白猫とかつての烏
「……理事長、今回の書類です」
「うむ」
放課後、紅葉が学生会の書類を届けに理事長室へ出向く。 本来も助がやるべき仕事をなぜ紅葉がやっているのかは今更だろう。
「……確認した。 ご苦労」
悠は書類をパラパラと捲りながら軽く目を通して机の上に置く。 理事長としてその雑な確認は良いのかと指摘されそうなところではあるが、現在溜まった仕事的に学生会の書類は優先順位が低いので致し方なしなのだろう。
「手間取らせて悪いな」
「……いつもの事なので」
紅葉は呆れ顔で答える。 もうすっかり地底奥深くで化石と化したも助の評価は落下が止まらない。 その内ブラジル、若しくは大西洋にまで届きそうな勢いだ。
「も助には後で菓子の1つでも買わせる。 下がっていいぞ」
「……はい」
「さっさと仕事を終わらせて帰ろう」
紅葉はそう考えて踵を返すが、ふと、以前から気になっていたことを思い出した。
「……理事長」
「なんだ?」
「……今日、奏士はどこに?」
「あいつなら学園のサーバールームだ。 どうにもシステムの不調が続いてな。 見てもらっている」
紅葉は「それは本当に学生のやることか?」と聞きたくなったが、奏士がしばらく戻らないことが確認できたので流すことにした。
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一方その頃 その奏士とやらは
「んがーっ!!! 誰だこのクソコード書いた奴は! いっぺんイカせんべいくらい広がるまで顔面タコ殴りにするから正座しろやぁぁぁぁ!!!」
何やら発狂していた。 いつだって読者が喜ぶ不幸をお届けするその精神、嫌いじゃない。
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「……理事長」
「どうした? まだ何か用か」
「…………」
呼び掛けて一瞬、紅葉は留まった。 親戚とは言え、流石に本人に直接聞くことじゃないか、と。
だが、あの奏士が素直に言うと思えず、紅葉は意を決して口を開いた。
「……昔の奏士について聞きたい」
「……ほう」
悠は作業の手を止めて紅葉と向き合う。 口元には笑みが。
「唐突にどうした? なぜ、それを聞きたいのか理由を聞こうか」
「……純粋に、私だけ昔の奏士を知らないから」
紅葉はずっと疑問だった。 奏士は過去の話を一切しない。 冗談めかして子供の頃の話をすることはあったが、どれもその場しのぎで適当こいてるだけ。 本当の事は何も教えてくれない。
その上、どれだけ奏士の部屋を漁っても過去に繋がる物が何一つ出てこない。 子どもの頃の思い出というものが何も無いのだ。 アルバムどころか写真の1つも出てこないのは流石に秘匿している証拠に他ならない。
何より、幼い頃に交友があった泉はともかく、何やらベルですら奏士の過去を知ってる様子。
だと言うのに、1番付き合いの長い自分は全く知らない。 そして奏士は一方的に自分の過去を知っている。 その事が何となく不満だった。
ぶっちゃけ、自分の過去に関しては紅葉が勝手に喋った事だからお門違いなのだが、それはそれこれはこれという事なのだろう。
「……昔の奏士、か。 そうだなぁ……」
悠はそう言いながらデスクの引き出しを漁る。 なぜ仕事場に奏士の過去に関するものが入っているのかはとても気になるが、話が逸れそうだからと紅葉は聞かないことにした。
「あったあった。 ほら、これだ」
「……これは────」
悠が取り出したのは1枚の写真。 そこにはまだ若々しいも助と瑠姫、今と殆ど見た目の変化が無い悠。
そしてそれらに囲まれて嫌そうにしている1人の男の子。 髪の長さ等が少し違うが、恐らくこれが昔の奏士なのだろう。
「……昔の奏士?」
「ああ、あの家に来た頃の奏士だ」
だとするなら、随分と見た目が変わったものだ。 昔の奏士は今より隈が薄く、全体的に生気、というよりも若さがある。 年寄りみたいな今とはえらい違いだ。
