白猫と黒烏と優しい思い出?
「ズズズ……落ち着いたか?」
「……多分」
突如暴れた紅葉の爺さん、もみ爺さんを一瞬で大人しくさせた紅葉婆の手際に戦慄。 お茶うま。
……大人しく(首トン)だけど、あれ老人にやっていいのか? てかあの婆さん何者? 首トンで大人しくさせるとか何者? 物理的に不可能だろ。
「ごめんなさいねぇ。 この人未だに根に持ってるみたいで」
「……奏士、何かした?」
「記憶にねぇなぁ」
やるとしたら俺じゃなくて俺の爺さん。 あの人は反感買いやすいから。 特に繁華街で反感買ってた。 それが言いたいだけ定期
てか、だとしたから袈裟まで憎いタイプであろうこのもみ爺さんに何をしたのやら。 頼むから孫に遺恨の処理させんなよ。 そういうのいこんよマジで。
「根に持ってる訳じゃないわ! アレはもう解決した件じゃ」
「……なら is 何故?」
なして俺は襲われかけたの? 誰かが止めなかったら救急車だぞ。 お前が。
てか復活早。 このジジイ意外とタフ。
「ワシはただ……大事な孫に手を出した不届き者を始末しようとしただけじゃ」
「すいません、遺産相続の話とかはもう済んでます?」
「……殺られる前に殺ろうとしてる?」
いやいやそんなはっはっは。
俺はただ、コイツ殺った後のことを心配しただけさ。 相続の話は持ち主の意見が大事だし。
「という訳で小僧、今度こそ去ね!」
「えぇ怖」
もみ爺さんの攻撃を軽く躱しながらお茶と菓子を堪能する。 ジジイにしては鋭い動きだが、日々鍛える俺の敵じゃない。
あと純粋に遅せぇ。 ジジイ基準なら速いけど若者基準なら遅い。 ほらもう息上がってる。
「はぁっ……はぁっ……」
自分の体力をガン無視した動きをしたからもみ爺さん激バテ。 早死するぞ。
「ぜぇ……ぜぇ……ゲホッ」
「あの爺さん今日死ぬんじゃね?」
「……まだお葬式の準備してない」
「紅葉!?」
孫にあっさり見捨てられた爺さんカワイソス。 涙と笑いが出てきちゃうね。 m9(^Д^)プギャー
「はいはいお爺さん落ち着いてください。 お茶飲んでお菓子食べて、それからゆっくり話しましょう」
「ぐ、ぐぬぅぅぅ…………」
もみ婆さんに怒られてもみ爺さんすげぇ悔しそう。 その顔が愉悦っ! 今の俺なら神父になれる。 もしくは秩父。 地名じゃねぇか。
……あ、お茶無くなっちゃった。
「……奏士も煽らない」
「煽った覚えは無い」
閑話休題 なんだか久しぶりな気がするね
それから落ち着いてお話あいましょうってことでね。 もみ爺さんも一旦牙を抜かれた。 俺はお茶の追加を貰えた。
「さて、どこから話そうかしら」
もみ婆さんがお悩み。 俺としてはうちの祖父、そう爺さんが何やらかしたのか詳しく聞きたい。
「……奏士のお爺さんと何があったの?」
どうやら紅葉も気になっていたらしい。 土下座と靴舐めで済む内容であってほしい。 慰謝料も考える。
「奏士くんのお爺さん、助蔵さんととウチのお爺さんは産まれた頃から一緒の大親友でねぇ」
「フンっ! あんなもん腐れ縁じゃ腐れ縁!」
「(ガン無視)凄く仲良しでねぇ……色々やりたい放題って言ったらアレだけど、とにかく自由な助蔵さんを抑えるのがウチのお爺さんの役目、みたいなところがあったのよ〜」
……いやホントすいませんでした。 ウチの祖父が長年迷惑かけたそうで。 祖父に変わって射殺します。 謝罪しろ。
「でもほら、ウチのお爺さんってこう、めんどくさい性格でしょう? だから、助蔵さんが仲を取り持ってくれたりと中和してくれたのよ〜」
「……ある意味バランス取れてる?」
「結果論っちゃ結果論」
お互い苦労したんすね。 じゃあ相殺ってことで謝罪取り消し。
「……それがなんでこんな風に?」
「ウチの爺さんに会えなくて寂しいとか……」
うわ自分で言ってて気色悪。 おっさんずは前例あるけどじいさんずは無いわ。
「いやいや、そんなんじゃ無いわよ〜」
向こうはケラケラ笑ってる。 もみ爺さんは相変わらず不機嫌そう。
