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白猫とお絵描きと夏服解禁

「……暑い」


「な」


じーわじーわと蒸し焼きになりそうな暑さの通学路を歩く。 毎年夏をクソ暑くするあの太陽は一体何様のつもりなんだろうか。 あ、お日様か。


「……帰る」


「ズル休みとして報告していいなら好きにしろ」


もう学園の前だってのに紅葉は限界の様子。 髪を結ぶか切るかすればいいのでは?


「……私は優等生だから、不良の奏士の言うことは誰も信じない」


「お前ガワだけじゃん」


お前は成績・素行・実績・雰囲気が優等生なだけで中身は俺より悪いだろ。 基本やる気ないじゃん。 生徒会の仕事する気ないじゃん。


「……この世界は見た目が9割」


「なんだコイツ」


それは高確率で職質される俺をおちょくってんのか? 自分は見た目がいいからって……喧嘩するなら小切手に好きな額を書きたまえ。 紳士的な喧嘩だ。 いや喧嘩してる時点で紳士もクソもないか。


「……暑いからジュース買ってきて」


「信号渡ってから言うな」


渡る前ならコンビニ行けたんだけどなぁ。 戻るのはめんどいし、近くの自販機まで行くのもめんどい。


「学園着けば涼しいぞ。 あと数分なんだから自分で歩け」


「……奏士が自転車使えばすぐだった」


「今朝人のチャリの荷台に乗ってパンクさせたのはだ〜れだ?」


「……it's Pik○chu」


「お前だよ」


紅葉の髪をワシャワシャと乱す。 女性的には割とタブーの行為だろうけど、これくらいの仕返しは許されるだろう。


「……セットが乱れる」


「お友達にでも櫛で梳いてもらえ」


クラスメイトのお嬢様ならどうせ身だしなみセットくらい持ってんだろ。 持ってなかったら購買に売ってるはず。


「……」


もう1回解いて直す方に切り替えたのか、紅葉は髪が乱れることお構い無しに頭をグリグリ押し付けてくる。 おい汗を擦り付けるな。


「……奏士に襲われたって言いふらす」


「お前が思ってるほど学園のみんなは妄信的なバカじゃないと思うぞ?」


自分で言ってなんだけど本当にどうなんだろう。 信仰って時として思考力を奪うからなぁ……


「……委員会に直接言う」


「マジで止めろ」


アイツらは嘘か誠かは二の次で恨み辛み妬み嫉みを優先する。 嫉妬の塊だから紅葉の話が嘘だろうと、『その可能性がある』と言うだけで襲ってくる。 野犬だ。 畜生だ。


「……じゃあ奏士が直して」


「ここまで潔い逆ギレは感動する」


元はと言えばお前のワガママから始まったんだが? 先週までの控えめな紅葉ちゃんはどこ行ったんですか? 普段のノリが戻ってきて少し安心するけど流石に一過性過ぎるぞ。 4日で終わる限定ガチャかよ。 復刻ピックアップまだですか? 天井完凸まで回すからはよ。


なんてくだらない話が良くも悪くも暑さを紛らわせてくれた様で、気が付けば昇降口に着いていた。 ちょっと涼しい。


「……帰りたくなくなってきた」


「住めば?」


宿学は無駄に設備いいから普通に住めるぞ。 シャワーある風呂ある購買(食・物)ある学食ある自販機あるの衣食住完備な豪華物件だ。 何LDKなのかは知らん。 なお、学生が自由に接続できるネット環境は無いものとする。 月末大変そう。


「……天才的なシステムを思いついた」


「聞こうか」


「……奏士が先に帰って車で迎えに来る。 私がそれに乗って帰れば帰り道は暑くない」


「成程。 『学生は車を運転して登下校してはいけない』って校則に引っかかる事以外は流石だな」


ちなみに、その場合って俺の労力どうなるの? 俺都合のいいアッシー君なんだけど。


「…………何事にも欠点はある」


紅葉は明後日の方を見た。 コイツめ暑さで脳みそトロトロになってるな?


