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黒烏と剣術と妹道

翌日


「号外! ごうがーい!」


新聞部が何やら記事を配っている。 掲示板には他の書類を押し退けてほぼ占拠状態だ。


「ちょ、この騒ぎ何!?」


「わぁ〜 みんな集まってる〜」


あまりの騒ぎに皐月と遥は立ち止まる。 放課後だと言うのに、学生の密度が凄まじい。


「Heyチサト! これはなんの騒ぎデスか!?」


そして久しぶりの登場ベル。 予測変換が忘れてなくて嬉しい。 消しても消しても自我が復活するとかホラーかな?


「あ、ベル先輩! 号外です号外! ビッグニュースです!」


そう言いながら千聖は持ってる記事を1枚ベルに渡す。


「一体何事デスか……」


「どれどれ〜?」


「ちょっと、私にも見せてよ」


記事を覗き込む3人。 そこには大きな文字で

『決闘! 生徒会副会長 VS 剣道部主将! 生徒会長を取り合って男の鍔迫り合いか!?』


「「…………は!?」」


「わぁ〜」


──────────────────────────────


…………ギャラリー多くない?


ねぇ、ギャラリー多くない?


俺、紅葉と剣道部顧問以外に今日のこと言ってないし、顧問にも今この瞬間まで主将には言わないでおくことを約束したはずなんだがなぁ……


てことは


「おーい頼金ー!」


「はいはいなんですか?」


うわ呼んだら出た。 怖


「お前、どこから得た?」


「ふっふっふっ……記者の卵を舐めないでください。 面白そうな事があるならたとえ火の中水の中草の中」


「プライバシー侵害でお前檻の中な」


「せめて森の中でお願いします」


ったく……良くも悪くもやってくれやがって。


「……奏士」


と、ここで記事では景品になってる紅葉さん登場。 なんで俺が紅葉取り合わなきゃならんのか、捏造した新聞部を訴えたいですね。


「……本当に大丈夫?」


紅葉ちゃんまーだそんなこと言ってんの? 大丈夫だって。


「大丈夫大丈夫。 めっちゃ大丈夫」


「……語彙力はダメそう」


「うっさい」


今俺は「今夜の夕飯を素麺にするか冷麦にするか」考えてるんだから仕方ないだろ。 ちなみに麺の太さ以外これといった違いは無い。 でも色付きか否かで価値が変わる。


「実際、先輩勝てるんですか? 相手はあの剣聖ですよ?」


「……え、なにそれ」


なぁにそのかっこいい二つ名。 俺なんか全ての異名がバカにしてるのに。


「かの有名な刀匠の元に生まれ、生まれた頃から剣と共に生き、箸よりも早く剣を握ったと噂される。 幼い頃から数々の大会で圧勝し、その強さと太刀筋から『剣聖』と呼ばれるようになりました」


「……勝てる?」


「……異名バトルなら俺の大敗だよね」


「まぁ先輩の二つ名って『身体がラーメンの代わりにうどんでできてるオタク』とかですもんね」


俺が知らんうちにまた変な二つ名増えてるんだけど。 てか何その二つ名。


「ほら、先輩ラーメン4うどん6のうどん派じゃないですか」


「いや知らんわ」


自分でもそんなの意識したことないわ。 両方好きでいいじゃん。


「では、両者準備を」


審判役に呼ばれちゃった。 さーて奏士くんお仕事しちゃうぞ〜


「……無茶しちゃダメ」


「安心しろ。 五体満足無傷の完勝してきてやる。 今夜は無駄に余った冷麦を消費するぞ」


「……かき揚げもあると嬉しい」


「はいはい。 んじゃ」


今なんかフラグ立てた気がするけど、まぁへし折っときゃ大丈夫か。


「先輩! 剣聖相手に剣の勝負を挑んだってことは、何か作戦があるんですよね!」


頼金が何やら変なことを抜かしおる。 最後の最後に……


「はあ? 作戦なんてそんなもんある訳ないだろ。 昨日からなーんも考えてないぞ」


昨日の夜とかまじで思考停止で色違い厳選してたからね。 結果は聞かないでください。


……くぅっ


「……無謀な特攻」


「んなわけあるか」


俺はいつだって安全な賭けしかしたくない。 勝てる勝負だけ挑みたいんだ。 そしてなるべく痛い思いしないで勝ちたい。


「策がどうとか言ってっけど、逆に聞くぞ? 象が蟻踏み潰すのにあれこれ考えると思うか?」


答えは簡単。 何も考えてない、だ。 そもそも蟻の顔すら見てない。 つまり俺は相手の顔を見ちゃったから象じゃない。 じゃあ象さんを増産してマンモスにならなきゃ。 理論が理解に苦しむ。 さては寝起きで書いてるな?