「昔、ウチのお爺さんが2人くらいの時に助蔵さんと同じ女性を好きになったんだけどね、結果的に助蔵さんが勝ち取ったからその1件で因縁の相手になっちゃったのよ〜」
「……それって」
「振られた腹いせに相手の孫に八つ当たりする最低の所業」
ちなみにこれオブラート80枚重ねしてる。 無かったら規制音入るくらいのことは言える。
「だから違うわ! その件は解決したと何度も言っておろうが!」
おお、もみ爺さん開口。 唾飛ぶから大声出すな。
「確かにワシはあいつに負けた。 じゃが、後悔はしとらん。 アイツはアイツの家庭を、ワシはワシの家庭を持った。 それで終いじゃ」
「……惚気?」
「お前の婆さんニッコニコだぞ」
身内、しかも祖父母の惚気聞かされるって、今の紅葉はどんな気分なんだろう。 俺は普通にキツイ。
「ワシが言うてるのはその程度の話じゃなく……お前じゃ!」
ビシィ!っと指さされた。 おいジジイ人を指さすな。 折るぞ。
「……奏士?」
「……俺なんかした?」
「…………」
おや? どうして紅葉は残念そうな人を見る目で見るのかな? 俺は何もしとらんぞ。 せいぜい、心の中でちょいちょい煽ってるのと真正面から煽った事くらい。
「ワシの可愛い可愛い孫が……紅葉が進学のために家を出た。 ここまでは許そう!」
早速「話長くなりそうだから本題だけ言ってくんないかな」と興味を失ってる俺が通ります。 そろそろ帰りたい。
「じゃが! いつの間にか引っ越して下宿している上に下宿先があいつの家! しかも男と2人きり! 見逃せるはずがなかろう!」
途中の私怨を除けば至極真っ当な意見だった。 でも俺を指さすな。 俺は被害者だ。
「というか! お前いつんなったら挨拶に来るんじゃ! 預かってる者として最低限の礼儀とかあるじゃろうが!」
「……紅葉」
「…………」
「おいこっち向け」
はーいお話タイム入ります。 紅葉ちゃんはとりあえずお説教です。
「お前話が違うぞ」
「……ちょっと、何言ってるのか分からない」
紅葉は顔を背ける。 分身して全方位から目を合わせてやらうか。
「俺、お前に聞いたよな? 『お前の保護者に挨拶どうする』って」
「……記憶に無い」
「んで、お前こう返したよな? 『……家は遠いし、私の方から連絡入れたから挨拶は要らない』って」
「……声真似下手」
「誤魔化すな」
紅葉はのらりくらりのらくろと逃げるが、もう無理だと悟ったのか諦めて口を開いた。
「……異性と同じ屋根の下で生活してると引き戻されそうだったから誤魔化してた」
はいお説教延長入りまーす。 紅葉の足が痺れるまでお説教しまーす。
「確か、俺がこれを聞いたのは去年の6月だったな」
「……(コクリ)」
「去年の6月ってことは、俺と、お前と、あとベルと莇も居たよな」
「……居た」
「…………普通に他の異性も一緒に住んでる事を言えば良いのでは?」
「………………目から鱗滝」
「異常起きてんぞ」
要するに紅葉が説明を面倒くさがった結果、俺に皺寄せが来ている。 この世界は真っ当に生きてる人ほど皺寄せの処理を任せられる。 クソが。
「……お前、今夜のデザート抜き」
「謝罪の場を要求する」
「否決されました」
「……上訴」
「諦めろ」
紅葉が置いてかれた犬みたいになった。 犬飼ってないから知らんけど。
「……色々分かりました。 えー、どうやらこちら側で不手際があったそうで、情報伝達が上手くいってなかったようです。 担当者に変わり、私が謝罪を」
「いえいえいいのよ〜 紅葉ちゃんが元気に過ごせてるだけで充分だもの。 むしろ、1年間も紅葉ちゃんを守ってくれた事をこっちがお礼したいくらいだわ」
「いえいえここは」
「いえいえ〜」
アレこれ無限ループ入ってね? ここは神の宣告で罠を無効化するしか無い。 あ、もう効果が有効になったあとだから意味ねぇ。
「……ではここはお互い様ということで流しましょう」
秘技:水に流す! 無かったことにすれば万事解決だ。 よし次行こう次!
