白猫は蒼い瞳で何を見る
「やっぱアレはおかしいって!」
「そうは言ってもなぁ」
昼休みも終わる頃、連れ去られた奏士が教室に戻ってきた。 何やら焔と言い合ってる様子。
「……何の話?」
「聞いてよ紅葉ちゃん! さっき女体盛りについて話してたんだけどさ〜」
曰く、『男の娘の女体盛りはアリかナシか』という話題で奏士だけが「イける」と口にしたことで焔が少しご立腹なんだそうな。
それを聞いていた紅葉は「何言ってんだこいつら」と言いたげな目で見ていた。 まず『男の娘の女体盛り』という矛盾RTAについて問い質す必要がある。
「紅葉さん、あまり動かないでくださいまし」
「……ちょっとくすぐったい」
奏士の席に座って紅葉の手に何かを塗っている小百合が真剣な表情で手を掴んで静止させる。 それが逆にくすぐったいらしく、紅葉はモゾモゾ。
「お嬢様、何をしているので?」
「マニキュアですわ」
「なぜこの時間に?」
マニキュアは比較的早く乾くと言っても、もう昼休みも終わり。 今塗ってるということは、次の授業には確定で間に合わない?
「紅葉さんがネイルに興味があると仰ってましたの。 どうせ次は選択授業ですし、多少遅れても問題ありませんわ」
「…………私、次の時間お絵描きできない?」
「みたいだな」
「ついでに、乾くまで指を下手に動かさない方がいいですわ。 塗った箇所が乾く前に何かに触れると崩れますの」
「……スマホ、スカートのポケットの中」
「だってさ奏士。 あの子のスカートの中にあるから探してきなよ」
「そんな事したら火の中水の中草の中檻の中になるだろ」
「はぁ……それくらい私が取りますわ」
ネイル道具を片付けた小百合が紅葉のポケットに手を入れる。 紅葉は何やら頬が赤い。
「取れましたわ────なぜ顔が赤いんですの?」
「……小百合に際どいところをまさぐられた」
「うーわっ、動けない相手にそんなことするとかお嬢様最低ですね。 より一層見損ないました」
「何故私が既に1度見損なわれてるのかお聞きしても?」
「話すと長くなりますがよろしいですか?」
「柳さん、貴方の持ってるバールを貸してくださいまし」
「バーレルならあるぞ」
「何を1樽持ってるのさ」
「バール」
「じゃあバール持ってるじゃん」
「……酷い会話」
「誰も僕の心配をしないんだね」
神鳴のそれは今更と言うやつだろう。
あと誰も奏士がバール持ってることにツッコミ入れないのは何故ですか? ツッコミ担当は────今ボケてるか。 ならば諦めよう。
それはさておき
「ところで、柳さん」
「はい柳です」
「紅葉さんのマニキュア、何か言うことがありませんの?」
「ん? ああ、指を酷使するから爪保護は大事だよな。 俺も無色無臭のやつ塗ってる」
折角小百合が誘導したというのに奏士のこのカス発言。 焔と神鳴は常人では目で捉えるのもやっとな速さで裏拳を入れたが、奏士は難なく受け流した。
「もっとこうさぁ……褒めるとか無いの? 可愛いとか似合ってるとか」
「強いて言うなら臭ってる。マニキュアって塗りたて臭いよな」
「小百合ちゃん、ボクにもバールちょうだい」
「好きなだけ差し上げますわ」
「リンチやめろ」
奏士のロッカーからバールを取り出し臨戦態勢をとる3人。 紅葉も獲物を握ろうとしたが、まだ乾いていないのでやむなく座ったままだ。
そもそもバール無い方が強いって? え、それマジ? なんでお前が知らんのや。
「それはそうとお嬢様。 彼を肉塊に変えるのは構いませんが、移動の準備をしなくても大丈夫ですか?」
「あら、そうですわね。 遅れては風紀委員の示しがつきませんわ」
「このアベック俺をミンチにする事に抵抗無いんだけど」
「これに関しては奏士の自業自得じゃない?」
「俺お世辞とか言えないタイプだから。 メイクとかされても良さが分からん」
「紅葉ちゃんどうする? 今夜雨降るらしいし、明日まで奏士のこと側溝にでも埋める?」
「下手したら俺死ぬぞ」