「奏士も変わったよなぁ……今では口を開けば生意気なことしか言わないのに昔はこんなに────いやそれは変わってないか」
悠が思い出を振り返るようにぽつりぽつりと話す。 奏士が昔からああいう感じだったのは紅葉的に解釈一致で少し安心。 素直で笑顔に溢れててハキハキしている奏士はここまで来ると逆に怖い。
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「ハイハイ書き直せばいいんだろ書き直しましたよこれでいいんだろ孕めオラァ!」
『ERROR』
「……(無言の台パン)」
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紅葉は何やら奏士の精神が限界に達してそうな気配をキャッチしたが、そんな事より今は奏士の過去だ。
「……昔の奏士……」
紅葉は写真を手に取ってじっと見る。
確かに、悠の言う通り可愛げとは無縁そうな見た目だが、どことなく男の子特有の生意気さというか、子供だからこそ可愛く見える感じが出ている。 端的に換言すると『紅葉的にショタ奏士は可愛い』
「懐かしいなぁ……あの頃は私もまだ学生でな。 今より幼いだろ」
「…………」
紅葉は写真の悠と目の前の悠を交互に見る。 どこをどう見ても変化が分からなかった。 強いて言えば写真の悠は学生服で、目の前の悠はいつもの黒コートな事くらいか。 服装以外の違いは全く分からない。
「……これは大体何年前の写真ですか?」
「それは確か……あいつが中学入る少し前くらいの写真だな」
ということは小学生5か6年生。 にしては、写真の奏士に無垢さは無かった。 人生2週目の貫禄というか、社会の荒波に揉まれたサラリーマンというか。 本当にこれは小学生の顔なのだろうか。
「……?」
紅葉が悠の言葉を振り返っていると、1つ引っかかるワードがあった。 最初に悠はなんと言っていた?
「……『あの家に来た頃』?」
紅葉の記憶が正しければ、奏士は生まれた頃からここにいると言っていたはずだ。 あれだけの法螺吹きでも出自を偽るということはそれなりの理由があるということ。
『……この前の奏士も少し様子が違かった』
そして紅葉の中で1番気になっている剣道部との1件。 【剣聖】相手に事実上の完勝したことより、試合中の奏士の様子の方だ。
途中までは相手が降参するまで待つ受けの姿勢だったのに、相手が問題を吐いた途端に豹変した。 ここまではまだいい。
だが、紅葉が気になったのはそこじゃない。 相手が「妹」と言った瞬間、奏士の表情が一瞬険しくなった事だ。
奏士は日頃から散々「空想妹」との妄想を垂れ流しているが、にしてはあの時の奏士の様子は異常だった。
最初は、言葉一つ一つに込められた感情が妹がいる者への嫉妬だと思っていたが、それだけでは説明がつかない重みを感じた。 まるで自分に言い聞かせているかのような。
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「よーしよしよし俺はできる俺はやれる俺は完全完璧に勝てる! これで動きやがれオラァ!!」
『ERROR』
「すーっ……落ち着け、落ち着け俺。 今はまだサーバー破壊する時じゃない。 だから落ち着いてもう一度エラーを見直せ。 動かない理由がある筈なんだ」
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久しぶりに奏士の胃に穴が空いた気がするが、再び流して紅葉は悠に問いかける。
「……あの家に来る前の奏士は何を?」
しかし、悠からの返答は無く、あったのは一言だけ。
「さぁてな。 それ以上は本人にでも聞くんだな。 あれこれ他人が喋ることじゃない」
「…………」
紅葉はある種の正論を言われて何も言えなくなった。 確かにその通りではあるが、逆にどうやったら奏士が素直に話すのか見せて欲しい。
『……絵を描かないって脅す? でも使い過ぎると効果が薄れる』
