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白猫と不調とフルボッコだドン

「……自分の服は自分でやる」


「急にどうした」


「……奏士は触っちゃダメ」


「は? おい詳しく────」


────────────────────────────


「……奏士は今後私の部屋に入っちゃダメ」


「朝起こすときどうすんだよ」


「……自分で起きる」


「そうか」


────────────────────────────


「……もう遅いから今日は帰る」


「まだゲームの途中だぞ。 勝ち逃げか?」


「……また明日」


「あ、おい…………まだ22時だってのに」


────────────────────────────


「……何これ」


「……今日の奏士の仕事」


「配分どうなってんだ? お前の5分の1しかないぞ」


「……実務改革で業務配分の見直しをした。 今日からはそれが奏士の仕事量」


「偏り過ぎで非効率だ。 お前の分寄越せ。 帰るのが遅くなる」


「……奏士は自分の仕事が終わったら気にせず帰って大丈夫。 後のことは私がやる」


「それでお前が倒れたら俺の負担が増える。 配分を見直せ」


「……元々私1人でもこなせてた。 大した差は無い」


「「…………」」


────────────────────────────


てなことが立て続けにありまして。


「……………」


折角の休み時間だってのに奏士君は机に突っ伏して撃沈。 撃沈こだ。 しょうもない下ネタに走るくらいには撃沈。


理由は恐らく前述のあれこれだろう。 最近紅葉が急に独り立ちを初めて妙な気分だ。


なんというかこう……毎週見てたアニメが突然最終回を迎えた結果、大きなルーチンワークが無くなってぽっかり穴が空いたというか。 我が子の成長が嬉しい反面、手元を離れる事を心配してソワソワするというか。


そんなこんなで最近活力が薄い。


今日だって、昼休みになったら紅葉は1人でどこかへ行ってしまい、久しぶりに昼飯を1人で食べた。


この上無く落ち着いて飯を食えたのにどこか違和感が凄まじい。 何だ? 俺のあずかり知らぬ領域で何が起きている?


紅葉に生じた変化が紅葉の純粋な成長ならまだいいが、あの人妻とかあの金髪とかその他数名の紅葉フレンズが関与しているならとんでもなく恐ろしい未来が待っている気がして震えが止まらない。


しかも、姉を名乗る人妻と金髪を問い詰めても知らぬ存ぜぬ。それが本当ならいいんだが、どうしても関与してる気がしてならない。 俺の勘はよく当たるんだ。 うろ覚えの漢字を思うがまま書いてみたら合ってた事あるし。 『鬱』とか『火水天木土光』とか。 後者をうろ覚えはダメすぎるだろ。


どうすっかなぁ……紅葉があんな調子だから最近漫画の出来がアレだって瑠姫さんから怒られたし、そろそろ何とかしとかないとなぁ。


「柳さん、少しよろしくて?」


ぐったり考え事してたらポニテさんが近付いてきた。 最近は扇子キャラが薄れてきたね。 作者が描写サボってるからだけど。


「何用でして?」


「少し、紅葉さんについてお聞きしたいことがありますの」


「紅葉の今日の下着の色か? それとも身体数値か? ちなみに前者なら俺はもう知らない。 後者なら服の上からの目測だから誤差が生じる」


「いえ、そんなことではなく」


そんな事とは何だ。 全男子学生が知りたがるレベルの内容だぞ。 あ、少なくとも莇は興味無いから全員では無いか。 ついでに俺も興味無いけど俺は男子学生の枠組みから外れてるから別。