ちなみに、ご存知だろうけど学園側の許可があれば車はOKだ。 俺の休日出勤とかが例。 泉ちゃんの歓迎会のアレは割とグレー。


上靴に履き替えて教室へ向かう。 最近は小学校によくあるあのタイプのシューズじゃなくて、体育館シューズも兼用してるスニーカータイプが基本らしいけどどうなんだろ。


教室の扉を開けて席に座る。 1番後ろ・窓際・お隣という主人公席だから座る時は楽で助かる。 今回は紅葉のボサボサっぷりに少しだけ視線集まったけど。


「……涼しい」


「風邪引きそう」


教室はクーラーガンガンで、さっきまでの温度差で疲労しちまう。 机とかクソ冷たいんだけど。


「おはようございます、紅葉さん」


紅葉の髪を直してたら毎度毎度のお嬢様が来た。 毎朝ご苦労さまです。


ところで俺は? 俺には朝の挨拶無いの? もしかして紅葉しか見えてない? そうか俺は紅葉の妄想の中で生きる思念体だったのか……本当の俺はゾンビ? だとしたら紅葉の赤ちゃんっぷりにも納得がいく。


「2人共、おはよう」


「……おはよう」


「うぃー」


神鳴は挨拶してくれるようで。 良かった俺が俺である確証が少し持てた。 不安定かおい。


「紅葉さんも夏服にしたんですね。 よくお似合いですわ」


「……ありがと」


紅葉は褒められて少し嬉しそう。 お嬢様よく気付いたね。 俺は今夏服なことに気付いた。


「ええ、本当によくお似合いですわ。 ねぇ、柳さんもそう思いますわよねぇ?」


「ん? ああ、そうだな」


「凄く適当だね」


だって服の善し悪しは分からないもの。 奏士君創作家のくせにデザイ面終わってるもの。 とりあえず波風立てないように肯定はする。


「…………」


紅葉は複雑なお気持ちの様子。 大丈夫? おっぱい揉むか? 今この場に胸があるのは紅葉だけだけど。 あの人は虚構のやつだから。


「良かったね柳くん。 ブラ透け見放題だよ」


「流石にインナー着てるでしょ」


「……本人目の前にしてする話?」


言うてお前こういう時はノリノリだろ。 喜んで混ざるタイプじゃん。


「あら、何をしてますの?」


「紅葉の髪をセットしてる。 あまりにも駄々こねるもんでな」


「……奏士が朝から嫌がる私に激しくしたのが悪い」


「純度100%の悪意ある言い方やめろ。 丸坊主にするぞ」


明日から紅葉は峯岸紅葉として生きる事になる。 もしくは花伝大悟。 どっちにしろダメだろ。


「……♪」


「意外と丁寧ですわね。 もっとこう、荒々しくやるものかと」


「何を」


もしかして俺ってそんな野蛮人みたいに思われてる? ひょっとしてあまり評価が宜しくない? 改めて認識すると少しショックを覚えそうで覚えない。 なんやコイツ。


「紅葉、ゴム」


「……奏士のお財布の中」


「俺の財布にドムコン入ってねぇよ。 さっきヘアゴム渡しただろ」


ゴムと言われて真っ先にそっちをイメージしてしまうお年頃な紅葉ちゃん。 中学生みたいな会話をいつまでする気だ?


ヘアゴムを受け取ってパパっと纏める。 と言っても、両サイドを上げてツーサイドアップにしてからリボンを巻くだけだ。 簡単なお仕事。 難しい難しいって言うようなお仕事じゃない。


そう、言うようなお仕事……これひらがなにすると「いうようなおしごと!」ってなるから凄く背徳感。 響き的にJS団地みたいになりそう。


「終わったぞ」


「……うむ」


このお殿様はどこまでも偉そう。 分からせ甲斐がありそう。 涙そうそう。 韻踏みたかっただけだろ。


「へぇ、器用だね」


「伊達に長い髪持ってないからな」


切るのを面倒くさがって伸び続けるこの髪を、毎日毎日手入れして身につく無駄スキル。 無駄っちゃ無駄だけど、髪型の参考資料として自分で弄れるから地味に役立ってはいる。


「それ、最後に切ったのはいつですの?」


「年単位で切ってない事覚えてない」


去年は色々あったからね。 切る暇が無かったのも仕方ない。


「そこまで長いと邪魔じゃない?」


「いや、逆にここまで伸びると纏めやすいから楽まである」


神鳴みたいに普通の短髪だったの何年前だったかなー ガキの頃からそこそこ長かったし。 あれだな。 『どうせ切るなら1回でバッサリ行った方が楽じゃね?』って奴。 ちょくちょく切るほどの美意識は無い。