紅葉はある意味最強の手段を取りかけたが、本当に辞めた場合、奏士は去るもの追わずだから繋がりが消えて家に住ませてくれる理由が無くなりそうで辞めた。
そしてそれと同時に、奏士が見ているのは自分と絵では無く、自分の描く絵だけなんじゃないか、という疑問が生まれた。 紅葉は少しだけムカプリコ。
「……分かりました」
「おう。 せいぜい頑張れ」
聞けない以上はここにいる意味が無い。 紅葉はさっさと奏士を探しに行くことに決めた。
「あ、そうだ最後に1つ」
「?」
呼び止められて本日二度目の振り返り。 何か忘れていた事でもあったのだろうか。
「……あまり無理に詮索しないでやってくれ。 男のエロ本と過去は見て見ぬふりするのがいい女、って奴だ」
紅葉は「部屋に堂々とエロ本置いてるのに?」って思ったが、悠の言いたいことは伝わったから口を閉じた。 奏士にもプライバシーは必要だ。 本当に。 切実に。
「でもまぁアレだ。 奏士が自分から話す時が来たら、ちゃんと聞いてやってくれ」
「……はい」
奏士を日々こき使って昼食のパシリに使っている理事長の意外な一面を見た。 従姉なりに大切には思っているのだろう。
「……失礼します」
「うむ」
悠は紅葉が部屋を完全に出たことを確認し、仕事に戻った。 写真は紅葉にしれっと盗られた。
「相変わらずだな」
「うおっ!?」
来客用のスペースにあるテーブルの下から這い出てきたも助に驚き、悠は椅子から飛び上がる。 その際、着地出来ずに椅子から落ちた。
「お前、何故そんな所にいる?」
「いやぁこの部屋日当たり良くてな。 ソファで昼寝してたらテーブルの下まで行ってた」
「どんな寝相しているんだお前」
相変わらずサボっていたも助に文句を言いたくなるが、こんなでも仕事はきっちり終わらせるのだから恐ろしい。 ギリギリでクビにできない範囲を責めてくるも助に辟易していた。
「それより……意外だな」
「何がだ?」
「いやぁ〜あの奏士にも春が来るのかねぇ」
「知らん。 変わるかどうかは奏士次第だ」
あの奏士なら「花粉凄いし気温上がると重政寄ってこなくなるし虫いるから春にならなくていいや」とか言いそうだが、2人にとっては共通認識なので口に出すことは無かった。
「それよりいいのか? 態々奏士の過去に触れさせて。 アイツ嫌がるぞ」
「何、あいつには触れ合いが必須と言ってある。 それに、彼女できなきゃ卒業させないとも言ってある」
「手回し凄いねぇ……職権乱用祭りか?」
「違う。 私はいつだって奏士の幸せを望んでるだけだ。 あいつにとってこれが最適解だと思ったから動いたまでだ」
「……ブラコンだねぇ……」
奏士はああ見えて身内に甘いが、悠も悠で身内に激甘だ。 そこら辺はやはり血筋なのだろう。
「それはそうとも助。 お前、後で花伝に菓子折でも渡せよ? サボった罰だ」
「え〜」
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「…………」
紅葉が生徒会室に戻ると、探すまでもなく奏士が居た。 居たが……
「……」
ソファにうつ伏せで事切れていた。
試しに近寄って後頭部をつついてみると、『があ゛ざん゛……ぞん゛な゛ごどい゛っだっでじょう゛がな゛い゛じゃな゛い゛が』と地鳴りの様な声でえなりのような事を言った。 どうやらまだ巫山戯る余裕はあるらしい。
「…………」
奏士にやり返す気力が無いことをいい事に、紅葉はウキウキでつつく。 時々旋毛をグリグリ押しながら。
「や、めろ……貴様」
「……♪」
普段生意気な奏士がされるがまま。 心做しか、紅葉はSに目覚めかけていた。 元はM寄りなのに。
「や、やめ……やめんか!」
「おっ!」
突如、奏士がガバッと飛び起きる。 流石の紅葉も驚いて声が漏れた。
「てめぇ何の恨みがあって……10円ハゲになったらどうすんだ」
「……その時は全部剃ればいい」
「木を隠すための森を伐採するな」
