白猫と女子会と鴉の整理
「なんだかなぁ」って思いを抱えながら、屋上から空を見る。 手摺に寄りかかってアンニュイな感じ出してるのに屋上のフェンスが邪魔でロクに見えねぇや。 でもこれが奏士クオリティ。
最近は梅雨真っ只中だから天気が悪くていけねぇ。 人間は陽の光を浴びないと気分が落ちてダメになる。 大人になると分かるから。 太陽の有難みに。
でも社会人になると太陽が妬ましくなるらしいね。 嫌でも仕事があることを突きつけられるから。 俺はそれとは関係無い生活送ってたはずなのに気が付いたら学園に放り込まれてるっていうね。
「どうしてこうなったかなぁ」と過去を振り返ってみる。 どうしてもこうしても無かった。 悠ちゃんが本人に無断で入学手続きを済ませた結果だけを伝えてきたんだった。 振り返りたくない悪行に涙出てきそう。
「んだ、先客か」
屋上の扉を開けても助が現れた。 当然、まだ定時じゃない。
「まだサボりか」
「サボりじゃねぇタバコ休憩だ。 悠の野郎、最近は俺が少しサボっただけでも減給で脅してきやがるからな」
経営者としては至極当然な事を言っていると思うのは俺だけか? お前の場合、息抜き9割仕事1割だろ。 その1割で最低限のことはやってるから強く言えないのがタチ悪いってだけで。
も助はごく自然に隣に来てフェンスに肘を着く。 男二人で曇り空を見るとかバカみたいじゃん離れろ。
「おい、ヤニ入れなら喫煙所行け。 学生に副流煙吸わせる気か」
「堅ぇこと言うなよ。 喫煙所は遠いし他の教師が来るから落ち着いて吸えねぇ。 お前なら、今までも副流煙吸わせてるからそこんとこ気を使う必要無し」
「お前は今から『カス』だよ」
「湯○婆でももうちょいマシな名前つけるぞ」
確かにこれはカスに失礼だな。 『ゴミカスウンコティンティン』に訂正しよう。
そんな配慮(笑)はなんのその。 も助は普通に懐からタバコを取り出してライターの引き金を引く。 なぜそう表現するのかは過去の話を読めばわかる。
「あれ? ガス欠かよ」
喜ばしい事に、も助のライターは運良くガス欠らしく、一向に火はつかない。 これを機に禁煙すればいいのに。 最近は嫁ができたそうじゃないか。
どこまで行った? AかBかCで選べ。 ちなみに内訳は
A:朝までに殺す
B:ぶち殺す
C:殺す
だ。 最近は身近な人が続々と彼女作っていて謎の焦りを感じている。
どいつもこいつも去年は独り身のくせによぉ……なんだ? 卒業して離れちゃうからその前に一発ヤッてしまおうって事か? ついでに拵えちゃおう魂胆か? 少子高齢化に対抗するその精神、嫌いじゃないけどお前らみんな嫌い。
なんだかな。 彼女欲しい訳じゃないけど、周りが彼女作り出すとなんとも言えない気持ちになる。 世界はそれをクソ童貞の醜い嫉妬と呼ぶんだぜ。 こんな無慈悲なサ○ボマスター嫌だわ。
「奏士、火、つけてくれ」
「あいよ」
も助にタバコを差し出されたから持ってた携帯バーナーで根こそぎ焼き切る。 音はクソうるさい。
「火力強くねぇ? もう吸うとこねぇじゃん」
「屋上で吸おうとした罰が下ったんだろ」
それでもも助は「まぁいいか」と残ってる僅かな部分を吸おうと試行錯誤している。 なんだただのバカか。
「あっ……燃え尽きちまった。 奏士、もう一本頼む」
「2本目も灰になるだけだぞ」
「その煙吸えば実質タバコ吸ったことにならねぇかと思ってな」
「タバコを吸わない方がいい証拠だな」