「先程、食堂で1人寂しそうに食事している紅葉さんを見かけましたの。 柳さん、紅葉さんと喧嘩でもしまして?」


「それについての返答は3つ。

1つ、俺は何も知らない。

2つ、紅葉は最近独り立ちを始めた。

3つ、俺と紅葉をセットで考えるな。 以上だ」


紅葉だってお年頃なんだから色々悩みがあるんだろう。 何でもかんでも俺が関与してると思わないで欲しい。 もし関与してたらそん時はそん時。


「独り立ち…………独り立ち?」


ポニテさんは首を傾げる。 うん、まぁ初めて聞いたらそうなるよね。


「よく分かりませんが……紅葉さんに元気が無いと張合いがありませんわ。 柳さん、どうにかなさい」


この人俺に丸投げしてるくせによくもまぁ上から言えるな。 むしろ俺の方がどうにかして欲しいってのに。


「俺は保護者として紅葉の成長を見守るだけだ。 だから何もしない」


というより何も出来ない。 詳細を知らぬ故。 紅葉ちゃん報連相皆無だからなーんも言わないんだもん。 俺の観察眼と思い込みにも限度があるぞ。


「そうですの……あ、紅葉さんが帰ってきましたわ」


ポニテさんに言われて教室の入口を見れば、そこには萎びた紅葉が。 最近塩でも揉み込んだ?


「…………」


俺以上に活力の無い紅葉は力無く自分の席に座った。


そんな紅葉の姿を見てか、周囲の紅葉信者、もとい学生達が「ざわ…ざわ……」と視線の集中砲火を浴びせてくる。 ワンチャン賭博中の可能性がある。


「最近の会長はどこか元気が無いわ」


「疲れてるんじゃないか? 日々の激務に加えて学年首席を維持している。 どうにかして休ませてあげられないものか……」


あれおかしいな学年順位から俺が抹消されてるぞ?


どうやら紅葉教徒は都合のいい脳みそを持っているらしい。 このままだと俺の全てが抹消されそうで脳内奏士が『ざわわざわわ』してる。 ワンチャンさとうきび畑の可能性がある。


「紅葉さん、最近元気がありませんが、何かありまして?」


流石紅葉のマイフレンド。 切り込み隊長のポニテさんはストレートに聞く。


「……………………別に」


今紅葉がこっちをチラ見した気がする。 今ちょっとゾンビ倒すための庭いじりで忙しくてスマホしか見てないわ。


「……ちょっと寝不足なだけ。 小百合が心配するようなことは無い」


「寝不足って……どう見てもそれだけではありませんわ」


「……少し疲れてるのもあるかもしれない」


「…………はぁ」


ポニテさんから何かを決めたような溜息が。


……よし完璧な布陣だ。 後は手放しでも勝つる。


「柳さん」


「柳さん今出払ってる」


「貴方まで寝不足ですの? 寝惚けたこと言ってないでこっちを見なさい」


ポニテさんにスマホを没収された。 ゲーム機没収されて泣きそう。 ゲーム返してよママ。


「柳さん、今日の放課後は紅葉さんをお借りしますわ。 生徒会業務は1人でおやりなさい」


「急に言うね」


今日は生徒会無いから別にいいけどさ。 急な教務が発生した場合は内容次第で許さない。


「……勝手に決めないで」


「残念ですが決定事項ですわ。 皐月さん達にも声をかけますので逃げられませんわよ」


「…………」


紅葉が心底嫌そうな顔をしている。 またこっちをチラ見した気がするけど、俺は席から立たずにスマホを取り返すのに忙しいから助け舟は出せそうにない。


今出せるのはタイタニック号と泥舟くらい。 助け舟を装った計画的犯行じゃねぇか。 犯行というか蛮行というか。 やかまし。


「紅葉さんが逃げるようなことがあれば、貴方は責任もって捕まえてくださいね」


「無茶言うな」


今の俺は重りで体重2.5倍だ。 とてもじゃないが、紅葉に追いつくのは無理。 逃げるのとは訳が違う。


「…………」


紅葉がじっと見てくるから振り向いてみたらそっぽ向かれた。 ははーんさては遊んでるな?


あ、やったスマホ取れた。


──────────────────────────────

紅葉side


「……疲れた」


放課後、皐月達に連行されて質問攻めされ、ボロボロになった紅葉が帰り道を歩く。


普段の華やかさや煌びやかなオーラは無く、それが普段から有ったかは別として心做しか自慢の銀髪もくすんでいる。


その証拠に、普段ならすれ違う人全員が振り向くような美貌が、今日は効力を発揮していない。 紅葉を目にした途端、誰もが驚愕して道を開けている。 まるで妖怪でも見たかの如く。