少し痛いのか、奏士は頭を抑えながら言う。 紅葉は軽くつついてたつもりだが、実際はキツツキ並の速さと威力が出ていた。
「……お疲れ?」
「お疲れ超えてカツカレー超えてハヤシライスだ。 あんのロリガキ絶対許さねぇ」
「人にクソ仕事タダ働きさせやがって……」と奏士はボヤく。 紅葉はそんな事より、何故「お疲れが2回飛ぶとハヤシライスになるのか」が気になっている。 相変わらず奏士時空の変換は謎だ。
「……お疲れ様」
紅葉はポフポフと奏士の頭を撫でる。 その手はすぐに払い除けられたが、紅葉なりの労いだと伝わったのかそれ以上は何もしてこなかった。
「残りの仕事は?」
「……今日の分は終わった」
「そうか……」
気が抜けたのか、奏士はそう言うと再びソファにうつ伏せになった。 誰がどう見ても、奏士は体力気力共に限界だ。
「……お茶飲む?」
「……要らない」
「……お菓子食べる?」
「……腹減ってない」
「…………」
奏士の返事に力が無い。 一体どんな仕事をしていたのか気になるが、紅葉はそれよりも奏士の回復を優先させた。
と言っても、紅葉に切れる手札は少ない。
と言うより、奏士に通用する可能性のある手札が少ないと言った方が正しいか。 こいつは美少女相手にして全く変わらず我が道を行く男だ。
紅葉は思い出す。 天音からアレコレ吹き込まれた中に、「疲れた男の子を癒すにはこれが一番! あ、エッチな方じゃないよ!」と言っていた事があったハズだ、と。
そして思い出すと同時、天音の台詞の後半は記憶から消すことにした。 前々から思っていたが、天音は自分のことをどうしたいのだろうか分からなくなりそうだから、と。
「……よいしょ」
「ぬぉっ」
紅葉は奏士をくるんと回転させて仰向けにし、自分もソファに座って太ももの上に頭を置く。 俗に言う、膝枕だ。 度々やるあたり、意外にも紅葉はこれが気に入ってるらしい。
「……何いきなり」
「……天音さんの受け売り?」
「あの人お前に何吹き込んでんの?」
それは紅葉も知りたいことだったが、今は無視して奏士に集中する。
右手で奏士の頭をそっと撫でる。 奏士は紅葉の猫っ毛をちょっとだけ気に入っているが、紅葉も奏士の髪質を気に入っているのは内緒。
「……どう?」
「ものすごく不快」
「……それは安心」
いまいち会話が成立していない気がするが、奏士の言う不快はこの場合「悪くない」くらいの意味だと紅葉は受け取った。
しかし、それで終わらないのがこの男。
こやつ、女の子から膝枕されているというのに頭上の胸を見て「天井見えないなぁ……これ手元見えなそうだなぁ……」とか考えていた。 いい加減にせえよマジで。
「……胸に視線を感じる」
「お前が仰向けで固定したからそれしか視界に無いんだよ」
「……うつ伏せにしたら奏士が太ももの匂いを嗅いでくる」
「そんな状況になったら口呼吸に変えるか窒息すると思う。 お前太ももちょっとムチムぐぁぁぁぁっ!!!」
無礼を働くこの男を紅葉は許さない。 頭を撫でる手を頭を掴んで圧迫する手に変える。 奏士の頭蓋骨への被害は考えない。
「……太ももはこれくらい柔らかいのが普通」
「いや絶対嘘だ! 泉ちゃんの太ももこんな肉付きよくないじゃん絶対!」
「……予想?」
「膝枕される未来があったら俺は泉ちゃんを我が身で汚す前に自害する」
「……発想が色々おかしい」
紅葉は呆れ顔。 当然、奏士にはその顔は見えていない。 何この胸越しの会話。
「なんだお前一丁前に体型気にしてんのか?」
「……女の子はいつだって理想の自分を目指してダイエットしてる」
「普段あんだけ胃もたれするもん食ってんのに?」
「……それはそれ、これはこれ」
「世の頑張ってる女性に謝れ」
紅葉は奏士が再び生意気言ってきたから頭を掴んで黙らせる。 紅葉の馬鹿力にばかり注目が行くが、それにある程度無傷で耐えている奏士の耐久力も中々のモノだ。 日常的に身体の中がズタボロになっているが。
「……奏士は口だけは達者」
「頭と舌はよく回るからな。 この前首もよく回る事が判明したが」