吸うとこうなりますからね。 吸うとこうなるし、禁煙の反動でバカになりますからね。 も助は半分くらい生まれ持った素質だろうけど。
「んだよ……げっ」
も助はスマホを見て震えている。 横目で確認しただけだが、どうやら例の彼女さんから「吸っちゃダメ!」とメッセージが来たらしい。
「なぁ、もしかしてどっかにカメラか何かあるのか?」
「女の勘は怖いな」
なんであんな当たるんだろうね。 紅葉のは野生の勘に近いけど、隠し事難しいし。
「しゃーねぇな……」
も助はぶつくさ文句を言いながらもタバコをしまう素直なも助。 財布を握られ、胃袋を握られ、体調管理もされている。 も助はもう生涯逆らえない。 披露宴のお色直しは先に色を教えて欲しいな。 あれ何が貰えるのか知りたい。
「んで、お前はなんで屋上にいんの? サボり?」
「お前と一緒にするな。 俺は追い出された」
「はーん。 なんで」
「女子会するんだと。 生徒会室占拠されたし、カバンも置きっぱだから帰るに帰れねぇ」
今の俺はスマホくらいしか持ってない。 後は制服の下に色々と。
「あ、じゃあ成績表作んの手伝ってくんね? あれダルくてさ」
なんでこの教師は毎回毎回学生が関わってはいけない仕事をやらせようとするのだろうか。 お前この前は「採点飽きた」って丸つけやらせようとしたよな。 しかも飽きたの3枚目だし。
カラスが鳴いている。 カラスが鳴くからかーえりたい。 でも今生徒会室に入ったら殲滅されかねないしな。 さっきから紅葉にメッセ送っても無視されてるし。 通知鳴り止まないくらいに連投してやろうか。 それこそ殲滅されそう。
そのままスマホを眺めていると屋上の扉が開いた。 誰かと思えば悠ちゃんではありませんか。 相変わらず小柄ですね。 俺は昔から成長早いってのにどうしてこうも違うのか。 半分は同じ血だから、もう半分の要素がデカイのか?
「なんだ、先客か」
「それさっき聞いた」
「なぬ」
も助の二番煎じは置いておいてスマホに戻る。 瑠姫さんから原稿の催促が来てるけど見なかったことにしよう。 今ちょっとそういう気分じゃないから。 ちゃんと締切に間に合わせるから許してちょんまげーる大臣主催アームレスリング大会敗者復活チャンピオン。 ifの世界線のオ○ドリーだ。
「なんだなんだ野郎2人が屋上で黄昏おって。 一丁前にお悩み相談か?」
「人生最大の悩みの種ならたった今現れた」
「だそうだ。 も助、何をした」
「え、お前の事じゃねぇの?」
いやまぁどっちもどっちというか比率は悠ちゃんの方がデカイだけでも助も変わらないというか。 4:3くらい。
残りの3割? それはもちろんさっきからメンヘラ並にメッセ送ってくるド畜生担当編集ですけど。 もうこれは借金取りだろ。 借金返せば来なくなる借金取りの方がまだマシ。
「いい歳した大人が仕事中にサボりか? 定時じゃねぇぞ」
「残念だが私に定時なんてモノは存在しない。 理事長だからな」
マジかよ理事長クソブラックじゃん。 だから定期的に俺をこき使ってストレス発散してんのか。 それはそれで許せないけど。
「だがも助、お前は違う。 サボってないで働け教育者」
「人を教え導く者は誰よりも休み方を知ってないといけないと思う。 だからこそ、俺は休み方を教えるために自ら知ろうとこうしているだけだ」
要約すると「仕事めんどいからサボりたい」って事ですね。 相変わらず口だけは達者だ。 俺の知り合いはどいつもこいつもこうだ。 ダメ人間しか居ないのか?