「……分かった」


「バイビー」


さぁ〜て、奏士くん久しぶりに無双しちゃうゾ


────────────────────────────


「ちょっ、あれ本当に大丈夫なんですか!? 先輩まーた適当ぶっこいて負けますよ?」


「……でまかせじゃなかった」


「……はい?」


「……今回の奏士は虚勢じゃなかった」


「えぇ……あれがぁ?」


────────────────────────────


「さて、こんなギャラリーの多さは俺も予想外で困惑してるんだが……時間を取らせて悪いな」


「いや……生徒会の監査なら仕方ない」


相対する部長さんはどこか気難しい……と言うより、とんでもなく不機嫌なご様子。 それでも責務は果たそうとする当たり、責任者気質ではあるのだろう。


「だが、監査と言えど正気か? 俺に剣の勝負を挑むなんて」


「正気も正気、正気ングだ」


まぁこんなこと正気で言えるわけないけどな。 毎日が狂気でクソブラックな生徒会です。


「取り消すなら今だぞ。 悪いが、勝負を受けた以上、全力で潰す」


「おお怖い。 今更取り消せるなら取り消したいところだが……」


こんな観衆の前で「やっぱヤダ!」とか言えないし、何より取り消す理由も無い。


「ま、やるだけやってみる。 ここで逃げたらウチの怖い怖い会長サマが地の果てまで追いかけてボコボコにしてくるからな」


顔とかキュビスムかってくらいボコボコにしてくる。 紅葉さんは急所を狙うのに躊躇いが無いんだ。


「そうか……」


そう言うと部長さんは目を閉じる。 お、なんか雰囲気が変わった。


「後悔はするなよ」


目を開いた部長さんはもうすっかり剣士の顔。 ヤーダもう殺意マシマシ。


「おっと言い忘れてた。 ルールなんだが……悪いが剣道のルールだとかマナーをよく知らなくてな。 こっちで組ませてやつで良いか?」


「何?」


剣道の基本的な奴は知ってるけど、やっぱ剣道やった事ないし俺には礼節も矜恃も何もあったもんじゃない。 俺に剣道、というか武道は合わん。 武術の方が相応しい。


「勝負は簡単。 獲物はこの竹刀のみ。 だから殴る蹴るの行為は禁止だが、手で竹刀に触れる等の行為は問題無し。 勝敗も単純、先に降参した方が負けだ」


要するに剣道じゃなくて剣術試合だ。 チャンバラとも言う。 獲物が竹刀な分、危険度はちょい高いが。


「簡単でいいだろ? 【剣聖】なんて呼ばれるくらい剣が好きなアンタなら、ルールとマナーで縛られないで剣を振るう心地良さが分かると思うんだがな」


言うてあっちが乗らなかったら俺ボロ負けするんですけどね。 俺が勝てるのはこうやって自由な時だけ。 自由形の時だけ強い水泳選手みたいなやつだ。


「……いいだろう。 【剣聖】に剣で喧嘩を売ったこと、後悔するなよ?」


おー怖。 自分で二つ名名乗っちゃう当たり気に入ってるの? ねぇねぇ気に入ってたりするの?


