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白猫と死んだ腰骨

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」


「……(ꐦ)」


開幕アルゼンチンバックブリーカーを食らう奏士くん。 やっているのはもちろん紅葉さん。


「貴様……何故こんなことをする!」


「……奏士の態度がムカついた。 他意は無い」


「はっ、ちょっとゲームでボコボコにされた上に煽られたからって対戦相手に手を出すとはこの未熟者め!」


「…………(ꐦꐦꐦ)」


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっギブギブギブギブ!!!!」


「……反省する?」


「するか! 反省する箇所なんて見当たらんなぁ!」


「……今生の別れ」


「ぐぁぁぁぁ『\ウッキッキー!/』あ、ちょっとタンマ」


「……?」


「ちょ、ちょい。 俺のスマホどこだ」


「……はい」


「サンガツ」


紅葉に抱えられたまま電話に出る。 この猿の着信音はあの人だ。


「あいもすもす」


『お疲れ様です。 猿渡です』


どうしよう物凄く電話切りたい。 嫌な予感がする。


『今、お話宜しいでしょうか』


「今近くに紅葉居るんで重要事じゃなければ」


『では端的に。 先生、明後日の火曜日はお時間ありますか?』


「えーと火曜日火曜日……春休みなんで一応時間ありますけど……あれ、紅葉、活動ってある?」


「……春休みにやる予定の仕事は全部終わらせた」


「大丈夫です」


『では、火曜日の昼過ぎに東京へ来て貰えますか? もちろん、移動費は経費で出しますので』


「はぁ……え、どこに?」


『東京です』


「の、どこですか?」


『それに関しては後程資料データをお送りします。 それに目を通していただき、内容を踏まえて行くかどうかの連絡をください』


えーなんか面倒くさそう。 この人がここまで丁寧口調ってことは多分漫画関係だよな。 てことは出版社か?


東京、か……折角だし終わったらプチ旅行でもするか? 泊まりは無理だから日帰りだけど。


うーむ車、はキツイな。 電車か新幹線か特急か。 経費で落ちるならいっそ新幹線乗っちゃおうか。


「話は分かりました。 後で連絡します」


『よろしくお願いします。 あっ、それともう1つ』


「はい?」


『先生が東京に行くこと、またその内容はくれぐれも内密にお願いします。 必ずお1人でお越しください』


注文多いな……これ俺が行ったら美味しくいただかれるんじゃないか?


『では。 色々と・・・お持ちしています』


あれねぇ待って最後に怖いこと言わなかった? 色々って何? 今月の原稿? 修正もうちょい待ってね今頑張ってるから。


まぁ、原稿放置してゲームしてた訳だけど。 それもこれも突然部屋にやってきてゲームに誘った紅葉が悪い。


「……終わった?」


「ん、終わった」


「……じゃあ再開」


「ぐぁぁぁぁぁぁしまったァァァァァっ!!!」


──────────────────────────────

火曜日


久しぶりに東京の地を踏む。 最近忙しくてマトモな休みとか無かったからすっごい久しぶり。


でもそのお陰って言ったらアレだが、春休みは悠々自適に過ごせる────とは思えないけど少なくとも生徒会活動の必要が無いのは感謝。


……少し腹減ったな。 駅弁買って食えばよかった。


でもここは東京! どこいっても食える店がある! 今の俺はちょっとハイテンション!


どうしようかな。 王道のラーメンか、思い切って回転寿司か、無難にレストランか屋台か。 美味いもんは人を惑わせる。


うーむむむ…………とりあえず時間までアキバでブラつこ。 とりあえずアキバで何とかなるだろ。


つーて、最近のアキバは以前の栄光はどっか行って今はブラックマーケットみたいに裏世界っぽいって誰かが言ってるけどさ。 普通にあるもんはあるしまだまだ絶頂期よね。


────────────────────────────


しまった普通に買い物してて飯食い忘れた。 それもこれもアミューズメント館が悪い。


そろそろ時間だから飯食う時間ねぇな……しゃーない後で食おう。 家帰る途中でなんか食ってくか。 昼飯食えない腹いせにちょっと豪華に。


右手で引くキャリーカートと左手に提げた袋には本やグッズやゲームが沢山。 持ってきたリュックは既に容量限界。 だって久しぶりの実家だしそりゃ買うよね。


そうこうしてたら出版社に着いた。 入口で手続きする度警備員呼ばれないか不安になる今日この頃。 いやだって傍から見れば不審者だし……言うて漫画家なんて殆ど体調不良の不審者みたいなもんだけど。 今の俺はオタク丸出しだから余計に怪しい。


「それではご案内します。 どうぞこちらへ」


受付の人に軽く会釈しててちてち着いてく。 歩く擬音がハム公。


「こちらの部屋でお待ちください」


俺の軽い会釈が伝わったのかは知らんが、案内さんは特に何も言わずに元来た道を戻った。 忘れがちだけど奏士くんは人見知りだから知らない人と話せないゾ!


