
「……次は?」
「にゃ」
重政がモアイ像隣のスフィンクス像を叩く。 どうやら頭部がレバーになっているらしく、カチャカチャ動く。
こちらも、重政が前後左右に動いて教える。 上上下下左右左右、右右下下左下左、下右下右下右下右、最後に上から円を描くように10周。
すると、こちらも「カチリ」と音が鳴る。
「次は?」
「にゃ」
紅葉が聞くと、重政が両前足を床にパンパンしている。
「……同時押し?」
「にゃ」
重政は肯定するかのように鳴くと、自分の寝床に変える。 どうやらこれで最後らしい。
「…………」
まさかの仕掛けに少しドキドキしながら、紅葉は意を決して2つの像を上から押す。
途端、「ガチャリ」と音が鳴り、壁が動きだす。
ゆっくりと、静かに、確かに壁がドアのように開く。どうやら隠し部屋の様だ。
「…………おー」
隠し扉に隠し部屋。 それを開ける鍵は猫が知っている。 なんて非日常感にわくわくしつつも、紅葉は隠し部屋に恐る恐る入る。
中は思っていたより広く、15畳はあるだろう。
整頓された数々の棚には本が並べられており、ガラスケースには持ち主の趣味であろうおもちゃが。
収納ボックスにはゲームのケースや小物が入っており、しっかりとコーナー分けされている。
「……『禁術一覧』『死者蘇生の法』『黒魔儀エクストラ』『ハァウトゥウ魔導!』『人体構成の全て』『錬金術奥義書~ホムンクルス編~』『魂と輪廻転生』『降霊術まっしぐら』……………………」
奥に行くほど本のタイトルが怪しくなっていくが、あくまで当人の趣味ということで紅葉はみ無かったことにした。 誰にだって、奏士にだって厨二病の過去は隠したいのだろう、と。
少々薄暗いが、スマホのライトで照らしながら物を避けながら奥へ奥へと進んでいく。 暗さと物の多さで、入口からは殆ど何も見えない。
入口はまだ外の明かりが入る分マシな方だ。 そこから少し奥に行くだけで、部屋は真っ暗闇そのもの。 自分が部屋のどこにいるのかすら把握できない。
スマホのライトだけが前方の安全を教えてくれる部屋を、紅葉は物珍しさにフラフラと寄り道しつつも1番奥が見えると、大きな影を発見する。
一瞬、紅葉は幽霊か何かかと思って身構えたが、とても安心する気配を感じ、影をスマホのライトで照らす。
「……見つけた」
そこには、明かりすらつけず読んでいたであろう本を片手に、信じられないモノを見て目を丸くしている奏士の姿があった。
──────────────────────────── 奏士 side いやこっちが本筋なんだけどね?
全略
いやこれで終わらせる訳ないよね? いい訳ないよね?
え〜…………授業サボって家帰って誰にも言ってない隠し部屋でガサゴソしてたら何故か紅葉が入って来た。 何これホラーゲーム? だとしたら俺詰みじゃん。 詰みなイッツミーつってね。
「…………」
状況を整理してる間も紅葉は容赦無くズンズン来る。 おいムービー中は止まるんじゃなかったのかよ。 ムービー中も進行してるとか何それミラ○ルカン? 初見回避難しいぞコラ。
逃げようにも、隠し部屋故に出入口は1つしかなく、それは紅葉の後ろ。 物が山のようにあるせいで下手に身動き取ると雪崩が置きかねない。 マジで詰んだなコレ。
諦めて本を閉じて棚に戻すと、近付いてきた紅葉に壁ドンされた。 棚壊れるかと思ったわ。
「……ここは?」
「それを言う前に言え。 どうやってここを知った」
先も言ったが、ここは隠し部屋。 祖父亡き後、俺が設計し、俺が改築した。 今まで誰にも言っておらず、出入りの際は誰も居ないタイミングでしか使ってない。 そして入るための開場コードも俺だけが知っている。 故に、ここは誰も知らない秘密の部屋。 俺だけの部屋だ。 地下室とは訳が違う。
紅葉なら直感で気付くかもしれないと隅々にまで気を使って痕跡は無いはずだが────
「……重政に教えて貰った」
紅葉が指さす先は入口。 そこでは重政が丸まってぐーすか寝ている。
成程盲点だった。 重政の知能と記憶力を低く見積ったか。 これは俺が悪い。 いや本当に悪いの俺か? 猫が覚えていて人に教えることをどう考慮しろと?
「目的はなんだ? 脅迫か?」
自分で言うのもなんだが、俺は授業を抜け出して家にいる。 そして家にいることを誰にも言っていない。 つまり、紅葉は態々学園中を探し回り、家にいることを突き止めた上でここにいる。
ちょっと授業をサボるなんて紅葉だってちょいちょい加担している。 サボりを止めるためでは無い。 つまり、学園を抜け出してまでして俺を探す理由が無い。
「…………」
紅葉が壁ドンをしたまま、無言で見上げている。
……いや、流石に無いか? あって欲しくないなぁ。 何もしてないのに出てくるとかは無いだろうし、そうならない為に細心の注意は払ってある。
だとするなら何故だ? 嫌な予感が止まらない。
「……これ」
薄暗い中、紅葉が一冊の本を突きつけてきた。 逆光で若干見えにくいが、とても嫌な文字が見えた。
『奏士成長記録』って何?
はいどーも皆さんこんにちは
先日人生初のケンタッキーを食べた作者です
高いなぁと値段で手が伸ばせなかったのですが、感謝祭パックというものを見つけて食べてみました。
凄く、骨が多かったです
でも美味しいですね。 クリスピー
次から骨無しを頼むことに決めつつも、次があるのか分からず覚えてなさそうな作者でした。
では! 今の私は胃もたれMAXなので!