「そんな最近の米より安い喧嘩を売った覚えは無いんだがな……受けてくれて感謝する」


よーしこれで俺の勝ち確だ。 奏士くんもたまにはカッコイイところ見せてあげないと読者が誤解する。 数年やってて誤解されてんなら違うと同義とか言ったら泣く。


部長さんは面を着けて準備万端。 さーておいっちにーさんしーごーろくしちエイト


「……どうした。 早く防具を着けろ」


あんらもう部長さんってばやっさしー でも声怖ーい。 そんな殺意マシマシだと折角のイケメンが台無しだぜ? 今面着けてるから顔見えないけどな。


「あぁ、俺は制服このままでいい。 怪我とか考えないで遠慮なくぶち込んでいいぞ」


あまりの発言に少しだけ周囲がザワつく。 剣道を知ってる者はその無謀さに、知らないものはその啖呵にかね。


「……悪いが、手加減はしないぞ」


「こっちは手加減してやる。 ほれ、さっさと始めるぞ」


流石にこの煽りに反応するほど部長さんもあまくない、か。 でも微かに眉が動いたのを俺ちゃんの眼は見逃さなかったぞ。


「本当に宜しいですか? 竹刀とは言え、当たれば骨折の可能性もありますが」


「あぁ大丈夫です。 どうせ当たらないんで」


審判さんに軽く返して竹刀の確認。 よし、変な仕込みはされてない。


「……では、これより親善試合を始める! 両者、構え!」


「……治療費を出す気は無い」


部長さんは剣道じゃないからか、正眼ではなく深く踏み込み、竹刀の先端をこちらへ向ける。 なるほどなるほど……


対して俺は完全無防備。 愚者の構えでもなく、カウンター狙いでもない。 正真正銘の無防備。 竹刀とか持ってるだけ。


「それでは…………始めっ!」


「っ!」


試合開始と同時に部長さんの鋭い踏み込み。 速い。


一切の迷いの無い素早い動きは電光石火。 振るう竹刀は雷光。


瞬きの間、竹刀の切っ先は既に喉元に狙いを定め、鋭い突きが迫る。


一瞬で決着を付けようって魂胆か……当たれば生身なら首の骨が折れるだろう。 流石に寸前で止めて降参狙い。


防具を着けてる試合でもそれなりに危険の伴う突き技。それを生身の相手に使ったことに、審判も、周囲の人間も止めようとするが、余りの速度に身体が反応に追いついていない。


そして突きが俺の喉に触れる直前────


「っ!?」


半身をずらしてヒョイっと避け、逆に竹刀を相手の顔の寸前に添える。


「くっ!」


流石と言うべきか、部長さんは竹刀が面に当たる前に急停止し、後ろへ飛んで避ける。


「なんだ避けるのか……『剣道なら俺の1本だな』とか言おうと思ってたのに」


残念だ。 究極のカウンターカマしてドヤろうと思ってたのに……


「ま、当たんなかったのは残念だったが……次を狙えばいいか」


どうせまだまだ時間はある。 試合時間も無制限だし、相手が折れるまでチャレンジチャレンジ。 チャレンジ学園2年生! あ、俺3年生か。


「つーわけで、どんどん打ち込んでこい。 まぁ安心しろ。治療費くらいは出してやる」


──────────────────────────────


「せぇやぁぁぁっ!」


流石【剣聖】、動きが速けりゃ立ち直りも早い。


右横、左下、上からの下、突き……を避けるのを想定しての横薙ぎ。 恐ろしい速さと鋭さで縦横無尽に襲いかかる剣の嵐だ。


俺はそれら全てに対応していく。 避け、捌き、受け流す。


「はぁっ!」


「おっ、今のは良い入りだ。 これは対処が面倒臭いぞ」


「黙れっ!」


部長さんの動きは見事と言う他無い。 二つ名に疑い無しの腕前。 流石【剣聖】だ。


「ほらほら、焦って攻めると胴が甘くなるぞ。 試合ならもう6本は取られてるぞ」


「うるさい!」


部長さんの口調は荒くなるが、剣線は打ち込む事に鋭くなる。 これまで身体に染み込ませた経験が無意識でやっているのか、それとも口は正直でも頭は冷静なのか。 どっちにしろ面白い。


「はっ!」


部長さんの横薙ぎを飛んで避ける。 防具ならともかく、制服の身軽さだからこそなせる技だ。


「甘いっ!」


俺が空中で動けない隙を部長さんは逃さない。 僅かな滞空時間だと言うのに、一瞬で6回の剣線。


「読めるっての」


流石にわざとらしい横薙ぎだったからあえて乗って見れば、わかりやすい空中狙い。 本当にこんなんで剣聖なのかとだんだん疑いたくなってくるぜ。


確かに俺は空中で動けないが、竹刀に竹刀を合わせるくらいはできるし、手足は動く。 空中ならワザと竹刀を当てて身体を回転させて受け流せばいいだけだ。


「ほら足がお留守だぞ。 再配達はしないからな」


軽く足元を竹刀で小突くと、部長さんは大きく後ろへ飛ぶ。 クロスレンジの戦いだってのに大きく距離とって……


まさか出るのか? その竹刀から飛ぶ斬撃とか出るのか? おーちょっとワクワクしてきた。


「せいやァァっ!」


残念ながら俺の望みは叶わず。 部長さんはまたもや正面特攻。


「それはもう飽きたんだがなぁ……」


避けるのも受け流すのも面倒になって受け止め作業に入る。 部長さんは両手、俺は片手。 竹刀を持つ手の本数分力の入りに差が出るが、そこは筋力と体格差でカバー。 俺ちゃんの筋肉は見世物だけじゃないってね。 あと忘れがちですけど身長180cmありますし。 嘘です179.9です。