部屋に入る前に深呼吸。 時間は大丈夫。


いやでも瑠姫さんが「社会人なら30分前行動が基本です」とか頭の悪いマナー講師みたいなこと言ったりしないかな。 あれ俺同じこと2回言った気がする。


30分前に来られても普通に邪魔だから皆は早くても10分前にしようね。 作者は初バイト面接の時に面接時間を聞き間違えて1時間早く行った事がある。 止めなさい人の痴態を掘り返すのは。 掘り返すのは墓と埋めた死体だけにしなさい。


すーはー…………すーーーーーーーーーっ………………


いや俺肺活量すげぇな。 めっちゃ息吸えた。 肺活量凄いのに持久力無いのは筋肉がより見せ物になってしまう……


ふぅ……よし。


「…しつれいしゃーす……」


恐る恐るドアを開ける。 人の気配は感じないけどもしお偉いさんが会議してたら俺の心臓は俺を置いて家に帰る。 あ、帰るなら俺の分の駅弁も買っといて。


なんて冗談はさて置き。 俺の気配感知は優秀で、部屋の中には誰も居なかった。 あー良かった。


というか本当に居ない。 部屋の中には机が1つと椅子が3つ。 それと壁にモニターとかがある、小さな会議室だ。


というかここ使ったことあるな。 部屋は違うかもしれんが、これ担当編集と漫画家が個別で話す部屋だ。


てことは、俺はどの椅子に座ればいいんだ? 椅子が3つってことは俺と瑠姫さんと……編集長? もしかして打ち切り? それともアニメ化ドラマCD化? ねぇ怖いんだけど誰か来てくんない?


ドキドキしながら荷物を部屋の隅に置いて、一応、名刺入れとスマホはポケットに入れて近くの椅子に座る。


る、瑠姫さん1人の可能性のかけて椅子が2つ並んでる側に座ったけどこれからどうなるんだろ……


おいやべぇよこれ。 ここまで1人を嫌がったのは小学生の頃、運動会で朝早く登校しなきゃいけないから歩いて行ったら通学路に誰も居なかった時くらい怖ぇよ。 よく考えたら皆親の車で登校するからそりゃ合わないわな。


早く誰か来ないかな〜ドキドキとか初心に戻ってみたりして。 俺だって初めて来た時くらい緊張したぞ。


「(コンコンコン)失礼します」


おっ、さっきの案内さんだ。 ちょ、ちょっと席立って迎えた方がいいのかな……


「こちらの部屋でお待ちください」


「……ありがとうございます」


おや? 聞き馴染みのある声だな。 あと最近よく見る三点リーダー。


「…………」


「…………奏士?」


「はぁ…………チェンジ」


「……は?」


やばい紅葉ちゃんちょい怒。


「誰だよ編集部にデリヘル呼んだの。 悪質なコスプレオプまで付けやがって。 ここはラブホでも秘匿料亭でもねぇぞ。すいません接待ならもう少しマシな嬢かアニマルカフェで────もう居ねぇし」


あの受付嬢ゴキブリ並に素早い。 一瞬目を離したら消えてるってどゆこと? 社内走ってんの?


「…………」


ふぁに?」


「……本物の手触り」


無断で人の顔をぺたぺたこねこねしてくる手を振り払う。 俺の美しい柔肌に指紋がつくでしょうが……気にするところそこ?