「奏士ってお葬式の準備とかってしてある?」
「俺が死ぬ前提で進めるな」
「……Have anice day」
「皮肉が過ぎるだろ」
乾くまで反撃できないことをいい事に、奏士は紅葉の旋毛に親指で16連。 それをツイン、合計32連だ。 これト○コと名人どっちだ。
「……私がお腹壊したらどうするつもり?」
「安心しろそれは迷信だ」
「……病は気から」
「じゃ正露丸でも飲んどけ」
奏士は懐から薬瓶を取り出し、紅葉の机の上に置くとロッカーをガサゴソ。 飲み物とタブレットを取り出したあたり、次の授業は普通にサボって遊ぶつもりらしい。
「……今日は何するの?」
「秘密」
「……それだとどこでサボるのか分からない」
「当たり前のように着いてこようとするな」
奏士はそう言い残すと、紅葉が動き出す前に荷物(遊び道具)を纏め、ささっとと教室から出た。
そして当然ながら、置いていかれた紅葉は不満げ。 もっちり柔らかな頬が膨らんでいる。
「……だらぶち」
「なんで金沢弁?」
紅葉は果てしなくご機嫌ななめな顔で奏士の席に呪いを施し、焔は呆れた顔。
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「────あ゛っ! 足つった! あー! あーっ! あはーっはーはーっ!!」
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途端、紅葉はスッキリした顔で立ち上がり、スマホを持って教室から出る。 ついでに焔も。
「紅葉ちゃんはこれからどうするの? 今日もお絵描き?」
「……まだ乾ききってないから今日は描けなそう」
「へ〜 じゃあ何するの?」
「…………とりあえず奏士を〆る」
「あ〜…………まぁ、やるなら穏便にね」
焔は一瞬止めようか迷ったが、「まぁいいか」と結論付けて流した。 奏士側にも問題があるので半分自業自得とも言える。
「少しは加減してあげなよ? 奏士もあれで紅葉ちゃんのこと色々考えてるんだからさ」
「…………これ以上被害者生まないためにあの男は即刻首を刎ねる方がいい」
「物騒だなぁ」
と、焔は口にしつつも、内心
『紅葉ちゃんが態々しなくても委員会の人達が自発的にするよねぇ』
と思っている。 激しく同意。
「……それに、奏士が色々考えてるとは想像できない」
「んー…………でも多分、紅葉ちゃんが思ってるよりは色々あるんじゃない?」
「……根拠は?」
「根拠かぁ……強いて言えば、さっきみんなでご飯食べてた時に奏士がさぁ」
『別に紅葉が好きとか嫌いとかの話じゃない。 単に俺が一方的に大切にしようとしてるだけだ』
「──って。 言い切ってたし、多分本心なんじゃない? 珍しいけど」
「…………」
紅葉は、正直思ってなかった事を言われてどう反応したらいいのか困り、何も返せなくなってポカンとしてしまう。
が、意味を理解し、言葉を噛み締める事にちょっと嬉しくなるのを実感し、鼓動が早くなる。
「いや〜 紅葉ちゃんってば幸せ者だね。 あんなアッツアツな────あれっ? 紅葉ちゃんどこ行くの?」
「……急用が出来た」
「奏士は〆なくていいの?」
「……それは後で」
そう言い残し、紅葉は恐るべき速さで廊下をかけていく。 当然ながら、世界を狙える足だ。 焔程度がどうこうできる速さじゃない。
「えー…………」
取り残された焔は奏士と最後の会話をしようか迷ったが、「めんどくさい」が勝ったので切り替え、被服室に向かうことにした。
「あ〜…………ボクも恋人欲しいな〜」
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「あ゛こっちも゛っ!」
一方奏士は、何故か足と背中が交互につるという症状に見舞われていた。 ただサボって電子書籍を読んでいるだけなのに。
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紅葉が向かった先は学園の理事長室。 も助が生徒会顧問の仕事をサボるので、紅葉は頻繁に出入りしている。