「あれは……紅葉ちゃん?」


そんな紅葉に近付く影が1つ。 紅葉を『ちゃん』付けで呼び、自ら進んで触れ合おうとする存在はこの世に1つだけだ。


「おーい紅葉ちゃーん」


「…………」


通りすがりの天音は紅葉の名を呼びながら駆け寄るが、声が届いてないのか紅葉は振り向かず、足を止めない。


「あれー? 紅葉ちゃん聞こえてるー? おーい」


天音は紅葉の正面から声をかけたり頬擦りしたりと不審者全開だが、紅葉は意に介さず進む。 これはもう、声が届く届かないの領域ではない気がするが。


「聞こえてますかー? お姉ちゃんですよー。 紅葉ちゃんのだーいすきなお姉ちゃんだよー」


「……天音さん?」


そこで紅葉が漸く顔を上げる。 顔を上げた超至近距離には目をキラキラさせてる天音の顔が。


「っもう、紅葉ちゃんってば普段は否定するけどやっぱり私のことをお姉ちゃんだと思ってくれてたんだね! よーしよし何か悩みがあるならお姉ちゃんに話してみてよ! なーんでも聞いちゃうよ!」


これ以上無く上機嫌でよしよししてくる天音に対し、それ以上に面倒くさそうな顔で対抗する紅葉。 ヒロインにあるまじき表情だ。


「……必要無い」


天音の押し付けに近い手助けをバッサリ切り捨てる紅葉。 何故か毎回都合のいいタイミングで天音が近くにいるという囁かな恐怖も含めて。


「お姉ちゃんに隠し事なんて通用しないぞ〜? この顔は悩み事があるお顔だぁ」


「…………」


紅葉は頬を突いてくる天音の手を払い除けるが、諦めず何度でもスキンシップを繰り出す天音に折れた。 折れたのは天音と言うより、断る労力の方だが。


「……天音さん、時間は?」


「だーいじょぶ大丈夫! 賢星君は暫く出張だから何時でも付き合うよ! なんならお泊まりだって可!」


紅葉は、街中だと言うのにハイテンションな天音に辟易している。 学園を卒業して猫を被る必要が無くなったからか、人妻になった天音はやりたい放題だ。


「……じゃあ、私の家で話す」


「分かった! 紅葉ちゃんのお部屋にお呼ばれだ〜♡」


「…………」


ルンルンな天音とは対照的に、より疲弊した気がする紅葉。 ここに来て単独で天音をやり過ごせる奏士の偉大さを思い知った。


──────────────────────────────


一方、その偉大な奏士とやらは


「ただ今より毒ガス訓練を開始する!!」


「ぐぉぉぉぉ臭ぇぇぇぇっ!!!!」


「おい、次何にするよ。 俺はそろそろニンニク行きたい」


「俺カメムシ」


「俺シュールストレミング持ってきたんだけど」


「貴様らそれでも人間かァァァっ!!!!」


「「「女子と2人で昼飯食う方が悪い」」」


「おーい、そろそろ次の奴準備しろ」


「ぐぁぁぁぁっ!!!」


……偉大な奏士とやらは皆で委員会の裏切り者を処刑していた。 ガスマスク完備で。 これでも普段の奇行に比べたらマシな方だと思えるのは何かしらのバグだろう。 デバックしたくないから仕様で通されるタイプの。


