白猫とホワイトクリスマス
今は昔 たのすいたのすいくりしゅましゅぱーちーという物がありけり。
残念ながら竹取物語の原文をこれ以上覚えてないからここで終わりだ。
「おーい出来たぞー」
完成したご馳走の数々を持って出てみればだーれも居ない。 そうか……今までのは全て俺の妄想だったのか。 つまり畏敬する天使様。
……え本当に全て幻? 俺ってそういう系の病気だったのか? 何かしらの病である可能性は前々から示唆されてたけどこんな所で? これ第1話ですよね。
あーだからか。 妙に俺に都合良くて物凄く都合の悪い世界だったのは。 そうだよなあんな風に好意的に接してくれる存在なんて重政しか居ないもんな。 人間である時点で気付くべきだった。
幻となると合点が行く。 ベルが無償レベルでアイラブユーだったのも、紅葉のオーバースペックも、泉ちゃんがとてつもなく可愛いことも。 そりゃ妄想なら世界の法則の枠外だわな。
「……食うか。 重政ー」
「にゃ(飯か)」
呼べば現れる素敵な子、重政。 可愛いヤツめ。 やはりお前がヒロインだ。
「なー(俺の飯はどこだ)」
「今日はご馳走だぞー 牛ロースのステーキだ。 ちゃんと猫が食っても大丈夫なように調理したから安心して食え」
「ニャーン(愛してる)」
コイツ肉食えると分かった途端に擦り寄ってきやがった。 現金なヤツめ……可愛いぞこんにゃろ。
「カフカフカフカフ……」
ホント美味そうに食うね。 作った甲斐が有るという物だ。
「なー(美味い! 美味いぞ!)」
物凄く上機嫌な重政。 あれコレ重政√でしたっけ?
「にゃっ!(お代わり寄越せ!)」
「今日はもうダメ。 小さいけど、こっちの猫用クリスマスケーキを食べなさい」
「────(だ〜め〜?)」
「サイレントにゃー+つぶらな瞳でお願いしてもダメです。 食べ過ぎ厳禁」
「にゃー(クソが)」
コイツ相変わらず感情表現豊かだな。 雑に扱われても可愛いと思えるんだから俺は既に病気。
「カフカフカフカフ……(こっちはこっちで美味い)」
諦めてケーキを食べる重政。 俺もそろそろ食おうかな。 幻の分も作っちゃったから量が多いぜ。
「……まだ食べちゃダメ」
全て幻だと分かると紅葉が急に現れることに驚かなくなったよね。いつの間に座ってたの君。
「…………」
「…………ふぁに」
紅葉の頬をコネコネコーネコネ。 もちすべお肌だ。
「…………」
「…………ふぁに?」
お次は紅葉の頬を引っ張って伸ばしてみる。 幻とはいえ本当によく出来てる。 触感のリアルさが凄い。
「…………」
「…………ꐦ」
「げふっ」
頭突きされた。 我が胸板、崩壊! 背中まで衝撃が突き抜ける頭突きにより次元に歪みが生じ、胃と肺と心臓と胸骨は消え去った。 今生きていられるのはあれだ。 なんかよくわからん。 説明放棄しおった。
「なんだ」
「……前置き無しで人のほっぺ触ってきたそっちが悪い」
細かい変化も再現出来るとはさすが俺の妄想だ。 日々漫画でそういう事考えてるだけある。
「……セクハラ?」
「これセクハラになんの?」
「……『貴方がセクハラだと思ったものがセクハラです。』古今和歌集から抜粋」
「紀貫之達に謝れ」
そんな暴論が通っていいわけないだろ。 国が滅ぶぞ。
まぁ、そんな事しなくても我がニートピアは既に滅んだんですけどね。 大丈夫、七夕の短冊にも『ニートピア復興!』って書いたから。(実話)
「決してセクハラじゃない。 今俺の中で『今までの全て俺の妄想説』が話題沸騰中なんだ」
「……そんな最新記事みたいに言われても」
ダメですかね。 事実なんですけど。
「……私は奏士の妄想?」
「なんじゃないかって話」
「……私は私」
「それを証明出来るだけの自己が見つからなくてな」
「……急に難しい花話された」
「気の迷いみたいなもんだ。 流せ」
「……どれくらい?」
「川上から大きな桃が」
「……桃太郎」
「ドドスコドドスコと流れて来た時くらい流せ」
「……桃楽し○ごが入ってそう。 あとそこまで上手くはない」
「最後の一刺し要ります?」
そのまま流してくれればよかったのに。 致命傷は避けた。 大丈夫ちょっと大腸が外に出ただけだ。