紅葉が人の前髪をいじいじしながら覗くように見あげてくる。 ゴミかなにか付いてた? 目の前のゴミは本体だぞ。


「どうした」


「……髪が伸びてメカクレになってる」


「鏡見ろ。 お前も切ってないから半メカクレだ」


紅葉もなんだかんだで髪をあまり切らない。 去年は見た感じ少し整えるくらいで、短くするほど切ってはない。


「……お揃い?」


「ジャンルが違うからなんとも」


「君の場合、前髪を上げれば目付きが鋭いとかイケメンが現れるとか、そういうのがあるんじゃないかな」


「俺にメカクレのテンプレは無い」


何故ならメカクレしてなくても目付きは悪いし元からイケメンだからだ。 まだ言ってんのかお前。


「……奏士は…………逆立ちすればイケメンだと思う」


「逆立ちの意味次第でお前の晩飯が変わるぞ」


「…………私は嘘が付けない素直な子」


もう答え言ってんじゃねぇか。 てめぇ普段の俺はイケメンじゃないと申したな? その通り! 俺はどう頑張っても3枚目だ! 残念俺!


でも俺主人公じゃん? つまり1枚目じゃん。 なら3-1で合わせて2枚目ってことにならない? あ、この場合は1-3で-2枚目だから結局イケメンにはなれないな。 クソが。


「で、メカクレコンビはどう致しますの? 髪を切るのであれば、我が家御用達の美容師をお貸ししますわ」


「遠慮しとく」


「……無駄に豪華で目が痛くなりそう」


「あーあ、フラれちゃった」


「え、これそう言う話ですの?」


だってお嬢様御用達ってことはとてもすごそうな美容師っぽいし……今のモノローグに語彙力が無さすぎる。


「……」


紅葉はリボンをいじいじ。 巻き具合が気に入らないとか?


「どうした」


「……ちょっと解れてる」


「買い直すか?」


「……直せば使える?」


「マカセロリ」


紅葉はその言葉を聞くと、無言でリボンを差し出してきた。 君少しは自分で直す発想は無いの? まぁやるけど。


「どれくらいかかる?」


「5分10分」


「それより、何故裁縫道具を持っていますの?」


それは僕のロッカーが4次元空間になってますから。 なんでもあるぞ。 ワンチャン出来たてのラーメンとか出てくる。


「ドラゴンかぁ」


「……お子ちゃま」


「男は誰しもドラゴンを通るんだよ」


ただしごく稀に通らない者もいる。 奏士君は大人びててもドラゴン柄の魅力には勝てなかった。 しかも最近このドラゴンに裏エピソードがあるらしいじゃないか。 燃えるね。


「なんか……あれですわね。 貴方にもちゃんと男性────というか、男の子らしさがありましたの」


「紅葉、これはもしかして、俺の事を男以前に得体の知れない化け物としか見てなかった可能性がないか?」


「……自業自得」


何故だ? 俺はこんなにも美少女グッズで固めているのに男らしさを感じないとは。 いやこれオタクらしさか。


「俺ってもしかして男らしくない?」


「……服の下だけ?」


やはり筋肉、筋肉は裏切らなかったか。 ありがとう筋肉。 これからお前のことを親しみを込めて筋肉んと呼ぶよ。 腹筋崩壊とかしそう。


何故筋肉が先に出て、男らしさの象徴たるち○こが出てこないのかって? それは紅葉に見られる度にバカにされるからだよ。 相棒なら少しくらい立派な姿見せられんのか。 あ、いや見せたら俺が豚箱入っちゃう。 やっぱなしで。


「話変わるけどさ、『マカセロリ』って言葉があるじゃん」


「……さっき奏士が言った」


「あれをさ、今まで『任せろ』+『セロリ』の複合だと思ってたんだが、これを『任せろ』+『ロリ』の融合召喚だと思うと途端に素晴らしい言葉に思えてこないか?」


「……天才?」


「いや何の話ですの?」


どうやら紅葉以外にウケは良くないらしい。 画期的発想だと思ったんだけどな。


それから、シュバババババっとリボンを直しながら雑談という名の奏士君リンチに励んでいると予鈴が鳴った。 ホームルームしてないけどどうすんの? あの男遅刻しおったぞ。