「……幾つか質問する」


「急に何」


「……私の危険日まであと何日?」


「もうちょいマシな本人確認の質問あっただろ」


あと俺が知ってる訳ねぇだろ。


……いやお前の周期から逆算すれば行けるか。 えーとえーと……真っ只中じゃねぇか。


「……ここは部外者立ち入り禁止」


「紅葉、出口はあっちだぞ」


「……私は関係者」


あーまだ明確になってないから色々とぼかせたのにハッキリと言っちゃうんだ。


「…………」


紅葉がじっと顔を見てくる。


俺は逆に見下ろす。 紅葉ちゃん春になったからワンピースが若干薄地になったね。 春は桜色のカーディガン羽織るの知らなかった。


「…………」


じっと目を見てくるかと思ったら今度は不機嫌そうにガン飛ばしてきた。 なんだァ? やんのかァ? ここは穏便にデスマッチでいこう。


「(コン³)失礼します」


一触即発の空気の中、呼び出した張本人のご登場。 瑠姫さん今だけ許す紅葉を殺れ。


「遅れてしまい申し訳ございません。 早速今回のご説明を────の前に、見つめ合ってないで席にお座り下さい」


「これが見つめあってるように見える?」


「……瑠姫さんには眼鏡の購入を勧める」


敵の一致は二人の仲を深める。 嗚呼、素晴らしき仲間意識。 カスの仲間意識辞めろ。


瑠姫さんが席1つ側に座ったので俺らは2つ側に座る。 多分これで揃った……と思う。 この後誰か来ないよね?


「それでは、今回の企画を改めて、ご説明させていただきます」


そう言いながら瑠姫さんはノーパソのキーをカタカタ。 壁のモニターに表示される。


それより編集部のコーヒーって美味い。 瑠姫さんがくれたけどなんでこんなに美味く感じるんだろう。


なお、隣の紅葉はコーヒー飲めないお子ちゃま舌なのであまくちーなみるくちーを飲んでる。 あ、ちょっと俺もミルク欲しい。 ブラックコーヒーが苦く感じてきた。


「それでは。 題して、『気になるアノ子と初顔合わせのコーナー』です」


「瑠姫さん昨日寝ました?」


明らかに寝不足の奴が深夜テンションで作ったようなポップなフォントとタイトルなんだけど。 何これドッキリ企画?


「えー……コホン。 まずは紹介から。 コチラ、作画担当の伊吹童子先生です」


「……どうも」


「え、あっ、はい? はい?」


「そして向かって左側、原作の千面童子先生です」


「え、ちょっ、あの説明を……」


「それは後でするので今はとりあえず挨拶してください」


「何だこの作家に優しくない編集……えと……あの、どうもお初にお目にかかります」


「……どうも」


プルプルしながら名刺交換。 これで終わりだ! それ名刺交換の術やで。


おお……なんか初めて伊吹童子先生の名刺を手に入れた気がする。 そういやイベントでも配ってなかった。


……本人下戸なのに酒に関するペンネームってどうなんだ? サークル名も酒だし。


「では説明を。 と言っても、伊吹童子先生には事前に説明しておりますので、主に千面童子先生にですが」


「おい待て」


つまりあれか? 俺はハメられたのか? 俺にだけ情報遮断されたのか? うむ正しい判断だ。 事前に言われた多分断ってる。


でも俺、一応顔出ししてないんだからせめて聞こうぜ。 相方が顔見知りでまだマシな反面、これから仕事上じゃなくて日常でも関わり追加されるのってキツイぞ。


いや、でも毎回瑠姫さんを介さずに直接仕事の会議できるってメリットを見れば良い方なのか? うーむどっちにしろ作家に許可取らないクソ編集。


「端的に申しますと、お2人の顔合わせです。 お2人はリアルで顔見知りな上、同じ家に住んでいます。 これまでは作品の連絡は私が仲介していましたが、お互い別の仕事では顔見知りのご様子なので今後はお2人で直接話し合えるよう、直接合わせちゃいましょう。

という企画です」


「ふむ、長い」


「私が楽したいので後は2人で話してください。 という事です」


「要約それでいいのか」


もうちょいさぁ……欲望というか本音を隠す努力というか。 ミニスカで階段登ってる時のパンチラくらい隠す努力をしようよ。 具体的にどんな努力かはよく分からんけど。


「実は、以前から私共の中で上がってた議題でして。 お2人は職業として成り立ってはいますがまだ学生なので卒業まで顔合わせは控えようと思っていましたが、以前お宅にお伺いした際、同棲────失礼、下宿していることが判明したので、ならばもう行ってしまおう、と」


「出来れば卒業後も合わなくて良かったと思う」


俺、推しとは一定の距離保ちたいというか。 イベントで生姿を見てもファンその1でいたいというか。 ネームドになりたくない。 その他大勢のファンでいたい。


でもファンとして存在を認知されてるとちょっと嬉しい複雑な気持ち。 知らないけどちょっと分かる。 でしょー?


「あ、今回伊吹童子先生からは事前に承諾を得ているのでご安心を」


「俺は?」


「…………」


「ねぇ俺は?」


俺は何も聞いてないし何も許可出してないよ。 ねぇ、俺は?