「……………………」
はいまたこの流れ入りました。 紅葉さんの黙りターイム! ドンドンパフパフ² 面倒だからって累乗で略すな。
「…………?」
「なんで何も言わないんだろう」みたいな目で見上げられても……俺に上目遣いは通用しない∑! 唐突なZに動揺が隠せnいやこれZじゃなくてシグマだ。
「…………」
ちょいちょい服の裾を引いてくる。 言いたいことがあるならはっきり口にしよう。 そしてクソ上司に真正面から殴りかかろう。 これは何かあったな。
「……何か言うことは?」
はっきり口にできたねやったね! じゃあ次は黙ることを覚えよう。 うーんこれはクソ上司ムーヴ。
「……殺すのは年明けてからにして欲しい」
「……巫山戯てる?」
失礼なやっちゃな〜 こちとら大真面目に命乞いしてるっちゅーに。
「…………」
何かがお気に召さないらしい。 不機嫌なのは分かったから作務衣に毛玉作ろうとするの辞めんかバカタレ。
「……にゃー(形だけでも褒めた方が楽だぜ)」
重政が呆れた声で鳴いた。 そんな援護射撃今は要らない。 なんかこう、褒めるのはアレよ。 負けた気がするじゃん。 何と戦ってんのかは知らねぇけど。 男は敵が7人居るって言うだろ。 それとは違うんだけどさ。
「…………ムー」
毛玉作りも飽きたのか、人の右手をとって指にデコピンしてきた。 ただじゃれてる様に見えるでしょう? その実、この人指の骨を粉砕しようとしてますよ。 恐ろしいですね。親の教育は────あ、なんかゴメン。
「ハイハイお似合いお似合い」
「……心が籠ってない。 やり直し」
「感想のやり直しとかお前は学校の先生か」
何故か「相応しい」を求めてくる面倒な教員。 知らねぇよ絵を見た感想なんか。 「手を見て勃ちました」とかよっちゃん(33)みたいな事言えばいいのか? あ? かつての私怨が……いや勃ってはないけどさ。 例えよ例え。
「なんだ? 何を求めている。 要求不明じゃ何も出来んぞ」
「……それくらい自分で考えて」
クソ上司ムーヴかましてきやがった。 これは基本中の基本、「自分で考えろ→なぜ聞かなかった」のループ入りますっ! さっさと終われこんな輪廻。 輪廻終わったらこの作品も終わったちゃう。
「……「おんまたせシマシター!」……」
そこでベルの乱入。 人が口を開いたタイミングで……
「おやおや、おやおやおやクレハは先に来てマシタカ」
ベルがボ○ドルドみてぇに言ってら。 やめろ作者のエアプがバレるだろうが。
「お、遅くなりました……」
ベルの後ろから泉ちゃんがひょっこり顔を出す。 顔以外にも出していいんだよ。 露出的な意味じゃなくて。 そっちがお望みならやぶさかでない。
「ソージ! ジャーン!」
「は?」
ベルが手を広げて見せびらかしてきた。 いや服は着てるぞ。
ベルの顔がウザイ。 「さっさと褒めんかいボケェ!」って感じで凄い要求してきてる。 何を褒めろと。 メンタル? 凄く凄いと思います。 作家に有るまじき語彙力の無さ。
「何を?」
って聞いたところで気が付いた。 衣装が変わっている。
それはベルに限らず、紅葉も、身体を隠している泉ちゃんも。
なーるほど、消えたんじゃなくて着替えに行っていたのか。 それなら普通に部屋行くなり何なり伝えて欲しかった。 妄想だと思い込んで恥ずかち〜
「それドンキ?」
「いやどう見ても布で出来たサンタ服デス」
「鈍器の方じゃなくて買った場所」
「あ、そっちデシタカ。 ならYES! この前3人でクリスマスの飾りを買いに行った時に買ってキマシタ!」
「はーん」
相変わらず興味を失うのが早い。 強いて言うなら「よくもまぁコイツの身体が入るサイズが置いてあったな」くらい。 ドンキの対応範囲って広ぉーい。
「どーデスカ? 脱がしたい? 押し倒したい? 赤を白濁で染めたいデスカ?」
ベルはサンタ服で詰め寄って来た。 異様に胸元空いてるし肩が片方出てるしスカート短いしへそ出てるし……それ買ったの激安の殿堂の方のドンキじゃなくてラブホの方のドンキだったりする? 3Pしてきたんか! 良かったね!