「えー……では改めまして。 紅葉さんの大家をしております柳奏士です。 卒業までよろしくお願いします」
「これはこれはどうもご丁寧に。 紅葉の祖母です」
最低限の挨拶だけ済ませてこれで一件落着。 よし帰ろう。
「では私はこの辺で……」
「まぁ待て」
立ち上がろうとしたらもみ爺さんに止められた。 まだなんか用? ここからは有料プランだよ。
「少し話がある。 悪いが、婆さん達は席を外して貰えんか」
「ええ、構いませんよ。 じゃあ紅葉ちゃん、あっちでおばあちゃんとお話しましょ。 そっちでの事、色々聞かせてね」
「……分かった」
待って紅葉お前は俺を1人にする気か? ほぼ初対面の相手とタイマンとか無理だぞ。 忘れられがちだけど俺は人見知り激しいんだ。
「では、終わったら呼んでくださいね」
「おう」
「……頑張って」
エール要らないから助け舟寄越せ。 もしくは身代わり。 俺を1人にするな。
「……」
「……」
突然2人きりにされて沈黙。 これがハンター試験なら正解だったのに、この場では口を開かないと不正解。
「……お前の爺さん」
もみ爺さん、開口! 一方的に話してくれるなら御の字。 聞いてるだけなら最高に楽。
「助蔵はどうだった」
「……はぁ?」
唐突に聞かれて困惑。 今更だけど俺の爺さんの名前って助蔵だったの? 初耳なんだけど。 いや俺が忘れてるだけか?
「色々あって、あいつの葬式には行けんでな。 最後に会ったのは確か…………そう、あいつの誕生日だ」
「はぁ」
「歳もとって昔ほど動ける身体じゃない。 もうずっと疎遠でなぁ……年に数回、片手で数える程度しか会わんで、気が付いたら先に逝っちまっいやがった」
もみ爺さんは昔を振り返るようにゆっくりと口を開く。 俺は常に(自業自得で)瀕死の爺さんしか知らんが、この人は産まれてから死ぬ前までの爺さんを知っている。 思い出の差とか色々あるんだろう。
「あいつの最後はどんな感じだった。 最後までバカやって死んだか。 それとも、笑って死んだか」
「…………」
ヤバい、正直覚えてないとか言える空気じゃない。 表面上真面目な顔してるけど内心何を言おうか迷ってヤバい。 助けて地獄のジジイ。
「……最後は…………爆散しました」
「爆散?」
やべぇよなんで迷いに迷った末に爆散に行き着くんだよ。 どんな人生歩んだら爆散すんだよ軍人じゃねぇんだぞ。
「ホントにもう……「実験だーっ!」って言いながらスイッチを入れた瞬間、BONって……」
「……そうか……」
ごめん爺さん。 アンタの親友の中であんたはダーウィン賞くらい頭のおかしい死に方したことになったよ。 呪わないでね?