竹刀の形状が片手持ちに適して無いから回転率はお互い同じくらいか。 言うて俺の方は極力動かさないようにしてるし、攻める気も無いから回転率が落ちるのは必然。


「はァァァっ!!!」


部長さん、渾身の振り下ろし。 お、これは少し重い。


そのまま、部長さんは押し潰すかのように竹刀を押し付ける。 このままでは流石に負けちゃうかもなー


────────────────────────────


「なぁ悠。 さっきこんなもん貰ったんだが」


「あ? なんだそれは」


「なんか奏士が面白そうなことするらしいぞ。 剣道部の部長と剣の試合だってさ」


「……何をやってるんだあいつは」


「止めなくていいのか? ウチの剣道部って、確かクソ強いとか聞いたぞ」


「ん? あぁ、要らんだろ。あんなでも剣を握って10年越えだ」


「あれ、もうそんな昔か」


「それに、奏士の事だからあれこれ理由つけてルールを削ぎ落としてるだろ。 細かいルールの無い戦いなら奏士は負けん」


「それもそうか。 あ〜俺も見に行こかね」


「も助、お前は仕事しろ」


「えー」


──────────────────────────────


「ぐっ、重ッ!?」


「あのなぁ……これまでの打ち合いで純粋な筋力の差が分かってるだろうが……そんな相手に鍔迫り合い挑むなよ」


例えやる気が無かろうと、純粋な力なら俺の方が部長さんより強い。 部長さんの体格も中々の者だが、所詮剣道用の筋トレ。 喧嘩用には作られてない。


対して俺は最高にかっこいい身体を目指した魔改造型。 その中には「戦い」も含まれている。 要するに地力が何もかも違う。


「ほら、もっと凝ったやり方をしてみろ。 まだまだ時間はあるぞ」


ワザと強めに払って距離を取らせる。 奏士くんのお仕事はまだまだ続く。 この部長の鼻をへし折ってさらけ出させないと。


「まだまだァ!」


「諦め悪いなぁ……」


良くも悪くも精神の強い部長さんは折れずに何度も攻めてくる。 時に正面、時に技巧、時に力任せ。 これだけありとあらゆる手を使われると逆に対処が難しいね。


「はっ! ふっ! はぁっ!」


「はいはいはい」


ちょっとやってみたくて、打ち込まれる竹刀全てを竹刀の先端で受け止めてみる。 これあれだな、竹刀の鍔に手が当たると衝撃がモロに来るから痛いね。 まぁ逃がせば問題無いか……


「す、すげぇ……」


「流石【剣聖】、動きが速い」


あれー? なんで俺への賞賛の声が聞こえないのかな? もっと褒めてくれてもいいんだよ?


「クレハ、今のソージって……」


「……ついでに遊んでる」


「うわあ……」


「性格悪いわね」


「でも〜 言った通り1回も攻撃されてないよ〜」


よーし遥さんナイス! みんな俺のこと非難するから褒めてくれるのは君だけだ!


……いや褒められてるか?


「余所見をするなぁ!」


「あぶね」


考え事してたらめっちゃ目前まで竹刀が迫ってた。 危うく当たるところだったぜ……


「悪い悪い。 ちょっと今日の夕飯の献立を考えててな。 麻婆豆腐と麻婆茄子で迷ってるんだが、どっちがいいと思う?」


「そんなこと知るかァ!」


「カリカリしちゃってもー」


ふと観客を見れば、紅葉は豆腐派らしい。 白旗フリフリして応援してるから。 毎度毎度思うけど応援する気無いよねあれ。


でもベルは麻婆茄子派かぁ……どうしようかな。 両方作ると味がなぁ……


「あ、ここは間をとって麻婆春雨にしよう」


「試合中に無駄話をしやがって……バカにしているのか!」


「いやぁ集中しなくても余裕で勝てそうだったからまぁいいかなって」


だって今のところ俺1歩も動いてないし。 ジャンプした時も元の位置に着地したからセーフ。


「それよりほら、もっと来いよ。 そんなもんか?」


「舐めるなぁっ!」


再び四方八方からの打ち込み。 死角から来る攻撃は避けにくいから竹刀で止める。 あ、帰りに醤油買って帰らないと。


「息が上がってるぞ。 もうお疲れか? そろそろ休憩とるか?」


「そんなものは要らんっ! その前にお前を倒してやる!」


「絶対無理なのに……」


この部長さんが観客を狙うならともかく、俺だけに攻撃するならどう足掻いても勝ち目は無い。 というか観客の9割が名前知らない他人だから狙ってもねぇ……俺が助ける義理は無い。 流石にベル達狙われたら攻撃逸らすくらいはするかもしれない。