「ハイハイ似合ってて良かったですね」
「おっとソージ! ワタシが毎回雑に褒められた程度で満足する女と思ってたらおー間違いデス!」
え違うん? 少なくとも大間違いじゃないでしょ。
「ほーら! イズミも隠れてないで出てくる!」
「む、無理です着替えたけどやっぱり無理です無理です無理です」
「この期に及んで何言ってマスカ! 選んでる時あんなにも乗り気だったノニ!」
「こんなに色々出るなんて聞いてません」
あら〜 泉ちゃん顔真っ赤にしちゃってもぉ〜
……誰だ今のオカン
「ソージからも言ってやってクダサイ! 押し倒したいって!」
「言わんわ」
「ホラ、イズミ! 何時までも隠れてるなら今夜膜破りマスよ!」
大きなカブ宜しく、柱の影に隠れた泉ちゃんをベルが引っ張る。 それでも泉ちゃんは抜けません。
「うぐっ……で、でも……」
もしそうなったとしても絶対に膜は俺が死守する。 泉ちゃんは俺が守る。 俺が泉ちゃんの知人じゃなかったら完全にアウトな奴だこれ。 知人でもギリアウトじゃね?
「う〜〜えいっ!」
「きゃっ!」
大きな泉ちゃんが引っ張り出された。 ちょっと意味変わってる。 泉ちゃんは器以外大きくないぞ! クソ失礼。
「ほぉーらっ! ちゃんとソージに見せびらかさないと!」
ベルが泉ちゃんの肩を掴んでこっちに正面向ける。 それでも泉ちゃんは手や腕で隠そうとするから、ベルは泉ちゃんの手首を取って上に挙げて拘束する。
「ジャーン! どーデスワタシチョイス!」
「あら〜」
泉ちゃんってば大胆なオフショルなんて着ちゃってま〜
「あ! イズミってば黒インナーなんて着て! 」
「無理です無理です……肩だけならまだしもお腹出てるのはさすがに無理です……スカートもこんなに短いとは思ってませんでした」
「それがコスプレというものデス! 」
わぁ胸張って言い切った。 これ1歩間違えればエロサンタじゃね? デリヘルか何かだろ。
「と、というか、お2人はなんでそんなに平気なんですか?」
「……普段の服と大差ない」
確かに君普段から肩出てるけど。 紅葉の冬服はオフショルニットワンピ。 肩出しとワンピースに何かしらの拘りでもあるのか?