「まぁ、あいつらしい死に方だな」
どんな生き方してたらこの反応得られんの? どうしよう歯車が嫌な噛み合いしてる。
「昔のアイツはとにかく才能に溢れててなぁ……何をしても超一流、1度見ればそれ以上の腕を魅せ、思いつきで作った物が表彰されたこともあった」
それは俺もよく知ってます。 爺さんは俺唯一の完全上位互換なので。 俺が1やればあの爺さんは5倍の成果を出す。
「あいつの部屋にトロフィーがあるだろう」
「まぁ、ありますね」
綺麗に飾ってるとかじゃなく、押し入れで埃被ってる置物でしかないが。 特に大事にしてる訳では無さそう。
「あれはあいつが昔、暇だからと料理コンテストに出た時のトロフィーなんだが……あいつはコンテストに出るまで少しも料理をしたことが無い」
「……はぁ」
そういう妄想? って聞きたくなるくらい突拍子もない。 最近のラブコメくらい階段飛ばすじゃん。 なろう系でももうちょいステップ踏むぞ。
「それなのにちょーっとだ。 数回人が料理してるのを見ただけで優勝しちまいやがった」
それなんてラノベ? 売れねぇよそんな作品。
「でも不思議なもんだよなぁ……優勝したってのに全然嬉しそうじゃねぇんだ」
「……はぁ」
俺さっきから「はぁ」しか言ってないな。 興味無い訳じゃないぞ。 どう返事すればいいのか分からないから定型文返してるだけだ。
「アイツはよ、やろうと思えばなんでもできた。 それこそ、どれだけ難しいことでも初見だろうとな」
「…………」
我が祖父ながら全く羨ましいこって。 俺なんか陰ながら努力してやっとなのに。
「そのせいか、ロクに苦労したことが無くてなぁ……誰よりも刺激を欲してるってのに、誰よりも刺激の無い才能を持っちまった」
全能故の苦悩、か……
でもあの爺さんこの教育には失敗してるよな。 結局子供達は自分の遺産を巡って醜く争った訳だし。 親失格者も居るし。 悠ちゃんの家が異端なだけで。
「おめぇさんの事を羨ましがってたぞ。『孫がワシの才能を受け継がなくて良かった』ってよ」
あれこれ1歩違えば煽られてね? 喧嘩売っとんのかオラ。
「柳の一族も大変だよなぁ……どいつもこいつも、生まれつき何かしらの才能を持ってやがる」
ホント大変っすよね〜 才能を活かせば一生困らないどころか下手すりゃ世界の記録に名を残せるってのに、才能を活かせなけりゃ一気に落ちぶれる。 俺の親みたいに。
その点、俺の才能は何かに活かす術は無いけど無いなら無いで特に困らない。 ちょっと人より頭が良くて、ちょっと人より直感とか感覚とかが鋭い。 ただそれだけだ。 人より劣ってるから弊害じゃないとか能力バトルみてぇ。
「どうだ、おめぇさん、人生楽しいか」
「それなりに。 何百年生きても時間が足りない程度には」
「そうかい……あとで助蔵の奴にも聞かせてやんな」
えーまた地獄巡りすんのダルいんだけど。 あ、でも紅葉がいるから行くのは簡単か。
「おーい! 終わったぞー!」
もみ爺さんが2人を呼ぶ。 同じ人に苦労させられたって点で俺の中でもみ爺さんの好感度が少しだけ高め。 この人孫愛が強くて口悪いだけで割とまともだ。
「お爺さん、もうお話はいいんですか?」
「充分だ。 あとはそっちで話でもせい」
「はいはい。 じゃ、新しいお茶でも入れましょうか」
「婆さん、ワシの老眼鏡はどこだ?」
「お爺さん、ご飯はさっき食べましたよ」
「ボケ老人扱いされる程の事は言っとらんぞ」
もみ婆さんはクスクス笑いながら台所へ行った。 老眼鏡は放置された。
「……奏士」
「あん?」
「……栗毛の?」
「"赤毛"な?」
「……誰にだって間違いはある」
「だからなんだよ」
何がしたいんだこいつは。 もしかしてもう帰っていいとか? うへぇこれから3時間近く電車乗るのか。 よくよく考えなくてもバチくそ遠いなぁ。 紅葉が帰省を面倒くさがったのも納得。
「……来て」
「あー?」
有無を言わさず引っ張られた。 右腕取れちゃう。 俺の身体はガン○ラじゃないぞ。
「……ここ」
小さな和室に案内された。 異様に小綺麗、というか生活感が無い。 日頃から人の出入りが少ない感じ。
部屋には大小の箱。 そして奥にぽっかり空いた空間が。 奥にはどうやら仏壇があるようだ。
「どなた?」
仏壇にあった男女の遺影。 男性の方は少し老け顔、というか若々し差が無く、女性の方は逆に物凄く若い。 が、今朝の紅葉の話と照合すると
「……パパとママ」
両親、だろう。
それにしても本当に凄いなロシアの血は。 紅葉ママンは姉でしたと言われても納得。 紅葉パパンに若さが感じられないから事案に見える。
「……」
紅葉は線香を立ててそっと手を合わせる。 お、俺もした方がいいか?