紅葉? 多分俺がなにかするよりよ早く余裕で避けて反撃するから意味無い。 防具貫通するんじゃないかな。


「はいはいまた鍔迫り合いか? 好きだね〜鍔迫り合い」


どれだけ力を込めても俺を動かす程じゃない。 部長さんは所詮お山の大将だった訳だ。 剣道じゃないからそうと言いきれないが、少なくとも【剣聖】の二つ名は返上するくらいの無様さだ。


「そろそろ暇潰しも飽きたし、仕事するか……」


「何の話だ!」


部長さん声デカイ。 さっきから大声出しすぎ。 耳痛くなるわ。


「なぁ部長さん。 あんた何か悩みがあるだろ。 とびきりの悩みだ。 うん、すげぇ深刻でデッカイ悩み」


「そんなものっ……ある訳ないだろ!」


「ここまで打ち込まれて分からないと思ったのか? 動きは口より雄弁だぞ?」


「……ぐっ」


というか、昨日1日部長さんのこと見て大体のことはわかったしね。 だから余裕もって剣戟に対処出来る訳だし。 まぁ見てなくてもこれなら即興で対応出来る。


「そうだな……とても身近、それも大切に思ってる……異性だな。 付き合いは……多分長め。 生まれた頃からか? 随分と仲良いな」


「黙れっ!」


部長さんの口だけは達者。 だが、鍔迫り合いから逃げようにも上から押さえつけているから下手に動くと足を怪我しかねなくて鍔迫り合いは続行される。 やり返しだ。


「異性関連の悩み……となると恋か? 部長さんじゃないな……相手側の恋か。 いや、異性だから『その異性が知らない男と歩いてるのを見た』とかか? どうだ図星か?」


勿論、これは嘘八百超えて嘘八百万だ。 それっぽいこと言って自分から吐くのを待ってるだけだ。


「ほれ、折角だから吐いてみろ。 どうせ観客には打ち合いの音で聞こえん」


ここに来て無駄に打ち込まれる竹刀の音が役に立つ。 プライバシーは極力配慮しないと。 これ俺が言うと皮肉になるな。


「それはっ……」


「安心しろ。 人には言わないでおいてやる」


言う相手もいないしね。 ここに来て俺の友達不在設定が役に立つ時が。 おい誰が設定だコラ。


「妹が……」


「お?」


部長さん、ここに来て火事場の馬鹿力発揮。 ギリギリで鍔迫り合いから抜け出して後ろへ下がる。


「妹が男と街を歩いていたんだ!」


そして再び打ち合い開始。 相変わらず俺視点だと単調な動きだ。 話しやすいようにあえて落としているのかね。


「しかもチャラそうな金髪日焼けだぞ!? 心配しない訳ないだろ!」


お、ペースが変わった。 怒涛の連撃に奏士くん驚き。


「妹に聞いてみても変にはぐらかすだけで何も言わない! 俺はどうすればいいんだよ!」


ふむふむなるほどなるほど……部長さんの悩みはよぉーくわかった。


んじゃ、真面目にお仕事するか。


「紅葉、今何時だ」


残念ながら死角にある時計すら読めるほど俺は万能じゃない。 ちょうど観客に紅葉が居たし、使えるものは使おう。


「……16時半」


「そうか」


つまりそろそろ時間だな。 よーし本領発揮しちゃお。


「ほいっ」


「うおっ!?」


あえて強めに払って距離を取らせる。 少し危ないからね。


ちゃんと安全な距離を取れたことを確認して、俺は制服の裾を捲ってシャツのボタンを外す。


「な、何をしている?」


「ん? あぁ、そろそろ筋トレ終了時間だから外そうと思ってな」


「き、筋トレ?」


まぁ見てなさんなって。


「よっこいせ」


身体に着けた重りを外していく。 重りが剣道場の床に落ちる度に「ドスン!」と鈍い音が響く。


「よし、軽くなった」


「なっ……」


床に積み上がった重りの山に部長さん驚愕。 あ、なんかギャラリーもザワついてる。 ちょっとドヤっとこ。


「……いつの間に」


「なんだ紅葉。 あれだけ人の事連行しておいて気付かなかったのか? 学園にいる時は常に付けてるぞ」