「わりー遅れた。 連絡事項無し。 じゃあな」


噂をすれば南斗紅鶴拳。 も助は文字通りドアから顔だけ出して引っ込んだ。 全く悪びれる様子がない。


「1時間目はなんだっけ?」


「選択ですわ。 神鳴、今日のテストは負けませんわよ」


「そう言って僕に勝ったことがありましたっけ?」


「あ、ありますわ! 片手で数えるくらいは……」


弱い。 このお嬢様あまりにも弱い。 最後の方何言ってんのか分からないくらい声小さかったし。 何度も立ち上がるだけですぐ負けるなこの人。 姫騎士か? いや姫騎士なら立ち上がる前に負けるか。


「……今日は体育がある」


「ダル」


「夏の体育はプール以外禁止にしてもいいと思いますわ」


「まだプールは先だもんねぇ」


一応、6月中旬だからそろそろ始まるはずなんだが……一向に連絡が来ない。 ワンチャン、3年生は選択科目でのみプールの可能性がある。


「残念ですわね柳さん。 紅葉さんの水着姿はまだ見れなさそうですわ」


「だってさ。 自分が見たいからって俺になすり付けるのやめて欲しいよね」


「誰もそんなこと言ってませんわ!」


えー本当? だって君紅葉大好きじゃん。 これがベルかあの人妻なら胸張って言うぞ。「脱がせたい」って。


「……見たい?」


「どうせこの後水着買いに行くイベント発生して嫌ってほど見そうだからいい」


「え、水着って毎年買い直すものなんですの?」


お嬢様の一言で空気が止まった。 あ、文化圏の違いが……


「……去年のが入らない」


「あ、あらあら……毎日自堕落な生活をしているから太るんですわ」


「……おっぱい苦しい」


「去年から何段階アップした?」


「2カップ」


「お嬢様は?」


「パッドが1枚増えたよ」


「虚栄心だけで紅葉と張り合えるサイズになりそうだな」


お嬢様、全く成長しなかったんですね。 可哀想に。


そんな打ちのめされてるお嬢様を他所に、紅葉が袖を引いた。 はいはい。


「……奏士もお絵描きする」


「俺今日は特に断る理由無いけどサボって脱衣麻雀やるから無理」


「この上なく最低な断り文句ですわね」


お嬢様の復活早いね。 最近慣れてきた?


「風紀委員前にしてサボり宣言は流石だねぇ」


やべ忘れてた。 見逃してクレメンス。


「どの脱衣麻雀?」


「最近見つけた同人ゲーム。 これが結構しっかりしててな」


「……ちょっと興味ある」


「生徒会長が授業サボっちゃダメでしょ」


「生徒会副会長もサボってはいけませんわ」


ちぃ! この風紀委員コンビ厄介だぞ。 よしリボン完了。


「お嬢様もサボるか? 黄色信号だから渡ってもルール上大丈夫だぞ」


「授業をサボってる時点で赤信号ですわ。 お二人共授業に出なさい」


「えー」


「……奏士がサボるなら私もサボってお絵描きする」


「それはやること変わってなくないかい?」


お絵描き大好き紅葉ちゃんは授業に出てもサボってもお絵描き。 イラストレーター様々だ。


「……あ」


そういや1つやることあったんだっけ。 どうしよ。


「紅葉、その絵描きの授業って提出義務ある?」


「……完成未完成に関わらず描いたのを1枚出せば出席」


「マジかぁ……」


1枚描くのか……いや、俺のドライブにある落書きを出せば行けるな。


「俺も今日は絵を描くか。 紅葉、教室はどこだ?」


「……あっち」


少しウキウキな紅葉が席を立つ。 教室を出る前にお嬢様から「ちゃんと授業出ないとダメですわよー!」って言われたけど、授業には出るから原稿進めるのは見逃して欲しい。 過去に描いた絵を出すチートだけど。