「……先生は聞いても拒否するか逃げるので」


「ちょっと編集長に直談判してきます。 これまでお疲れ様でした」


「あぁ、部屋の鍵は私が握っているので私が許可しない限り出れませんよ」


「クソ編集め!」


試しにドアノブ捻ってみたら『ガチッ!』という音がして一向に動かない。 ふむ、どうやらトラップの類は無さそうだ。 これならワンチャンぶち抜けるか?


「ちなみに、もしドアを破壊した場合は修理費200万を請求させていただきます」


「ちぃ! 絶妙に嫌な額押し付けやがって!」


払えない額じゃない。 が、ドア破って帰ったとして、また次があるだろう。 その度に200万出すのはちと惜しい。


「とにかく、一旦落ち着いて席に座ってください。 まだ説明が残ってますので」


「後で覚えてろ……」


乳がデカイ女は態度もデカイ。 俺は今日、よーく身に染みた。 あ、遥さん別に態度デカくなかった。


「説明を再開します。 今後は直接漫画のやり取りをしていただいて構わないという話ですが、それはあくまでこちらでチェックし終えた後の話です。 これまで通り、私が千面童子先生から原稿を受け取り、伊吹童子先生に渡します」


「……作画の指定なんかはどうすれば?」


「作画の指定は主にコチラから伝えさせて頂きますが、その場で話し合って決めていただいて結構です。 後程報告していただけるのであれば、の話ですが」


ふむ、纏めると

・今後は2人で直接漫画のことを話せるね

・話して決めたこととか変わった事は後で教えてね

・それ以外は今までと同じだよ

て所か。 なんか余計ややこしくなってる気がする。


「最後にもう1つ。 実は、今回の企画は伊吹童子先生たっての希望でして」


「紅葉が?」


「…………」


横の紅葉をチラ見すると目が合った。 なんだぁ……ホ°ケモンバトルかァ? 俺のポリ2が火を噴くぜ? にほんばれしか炎技覚えないけどな!


「何やらお話したいことがあるそうで。 折角なので1度お2人で話し合ってみては如何ですか? 私共の予定は終わりましたので、後はご自由にホテルで朝まで」


「人をホテルおじさんにしようとするな」


俺はワニでもヒゲでもないし、電車の切符は一人で帰るし部屋暗くても寝れるしピーマンだって食える。 服のセンスは沈黙を貫く。 良くも悪くも普通?


「冗談です。 原作と作画に肉体関係があったら色々と対応が大変ですから」


「ホテルってビジネスの方じゃねぇのかよ」


あーでも折角東京来たんだしラブホ街を歩いて観察して、ついでにラブホの内装とか仕組みとかよく調べてみたい。 漫画に活かせそうだし純粋に内装に興味がある。


「場所はここをお使いください。 暫く誰も入らないようにしておきますので、終わり次第私の携帯か内線で連絡ください」


瑠姫さんはそう言うと追加の飲み物を置いて部屋を出た。 俺、珈琲2杯目は要らないかなあ……カフェインてトイレ近くなっちゃうし苦いのはもういい。 甘いミルクチー飲みたい。


「……?」


紅葉は特にお変わりなく。 あ、ミルクティー盗られた。


「……何?」


「いや……なんかずっと視線感じるから」


「……自意識過剰」


「視線が隣から以外なら自意識過剰かもな」


ずーっと紅葉に見られてる。 基本的に今日はずっと見てる。


何? 俺の左側に何かあんの? ちゃんと清潔にしてるから特に汚いとか臭いとかはないハズだけど……


あれか、年頃の娘特有の超嗅覚か。 聞いたことがある。 紅葉くらいの少女は異性のどんな臭いも嗅ぎ分ける嗅覚に目覚めると。 特に汗臭さとか汚れに敏感らしい。


……え、俺臭い? 待って待って不安になってきた。 こういうの余程じゃないと自分じゃ分からないからやめてよマジで心臓に悪い。 おいちゃんもう爽やかさとか綺麗な汗と無縁なお年頃なんだからさ。 年って怖い。


「……?」


なんか言えよ。 ミルクティー飲みながらこっち見てないでなんか言えよ。 お前から切り込めよ切込隊長だろお前。 俺は原作という参謀役だから別。


「……何か話がある?」


「話があるのはそっちだろ企画者」


「……そうだった」


こいつ記憶力無いんか? さっき出た話やろがい。


「……とりあえず名刺交換?」


「それはさっきやった」


「……じゃあ特に無い」


「じゃあ俺アキバに戻るから」


「……思い出した」


立ち上がろうとしたら紅葉がっちり足を踏まれました。 もうちょい制止の方法あったでしょ。 お前サンダルで俺スニーカーだから痛いねん足の甲。 今日安全靴じゃねぇぞ。


……ほ、骨まで行ってないよね? 俺歩いて帰れるよね?