─────────────────────────────


「ふむふむなるほどなるほど…………」


紅葉はこれまでのアレコレを話してみた。 もっと言いにくいかと思ったが、天音は人の悩みを笑わないので意外とスラスラ出てきた。


「今の話を要約すると…………紅葉ちゃんは奏士君のことが好きって事だね!」


「…………どこを要約したのか分からない」


天音節に呆れてお手上げ状態な紅葉。 天音の言うこともあながち間違ってはいない故にどっちもどっちである。 紅葉に関しては今更感あるが。


「も〜紅葉ちゃんは相変わらず強情だな〜 素直になればいいのに」


「……全て天音さんのくだらない妄想」


「まだ言うかこの娘は」


誰がどう見ても奏士に対して友達以上の感情を持っていることは明らかだと言うのに、紅葉は先の件以降子供のような意地を張り続けている。


「まだいいやそれで? 紅葉ちゃんは何がしたいの?」


「……料理を覚えたい」


「それはなんで?」


「……何かと便利だから」


「ふ〜ん? 本当にそれだけ?」


「……それだけ」


天音の視線の圧に思わずたじろぐ紅葉。 勿論、それだけでは無い。


「あ、そう……じゃあ奏士君に教えてもらうようお姉ちゃんが取り付けてあげる」


「……それはダメ」


「どうして? 毎回私に頼むより、奏士君に教えて貰った方が早いんじゃないかな? ほら、私より奏士君の方がお料理上手だし、一緒に住んでるんだし」


「…………」


天音の正論に一瞬止まる紅葉。 紅葉的には奏士に教えてもらうのは1番ダメなのだ。 プライドではなく、色々な事情で。


「……奏士の鼻を明かすために料理の事は言っちゃダメ」


「…………ふぅ〜ん」


その言葉を聞いて天音は全てを察したらしく、ニヤニヤ&ニッコニコ。 今日は過去一上機嫌を更新し続けている。


「なるほどなるほど……そういう事なら力になってしんぜよう! お姉ちゃんにドーンと任せなさいっ!」


「……天音さん」


力こぶを作る天音の姿が、紅葉には過去一頼もしく見えた。 普段は姉を名乗る変人だが、今だけは姉と慕ってしまいそうになるくらい。


「可愛い妹の恋路はお姉ちゃんが舗装してあげる! 愛を込めればド下手な紅葉ちゃんでもずっきゅんばっきゅんだよ!」


「……それは別にいい」


紅葉は訂正した。 さっきの尊敬は気の迷いだと。


「そうと決まればまずはオシャレと振る舞い方から身につけないとね」


「……それと料理になんの関係が?」


「関係アリアリだよ! 『美味しい』って言ってもらうためにはまず『可愛い』って言ってもらわなきゃ!」


「…………?」


紅葉にはその因果関係がよく分からなかった。 が、天音の中では既に式が成りなっているのだろうと解釈した。 紅葉的にも、奏士に心から『可愛い』と言わせてみたかったのは確かなことではあるし、と。


「じゃあ早速「たでー」あ!」


奏士の帰宅にいち早く反応する天音。 紅葉は不意の奏士に少しびっくり。


「ふぃー ちかれたびー」


奏士は気だるそうに靴を脱ぐ。 それでも踵を揃えて脱ぐあたり、外見に出ない育ちの良さが伺える。 いや奏士は育ち悪い方だ。 つまりこれは育ち関係ない習慣か。


「おかえり〜 ご飯にする? お風呂にする? それとも〜も・み・じ?」


「あんたなんでいんのPart2」


紅葉に引き続き、奏士も心底嫌そうな顔をする。 こいつはもうどうでもいいや。


「ふっふっふっ……紅葉ちゃん居るところ私在り、紅葉ちゃんいなくても私在り!」


「じゃあただ人ん家に現れるバケモンだろ」


「む〜っ! こんな美人さんに向かって化け物呼ばわりなんて酷いな〜」


「おい何だこの人帰宅早々めんどくせぇ。 誰だよコレ家に上げたの」


仮にも先輩を『コレ』と呼ぶ当たりが奏士クオリティ。 紅葉にはできない芸当だ。 後輩として正しいかは置いておいて。


「…………」


そんな奏士と天音の姿を紅葉は部屋のドアから顔を出して覗いている。 奏士と目が合った時だけ引っ込んで。


「アイツか……紅葉、ウチは寺でも神社でもねぇぞ。 お祓いなら紹介するからそこでしてもらえ」


「キミ、どうしても私を化け物扱いしたいんだね」


奏士からすれば天音も化け物も大差無い。 どっちも制御不能で、どっちも危害しか及ばさない。 容赦無く殴れるから化け物の方がまだマシな方だ。


「で、何故我が家に?」


「あ、そうそう聞いてよ! 紅葉が漸く君をす「〜〜〜〜〜〜〜!!!」」


紅葉は天音が言い終わる前に部屋から飛び出し、素早く奏士の元へ駆け寄ると力強い踏み込みと共に流れるような連打。 跳ね返りすら利用するその一撃は格ゲーのコンボの如し。