「…………」
本当に、よく動く舌だと紅葉は一周まわって感心している。初対面の人相手だと人が変わったように静かになるのに、少しでも慣れるとこの男はあー言えばこー言う。
「……その口の悪さはあの家に来るより前から?」
「あん?」
一瞬、奏士の動きがピタッと止まった事を紅葉アイは見逃さなかった。 相変わらずの動体視力だ。
「……理事長から少し聞いた。 奏士は小学生の時にここに引っ越してきた」
「……ホント、あのロリガキは……」
悠の共通認識として「ロリガキ」とあるが、悠は年齢的にロリでもガキでもない事を改めて言っておく。 中身? それは別の話だ。
「あぁそうだよ。 俺はあの家に越してきたんだ。 それまでは新潟にいた」
「……本当?」
「いや嘘だけど。 俺そもそも麺派だし、行くなら香川がいい」
「…………」
平然と嘘を吐くこの男をどうやって泣かせようか考える紅葉。 膝枕している今なら奏士は何も出来ないから始末するチャンスだ。
「……奏士は嘘つき」
「ペラペラ喋るわけないだろ。 俺の過去は第1級の機密事項だ」
「……検索履歴とどっちが上?」
「て、てめぇ汚ぇ手を……」
逆に過去と並ぶ機密度の検索履歴が気になるが、それは後でどうとでもなるので紅葉は流した。 もし見られたら奏士は涙を流す。
「そもそも、何だ急に。 お前他人の過去とか気になるタイプじゃねぇだろ」
「……それは秘密」
「人には聞いといて……」
紅葉的に意図を話すのは嫌なのだ。 何となく、だが。
「……そっちが話す気無ぇなら俺も教える気は無ぇ。 仕事無いなら帰る」
「……ダメ」
起き上がろうとする奏士を左手で制止する。 ただ上から身体を押してるだけなのに、奏士は簡単に止まった。
「……普段からあんな重りをつけてるのに、起き上がれないの?」
「逆に聞くけどあんな重り付けてる時にお前に勝てたことあったか?」
紅葉はそういえば、と振り返ってみる。 思い返せば、奏士が力で少しでも紅葉に勝った時は全部学園外の私生活時だ。 つまり重りが無い。
「…………」
だとするなら、あの重り(100kg)をつけたままあの速度で走って逃げていた事に今更ながら驚く紅葉。 そして現在合計で200kgを超える重量があるのに耐えてるソファにも驚き。 ちなみに内訳は奏士約170キロ、紅葉書いたら殺すキロだ。 命が惜しいので明記するのは控える。
「……奏士は私の過去を聞いた」
「お前が一方的に話したな」
「……泉とベルは奏士の過去を知ってる」
「泉ちゃんが知ってるのは引っ越すまでの数年だし、ベルは自己申告だから本当かどうか知らんけどな」
「……私だけ全く知らないのは不平等」
「俺は俺の個人情報だけがが漏れてることに不平等を感じる」
「……奏士は私に話す義務がある」
「そんな義務は無い」
本当に言い返す口だ。 どうやって黙らせようかと紅葉は考える。 一瞬、天音が「男の子を黙らせるにはキスしちゃえば一瞬だよ!」って言っていたのを思い出したが、即却下した。 まだ早い。
「……どうしても嫌?」
「い〜や〜 俺の子供時代とか聞いても面白くないぞ。 ちゃーんとクソガキだったし小さなエロスで一喜一憂してたし裁縫道具はドラゴンだった」
「……それは分類が分からない」
何故かエプロンは普通のエプロンなのに裁縫道具だけドラゴン柄なのも付け加えておこう。
「俺ってば昔から頭良くてイケメンでなぁ……でも何故かドラゴン柄には惹かれたんだよな」
「……今しれっとイケメンがどうとか聞こえた気がする」
全力で否定するが、奏士は今も昔もイケメンでは無い。 精々顔が整っているだけだ。 イケメン要素は無い。 これがモテるのはたまたまマニアと交流があっただけだ。 そう思いたい。
「……過去を話さなかったら奏士がこの前2回も私の着替えを覗いたことを言いふらす」
「俺は事故だと何度も言っているだろ」
「……事故は事故、被害は被害」
「クソが」