何を言おう。 「娘さんの身柄を預かった」とか? 誘拐犯かな?
じゃあ「ドーモ。 ペアレンツ=サン。 ソウジです。」とか? お前今から紅葉の親殺すんか? もう死んでるぞ。
えーとえーと……ここは無難に「紅葉さんのお友達? の柳です」でいいか。 友達では無いと言いたいが、形式上そういうことになってるから仕方ない。
「なんか卒業まで出ていく気がないみたいなんでとりあえず今年1年は面倒見ておきます。 それ以降に紅葉の生活が終わってても私は一切の責任を負わないのでどうか祟りとか呪いとか勘弁してください」っと……多分これでいける。
あ、あとあれか? 一緒に漫画描いてることは言っておいた方がいいか? でも紅葉が言ってるだろうし、いいか。
「…………」
どうやら紅葉も終わったらしく、同じタイミングで顔を上げた。
「……何話してたの?」
「なんも。 卒業まで出てく気無さそうだから今年もよろしく的なことを」
「……そうやってすぐ出てって欲しいみたいに言う」
紅葉はムスッとした顔で言う。
いやまぁ切実に出てって欲しいよね俺の安寧のために。
でも出てった後で紅葉の生活が逆戻りして倒れてポクポクチーンとかにならないか気が気じゃないからどの道安寧は訪れない。 紅葉の親よ、頼むから紅葉に人並みの生活力を身につけさせてから逝ってくれ。 ごめんね不謹慎で。
「……何がなんでも住み着く」
「悪霊じゃん」
「……座敷わらし」
「座敷わらしこんな存在感ねぇよ」
座敷わらしだってんなら我が家に幸運の1つでも齎してみやがれ。 今のところエンゲル係数爆アゲしたくらいしかしてないぞ。
「……じゃあ妖精」
「妖怪の間違いだろ」
「……奏士はすぐ言い返す」
「言い返したくなるくらい穴だらけなのが悪い」
「……私はまだ膜ある」
「そっちの穴じゃねぇしどの道穴あるだろ」
「……処女膜の仕組みを知ってる奏士にドン引き」
「おいガチめに引くな。 なにこれ俺が悪いん?」
紅葉との間に明確な距離が出来た。 俺ん家と紅葉ん家くらい距離ある。
「2人ともー? お茶が入ったわよ〜」
「……分かった」
あぁ! まだ俺の評価が地中に埋まったままなのに! いやそれは別にいいか。
それはそうとほっと一息。 もみ婆さんはお茶を入れるのが上手い。
「……♪」
紅葉もご機嫌。 心做しか、我が家にいる時より落ち着いてる気がする。 よかったよかった。
そういや、紅葉は泊まるのかね。 俺は何も持ってきて無いから帰るけど、紅葉はこの家に最低限の私物はありそうだし。
……いや服とか入らないか。 もうサイズがね。 成長期だからね。
「それにしても……」
もみ婆さんが切り出した。 俺はもう帰りますよ? 夕飯も厄介になりません。
「人の縁は不思議ねぇ〜 まさかかつてのお友達がこんな形で再開するなんて」
「?」
紅葉はキョトン顔。 俺はなんだか嫌な予感。
「あら、紅葉ちゃん覚えてない? 昔紅葉ちゃんのお母さんが教えてくれたのよ。 『紅葉に友達が出来たーっ!』って」