「ところでこの授業ってデジタル行ける?」


「……無理」


えっ


しまった先に聞けばよかった。 今からでも家庭科に出ようかな。 今日は掃除の授業だし。


「……♪」


無理そう。 今から断ったら紅葉が闇落ちするから無理そう。


くっそ時間を無駄にした。 原稿進まないなら出る意味ねぇじゃん。 サボった方が有意義だろ。


いや、逆に考えよう。 爆速で1枚仕上げてタブレットで進めるんだ。 大丈夫、ペン付きパッドは持ってきてる。


「……?」


黙っているのが気になったのか、紅葉がまた覗き込むように見上げてきた。 なんか雛を見てる気分。


「……考え事?」


「ちょっとな。 もう解決した」


答えはもちろん、『後のことはその時の俺に任せる』1本だ。 人はこれを丸投げ、もしくは後回しと言う。 全ては俺のミスが招いた失態だからしゃーなし。


「……♪」


紅葉は少しルンルン。 ルンバの相性にルンルンとかありそうって感想が思いついた。 だから何だよ。


さて、頑張ってくれ未来の俺。 具体的にはあと数分後の俺。 今月の原稿が楽に進むかはお前にかかっている。 もうネタはできてるんだからプロット進めるだけだぞ! それが一番苦労するんだけどな。


────────────────────────────


色々カットしまして時刻は放課後。 何時なのか言ってないのに大体の時間帯が分かるこの表現は素晴らしいと思う。


という事で真面目な生徒会活動のお時間だ。 今日のお仕事は〜購買の搬入作業でーす! クソ重いぜ! なんなら既に店先に積まれてるダンボール箱の量で帰りたいぜ!


でもイベントの搬入作業よりキツイことは無いでしょ。 アレは台車を活用しても中々腰に来る。


あ~でも購買(物品)か……それならイベントよりキツイかもしれない。 生徒会に手伝い頼むって事はそれなりにモノが多いって事だろうし。


「すぁーせー生徒会でーす」


「……なんて言ったの?」


『すいません生徒会です』って言おうとしたら思っていた以上に訛ってしまったのさ。 あまりにも訛るから訛り中毒になる所だった。 方言キャラ大変そう。


「はーい! はいはいはいはい…………あ〜どうも〜」


店の奥から購買スタッフのおばちゃんが現れた。 お辞儀されたから反射的に頭下げちゃった。


「来てくれてありがとね〜 他に入ってる人が軒並み休みになっちゃって、私一人じゃ大変だから〜 ほら、か弱い女の子だから。 おほほw」


「ですかね」


このおばちゃんと今の今までマトモに話したこと無かったけどすごく面倒くさそうな予感。 50代半ばを過ぎると話長ぇんだおばちゃんは。 この人も話長くなりそう。


「……それで、私達は何をすれば?」


紅葉が話と俺の不安両方をぶった切った。 ナイス紅葉ナイス。 略してNMN。 凄く紛らわしい略称。


「あ〜はいはいえぇと……」


そう言いながらおばちゃんは老眼鏡をかけて資料をペラペラと捲る。 老眼鏡はどれもメガネチェーンあるイメージ。


「2人は〜そうね、とりあえず商品を後ろの倉庫に運んでもらおうかしらね」


そう言っておばちゃんは手招き。 何何? お菓子くれるの?


なんてな。普通に店の後ろ──倉庫に案内された。 購買の倉庫って初めて入ったけど、思ってたより広いな。 なんかクソ広ワンルームに金属棚があって、ダンボール置いてある感じだけど。


うげぇ店先だけじゃなくて倉庫の入口にも荷物が山積みだぁ。


「えーっとはいはいはい……棚の横に数字が書いてあるのがわかる?」


言われてみれば、棚の横には『B2』だの『C1』だのが書かれた紙が貼ってある。 ビタミンみたいな表記だ。


「それで、箱にもアレと同じのが書かれているから同じ棚に入れてもらえる? 英語が棚の場所で、数字が棚の階数だと思えば分かるかしら」


成程、つまりB1はB棚の1段目ってことか。 最大でG4まであるって事はすんごい品数だ。 1学園の購買の量じゃないだろ。 ホムセンじゃん。 学園の目の前にあるじゃん。


「……A棚だけない」


「だな」


照明をつけてないからほんのり薄暗いが、探してもB~G棚までしかない。 A棚はどこだ? ホテルに4のつく部屋が無いのと同じなのか?