「ガガガガがガガガガっ!!?」


全15撃から成る即死コンボをキメられた奏士は玄関の扉を突き破って吹っ飛ぶ。 なお、玄関の扉はこういう時の為に予備を用意しているから被害は少ない。


「ぬわーっ! 何事!?」


丁度玄関を開けようとしていたベルのすぐ横を通り過ぎる奏士と玄関の扉。 奏士はボロボロだが、ベルは奇跡的無傷で済んだ。


「な、なにごと……」


自爆された後のようなポーズで地に倒れている奏士。 あの奏士ですら、直ぐには立てないらしくピクピクしている。


「ふーっ! ふーっ!」


「おお、クレハがご乱心デス……」


「ありゃりゃ、まだ早かったかー」


そこで紅葉は我に返り、慌てて動かなくなった奏士に駆け寄る。


「……生きてる?」


「なんか……洗濯物のやり取りもコミュニケーションなんだなって気付いた」


「?」


奏士は全身ボコボコにされて喜びを感じている。 最近こういったやり取りが無かったから懐かしんでいるのだろう。


それはそうと遠回しに紅葉を娘扱いしているが、奏士は奏士でいつまでそうしているのだろうか。 紅葉がアレだから忘れがちだが、奏士もやってることは大差無い。


「ソージー? 大丈夫デスカー?」


「……ギリ」


「そんな事より、玄関どうしマスか?」


「……そんな事?」


「く、蔵に……予備が……」


「ワタシ持ってきマスか?」


「い、いや……俺やるから……5秒待て」


そう言われて3人で5秒待ってみる。 すると、ピッタリ5秒後に奏士は起き上がった。


「くっそ痛てぇ……」


「わお、君タフだね」


「コレタフとかそういう問題デスか?」


「……ゴメン」


「ホントだよ」


奏士に聞かれないようにするために、天音の口を塞ぐのではなく奏士を聞けない身体にするという逆転の発想(笑)により、奏士は全身打撲で即救急車モノだが、伊達に鍛えてないらしく吹っ飛びこそすれど思っていたよりは怪我が無い。 奏士より玄関の方が被害が大きいくらいだ。


「んで、さっきは何を?」


「あー……」


「っ!」


天音が紅葉をチラ見すると、紅葉は鋭い殺気を飛ばして口止めした。 流石の天音も冷や汗をかいた。


「なーいしょっ☆ 乙女には秘密があるんだよ」


「乙女て」


奏士は「アンタもう乙女じゃないだろ」と言いかけたが、天音からの無言の笑顔という名の圧により口を閉ざされた。 やはり天音は紅葉の先輩なのだろう。 やり口が似ている。