「その辺の羞恥心は産道に置いてキマシタ!」
ベルの場合置いてきたというか元から無いというか。 受精担当が欠陥品だったんだなきっと。
「ソージソージ! 似合いマスカ?」
「ハイハイ可愛い可愛い」
「もっとこう……ジ○イフル山新くらい心込めろ!」
「あれ込めてる対象笑顔の暮らしだけど」
「モコモコだから露出度に反して暖かそうですね〜」とか言えばいいのか? 笑顔の暮らしどこだよ。
「じゃあ一人一人聞きマス! ワタシは!」
「ハイハイ似合ってる似合ってる」
「クレハ!」
「ハイハイ似合ってる似合ってる」
「ならイズミ!」
「…………くっ! 俺の語彙力じゃ泉ちゃんを完璧に表現出来ない!」
「格差!」
いやほんとマジで泉ちゃんはどう頑張っても讃えきれないって。 ホントホント。 マジエンジェル。 まじ小悪魔。 俺の心臓奪うなんて泉ちゃんマジトンビ。
「も〜! こうなったらパーティの後でじっくりたっぷりわからせマス!」
「……何を?」
「ソージに人間性を!」
「そ、そこからですか?」
失礼なやっちゃなー 俺はまだ人間性あるっつーの。 失うのは時間の問題でした。 お前が来るまでは。
そういう意味では、良くも悪くもストレス与えまくって人間らしさを保った事を褒めるべきだ。 いよっ! ベルフローラとかいう生き物に拍手! その後で拳のラッシュ! 最後に斬首! オーバーキルが過ぎる。 あと褒める気無ェだろ。 何を今更。
その時、誰かの腹が鳴った。
「紅葉、腹鳴らすならもうちょい可愛くやれ」
「……迷いなく私だと決めつけられるのは心外」
「ほーうじゃあお前じゃないと?」
「…………お腹減った(キュー)」
こいつ器用に腹の音で自白しおった。 俺もそろそろ腹減った。
「おっとこんなことしてる場合じゃなかった……それもこれもソージがヘタレなのが悪い!」
「あ?」
「……冷める前に食べる」
「あ、でしたらお飲み物お注ぎします」
「ワタシコーラ!」
「……スプライト」
人の気も知れず、ガン無視でパーティおっぱじめる自由な少女達。 腹立ちますね。 着てるサンタ服みたいに血で真っ赤に染めたくなります。
「あ、あの……」
「ん?」
「奏士さんは……何を飲みますか?」
「……ドクペ」
「まーたそれデスカ」
「……毎日は身体に悪い」
「パーティの時にカロリーとか栄養価とか忘れろ」
「うぐっ……か、カロリー……」
食卓にはターキーはまだしも、ポテトやピザ、ケーキなど高カロリーなものばかり。 栄養価は殆ど無視してるから食べたら間違いなく腹に肉がアレする。(紅葉を除く)
「食べたら太る……どうしよう……最近またお肉が付いたのに」
「そうデスカ(ふぉうふぇふか)?」
「……痩せてる(ふぁふぇふぇる)」
「ターキー食いながら喋るな」
体重の増加を気にする泉ちゃんとは対照的に全く気にせず肉を食らうベルと紅葉。 2人とも腹に付かないからね。 付くのはもっと上だからね。 泉ちゃんは今のサイズが丁度いいから付かなくていい。
「……食べた分だけ動けばいい」
「そ、それはそうですけど……」
泉ちゃん運動そのものは苦手じゃないけど基本的にインドアだからね。 かつて病弱だった影響か、妙にタフかと思えばなんて事ない時に突然崩す事もあるし。 無茶はできないしさせられない。
「……例えば、逃げる奏士を捕縛するとか徹底的に打ちのめすとか」
「お前あの誘拐・暴行事件を運動と捉えてんの?」
毎度毎度瀕死になる俺のことも少しは考えてください。 いや逃げなきゃいい話ではあるんだけどさ。 それはそれこれはこれ。
「あ、あの……流石にそれは」
良かった。 泉ちゃんが決意キメてたら俺は甘んじて受け入れるところだった。 股間は狙わないでね。 流石に弱いから。
「後は…………日々のストレッチとか呼吸とか姿勢とか、小さな事に気を付けると痩せマス」
人が食おうとしてたロングポテトを誘拐したベルが言う。 それは俺が調理段階から楽しみにしていたのに……許すまじ。
「小さなこと、ですか?」
「YES。 例えば、ストレッチならお風呂上がりとか運動の後とか。 身体が柔らかくなって無理な体位でも出来るようになりマス」
「あの……もう少し有意義なメリットは」
「お気に召さないデスカ……なら、普段の呼吸を腹式呼吸にするよう意識すると自然と基礎代謝が上がって消費カロリーが増えて痩せます。 次いでに肺活量も少し増えるから長時間のディープキスも問題無し!」
最後の方はさっきとなんも変わりませんね。 泉ちゃんにそんな相手居るわけないだろう。 居るなら俺が知らないはずないし泉ちゃんよりも俺が先におつき合いする。 とりあえず石槍からお突き合う。
「ナラ最後! 姿勢よく胸張っているとおっぱいが大きく見えたり背中や股関節の筋肉が締まって膣圧が上がりマス!」
「遂にオマケですら無くなったな」
「……私、張ってまで大きく見せるほど胸無いんですけど」
「あ、え、えーっと…………膨らんでるだけマシデス!」
「フォロー下手か」
因みに膨らんでるだけマシというのは具体的に何処のお嬢様を引き合いに出してるんだ? あの人そんなに無いの? パッドで盛るほどとは思ってたけど、普通に微かな膨らみくらいあると思ってた。
「……というか、どれもベルしか得しない」
そういう紅葉は人が狙っていたサラミピザのサラミが他より少し多いピースを取りやがった。 ねぇさっきから俺に恨みでもあんの?