「類友って奴だろう」
「しれっとモノローグ読むな」
ベルといい悠ちゃんといい、俺のモノローグを読む人がいて困る。 これ本来存在しないんだからな? 見えないものを見て聞こえぬ声を聞くとかどこの司祭だよ。 スピリチュアルじゃん。
こっちまでやってきた悠ちゃんは俺らと同様に柵に寄りかかる。 身長が足りず、柵の上に肘を置けないから背中を預ける形だが。
「はーっ……」
「どうした? 流石の悠もお疲れか?」
「ああ、どいつもこいつも私を子どもだと侮る老耄ばかりで面倒だ」
悠ちゃんはこんなでもデカイ学園の経営トップ。 見た目は幼子にしか見えないから色々あるんだろう。 相手は大半が権力者とかだし。 偉い人はどいつもこいつも厄介だって辞書に書いてある。
「そんなお疲れな悠に1つ頼みがあるんだけどよ」
「給料なら増やさんぞ」
「えー 靴舐めてもダメか?」
「何故お前達は躊躇無く人の靴を舐めようとする?」
「俺含めんなよ」
「でも靴舐めた程度で金貰えるなら別に悪くなくね?」
「額による」
「奏士、お前さっきどの面で否定した?」
えーでも靴舐めるだけだぜ? ぶっちゃけ明らかに汚い奴とか、汚物処理のために履きました系じゃなければそんなには。 プライドは無い。
「給料上げて欲しければもっと真面目に働け。 クビにせず置いてやってるだけでもありがたいと思うことだな」
言うて、も助ってクビにされるようなことはしてないんだよな。 ちょいちょいサボるけど必要最低限の仕事は期間内に終わらせるし。 強いて言えば喫煙所外でタバコ吸う事だけど、それもところ構わずじゃないし。
……いや普通に機密情報を俺に喋るしよく考えたら勤務態度最悪だから解雇するに値するわ。 あ、これ解雇されてないだけでしようと思えば出来るやつだ。 これは気が付いたらも助が学園から消えてる可能性もあるぞ。 そうなったら次はお隣のお嬢様学園に行くのかな?
良かったなも助、あそこは男慣れしてない温室育ちばかりだからハーレムだぞ。 イケナイ個人教育もできるかもな。
「奏士、なんか言ったか?」
「んにゃ、なんも」
変な所で勘の鋭いも助にバレかけた。 危ねぇ危ねぇ。 やっぱ人は考え事してると変な思考も付随するもんだな。
「それより、奏士は何してるんだ? サボりか?」
「それももうやった」
「なんだと」
悠ちゃんにまた一から説明するのダルいな。 面倒だから念を送って解決しよう。
「まぁいい。 も助、休んだら仕事に戻るんだぞ」
「へ〜い」
この上なく軽い返事を最後に話題が切れた。 それでも居心地悪くならないのは長年の付き合いと言うやつか。
それぞれ思い思いの事をしている。 悠ちゃんは柵に背を預けて目を閉じている。 気分転換も兼ねて目を休めているのだろう。
も助はスマホを弄りながら「しょうがねぇな」と言った感じで優しげな笑みを浮かべている。 例の小指さんとやり取りでもしているのだろう。
俺は特に何もせず、ぼーっと空を見ている。 俺だけ望んで来た訳じゃないから何かしようにもやりたいことは無い。 学園図書館にでも行きたいが、あそこは今日に限って閉まっている。 俺は相変わらずこういったタイミングが悪い。
このまま時間を浪費するのもあれだから、たまには真面目に人生を考えてみることにした。
去年から狂い始めた俺の人生。 正確にはガキの頃から狂いに狂っていたが、軌道修正が難しくなってきたのは去年。
そして軌道修正がもう無理そうなのが今年だ。 切っ掛けは悠ちゃんの一言でも、解決できなかったのは俺。 口ではなんと言っても、俺は結局甘ちゃんだ。 栄螺とか採っちゃう。 海人ちゃんじゃねぇか。
ほんと、どうしたもんかねぇ……