「ああ、Aの箱はこっち。 商品入れ替えの箱だから、倉庫の入口付近に纏めて置いておいてくれる? 上積み禁止は無いと思うから、3段までなら積んでも大丈夫」


「あい」


全体が見えてきた。 今日は帰ったら直ぐに風呂入りたくなりそうって事が。 そして風呂のタイミングが誰かしらと一致して俺は泣く泣く2番目になりそうってことが。 見えすぎて未来まで見えてるね。


そりゃあ俺は未来予知できる男ですから。 頭に時計の針とかあるし。 なんなら地球儀とかコンパスとか風見鶏とかある。 時の魔王じゃなくて大彗星でしたか。


「私はお店の方をやってるから、お願いね。 何かわからないことがあれば聞いてね」


「あい」


「……分かりました」


奏士くん知ってる。 これ聞いたら聞いたで

『それくらい1人で考えて』

って返されて最終的には

『なんで報告しなかった?』

って詰められるタイプだ。 奏士君は社会の闇に詳しいんだ。 疑い深過ぎて見事に拗らせてるな。


さーて、おばちゃんは店に戻ったし、後のことは紅葉に任せてサボるか。


「……奏士「紅葉後はよろしく」」


「「……」」


お互いにゴミを見る目で見つめ合う。 コイツ人に押し付けようとしやがったな?


「……やるか」


「……(コクリ)」


争って余計に暑くなっても仕方ない。 ただでさえ倉庫内は冷房効いてないからクソ暑いんだ。 ここは穏便に行こう。


「じゃあ俺は番号を確認するから、紅葉は箱を棚に置いて空き箱を潰そう」


「……私が番号を確認する」


「いやいや俺が」


「……私が」


「「…………」」


どうやらまだ諦めてなかったらしく、2回戦が即時開催された。 お互いに少しでも楽な方を選ぼうと必死だ。


「ここは俺に任せて先にいけ。 お前じゃ無理だ」


「……重いものは力のある男の子の方が適任」


「その理論なら男より力持ちな紅葉の方が適任だな」


「……レディファースト」


「レディになってから出直せ」


「「…………」」


激しい火花が散る。 お互いに1歩も譲らない、なんとも醜い姿勢。 そんなことしてる暇があるならはよ片付けろ。


「「…………(睨み合い)」」


「「…………(※室温31℃)」」


「「…………!(汗ダラダラ)」」


「……各自やるか」


「……そうする」


こうして、第二次世界大戦は終わった。 争いの後はいつも虚しい。


和平を結んだ俺たちは一心不乱に仕事へ励んだ。 それは次の争いを起こさないための処置か、それとも暑さから逃げるために何も考えないようにするためか。 はたまた両方か。


「……奏士、4段目届かない」


「ジャンプして置け」


「……分かった」


それでクソ重段ボール箱持って大ジャンプできるの凄いね。 やっぱお前がやった方が早いんじゃないの? 3箱一気に持ってるじゃん。 バケモンだよお前。


「2人共〜? これ飲みながら休憩も取ってね〜? 今日は暑いから」


「どもっす」


「……♪」


おばちゃんから貰ったお茶とスポドリのペッティをありがたーく受け取ってお仕事再開。 あーあっちぃ。 物品は腐らないからってエアコンのひとつも無いとか建築基準法以前に人道に反してるだろ。 夏クソ暑くて冬はクソ寒いとかなんだよ南窓の部屋かよ。


「っし」


「……ぷはっ」


一気にボトルの半分を飲み干したが、一先ずエネルギー充電完了。 最後まで頑張ろう。


「ああ、2人共悪いんだけど、少しだけここを離れるから何かあったら教えてくれる?」


「……分かりました」


「お願いね。 多分学食の方にいるから」


「あい」


学食って事は、単なる飯か学食側の在庫管理か。 どうでもいいか。 さっさと終わらせて休もう。


オラオラオラオラァ! と山積みのダンボール箱を運び、棚に置き、空き箱を解体する。 これを納品書と照らし合わせて漏れが無いか、破損が無いかを逐一チェックする。 思っていたより面倒。


「あれ、そっちにD3の箱あるか?」


「……あった」


「おk。 Dはこれで終わりっと」


無心と雑念の間で仕事するのも一苦労だ。 俺はモノローグ飛ばさないといけないし。 やる気のプレイリストが今日は少ないんだ。 最近ハマってる曲がまだ1番しか公開されてないからすぐ終わっちまう。


そんなことより最後の1箱。 部屋の奥の棚、G4の箱だ。


「……これで」


「終わりだ……」


紅葉が持ってきた箱を受け取って棚の上に置く。 最後は共同作業だ。 もうここまで来るとハイになってるから協力しちゃう。


「「……いえーい」」


終わった感動に思わずハイタッチ。 目測ミスって紅葉に張り手された。 手跡ついてない?