「まぁどれも手軽に始めれてそれなりにカロリー使うからオススメデス。 ワタシも継続してマス」
「そ、そうなんですか……でしたら〜〜えいっ!」
意を決した泉ちゃんがポテトを一つ摘んで食べた。
「……泉がどれくらい続くか賭ける?」
「何をかけるんだ?」
「……三日坊主になるに奏士の魂を賭ける」
「勝手に俺をチップにするな」
「……奏士は?」
「1週間は続くに花京院のパンツを賭ける」
「……賭け事が下手すぎる」
「ちゃんと脱ぎたてだぞ」
「……1部のマニア以外は需要が薄そう」
そっかー 意外といい路線だと思ったんだけどな。
「ソージソージ! ハイ、あ〜ん♡」
「あ〜ん?」
「……ガン飛ばせって意味じゃないと思う」
これで有耶無耶になったりしませんかそうですか。 クソが。
気を取り直して。
「あ〜ん♡」
「ハイハイ食べますよ食べればいいんでしょう」
素直に従う他解決策が無い。 無駄な抵抗はやめろ! 我々は完全に包囲されている! 犯人側が言うんだ……
「…………(ハプッ)」
と思ってたら横から紅葉が掻っ攫った。 食い意地張ったヤツめ。
「おお! どうしマシタクレハ! デレ期デスカ? 漸くワタシにデレマシタカ!」
「……気のせい」
何がしたかったのかは分からんが、何となく満足してるっぽいしそっとしておこう。 触らぬ神に祟りなしだ。
「…………(ドスッ)」
但し向こうから触れてくる神は除く。 脇腹痛い。 水平チョップされた。 恐ろしく早い手刀でした。
「じゃあイズミも! あ〜ん♡」
「あ、あ〜ん……」
「食べた! やはりワタシ、モテ期キター!」
どっかの青春銀河みたいに両拳を挙げてる。 モテ期って迷信じゃなかった?
「…………」
それからは無言で黙々と食べ続ける紅葉。 気まぐれ過ぎて本当に祟神じゃ……ちょっとスサノヲ呼んでこないと。 祟神の力を制御してくれるかもしれない。
────────────────────────────
「ぐが〜」
「う、ううう…………」
パーティの後、風呂に入ってサンタ服からお揃いのアニマルパジャマに着替えた3人と遅くまで遊んだ後の祭り。 何か手遅れでも?