だが、今回はそれとは別件故、普通の扉だと言うのに『理事長室』の文字を前に少しだけ緊張している様子。
「……すー…………はー…………」
深呼吸して整え、意を決してノックをする。
「どうぞ」
扉の向こうから悠の返事が返ってきた事で、ノブを捻って扉を開ける。 多少防音措置はされてるとは言え、至って普通の扉だ。
だと言うのに、今はとても重く感じた。
「……失礼します」
理事長室に入ると、悠がデスクの上で書類とにらめっこしていた。 普段見せる『悠』の愛くるしい顔ではなく真剣な、『宿木学園理事長・如月悠』の顔だ。
「花伝か。悪いが、少し待ってくれ。 今片付ける」
悠は書類から視線を動かさず答える。 デスクの上には大量の書類とノートパソコン。 ここ数分で出したにしてはあまりに量が多く、散乱具合が酷い。 恐らく、昼食もまだなのだろう。
少し待てと言われ、どうしたものかと考えた紅葉は悩んだ末、デスクの前に立って待つことにした。 ついでに仕事っぷりを観察しながら。
少し飛びまして
書類を片付けた悠がようやく顔を上げる。 腐っても若くして理事長になった女、仕事の処理速度は尋常じゃない。
「────すまない。 待たせたな」
「……いえ。 突然押しかけたのはこっちなので」
悠は「そうか」と返し、引き出しから愛飲ドリンクの『いちごみるく♡』を取り出す。 ストローで飲む姿が可愛らしい。
「して、何の用だ? 一応教えてやるが、今は授業中のはずだが?」
「……選択授業なので」
「そうか。 花伝は卒業組だったな」
悠はジュースを吸いながら、「花伝がサボるとはな」と零す。
それに紅葉は「貴方の従弟は常習犯ですよ」と返したくなったが、話が長くなりそうなので口を閉じた。
「授業をサボってまで私に話とは何だ? くだらん事で私の貴重な時間を使わせるならお説教だが、内容次第では考慮してやらんこともない」
悠はさっさと話せと言わんばかりに肩肘ついてストローで吸う。 先から左手はずっとパソコンを操作しいるあたり、どうやら本当に時間が無いらしい。
「……奏士のことを聞きに来ました」
「…………」
紅葉の言葉を聞いた途端、悠の動きが止まり、一息置いてストローから口を離す。
「ほう……それはどういう意味でだ?」
「……奏士が話そうとしないこと。 私に隠してることを知るため」
「ふむ。 要件は分かった。 して、なぜ私に?」
「……多分、奏士以外で全てを知ってるのは理事長だけだと思ったから」
「ふむふむ。 なるほどなるほど……」
悠は腕を組み、背もたれに寄りかかって目を閉じる。 まるで寝ているかのように動きが止まっているが、これは悠の真剣な考え事をする時のポーズだ。
「…………そろそろ年貢の納め時、か」
悠はポツリと呟くと、顔を上げて目を開く。 それは覚悟を決めた顔だ。
「花伝」
「……なんですか?」
「奏士はなぁ……頭というか回路というか、身体そのものというより、中身がな。 人としての構造が少し違うんだ」
「……?」
突然の語りに紅葉は少しキョトン顔。 そんなこと今更言われなくてもよく知っている。
「それでも、私の可愛い弟──いや従弟か。 従弟に変わりないし、あいつの数少ない家族だと思っている」
「……はぁ」
「ちょっと人より頭と要領が良くて、器用過ぎて性格終わってて。 人間不信で虫嫌いで、そのくせ自分大好きで大人びていて子供っぽい。 身内と自分に甘くて他人に無関心でカッコつけで意地っ張りでねちっこくてバカでマヌケで底抜けのアホで」
「…………」
ちょいちょい罵倒が入っているのが気になるが、何も間違いじゃないので紅葉は無視した。 首を盾に振りたいくらいだ。
「────そして、誰よりも臆病で優しい奴何だよ。 ウチの従弟は」
「……はあ」
悠は自慢するかのように奏士の写真を見せびらかす。 どれもこれも重政で顔を隠したりそっぽ向いていたり、カメラ目線がロクに無い。 先の項目に写真嫌いを忘れている。