「流石にこんな状況でお話はできそうに無いから、私はそろそろ帰るよ。 またね、紅葉ちゃん」


「……分かった」


天音は部屋に戻って荷物を纏めて出てきた。 まだ来て30分も経過して無い。


「と、その前にどーん!」


「わっ」


天音は唐突に紅葉の背中を両手で押す。 突然過ぎて紅葉は対応しきれず、無防備に突き飛ばされて奏士の胸板へダイブ。


「わぷっ」


「お?」


奏士は微動だにせず受け止めた。 珍しく鍛えた成果が出たようで。


「ゴメン紅葉ちゃん、手が滑っちゃった☆」


「嘘つけ故意犯」


「まぁ確かに恋犯ではあるね」


「何言ってんだあんた」


異様にドヤ顔でキメている天音に対し、奏士は「クスリキメてるんじゃないか?」という感想しか出てこなかった。 ちゃんと平常だから素面でこれである。


「…………すーっ」


「おい、そろそろ離れろ」


「…………すーっ」


紅葉は奏士しがみついたまま動かない。 これまで離れていた分を保管するように奏士の匂いを嗅いでいる。


「…………♪」


奏士の匂いを嗅ぐ度に紅葉の活力が戻ってきている音がする。 猫のような紅葉、猫葉ねこみじも尻尾をピコピコさせている。


「それじゃあ私はここで! 紅葉ちゃん例の件はまた時間がある時に連絡してねー!」


「goodbye!」


天音は手を振ってその場を去る。 ベルも大きく手を振ってお迎え。 奏士は片手を紅葉の頭の上に置いているから手は降らなかった。


「いい加減離れろ」


「ぷはっ」


離れた紅葉の顔は以前のようにつやつやしていた。 今なら街を歩けば皆振り向く美人さんだ。


「なるほど……クレハは定期的に人の匂いを摂取しないと元気が無くなるんデスね」


「そんな訳……あるのか?」


「?」


紅葉はキョトン顔。 奏士だけが深刻な顔をしている。 紅葉を1人で生きれない身体にしてしまった事をどう弁明しようか考えている顔だ。


「さぁクレハ! 次はワタシを!」


「……ベルはセクハラしてくるからいい」


「何故!」


「今のが全てだろ」


「……♪」


紅葉は再び奏士にしがみついて鼻を鳴らす。


「ズルいワタシも!」


ついでにベルも奏士にしがみつく。 前門の猫、後門の犬だ。 どっちもデカい。


「重い」


「美少女だから重くないデース!」


「……♪」


紅葉に活力が満ちていく度、奏士から何かしらのエネルギーが抜けていく様に萎れていく。 それと同時に奏士にも活力が注入され、プラマイゼロで現状維持だ。


「ん〜ッ」


紅葉は匂いを嗅ぐだけじゃ飽き足らず、奏士にスリスリと自分の匂いを擦り付ける。 最近触れ合って無かったからマーキングが取れてしまったのだろう。


「離れろ暑い。 それ以前に今の俺満身創痍なんだが?」


「……もう少し」


「ワタシもー」


「えぇ……」


普段は人前で甘えることが少ない紅葉が、今はお構い無しでベッタベタに甘えている。 流石の奏士もどうしようか迷って手が出せない様子。


「スンスン……スンスン……んー仄かな汗の香り。 奏士の男らしいスメルでムラムラしてきマシタ」


「さっさと離れろ変態」


「……これはこれで」


「お前も離れろ」


「やっ」


「イーヤデース」


「ちっ」


奏士はシンプルな舌打ち。 それでも紅葉の頭を撫でるのを止めないのは奏士も少しだけ手が寂しかったからなのか、それとも癖なのか。 紅葉の頭の位置が丁度いいからとも言える。


「…………満足」


顔を上げた紅葉はこれ以上無くご機嫌だ。 過去最高に肌ツヤは良く、どこか「ムフーっ」としている。


「ワタシも満足!」


無関係のベルもツヤツヤしている。 あとちょっとモジモジしている。


「早速部屋に行かねば!」


ベルは一目散に駆け出し、乱雑に靴を脱いで家の中に入った。


「……私も戻る」


紅葉も名残惜しそうに離れた。 どうやらまだくっつき足りないらしい。


「……」


紅葉はまたもや奏士の裾を引っ張る。 奏士は今更過ぎてもう何も言わなかった。


「……続きはお風呂入ってから」


そう耳打ちして紅葉も部屋に戻った。


「…………玄関直すか」


最後に取り残された奏士はそう呟いて蔵へと向かった。 少しでも考える時間を稼ぐために。


「(まずいまずいまずいまずい俺が手を打つ暇すら無く物語が進行してやがる! 紅葉に余計な入れ知恵したの誰だよ絶対あの人妻とベルだろ! いや、2人だけじゃねぇ。 恐らく今日呼ばれた女子連中全員が犯人か? 真っ先に手を打ってもそれを飛び越えて来るとかクソゲー過ぎんだろ! これ以上はあまりしたくなかったが仕方ねぇ。 こっちも本気で対処しないとこのまま呑まれる!)」


奏士は平静な顔で必死に頭を回転させる。 全ては目的のために。


「(絶対にあの件に辿り着かせる訳にはいかねぇ。 例え悲劇でもここで断ち切るしかねぇんだ)」

はいどーも大人になっても釘パンチの練習をしていたら手首を痛めた作者です。 痛めた手首はお昼の炒飯とかになりました。 あとは賃貸なのに壁が少し凹んだ程度です。 私も凹んでます。 退去が怖いぃ……


そんなことより


最近眠いです。 季節の変わり目で天気も悪いですし、日々体調不良で嫌になりますね。 みんなも同じ目にな〜あれっ☆


あと今回奏士のモノローグが少ないせいで不完全燃焼なんですけどどうしましょうか。 私は奏士のイカレポンチなモノローグを摂取して生きているみたいなものなのに。 来週はその分モノローグ増やしちゃうぞー


ではこの辺で 次回もお楽しみに

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