「はぁ…………疲れた」


「……汗かいた」


お互い汗でベタベタ。 爽やかな汗じゃないからそれはもう凄い。 多分松ヤニくらいベタベタ。


「……これどうすんだ?」


終わったけどおばちゃん戻ってこないぞ。 流石に店に誰もいないのは防犯上宜しくない。 これは帰ってくるまで待つパターンか?


「……まぁ大丈夫か」


スマホで時間を確認してみたが、まだ暮れの時間じゃない。 幸い夏だから日も長いし、天気もいい。 洗濯物はまだ大丈夫そうだ。


「俺はちょっとおばちゃん帰ってくるまで待つから、紅葉は先帰っていいぞ」


なんだかんだ言って紅葉に甘い俺は先に帰してシャワーの時間をずらすことでいざこざを回避する戦法で行く。 くーっ頭いい。


「……私も残る」


しかし軍師の策なぞ力押しに負けるのは道理。 無念。


「さいすか。 どっちにしろさっさと出るぞこんな部屋」


汗でベタベタな上、窓も小さいから部屋に熱気がこもってサウナだ。 サウナは水場だから嬉しいのであって、着衣サウナは地獄と変わらない。


いや着衣サウナって日本の夏そのものか。 なんだ毎年地獄を味わってるとかクレイジーだな。


「……待って」


部屋を出ようとしたら紅葉に引き止められた。 何か見落としでもあったか?


と思ったらギュッてされた。 腕の位置的に鯖折りじゃないことを祈る。


「ん〜っ」


紅葉は顔を埋めてスリスリ。 どうやら一命は取りとめたらしい。 本当に良かった。


「すーっ……」


「どうした」


「……チャージ」


紅葉ちゃんの秘密。 触れ合いの少ない1週間を送った反動か、最近はことある事に人目が無いとこうしてチャージをするようになった。 何をチャージしてるのかは知らんけど頻繁に匂い嗅いでるし多分そういうことなんだろう。


「スンスン……」


汗臭くてもなんのその。 鼻を鳴らしてこれでもかと充電している。


あ、でもなんか汗の匂いも匂いフェチにとってはシャ○ルの五番って言うし、紅葉もそういうことなんだろうかね。


「……撫でて」


「はいはい」


紅葉猫様からの要望には従う他無い。 何故なら猫はこの世で最も偉大だから。


「……♪」


頭を撫でると、紅葉は喉からゴロゴロと原理不明の音を出す。 割とマジでそれどうやって出してんの?


「満足か?」


「……もっと」


「はいはい」


ワガママなお猫様だが、こんなのは重政で慣れっこだ。 寧ろまだワガママ度合いは可愛い方。


柔らかい紅葉の髪を手で梳くように撫でる。 こうして撫でながら吸われてるとエネルギーも吸われてそう。 このままだと骨と皮だけになって最終的には体液吸うタイプの敵の最初のやられ役みたいになりそう。


「もっと?」


「……もっと」


「はーいはい」


汗の匂いが気に入ったのか、紅葉はいつもより長くチャージをする。 もうこのシャツ貸した方が早いんじゃないか? 夜のオカズに使われたらそれはそれで洗えばいいし。


「すいませーん! 誰かいませんかー?」


「はー……あっ」


「…………」


反射的に呼ばれて返事をしてしまった。 気がついた時には既に遅く、紅葉は邪魔されて不機嫌。


「ほら、もう終わりだ」


「…………」


それでも紅葉は離れません。 作者この大きなカブ式表現好きね。 使いまくってるじゃん。


「……(ムッスー)」


ご機嫌ななめな紅葉ちゃんをどうするべきか。 無理やりにでも連れていくか。 いやこの姿見られたら終わるな。 何も変なことはしてないけど終わるな。


「……カプっ」


紅葉が首元に噛み付いた。 痛みは無い。 甘噛みだ。


「……バカ」


紅葉はそう言うと自ら離れ、購買の方へと先に向かった。 これ歯型ついてない?