「ハイハーイ! それ何キロデスかー?」


「両手足に各15キロ、胴体に40キロ」


「えーとえーと……つまり合計で?」


「……100キロの重り」


「馬鹿なの?」


えーなんか皐月さんから馬鹿呼ばわりされた。 恋愛馬鹿のくせに。 禍塚とはどこまで行ったのか聞くぞコラ。 Aか? Bか? Cか? ちなみにAはア○ル、Bはバブみ、Cはチャイルドだ。 なんで既に初体験は終えてる前提?


流石の重量にギャラリーのザワ付きも大きくなる。


でも内訳が俺の重りより「アレの重さを毎回平然と持ち上げてる会長って……」の割合が大きい気がする。 また他人の評価を上げちまったぜ……


「つー訳で、こっからは少し相手をしてやる。 さっきは治療費出すとか言ったが、やっぱ面倒だから怪我しない程度に頑張れ」


「は? いや────っ!」


俺氏、この試合初めて動く。 部長さんが言い終わる前に懐へ潜り込んで重心をズラさせる。 一瞬で迫った訳じゃない。 意識の狭間を突いただけだ。


「ほいっ」


「ぐっ!」


そのまま速度を乗せて切り上げる。 あ、ギリギリで防がれた。


「よく受けたな。 次も頑張れ」


「こいつっ……バトル漫画みたいな変化しやがって!」


さっきまでの意趣返しと言わんばかりに部長さんに切り込む。 ちゃーんと手加減はしてあげながら。


「はい胴! 上と思ってたら横! また横に来ると思ったら力押し! ほらまた足元が疎か!」


「ぐっ、ぐぉぉぉぉっ!!!」


既に試合なんてもんじゃない。 力の差は歴然。 これはもう蹂躙に他ならない。


「どうしたどうした! 【剣聖】の実力はそんなもんか!?」


「ぐぁっ!!」


部長さんは防戦一方。 次から次へと絶え間無く襲いかかる剣線を脊髄反射で捌くので精一杯。 しかも、襲いかかる剣は一撃一撃が自分のより重く、速い。


「……強えぇ……」


「部長……」


観客もあまりに一方的過ぎて先程までの声援を止め、微かに声を漏らすのみ。 いやー気持ちいい。 この無双気持ちいい。


「ほらほらほらぁ! そんな体たらくじゃ大事な妹を守るなんて戯言だぞ! どこの馬とも知らない男に盗られてもいいのか!」


「そ、そんなの……そんなの良い訳ががあるかァァァァっ!!!」


最後の力だと言わんばかりに防御を捨てた攻勢。 ヤケになったか?


「兄貴の先輩として教えてやる! どれだけ大切な妹だろうといずれ兄の元を離れちまう! 」


この世界はみんな優しいエロゲーの世界でも、ラノベの世界でもない。 実の妹と結ばれるなんて九分九厘ファンタジーでしかない。


でも、だからこそ兄貴の仕事がある。


「そんな妹に恋人ができた時、兄貴の仕事は3つだ! 耳の穴と目ん玉かっぽじってよーく聞け!」


「ぐはっ! 目ん玉かっぽじる意味は何だ!」


「ひとぉつ! 大切な妹が恋人を紹介するまで妹を守る!」


「ごぶっ!」


見事な袈裟斬りが入り、部長さんは思わず膝を着く。 そこからでも一瞬で体勢を戻す技量は見事。


「ふたぁつ! 妹の恋人が相応しくないと思ったら全力で止める!」


「うごっ!?」


次は鋭い突き。 丁度胸骨ど真ん中へジャストミート。


「みっつ! 最後は笑顔で迎えて恋人に全てを託す!」


「ぐ、ぉぉぉぉぉっ!!?!?」


部長が受け止めたのも束の間、力押しに負けて胴薙ぎを食らう。 この一撃は重い。


「あ、もう1個あったわ。 恋人に託した後も陰ながら妹を守る!」


「ぐふっ!」


既にフラフラな状態でトドメの一撃を受けた部長さんは大きく飛ぶ。 俺この試合で何本取ったかな。


「4つに増えたけど以上だ。 覚えとけシスコン初心者ヌーブ


決まった……今の俺最高にカッコイイ。 防具無し無傷完勝とか最高だね。 髪型も若干剣士っぽいのもグッド。 切らなかった髪がここで役に立つとは……今回色々役に立ってんな。