遊び疲れたのか、ベルは大口開けて大の字で寝ている。 泉ちゃんはそんなベルに巻き込まれて唸っている。 悪夢でも見てるのかね。 この前作者が見たゾンビ系の明晰夢の話する? なんで夢って明晰夢だと分かると覚めるのかね。
「……ふぅ」
部屋を占拠され、重政も自分のベッド────は使わずに人のクッションで寝やがったから1時退散。 縁側で休んでいる。
お茶が美味い。 日本茶は食後の文化と言うが、熱い緑茶を飲むだけで落ち着くのは遺伝子に刻まれた何かなのだろうか。
冬真っ只中+夜中だから外は冷える。 作務衣の上に半纏羽織ってるけど足元が寒い。
だが、その冷気とお茶の身体中に染み渡る温かさがベストマッチ! お茶を飲み、息を吐いて吸うと同時に澄んだ空気が肺を満たすのもなかなかどうして良い。 こういうゆっくりとした時間を俺は欲していた。
「…………」
そして欲したもの程手に入らないのも知っている。 紅葉さん襲来。 なぜ隣に座るのか。
「……どうした」
「……奏士が1人寂しそうな背中で休んでたから慰めに」
「余計なお世話だ」
毎度の言い合いを挟んで沈黙。 あ、人柱。 お茶飲んでたのに誰か生贄にでもされたん? 茶柱だろ。
「……ふぅ」
湯呑みを置いてお茶請けのマドレーヌを一つ。 味的には合わないが、それが逆に口の中をスッキリさせてくれるような気がしないでもない。 個人差あるから……マスタードとチョコのミックスを美味しいと思える舌を信用するな。
「……ズズズ……」
隣から何かを啜る音が聞こえて見てみる。
なんでこの女俺の湯のみで茶を飲んでるんだ? これはあれか? 俺のものとソックリな湯呑みか? いやあの底の欠け方は俺のだな。
えなんで許可とるとかしないで飲んでんの? しかも人の湯呑みで。 褌じゃねぇんだぞ。
「……お茶請けにマドレーヌ?」
「文句あんのか」
「……美味しいからいい」
えーはい、マドレーヌ食い始めました。
「え待って待って。 ちょい待ち。 なんでお茶飲んでんの?」
「……? 奏士がくれた」
「あれはマドレーヌ食うためにお盆に置いたんであって、間違えてもお前に上げるために置いたんじゃねぇ」
「……細かいことを気にする男」
「お前の目って逆顕微鏡みたいになってたりする?」
こっち私物使われてんのよ。 俺今後この湯呑みで飲めないじゃん。 洗っても関節キス気になるタイプ。 でも飲食店のは気にならない不思議。
「湯呑み返せ。 俺の茶だ」
「……はい」
コイツ最後に一気飲みして空にしおった。 喧嘩売っとんのか。
「……はぁーっ……もういい。 マドレーヌ食って寝る」
しかしマドレーヌは見当たりません。 あれ、皿に盛ってあったはずなんだけどな……
「…………?」
見上げると紅葉の口にはマドレーヌ咥えられている。
「……お前全部食っただろ」
「…………」
「おいこっち見ろ」
「……ん」
何をとち狂ったのか、咥えたままマドレーヌを差し出してきた。
「お前の食いかけなど要らんわ」
「……少し食べただけだから新品同様」
「そんなフリマサイトの『1度しか来てないから実質新品です!』みたいな文句が通ると思ってんのか」
「……ゴチャゴチャうるさい」
「ん゛ーっ!」
頬をがっしり掴んで口へダイレクトに渡そうとしてきた。 マドレーヌ越しのキスとか嫌だわ。 間にマドレーヌが無くても嫌。
「……美味しい」
「そりゃようござんしたね」
俺ほとんど食ってない……こんの第3王女め。
「次は奏士茶、もといほうじ茶だと嬉しい」
「調子乗んな」
なんでお前の好みに合わせて用意しなきゃならんのだ。 知らんわお前のお茶派閥は。
「……奏士の作ったマドレーヌも中々」
「勝手に食っておいてそれか」
「……ママの味には負ける」
それは勝てないな〜 思い出の味は無敵だもの。
「マドレーヌに何か思い入れでも?」
「……ママがよく作ってくれた」
「さいすか」
「……私が唯一作れる料理」
「お前『お菓子は得意』とか言ってなかった?」
「……ちょっとだけ見栄張った」
つまりお菓子は得意ってことか……本当に料理できないんだな。 料理教わる前にくたばってればそうか。 俺は料理が得意な人に教わったからアレだけど。
「……女として男の奏士よりお料理が下手なのはなんか悔しい」
「石炭製造業者のくせに一丁前に悔しがりおって」
「……私が本気出せば奏士も感動で泣き出す」
「その本気とやらはいつマスターアップするんだ?」
「……近日公開予定」
「まだcoming soonなら今世は無理そうだな」
「……そこまで言われるのは心外」
紅葉がムッと頬を膨らませて言う。 でも本当のことだし。
「……ママのマドレーヌ」
「は?」
「……何度も作ってみたけど再現出来ない」
「親の力は偉大って奴だ」
「……何かが足りない」
「……何か?」
「……分からないけど何か一つが足りない」
「あっそ」
「…………! 奏士なら再現出来る?」
「そういうのって赤の他人がやっていいもんじゃないだろ」
「……なら助手」
「助手〜ぅ?」
「……お手伝いなら例外セーフ」
「なんか狡くね?」
というか例外ってなんだよ。
「……後でな」
「……約束」
「はいはい」
「……指切り?」
「指4本になりそうだから辞めとく」
「……流石にそこまでの力は無い」
「そうかぁ?」
「……指は残す」
「使えなくなるのは同じじゃねぇか」
俺まだ握力半分になりたくない。 五本の指で生活したい。
「……指切りかねきり荒野の表で血吐いて」
「は?」
「……来年腐ってまた腐れ」
「なんで旧バージョン?」
「……約束の重さ」
えぇこれそんなに重いの? 「後でマドレーヌ作ろうね」レベルじゃないの?