「……私と奏士が?」
「えぇ。 毎日お外に遊びに行って、楽しそうに帰ってきたって喜んでたわよ。 ずっと1人でお絵描きばかりしてるから心配だって」
「…………」
紅葉は驚き桃の木山椒の木。 お目目飛び出そう。
「……でも、私の記憶が確かなら昔の友達は女の子」
「あら? そうだったかしら。 えーと私の記憶だと…………そうそう! 『友達が2人もできた』って聞いているわ。 絵が好きな女の子と、あともう1人は男の子だって」
「…………」
紅葉は驚愕の目で俺ともみ婆さんを交互に見る。 そんな目で見られても……
さーてこれからどうするか。 俺の予想通りならちと面倒になってくるぞ。
「『柳さん』って名前だけは覚えてたからびっくりしたわ〜」
「……その苗字なら日本中にいる」
紅葉の言う通り、別に珍しい苗字じゃない。 探せば普通に見つかるだろう。
何より、もみ婆さんの情報と照合しても一致点が「性別」
と「苗字」の2つしかない。 流石にこれだけで判別はできない。
「……私の地元と奏士の地元が違うからおばあちゃんの記憶違い」
「そうかしら。 柳くんを見た瞬間ビビッと来たんだけどねぇ……」
「なんじゃ婆さん、ボケたか」
「お爺さん程じゃありませんよ〜」
「……ワシ、婆さんになんかしたかのぅ……」
もみ爺さん……夫婦仲は50過ぎてからって言うし、1度振り返ってみるといいぞ。 気付かないところでしてたりするし。
「でもそうね……多分私の気のせいね。 ごめんなさいね余計なこと言って」
「いえいえ」
「……びっくりした」
ホントにね。 もう新情報の公開はいいのに。 これ以上されたら過労で倒れちゃう。
「……ではそろそろお暇します」
「あら、もう? 今から晩御飯でも一緒にと思ったのだけれど」
「いえいえそこまで厄介になる訳には。 家のこともありますし」
「あらそう? じゃ、お見送りだけでもするわね」
「どうも」
手早く荷物を纏めてっと。 忘れ物無し! 取りに行くの面倒だからマジで忘れ物だけは勘弁。 作者は大阪観光したら忘れ物した経験ある。
「……私もそろそろ帰る」
「あら、紅葉ちゃんも?」
「泊まって行かんのか?」
「……学園の準備もあるから」
「……そうか」
あ、もみ爺さんわかりやすい。 目に見えてしょんぼりしてる。 泣かないでね?
紅葉の忘れ物もチェックしておくトゥを履き履き。 俺のは靴じゃなくてクトゥだから。 脳を介して話せや。
「じゃあね紅葉ちゃん。 くれぐれも、身体に気を付けて」
「……おばあちゃんも」
「柳くん、孫をお願いね」
「あいす」
大丈夫ですこの野良猫は我が家に住み着いた結果、日々を明朗快活に過ごしてますから。 餌代貰ってるんで多分次会った時はより肥えてます。 もしくはより胸がデカくなってます。
「……小僧」
んだジジイ。
もみ爺さんに呼ばれて紅葉から少し離れる。 聞こえないようにワザと離れた場所に呼びやがったな?