「そ、それでも……」


「お?」


もう立つ力も残って無いだろうに、部長さんは竹刀を支えに何度でも立ち上がる。 その底力は賛美したくなる。


「それでも俺は認めんっ! あんなチャラ男に妹をやる訳にはいかん!」


「……拍手喝采だな」


最後まで意地でも折れようとしない。 何だこのシスコンは。 おまいう。


「そこまで言える幸せを噛み締めながら倒れろ。 この際だ、治療費に加えて大会も代わりに出て優勝してきてやる」


「ふっ……やってみろ……」


防具越しでも分かるボロボロ具合。 それでも眼は死んでいない。 力と技で負けようと、決して折れず曲がらず歪まない心が【剣聖】たる所以、か。 この点においては負けだね。 俺の意志とかぐにゃぐにゃだぁ。


「んじゃ、これで勝ちだ」


俺は漫画の悪役じゃない。 無駄話して時間を稼がれるなんてことはしないし、最後の手向けで時間のかかる技を繰り出すなんてことはしない。 手早く片付ける。


「はっ」


超至近距離まで近付き、全力で竹刀を振り下ろす。 最後は面で締めようなんて考えず、最短で袈裟斬りを。


「お兄ちゃん!」


「──っ!」


「ぬっ」


何者かの声がした途端、部長の身体に力が戻り、最後の一撃を受け止められる。 こいつ、まだこんな力を……


「帰ってこないと思ったらまた剣道して……今日は大事な話があるから授業終わったら早く帰るように言ったでしょ!」


声の持ち主、謎の小柄な少女は試合中だと言うのにつかつかと俺と部長の間に割って入り、部長さんの面を取る。


「あーもうほんと汗まみれだし臭いし……ほーら! 早くシャワー浴びて、着替えて! もう時間無いよ!」


「え? は、はぁ?」


「すみませんウチの兄がとんだ失礼を……ほら、お兄ちゃん自分で歩いて! 防具重いんだから!」


「お、おい! 今試合中で……」


「それで? 私は先に約束したよね?」


「は、はい……」


さっきまでの死闘はどこへやら。 あっさりと妹らしき少女に言いくるめられた。 それでこそシスコンだ。


「ではここで! 後で兄に謝罪させますので! それでは!」


「うぐっ! 待てチー! そこ掴まれると首が締まる!」


「なら自分で歩いてよ! ほらそんな幽霊みたいにゆっくりしないで!」


「分かった! 分かったから! すまない副会長! 話の続きはまた明日!」


「……え?」


その言葉を最後に道場から部長さんの姿は消え、あたりは静寂に包まれた。


え、これマジでどうなんの? 俺は何をすれば?


恐る恐る審判に聞いてみる。 流石に俺の勝ちですよね? だって明らかに俺の勝ちでしたもんね。 あれから部長が勝つのは不可能ですもんね。


「あの……これ勝敗どうなります?」


「本来ならば不戦勝……だが、特別ルールには『降参のみ負けとする』とある。 よってこの試合は無効! 解散!」


「「「………えぇぇぇっ!?!?!!?」」」


──────────────────────────────


後日、あの兄妹が謝罪に来た。 話を聞くと、要は部長の勘違いだったそうで、あの色黒金髪は彼氏でもなんでもなく同じマネージャーで、あの日は部活の備品買い出しだったそうだ。


……俺、仕事損じゃね?


「みんなすまない! 俺が不甲斐ないばかりに迷惑をかけた!」


あの後部長は剣道部の皆にも頭を下げていた。 非を認めて頭を下げれる人って素敵だと思うよね。 どう思います紅葉さん。 君はよく俺に責任転嫁するけど。


「未来もすまない。 苛立っていたとは言え、お前には怪我をさせた」


「頭をあげてください部長! 俺が訛っていたのは事実です!」


未来さんは「それに」と続ける。 今更だけど未来さん下の名前何?