何はともあれ、このままだとマジで足が使えなくなるから足の痛みに耐えながら腰を落とす。 紅葉も逃げないと分かったのか足を離す。 サンダルの底の形に足が凹んだ気がする。 土踏まずが土踏むになっちゃう。 それ扁平足じゃんね。


「……ちょっと緊張する」


紅葉さんここで胸に手を当てて深呼吸。 はい吸って吸って吸いまくれ! そしてそのまま息を止めてー……………………あの世へトゥギャザーしようぜ。 あれそれ俺も死んでね? 多分死ぬ間際に紅葉から最後の反撃されたな。 ヤダ、それって心中? 愛が深いぜ。


「…………すーはー」


「はよ言え」


「……奏士はせっかち」


ええこれ俺が悪いん? オラ別に話しねぇだよ。 早くアキバにある実家ショップ行きたいから終わらせてほしい。


「……まずはお礼から言いたい」


「お礼?」


──────────────────────────────


……え、何? 何今のダッシュ区切り。 こっから真面目モード入んの? 似合わねぇからやめろってそう言うの。


「……奏士と、千面童子先生にお礼」


「はぁ」


要するに俺宛にお礼って事でしょ? 何かしましたっけ?


……いや普段から介護してるな。 そっか介護始めてもう1年か……長いようなクソ長いような。 いやだってここに来るまで3年はかかってますし。


「……私にまた絵を描かせてくれてありがとう」


紅葉ちゃんぺこり。 今なんつった?


「紅葉、ワンモア。 なんて?」


「……ありがとう?」


「そこじゃないその前」


「? ……また絵を描かせてくれた?」


「そこ。 何? お前絵を辞めた時期あんの?」


「……そこ引っかかる所?」


バリバリ引っかかるでしょ。 絵と飯で生きてるような生物が一時絵を辞めた。 これはもう尻呼吸しない亀と一緒だ。 もう例えのクソ選出にはつっこまない。


「……前にパパとママが事故で死んだ話をした」


「した……したか? 多分したな」


俺の記憶力がカスなだけで多分した。 多分アレだアレ。 あの時だ。 どの時かは思い出せないけど。 情報ゼロのモノローグ消せ消せ。 それじゃあ今までのヤツ全消しじゃないか。 自覚あるなら直せボケカス。