「分かってると思うが……孫に手を出したらお前の手を切り落とすからな」
釘を刺された。 わしゃ藁人形か? 呪い返すぞ。
おいおい俺を誰だと思ってるんだか……俺だぞ? これまで数々の誘惑をすり抜けてきた男だぞ? この1年で元からでも糖尿病でもないのにほぼ不能になった男だぞ? 手を出しても挿入れるモノがねぇよ。
「俺は出さねぇから安心しろ」
但し相手から出されたケースは不問としてほしい。 本気の紅葉に力で勝つのクソムズイんだぞ。
「ならいい。 忘れるなよ」
ジジイはそれだけ言って引っ込みやがった。 なんだあの孫バカ。
「……何を話してたの?」
「いや……」
その時視界の端でジジイを見た。 『喋ったら殺す』と顔が言っている。 顔うるさっ
「……孫をよろしくだってさ」
「……2人とも心配性」
いやぁ〜婆さんは至極真っ当だよ。 お前の爺さんは手首切り落とすのを視野に入れてる程度に頭おかしい。
「では」
「またいつでもいらっしゃいね」
「……バイバイ」
最後に紅葉が手を振って家を後にする。
「あ、柳くん! ちょっと」
「うき?」
もみ婆さんに呼ばれた。 なんか手招きしてる。
「はいなんですか?」
「そのー……さっき紅葉を卒業まで預るって言ってたじゃない?」
「ええ、まぁ。 本人の希望なので」
もしかしてそれより早く返せとか? 喜んで!
「柳くんさえ良ければ、卒業後も預かってくれてもいいわよ?」
えーそれは遠慮したい。
「なんなら、紅葉を永遠に預かってくれても」
心底拒否したい。 この1年で心労エグいんだから勘弁してよマジで。
「……まぁ、検討するってことで」
「そう? じゃ、よろしくね」
やべープレッシャーやべー あの婆さん目が本気だったよ超やべー
少しフラフラになりながら紅葉の元へ戻る。 今の俺の顔はどれくらい悪いのだろうか。
「……何話してたの?」
「いや……」
やべー後ろから「話すな」オーラがやべー プレッシャー凄すぎてPP減りまくっちゃうよ。 俺増やしてねぇよどうすんだよ。
「……紅葉をよろしくってさ」
「……2人とも心配性」
「そうだなー」
心配性っていうか圧って言うか。 『孫に手を出すな』と『孫に手を出せ』の板挟みなんだけど、俺はどうすればいい? いっそ引きちぎられた方が楽なんじゃなかろうか。
バス停までの道を歩く。 ゴールデンウィークだからか、夕方の住宅街は道に人の気配が少ない。
「……それにしても今日は驚いた」
「何を?」
「……私と奏士が昔はお友達」
「あれなー」
1歩間違えたら紅葉が「どんなだったか知りたい」って朝から晩まで付き合わされそうだったから一安心だぜぇ……
タダでさえ自分の過去とか振り返りたくないのに何が嬉しくて紅葉に話さないといけないのか。 俺の過去はトップシークレットだよ。 天井は無いから交換でも手に入らない。
「……もし、昔の私と奏士がお友達だったら?」
「意味の無いifは考えるだけ無駄だぞ」
過去は変わらない。 今がどうであれ、過去にこうだった昔こうしれてばは意味が無い。
過去がどうであれ
「……奏士は夢が無い」
「夢、ねぇ……」
夢なんて殊勝なもんはどこに置いてきたっけなぁ……大人の階段のどこかしらに落ちてんだろどうせ。
「一つだけ言えるのは、今も昔も俺は人見知りだから友達は無理だな。 最低でも無理やり接点を作って1年はかかる」
「……それはもう人見知りを超えた何か」
紅葉に呆れられてしまった。 そもそも俺に友達を作る気が無いからより時間かかるんだろうな。 紅葉とは似ても似つかない。
「……今の理論に沿うなら、私は友達?」
「は? 自惚れんな」
「……そこまで言われること?」
俺の友達を名乗るなんて100億年早いね! 次元を落として出直してきな!
「まず、俺とお前はまだ会って1年も経過してない。 正確には数年前に会ってるから一年以上経過しているが、合計してまだ11ヶ月弱だ。 最低でもあと1ヶ月は待つんだな」
「……なんで上から言われてるのか分からない」
俺もなんで上から言ってるんだろうね。 少し危機感を感じたからかな?