あれだけ言ったのに、結局俺は愛着が湧くと人を嫌いになりきれない。 人間嫌いが聞いて呆れる。 ほら、人間嫌いさんが呆れてアメリカンなジェスチャーしてる。 すげぇムカつく。
このまま紅葉の成長を見守るべきか、俺の望む未来のために傷付けてでも阻害するべきか。 答えは未だ出ないが、答えが遅れる度に紅葉は大人になっていく。 何故だか置いてかれている気分だ。
まるで、つい最近まで一緒に泥まみれになってたと思ったら、急にオシャレに目覚めたクラスのあの子みたいだな。 いや俺の実体験ではない。 最近そういう与太話をネットで見てな。
どうにか紅葉を傷付けず、それでいてお互いが納得する解決策は無いものか。 無いと分かっていても探す手を止める訳にはいかない。
だいたい、この「傷付けず」というのも詰まるところは俺のエゴだ。 紅葉を想っての配慮でも何でもなく、ただ
『紅葉が傷付いたら絵に響くから』
でしかない。 ここまで来て自分のことしか考えてない俺流石。 拍手喝采ブーイングの嵐とか逆エド○はるみだらけだ。 黙れよ。
嫌だなぁ……俺こういうのが嫌だから誰とも関わり持たないように生きてたのにクソアマがよお……マジで許さん悠ちゃん。 生涯かけて恨んでやる。
あと、紅葉に成長を促した人妻とベルとその他数名のフレンズ。 君たちが余計な事しなけりゃまだ平穏でいられたのに。
あ〜、なんか責任転嫁したらスッキリした。 やっぱ押しつけは心を癒してくれる。 俺は今日からゴミか。 いやそれは昔からだな。 んだよ湯○婆名前取るの下手かよ。
よし、お悩み相談終了。 やっぱ自分のことは自分で処理しなきゃな。 責任転嫁した手前どの口が問題だけど。
「……雨か」
も助の呟きで目を凝らしてみると、微かに雨の軌跡が見えた。 置き傘あったかな……
「仕事に戻るいい機会だな。 悠ちゃん、雨の中寝てると風邪引くぞ。 馬鹿じゃない限り」
「じゃあ風邪引かねぇじゃん」
「1番風邪引かないお前が言うか?」
「お前もじゃん」
結論 3人共バカ
「……今私のことをバカだとか言ったか?」
「気のせいじゃね?」
「も助が言ってた」
「あお前!」
「ほう……そういや、色々頼みたいことがあったんだった。 も助……いや、霜月先生、仕事が終わり次第理事長室に来るように」
「それ断ったらどうなる?」
「減給かクビ」
「マジかー…………奏士、金貸してくんね?」
「減給に賭けて逃げようとすんな」
ほんとゴミ。 この男に教えを請わなきゃいけない俺を慰めて。 はいよちよち。 自らのイメージする母性を具現化して己を慰める高等テク。 素晴らしい。 バカは言い逃れできないようだな。
そんなバカ話してたら本格的に降ってきた。 急いで中に入らないと。
「少し濡れたか」
悠ちゃんがコートを叩いて水滴を落としながらプルプルと首を振る。 水浴びした後の犬かよ。
「悠のコートは撥水性あるからいいだろ。 俺なんか白衣だから脱げ濡れ具合が丸わかりだ」
「お前はそもそも理系教師でもないのになんで白衣着てるんだ?」
それを言ったら夏場でも黒コート着てる悠ちゃんもアレでは? ちょっと意味合いが違うけど。
「白衣ってなんか教師っぽいじゃん」
「コスプレか」
「いや俺現職の教師だが?」
「コスプレじゃん」
「ははーんさてはお前ら俺を教師と認めない気だな?」
いやお前を教師と認めてしまったら世界の恥だろ。 ギリギリ職業欄に書けるだけの男のくせに。
「しょーがねーなー 偶には教師らしい姿見せてやりますか」
「言ったな? なら、成果で見せてもらおうか。 それ次第で昇給も検討してやらんこともない」
「マジかよよろしくお願いしますっ!」
そういいながら全力で頭を下げ、更に悠ちゃんの靴を舐めようとする変態。 やべぇこの男やべぇ。 さっさと縁切るべきかな……