「……覚えてない?」


「ああ全く。 全然。 微塵も覚えてない」


「…………」


おっと紅葉からの視線が変わったぞ。


いや完全に覚えてない訳じゃなくて、ある程度の目星はついてる。 アレだろなんか一緒に散歩した時だろ多分。


問題はそれがどの話か作者が覚えてないのと探すのを諦めた結果闇の中ってことだな。


「……お盆の時に話した」


「……あ、ああー、あああー」


「……絶対覚えてなさそう」


いやいや思い出しましたってダンナ。 ちゃんと作者が頑張って見つけましたから。 徹夜して朝7時に。 寝ろ。


「……まぁいい」


あ、別に引っ張るほどの事じゃないんだ……じゃあなんだったんだ今のやり取り。


「……2人が死んでから暫くはペンを握れなかった」


「はぁ」


よくある話っちゃ話だな。 関係者が死ぬとそれに触ることも出来なくなるとか、近くにあるだけで震えが止まらないとか。


「……2人が死んだ原因を作ったのは私」


おっと新情報ですよ。


言うてあれでしょ? よくある『実際に殺したとかじゃなくて「私が○○しなければ死ななかった」』とかそんな奴でしょ。 奏士くんよく分かってるから。


「……私が新しいお絵描き道具をお強請りしなかったらパパとママは出かけることもなくて事故に遭わなかった」


はいビンゴ! ビンゴカード完成です! はい景品は俺のモノローグ。


死を冒涜するな? 身内の死を特になんとも思ってない男が他人の更に他人の死に共感できるわけないだろ。 思うだけで口に出さない配慮はあるからマシ。


「……おじいちゃん達に引き取られても暫く絵を描かなかった」


「…………」


「……もう、ノートを見るのも嫌だった」


俺は何も言わない。 紅葉は今精一杯苦しい思い出と向き合いながら吐き出している途中だ。 俺の口は開いてもろくな事言わないから黙って聞くに限る。


「……でも、何となく人が描いた絵は見れた」


これは珍しいタイプか? トラウマでもある種の線引きがあるのか、それとも紅葉が「自分の絵」に強い想いがあったのか。 絵と一緒に生きてる様な存在だし、後者かね。


「……言っても、せいぜい画面越しに見るのが精一杯だから直接は見れなかった」


となると、SNSか何かで見たのか、それとも雑誌か。


……あれ、SNSって大体規約に年齢制限があるよな。 で、以前聞いた紅葉の話から当時の年齢を推測すると……………………


まぁ深い所つっこまんとこ。 法律違反以外は黙ってるのが暗黙の了解だ。


「……そんなある日、1人の新人イラストレーターと出会った」


おっと転機到来。 その運命の御方はどなた? 薙刀? 口閉じてても喧しいなコイツ。


「……その人はアカウントを作って絵を上げたばかりだったけど、凄く、良い絵を描いてた」


あーそういや紅葉が事故に会った後くらいに俺も爺さんに言われて絵を上げ始めたっけ。 半分暇潰しと絵を描く口実作りだったけど。


「……多分、ずっと昔から描いてた人の絵だった」


そりゃまぁ、俺ってばこう見えて幼稚園とか保育園の頃から描いてますから。 絵に関してはこう見えて10年以上なのよ。


の割には作画じゃなくて原作やってるけど。 い、いいんだ俺より紅葉の方が上手いし人気出るんだから……あれ涙が。


「……不思議と、その人の絵だけは見てても苦しくなかった」


うーわ俺ってば名医。 苦しむ名も知らぬ少女を人知れず救うとかもうこれは世界救ったと同義。


「……でも、その人の絵はなんだか悲しそうだった」


「……ふむ?」


絵に込めた感情とな。 俺は特に何か込めた覚えは無いんだが。 言うて当時は少し荒れたやんちゃ坊主だったからなぁ。 お肌とかカッサカサだったし胃腸は悲惨だったし目は死んでた。 いやそれは今もか。


「……悲鳴に気付いてない────と言うよりは無理矢理押さえ付けてるみたいな感じがした」


あーそういや奏士くん当時は『悲しい過去を背負ってるやつは強い』って設定に憧れてたな。 いやはやそれが絵にも現れちゃうとは演技の天才で困った困った。


……ふむ、手汗が凄いな。 どうやら演技はまだ秀才の様だ。 ここで凡才と言わない謙虚さ。 謙虚さのトリックルームやめろ。


「……それでも、その人の絵を見てる内にだんだん勇気が湧いてきた」


よし流れ変わった! 俺ちゃんが如何に名医か読者に知らしめすといい!


「……毎日の更新が楽しみになって、少しずつ絵を描いてみたくなった」


ほうほうほうそれで完治に至った、と。 くーっ俺ってば名医通り越して……名医通り越して……………くぅ。 思いついてから喋ってもらっていい?


「……私が『絵を描きたいから紙とペンが欲しい』って言ったらおじいちゃんは驚いてた」


そりゃそうだろうよ。 あんま年寄りを驚かせて心臓の負担かけるなよな昔の紅葉。


「……おばあちゃんも驚いてたけど、2人とも喜んでた」


「……素敵な爺さん達でぇ」


ウチは……うーん2人とも凄くマトモでいい人なんだろうけど、如何せんあの爺さんのはっちゃけぶり、そしてそれを折檻する婆ちゃんという構図が強過ぎる。


でもまぁ、いい夫婦だったとは思うよ。 多分。 家庭が特殊だから分からん。


「……私にまたペンを握らせてくれた人の名前はつ「あー! あー! 聞こえなーい!」…………」


流石にこれは口を出す。 こんの極悪人がぁ……


「おい、お前人の過去掘り起こすとかどういう了見だ。 過去のペンネーム弄っていいのは葛飾北斎にだけだ」


ペンネームありすぎて今使ってるのどれか分からなくなりそう。 作者は時々自分のペンネーム忘れるぞ。 この前「変態バカ面男」って入力してた。 いやまぁ間違っちゃいないけど。 は?