奏士は相変わらずの口の悪さだが、全部紅葉の胸の下から聞こえるのでどこかコメディに思える。 ちなみに頭はちゃーんと優しい優しい紅葉さんが撫でている。
「……奏士にしては珍しい」
「何が」
「……今までの奏士なら、中に人が居るかどうかは分かって回避する」
「…………」
そう、これまでの奏士なら扉の向こうの気配位簡単に察知して問題回避をする。 だと言うのに、2回もできなかった。 それは何故か。
「なんだかなぁ……俺も大分訛ったのかね。 最近お前の気配を感知するのが難しい」
「……?」
「あまりにも長く居すぎて逆に自然なモノみたいになっちゃったのか、それともお前が気配を溶け込ますのが上手いのか知らんが」
「…………」
紅葉なんだか納得している。 確かに、思い返せば大体奏士と居る。
という事は、あの奏士が他人を受けいれたのだろうか。 その事が紅葉はちょっとだけ嬉しい。
「そうだ、いっそ数日離れるか。 紅葉、金出すから近くのネカフェかホテルか誰か友達の家に泊まれ。 確かめたい」
「…………ꐦ」
紅葉はすぐにアイアンクローに切りかえた。 今度は力一杯掴んでいるからか、奏士の頭部がミシミシと悲鳴を上げている。 本体もあげている。
「……なんだ? 俺に出てけって言うのか? 家主が家を追い出されるとか言語道断だぞ」
「……全然違う」
でもいちいち訂正するのが面倒なのか、紅葉は黙った。 奏士は乙女心を知っていても理解はしない。
「……どうしても昔のことは言いたくない?」
「何度も言う。 絶対言わない」
「……」
どれだけ話を逸らしてから切り替えても奏士は首を縦に振らない。 いや、この場合は寝ているから横か。
「……じゃあ、奏士が自分から言わせる」
「は?」
「……奏士が自分から言いたくなるようにする」
「……お前何する気だ」
奏士の不安を他所に、紅葉は決意する。 絶対に、奏士の口を割ってみせる、と。
「……明日からが勝負」
「え、ダルっ」
「…………」
「スグそうやって暴力に訴えかけるの悪い癖だぞ」
「……慣れられた」
再び奏士の頭を掴んで力を加えたが、3度目ともなると奏士も涼しい顔。 いや、よく見ると額に汗が浮かんでいるし身体も震えている。 純粋な痩せ我慢だ。
「わかったわかった。 周りに迷惑かけないなら相手してやる」
「……約束」
殆ど一方的に指切りをして、紅葉は立ち上がってカバンを取る。 その際、膝の上の奏士は床と熱いベーゼをしたが今の紅葉にはどうでもいいことだ。
「……絶対に振り向かせる」
紅葉はそう言って先に生徒会室を出た。 戸締りは────合鍵を持っている奏士に任せたのだろう。
「……その台詞は誤解されないか?」
一方、奏士は近くに居るであろう千聖がアレコレ記事を書きそうだと心配していた。 何故こいつは目の前の女の子より見えない少女への心配をしているのだろうか。
「……帰るか」
面倒な事になったことを少し後悔しながら奏士も生徒会室を出る。 明日からが心配だが、とりあえず今日は重政をモフって癒されよう、と。
そして後日、奏士はこの選択を後悔する。 あの時拒否しておけば、あんなことにならなかったのに、と。
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「おーい、詫びの菓子を────あれ、閉まってる。 帰ったのか? それとも中でHey情事か?」
中々にタイミングの悪い、も助であった。 なぜ最後をペニ○ワイズっぽくしたのかは謎だが、も助も奏士時空に片足突っ込んでいるので恐らく伝わる者は誰も居ない。
はいどーも戦争と確定申告が嫌いな作者です。 今年も無事討伐しました。 二度と復活しないでほしいですが、何故か11ヶ月~1年周期で復活するので恐ろしいです。
それはそうと、今回は前回言った通りに佳境に入ります。 気が付いたらそろそろ√始まってから1年経とうとしていたとか怖いですね。 殆ど進んでない私の計画性の無さとかが。
では深夜でお腹すいたのでこの辺で。 次回もお楽しみに。