悠ちゃんは無慈悲にもも助を蹴り飛ばしても助の白衣で自分の靴を拭く。 あーあ白衣汚れちゃった。 も助の心配は微塵もしてない。
「ではな。 気をつけて帰れよ柳少年」
「言われなくても寄り道はしねぇよ」
「よろしい」
小学生かよ。 今日日小学生も寄り道するぞ。
倒れるも助は放置して悠ちゃんと別れる。まだ終わんないのかな。 女子会。 中でどんなことしてるのやら。
「そうだ。 奏士!」
「あ?」
悠ちゃんに大声で呼び止められた。 うるさいぞ。 まだ人が居るでしょうが。 も助はカウントされてないけど。
「お前、最近はいい顔になってきたぞ! 人間らしい、生きてるって顔だ!」
悠ちゃんはそれだけ言ってあとは何も言わずに去った。 言いたいこと言って終わりとかマジかよ。
いい顔、ねぇ……曇りのせいで絶賛体調不良なんだけどな。 直射日光は苦手だけど陽の光がないのはそれはそれで寂しい。 めんどくさい彼女かよ。
なんなのかね。
「……いた」
生徒会室に向かう途中で紅葉と会った。 雰囲気がいつもと違う。 異様にキラキラしてるというかサングラス欲しいというか。
「なんだ? もう女子会は終わりか?」
「……おしまい」
「さいですか」
じゃあ帰ろう。 さっさと帰って重政と触れ合おう。 猫セラピーは百薬の長だ。
「……はい」
紅葉が俺のカバンを渡してきた。 あらヤダ持ってきてくれたの? これすれ違ったらどうするつもりだったんだろ。
あ、紅葉なら超感覚で見つけ出すからすれ違わないのか。 納得納得。
「……帰ろ」
「へいへい」
「……返事は1回」
「『へい』を1だとすると、これは同じことを2回してるから1の二乗で1じゃないか?」
「……これは足し算」
なるほど盲点だった。 累乗では無かったか。
「…………」
「……?」
立ち止まって紅葉の顔を見る。 見られてる紅葉はキョトン顔。 いつもと表情変わらんけど。
「…………」
「……?……?」
ちょっと撫でてみたり喉元をゴロゴロしてみたり。 何となくしてみたかったと供述しており。 その言い方は犯人じゃねぇか。
「……何?」
「んにゃ、何でも」
手を離すと、紅葉は少し名残惜しそうな顔をする。 さすがにこの場でこれ以上はしない。
「…………」
今度は紅葉がじーっと見てくる。 見上げて首疲れないの?
「何?」
「……なにか気が付くことある?」
「無い」
強いて言えば紅葉の髪がいつもよりサラサラしてた。 湿気凄いのにね。 女子会でお手入れでもされたのかしら。
「……」
紅葉がプクっと膨れた。 頬に針刺したら空気抜けるのかな。
ちょっとだけ不機嫌なまま、昇降口で靴を履き替えて外に出る。 置き傘あって助かった。 無くてもまぁ多分鞄の中か制服の下にあるでしょ多分。 4次元空間だし。
「…………」
「どうした」
「……傘が無い」
「職員室に行けば貸してもらえるかもな。 それか購買」
「……入れて」
「ヤだよ狭いし。 お前の化粧がシャツに着くだろ」
「……気付いてたの?」
「それだけ顔の感じ変わってたら誰でも気付く」
「……ꐦ」
立腹紅葉ちゃんは人の頬を全力で伸ばしにかかる。 チーズじゃないんだからそんな伸びないぞ。
「……無礼な奏士は濡れて帰るといい」
「持ち主が傘に入れないってどういう事だよ」
いつもの様にギャーギャーやって、折衷案で片側を紅葉に貸すことになった。 なんか当初の目的達成されてる気がする。
「……もうちょっと近付かないと奏士も濡れちゃう」
「これ以上中入ると化粧が着く。 お前が出れば万事解決なんだけどな」
「……それはできない相談」
その代わりなのか、紅葉は少しだけ離れる。 それだと紅葉が濡れるから、紅葉を中に入れるために結局俺が濡れることになる。 カッパ着とけば良かった。
「……洗濯物は大丈夫?」
「天気予報で雨だったから中干し。 だから朝は歩きだっただろ」