「……じゃあ、来月になればお友達?」
「いや来月で漸くスタートライン」
「……めんどくさい」
まずスタートラインに立てるだけありがたいと思えよ。 俺史上初の友達になれるかもしれないんだぞ? あ、人類種でね? 俺人と虫以外ならいっぱいいる。 妖怪とか。 もしかして喋る腕時計とか持ってます?
「……奏士は捻くれ者」
「なんとでも言え」
「……奏士の奏士はお粗末」
「なんでお前2激目で即死狙ってくんの?」
お前いっぺん本気の俺見せてやろうか。 リスクとリターンが……
「……そんなに友達作りたくない理由があるの?」
「めんどいじゃん」
「……それだけ?」
「あと友達って繋がりで面倒事に巻き込まれたりとかさ。 人と人の繋がりは極力少ない方がいい」
繋がりが少なければ自分の範囲だけ守ってれば安心安全。 逆に繋がりという橋があれば入口ができるから守る箇所が増える。 籠城は狭い門と高い壁が強い。
「……じゃあ今から私がお友達」
「だからそれは来月以降の話だ」
「……私が今決めた」
「お前の権力を俺の国まで及ぶと思うなよ?」
「……私は親善大使だから」
「人の国に勝手に大使館建てんな密入国者め」
「……♪」
何やらこんな会話でも紅葉はご機嫌な様子。 今日は機嫌良いね。
「……奏士」
「何?」
「……約束」
「何を」
「……来月からはお友達」
「しないよ?」
「……指切りげんまん」
お前の拳万は5回目くらいで普通に死ぬからやめて欲しい。 あれこれ脅迫? 友達にならないと殺すって事?
「……嘘ついたらパリ千歩」
「国外散策?」
パリを千歩で観光するってこと? 無理じゃね? 場合によっちゃ空港から出れないだろ。
「……パリに千歩で行ってもらう」
「無茶言うな」
自家用ジェットでも持ってないと無理だろ。 流石に使い道無いから買ってないぞ。
……今の金で買えるかな……あ、借りるだけなら余裕だ。
「……じゃあ巌先輩と熱い1晩を過ごしてもらう」
「マジでやめろマジで」
「……私と天音さんがモニタリング」
「あの人はどんな気持ちで見ればいいんだよ」
自分の旦那が後輩(男)と寝てましたとか地獄だろ。 つーか新婚壊そうとするな。 いやそもそも俺しないけどな?
「……ちゃんと当日までに奏士のお尻を開発して洗浄も済ませる」
「ねぇなんで俺が受けなん? つーかやめろマジで」
「……巌先輩のは大きいらしいから大変」
やだ生々しい。 それ誰から聞いたん? 誰からってか、1人しかおらんやん。
「おい開発の予定を立てるな。 実行に移したらお前を壁穴に埋めるからな?」
「……そんな度胸無いくせに」
「よーし決めたよし決めたやってやるぞおーい。 お前覚悟しとけよ?」
「……上等」
バスを待つ間にする会話じゃねぇな。 内容が酷すぎる。 周りに人が居ないのが幸い。
その後、ちゃんと3時間かけて家まで帰りました。 凄く疲れました。 今度からビデオ通話にしてもらお。
ついでに、紅葉を埋めようとしたらあっさり返り討ちにあいました。 野郎いつの間に落とし穴掘ってやがった……
はいどーも久しぶりに小説書けて指が止まらない作者です。 代わりにものすごく目が……目がしょぼしょぼ。 ドライアイが、凄いっ!
……何を言いましょうか。 最近ペイペイ始めた話でもしますか? 使ってみましたけど凄く便利ですね。 あと携帯契約した時から数年経っているのに一度も誕生日ポイント受け取って無くて少し残念。
ではこの辺で。 来週からは土曜日に更新できるといいなと願いながら早めに寝る作者でした。