まぁいいや。 さっさと行こ。


「はいはーい」


「あ、すいませーんシャー芯を────」


犯人は頼金でした。 何してんだこいつ。


「なんだ先輩達ですか。 何してるんですかここで」


「生徒会活動」


「ふむふむ……汗だくの男女、薄暗い部屋、少し乱れた衣服、何も起こらないはずがなく……」


「生徒会活動だつってんだろ」


もしかして言語の壁があるのか? 日本語によく似た何かを発してるのか?


「まぁいいです。 先輩シャー芯ください。 0.5のHBで」


「はいよ。 シャー芯1グロスで…………3万円でいいや」


「そんな要らないですよ。 しかも定価より高く取ろうとしてるし」


ちっ、差分は懐に入れようと思ったのに。 シンプルなカス。


「はいじゃあ1つ200円」


「2000円札使えます?」


「こんな所でんなレア札出すな。 1000円札出せ」


「えー今万札しかないです」


「財布の中身極端過ぎんだろ。 はい1800円のお釣り」


「ども〜」


せめてもの抵抗でお釣りを大量の小銭で出したろうかと思ったけど、ここは俺の店じゃないから諦めた。 俺の良心はまだ生きてた。 いや常識か?


「それにしても相変わらず仲良いですね。 そろそろ生徒会に新メンバー入れたりしないんですか?」


「入りたいって奴がな」


あんま居ないんだ。 居ても紅葉目当てな俗物ばかりだから却下してるし。


「……知らない人を入れたら奏士がマトモに機能しなくなる」


「その通り」


「胸張って言うことですか?」


だってしょうがないじゃないか。 奏士君人見知りするんだもの。 怖い知らない人怖い。


「……新人数人入れるより、奏士1人が機能した方が仕事の効率がいい」


「見てください記者の卵さん。 これが有能な部下を使い潰す上司です」


「至極真っ当な上に部下にも問題あるので記事にはしませんよ」


ちっ 正論パンチされた。 反論できないから泣き寝入りしよ。


「では私はこれで。 何か面白いネタあったら教えてくださいね」


「気が向いたらな」


「それと、会長は早く着替えた方がいいですよ。 透けてるので」


言われて紅葉に視線が集まる。あ、ほんとだ。 シャツ透けてる。


「インナーは?」


「……気忘れた」


「おバカ」


今日の紅葉は水色ですか。 見慣れた色ですね。


「……見ちゃダメ」


「何を今更」


紅葉は未だに下着如きで恥ずかしがるらしい。 いやこれは俺が恥じらい無さすぎるのか? なんかもう全部見られてると麻痺してきてなんとも思わなくなる。


「先輩凝視はダメですよ凝視は。 チラ見じゃないと」


「問題そこじゃないだろ」


「……汗拭くからあっち向いて」


「俺の首は180°回転しないぞ」


紅葉が頭掴んでへし折ろうとしてくるから全力で抵抗する。 見たいとかじゃなくて生命の危機だから。


「そーゆー時は壁ドンして耳元で『見せて』って囁かなきゃ」


「頭壁にドンされそうだからやめとく」


最悪トマトケチャップが広がっちゃう。 俺がチューリップ農家になってしまう。


「ではこれで。 ばーいばーい」


「あ、テメ」


問題出すだけ出して逃げやがった。 残された俺と紅葉の気持ち考えろ。


「……近付いちゃダメ」


そう言いながら紅葉は距離をとる。 俺を不審者だと思ってる?


「……汗かいてるからダメ」


どうやら乙女心の方だったらしい。 さっきまで人にベタベタくっついてたのはだ〜れだ? It's CLE○AIRY! じゃねぇだろ。


どうやら紅葉にも相応の乙女心はあったらしく、このまま家に帰ってシャワーを浴びるまでロクに近付こうとしなかった。 意識するとダメなタイプなんだね。


色々難しいね。 人間って。

はいどーも最近扇風機を封印から解き放った作者です。 あまりの暑さに早めの解禁です。 私の部屋はエアコンが効かないもので。


そんなこんなで快適な夏を謳歌しています。 最近はパソコンも熱もって危なかったので扇風機様々です。


……今週異様に眠かった話でもします? 基本的に仕事してる時以外は最低限の生活だけして寝てました。 昨日は休みだったので16時間寝てました。 8時間寝て3時間お昼寝して夜に5時間寝ました。 訳が分かりません。 疲れていたのでしょう。 前日まで働き詰めでしたし。


ではこの辺で 次回もお楽しみに

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