「……そういえばそうだった」
あれそういや今朝の記憶ねぇな。 何者かの干渉を受けたのか? 描写が無いからか。
大きめの傘といえど2人入るとなるとそれなりに物足りない。 濡れる濡れない論争をしているから10分経ってもまだ学園から出れていない。
「……こうすれば解決」
最終的に、紅葉が導き出した結論は『腕に抱きつけば濡れない』だった。 最初に却下した結論に戻ったし、濡れないために可動域を犠牲にしたからクソ歩きにくい。
「邪魔なんだけど」
「……奏士がワガママなのが悪い」
「悪いのは傘を毎回忘れるお前だ」
「……何も言い返せない」
流石の紅葉も手詰まりらしい。 それでも離れる気がないのは意地なのか。 もう濡れてもいいから動きやすくなりたい。
「……どう?」
「何が?」
「……お化粧」
「女子会でやったのか?」
「……お化粧レッスン?」
「実験台か」
「……化粧の必要性が無いって言われた」
「そりゃこの世の乙女からしたら羨ましいこって」
「……奏士もそう思う?」
「化粧は必要ないんじゃね?」
「……似合わない?」
「俺には違いがわからん」
「……(プク~)」
紅葉的には回答が違うらしい。 俺的には正解だと思ったんだけどな。 そんなに膨れるとテトロドトキシンを保有してるか心配になってくるぞ。
「……似合う?」
「似合う似合う」
「……心がこもってない」
「込めるもの無いだろ。 無理やり言わせてんだから」
「……無理矢理は言わせてない。 誠意を見せてもらってるだけ」
「無理矢理じゃねぇか」
誠意って、なんなんだろうね。 『分かってるよな?』って意味だもんね。 怖いなぁ。
「……やり直し」
「おいちゃん真正面から言うのに慣れてないから今日はここまで」
「…………」
「頬を引っ張る度に1日伸びます」
「…………」
「腕に力込めて血流を止める度に1年伸びる」
「……早くても来年以降になった」
それだと来年以降も居座るつもり? ダメだよ来年の4月には家を出てもらわないと。 ウチは養う余裕あるけど家主の精神的余裕がありませんからね! 何だこのオカン。
「……早く歩いて」
「お前のせいで歩きにくいんじゃボケ」
「……白旗振って応援してる」
「持ちネタ使うな」
「……右足と左足を同時に出せば歩ける」
「お手本見せろ」
「……やり方知らないから無理」
「なんだコイツ」
さっきから適当しか吐かねぇな。 いやそれは俺もか。 なんなら俺の方が日常的に吐いてる。
それよか、ちょっとヒソヒソされてるんだけどこれやっぱ不味くね? 生徒会長が腕組んでるとかスキャンダル的に不味くね? 無実を証明したいけど証明する証拠を集まる程首が絞まる気がする。
「……どうすっかな……」
「……?」
気が付けば出ていたその呟きを、紅葉が気にしないことを祈ろう。 ちょっとどうこう言える状況じゃないので。 色々覚悟の準備とか必要だし。
あ〜マジでどうしよう。 面倒なことになったぞ。 これが本当に面倒なだけで済めばいいのに。 どこぞの魔法使いよろしく。 魔法でどうにかならないか検討してる時点で俺は手遅れっぽいけど。 そろそろシャバドゥビタッチしそうだからマジで頼んます俺。
はいどーも先月の手取りが15万だった作者です。 お仕事って、なんなんでしょうね。
それよりも
気が付いたら作中時間で7月に入るんだなぁと感動しています。 もう周回差付きすぎて逆に追いついてますが、季節が現実と一致すると細かい描写が書きやすくていいですね。 どの口が案件ですけど。
そろそろ佳境なので頑張りましょう。 あれこれ前にも言った気がする。 つまり毎回佳境です。 技術の問題か、それとも働きすぎか。 お仕事楽しいなぁ
ではこの辺で
次回もお楽しみに