「私の従弟は面倒臭いぞ? 何せ柳の血だ」
「……嫌ってほど理解してます」
「それでも知りたいか? 下手に踏み込むと、奏士は一生付きまとうぞ? 愛着湧きやすいとか何とかで」
「…………どの道、ずっと付き合うのは変わらないので」
その言葉は、漫画のことを指しているのか、絵のことを指しているのか、1人の人間を指しているのか。 言った紅葉にも分からなかったが、それでも決めた以上は変わらない。
「そうかそうか」
その言葉を聞いて、悠は嬉しそうにうんうん頷く。 さっきまでの真面目な顔じゃない。 いつもの、皆に遊ばれる学園のマスコット、『悠』の顔だ。
「さて、私は少し出なくてはな。 その間部屋でどうしようと私には分からんが、3番目の引き出しに入ってる『奏士成長記録』は見るんじゃないぞ」
「…………分かりました」
悠はそう言うと、ノートパソコンを持って理事長室から出ていった。 わざとらしく鍵まで落として。
紅葉は鍵を取り、見つけた青い本を開く。 表紙には悠の字で『成長記録』と書いてある。 人の成長記録をつけるのは奏士も悠も同じなあたり、やはり従姉弟だ。
前書きを読むに、この本には悠が知る限りの奏士に関する事が記されているらしい。
パラパラめくると、奏士が生徒会に入ったあの日のことや、皆で夏合宿をしたこと。 奏士を宿木学園の入れたこと等、色々な事が書いてある。
というか、読んでいて紅葉は若干引いている。 どれもこれも、悠が如何に奏士を大事に思っているかが伝わってくる内容だ。
奏士に散々言いつつも、悠は悠でブラコンなんじゃないかと紅葉は思い始めている。
そして読み返して行く内に、遂に最初のページに辿り着いた。
が、そこには奏士があの家に来た話が書かれており、それより前の情報はどこにも無い。
一瞬、悠に騙されたのかと思ったが、その本の最後のページにあるものを見つける。
『この本を読んだ人へ
この本を読んでいると言うことは、私が奏士を任せるに足りると信じたのだろう。
だが、残念だが私から教えられるのはここまでだ。 あの日家に来る前の話は、流石に全部知っている訳では無い。
私も概要を知っているだけだが、あの家に来る前はとても色々な、それこそ、子どもに体験させるにはあまりにも過酷な出来事だ。
これより前のことは、流石の私でも記すことを躊躇うので、彼が心を許し、話すことを待って欲しい。
これを読んでいる君は、君ならば奏士に寄り添い、共に歩めると信じよう。
私たちでは出来なかったが、君になら出来る。 どうか、私の可愛い弟を救って欲しい。
P.S. この本は読まれた後消滅する仕掛けを作りたかったが、技術的に断念した。 手榴弾でも挟めば行けるのだろうか』
「…………暗○教室124話?」
最後の余計な付け足しに思わず突っ込んでしまったが、悠の伝えたいことは分かったらしい。
紅葉は本を持って理事長室を出る。 目指すは奏士のいるであろう場所。
後は、当人達次第────
はいどーも皆さんこんにちは
うんちを漏らす夢を見た作者です。
酷い悪夢です。 この前漏らしかけた事が機縁したのでしょうか。 漏らしかけたというかあれはもう実質漏らしていたみたいなものですが。 泣けてきます。
最近は季節の変わり目で気温変化等激しいですからね。 お腹壊しやすい時期なので、皆さんもお気をつけて。 大人になると一周まわって笑えてきます。 そして泣けてきます。
あと2話構成のはずなのに3話になりましたね。 ていうか、この後含めたら長尺なので10話で足りるかどうかですか。 まぁそこら辺は気長に、今年中に区切り着けばばんばんざいって感じでお待ちいただければと思います。
あれですあれ。 チャンネル登録してないけど動画は見てるYouTubeチャンネルが更新された時くらいの気持ちで待っていただければと。 気が付いたら更新されてるやつです。
ではこの辺で。 次回もお楽しみに