「……つ「きーこーえーなーいー!」……つ「次言おうとしたら今ここでお前を剥いて街に放り出す」……できない脅しは効果ない」


なんて言ってますが、この娘一言も言わなくなりましたよ。 万一されたら困るからなぁ? 億一にもしないだろうけど。 いやだって紅葉が大人しくするとは思えないし……俺が剥く前に俺が紅葉に全身の皮剥がされる。


そしてそのまま鞣して切り抜いて縫合してソファとかにされる。 紅葉はエド・ゲインだった……? エド・ゲインってそんな丁寧な加工してたっけ?


「……それより」


紅葉が改めてこっちを向く。 なんだか真剣な眼差し。


「……こうして会うのは初めてだけど漸く言える」


紅葉の青い眼と目が合う。 まるで深海のように青く、深い眼だ。 3次元に興味は無いが、唯一、眼だけは綺麗だと思える。 あ、当然ながら泉ちゃんは別ね。


「……私にもう一度ペンを握らせてくれて、ありがとう」


ぺこりとお礼された。 奏士くんそういう感情慣れてないからどう返せばいいのかちょっと戸惑う。


だって意識してやってないしぃ……というか知らん内に知らん人救ってたとかどうすりゃええねんマジで。


「……ちょっと照れる」


紅葉の頬が少し赤い。 なんか久しぶりに照れ顔見た気がする。


「……次は奏士の話も聞きたい」


「は?」


何を言っとるんだこの娘は。 俺からは何も無いぞ。


「……奏士がいつから絵を描いてるとか、描く切っ掛けとか、なんで漫画を描くことになったのかとか。 聞きたいことは山程積もってる」


「いや、それは今ここでなくても……」


「……今じゃないと奏士は後回しにする」


流石紅葉、伊達に付き合いある訳じゃない。 よく分かってるじゃないか。


「……じゃあ、俺のを話す前に1度聞きたかった事があるんだが」


「? ……ばっちこい」


「言っちゃアレだが、なんで漫画の作画を引き受けた? お前は、伊吹童子先生はゲームの原画とか、ソシャゲの立ち絵とかは受けても商業誌は断るって有名だぞ」


数多くの名のある漫画家がチャレンジしたけど全部お断りされたって話だ。 それなりに同人作家としては売れてたとは言え、俺は名も無き漫画家。


大対する紅葉は超人気イラストレーター。 仕事は山積みで、とても仕事を増やす余裕のあるスケジュールじゃないし、余裕があっても態々受けるほど収入に困ってる訳じゃない。 何故、そんな紅葉が受けたのか。


「……最初は断った。 予定に余裕はあったけど知らない人だったし、ハマってたゲームで忙しかった。 でも、瑠姫さんから漫画の資料と奏士の絵のサンプルを見せて貰って気が変わった」


「なんでまた」


「……絵の感じは少し違ったけど、奏士の絵があの時見た絵を描いた人と同じだと思った」


末恐ろしき紅葉の直感。 漫画を描き始めた頃と絵を上げ始めた駆け出しの頃とじゃ絵もすっかり変わってるだろうに。 よく分かったな普通に凄い。


「……憧れの人と一緒に仕事できる嬉しさもあったし、こうしてお礼も言いたかった。 だから受けた」


俺ってばいつの間にか紅葉の憧れの人になってたらしい。


あれ、俺は絵師の紅葉を推してて、紅葉は俺を推してる。 そんな2人が巡り巡って一緒に仕事してる。 凄い巡り合わせだな。 運命線は切れても再びしつこく結び付くって本当だったんだな。


「まぁ、受けてくれた理由は分かった。 こちらとしてもありがとうと言う他無い」


今では紅葉以外の相方を考えられないくらいピッタリハマってるし、何より紅葉の人気の貢献度が高い。 新人作家が人気漫画家、それも1雑誌の切込隊長にまで昇進させてくれた。 感謝するしかあるめぇよ。