「部長のおかげで自分を見詰め直す機会ができました。 またこれから俺たちを引っ張ってください! 貴方は俺達の希望なんですから!」


「そうですよ! 貴方が指導してくれるから俺はあの試合に勝てたんです!」


「それなら俺だって!」


「私も!」


「俺も!」


次々に声があがる。 心から慕われていたからこその信頼と感謝。 ますます俺の惨めさが浮き出るね。


「み、みんな……あぁ! これからまた始めよう!」


「「「押忍!!!」」」


なーんか爽やか青春スポコンみたいな感じになってる〜 俺そういうの苦手だから早く帰りたい。 でも紅葉にがっちり掴まれてて逃げらんない。 くそぅ! ついさっきまで圧倒的な力で無双してたはずなのにどうして……


「副会長!」


うわこっち来た。 やめて俺に話しかけないで余りの爽やかさと眩しさに目が痛くなる。


「昨日はすまない。 そしてありがとう。 お前のおかげで目が覚めたよ」


「お、おおそうか」


笑顔が眩しいぜクソが。 こいつの顔をもう一度ボコボコにしたい。


「それでよかったらなんだが……」


お?なんだ嫌な予感がするぞ?


「是非剣道部に入ってくれ! 昨日実際に受けてわかる! その腕は間違いなく世界を狙える!」


「嫌です」


もう一度言う。 俺は武道と相性が悪い。 こんな喧嘩殺法が武道で通じると思うか?


「頼む! そして俺の師匠になってくれ!」


「もっと嫌」


「……大事な副会長を渡す訳にはいかない」


幸か不幸か、紅葉が守ってくれたから俺は剣道部に入らずに済みそう。 なんか自分が情けない。


「そうか……なら無理強いはしない。 でも、時々剣道部に顔を出してくれ。 いつでも歓迎するぞ」


「……時、時間と機会があればな」


「あぁ!」


もう俺の目は焼ききれました。 この部長いい人すぎるよォ……何この剣道の申し子。 今更ながらあそこまでボコボコにした事に罪悪感が……


「……これで解決」


「問題無しっと……」


手元の用紙に書き込む。 コレで監査は粗方終わったかな。


「あとどこが残ってる?」


「……料理部と食戟部とゲテモノ研究部」


「統合しろよその3部」


ほぼやってる事同じじゃねぇか。 いや、平和度が違いすぎるから分けた方がマシか? てか何食戟部って。 どこの料理学園だよ。 いや料理学園にもそんな部活ねぇよ。 あれ学園全体がそうだし。


「……さっき見た限りだと問題無かったから行く必要は無いと思う」


「そうなん?」


「……食材は自己負担だから部費も光熱費くらいしか無い」


それもそうか。 料理系に部費使ってたら食費えげつないし、ゲテモノはそれなりに高いからな。ある意味妥当。


「……奏士は先生にその書類を出してきて」


「お前は?」


「……先に生徒会室に戻ってる」


ははーんさてはサボりだな? 俺に仕事押し付けようって魂胆だな? 上から水落ちてきて全身ずぶ濡れになればいいのに。


「……じゃ」


紅葉はそう言ってスタコラサッサと先に行きやがった。 先生に渡すって。どの先生にだよ……


まぁも助にでも渡しとけば大丈夫だろ。 あいつ一応生徒会顧問だし。


はぁ〜つっかれた。 頼むから紅葉に小さい不幸が訪れますように。 って、神頼みするくらいなら俺がやるけどな。

でも手を汚したくないから無関係の誰かがやることを祈る。


──────────────────────────────


「たでーまー」


「…………」


「……今日はピンクか。 いやマゼンタか? どっちにしろ俺になんの得も無いのにこんな仕打ち……お前もうさぁ……ホント最悪だ。 唯一の救いはお前が全身ずぶ濡れになった事くらいか? 対価としちゃ見合わんだろ 」


「……っ!」


その日、頬を打つ音が学園に響いたという。


てか待って、もしかしてマトモなラッキースケベ遭遇イベントってこれと前回が初? うわぁ嫌だ。 つーかラッキーでもなんでもないし。


総括 俺の首って、思ってたより動くんだなぁ……


はいどーも皆さんこんにちは

最近部屋で「孕めオラァ!」と叫んだら「孕めオラァ!」と上の階の人に返された作者です。 住んでる所、色々と薄いんですよね。 いやぁ怖かったです。 どっちがでしょうね。


そんなこんなで無事? 部活監査は終わりました。 奏士が久しぶりにマトモな活躍してるのに絶妙に腹立つのは何故でしょう。 それは多分私が奏士を好きじゃないから。 キャラとしては好きですよ? というか彼奴も私の事嫌いですし。


次回からはそろそろ佳境に入ろうかなって所です。 気が付けば3月ですよ3月。 このルート入ったのが去年の7月なので、結構時間経ちましたね。 果たして終わるのはいつになることやら。


それでは次回もお楽しみに。

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