「……じゃあ次は奏士が絵を描く切っ掛けの話から」


「まだ続くん?」


「……今夜は寝かさない」


「終電終わるわ」


それからというもの、俺たちは話し続けた。 時間も忘れ、まるで子どもが昨日の楽しかった思い出を話すように。


──────────────────────────────


「それではお気を付けて。 先生、ちゃんと安全に送っていくんですよ」


「この場合どっちに言ってます?」


「それは勿論、強い方に」


「だってよ紅葉。 俺を安全に家まで送れ」


「……自ら負けを認める情けない男」


はっはっは今更紅葉に純粋な力で勝てるとは思わんよ。 どうしよう紅葉なら暴漢数人に囲まれても返り討ちにできそう。


おかしい……俺は強くなるために力と技をつけた筈なのに、一向に勝つ気配が無いぞ。


「あ、そうそう。 伊吹童子先生、少しいいですか?」


「? 何か?」


「少々お耳を拝借……」


「? ……ふむふむ……なるほど」


2人が何やら内緒話。 え、なんでこっち見んの? 俺の社会の窓開いてる? まさか最初から? 新番組の予告から開いてるとかは無いよね。


「……分かりました」


「では。 御報告、お待ちしています」


話が終わったのか、紅葉が戻ってきた。 瑠姫さんは何故かニコニコでお見送りしている。


……凄く嫌な予感がする。 あの人が酒以外で上機嫌って怖いよ。


「それでは。 あ、原稿はお待ちしておりますのでお早めに。 尚且つ最高の出来で」


「最後に怖いこと言わないでくれます?」


なんでこう、綺麗に終わらせて帰してくれないかな。 今日は久しぶりに機嫌良い日なのに。


「……行こ」


「はいはい」


紅葉に袖を引かれて渋々別れる。 帰ったら爆速で原稿やらなきゃなぁ……春休みでよかった。


「さて、と。 もう夜遅いけどどうする? 家着く頃には多分、日が変わってるぞ。 いっそどっかで飯食ってくか?」


「…………」


紅葉は頭をプルプル振って拒否。 紅葉がっ……飯をっ……きょ、きょきょっ、拒絶っ!? 熱でもあるんじゃない?


「……まだお話し足りない」


「帰るまで待てなそうか?」


「……熱がある内にしたい」


ふーむ……どうしようかね。 確かに、時間が来たから編集部を出たけど俺ももう少し聞きたいこととか残ってる。


「なら、どっか長居できそうな店に入るか? それか24時間やってるカラオケ入るか」


カラオケなら深夜フリーパックである程度安く済むし長居しても混雑時以外文句を言われない。 壁もしっかりしてるから多少の内緒話もできるし、飲み物・飯も出てくる。 暇な時は歌えるし、ネット環境も僅かにある。 今日買ったDVDとかを再生できる。 あれ、カラオケのスペック高くね?


「関東圏なら大体『まねき』あるだろ。 俺会員だから安く済むぞ」


「……それよりもいい所がある」


「は? おいちょっ」


それまで隣を歩いてただけなのに、急にがっしり手を掴んで引っ張るもんだから奏士くん少し驚いた。 あ、ちょっ、そんな引っ張ると荷物落とす。


紅葉は行き先までの道が分かってるのか、一度も止まらず進んでいく。 東京でも紅葉は目立つ。 あ、違います立ちんぼとかハルウリとかじゃないです普通に相棒です。


そのまま引っ張られるといつしか大通りから外れて裏道へ。


てか、ライブハウスとか怪しい店とかが並んでる。 無駄にデカイ建物があったり妙に値段と時間が区切られた看板が出てたりする。


あれこれ俗に言うホテル街じゃね? 前に通ったことある。


いやいや……え?


「ついた」


え?


「……この部屋にする」


え?


「……意外と広い」


え?


「……先にシャワー入る」


えー……え?

はいどーもお久しぶりの方はお久しぶり。 初めましての方はお久しぶり。 作者です。


先週更新しなかっただけで暫く書いてない気がします。 いや実際ココ最近まともに書ける体力じゃなかったですけど。


何があったか……それは最近金欠で一日一食の強制ダイエットを執行されて体力温存のために夜は寝てただとかポケモンにハマって一日の大半をポケモンに費やしてたとか色々あります。 面白いですよねオメガルビー

まぁ私BW派ですが。 パッケージ伝説の色とタイトルが一致しないトラップとか懐かしいですね。 私はゼクロムが欲しくて「ホワイト買って」と言ったら親にブラック渡されました。


そんなことより本編です。


最近書いてなかったので少し長くなった感じがします。 本来はまだあったのですが、長すぎるので分けました。 続きは次回です。 2人が東京のラブホで1泊。 男女が。 ラブホで。 1泊。 これで何も無いと言い切れる奏士の信頼感凄いですね。


私ビクビクしてます。 次回のラブホでのやり取りが運営に怒られないか。 一応全年齢小説なんですよね……今更感凄いですけど。 18禁じゃなければ何やってもいい感あります。


ではここで。 次回もお楽しみに



追記 私のグラードンの名前を『デカサンド』にした犯人は名乗り出なさい。 誰ですか人のソフト勝手に触って改悪した人

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