「……少し暑い」
そう言いながらパジャマの前のボタンを開け始めた。
……………………え?
え待ってなんで開けてんの?
「待て。 再び待て。 なぜパジャマの前を開けている? 露出狂にジョブチェンジでもしたのか?」
「……私の趣味みたいに言わないで」
だって躊躇とか無く脱ぎ始めたし。 まだ脱いでは無いけど。
「……ジロジロ見ないで」
「紳士な俺が見ないように顔を背けてやってるのに凄い言い様だな」
凄く紳士ぞ。 乙女の肌を見ないようにしてやってる俺紳士ぞ。
「……気になる?」
「ならないからボタン閉じなさい」
「……パジャマに熱気が篭って暑いからヤダ」
さてはコイツ俺の視覚を封じて闇討ちする気だな? 俺は詳しいんだ。
「……全く見ないのは流石に腹立つ」
「どう転んでも闇」
見たらセクハラ見なけりゃ失礼どうしろと? 理不尽だ。
「…………! 奏士」
「あ?」
「…………」
「むっ」
唐突に頭を掴まれたと思ったら抱きしめられた。
いや、抱きしめられたというより胸に押し付けられたというか。
「……急に何する」
「……私は奏士の幻覚みたいなこと言ってたから」
「それでなぜこんな暴挙に?」
「……人の温もりと心音で本物だと証明出来る」
いやそれも幻で説明できちゃうんだけどな。
つーかあんなクソどうでもいい話覚えてたんか。 俺は忘れてた。
「……本物?」
顔全体が柔らかく暖かいものに包まれている。 夜だからか物音が無く、紅葉の心音がよく伝わる。
感想を述べるのならとても心地よいと言っていいのだろう。 胸に包まれていると言うのに、不思議といやらしさとかそういうのは全く無く、むしろどこか安心するような気がする。
「……はいはい本物。 認めるから離せ」
「……」
紅葉が頭から手を離す。 やっとまともに息ができる……
「……? …………?」
紅葉は自分が何をしたのかいまいち把握しきれてないのか、何か考えてる様子。 本能で行動してるから理解が追いつかないんだね。
「……あ」
紅葉が空を見上げて声を漏らした。
気になって俺を見上げると、白いものがチラホラと降ってきた。
「……雪」
「珍しいな」
日本海側から来た雪は途中で雨になるから太平洋側は基本的に雪は降らない。
それなのに雪が降るとは……しかもクリスマスの夜に。
「……ホワイトクリスマス」
「……サンタの爺さんからのプレゼントなんだろ」
「……綺麗」
紅葉は庭のサンダルを履いて出る。
紅葉を彩る様に闇夜を降りる白い雪。
……………………
「…………寒い」
「おかえりなさい」
「……お茶」
「はいはい」
残りの茶を湯呑みに入れて渡す。 もうこれは紅葉にあげよう。 百均だし。
「……あ、そうだ忘れてた」
「……?」
思い出して箱を取り出す。 あっぶねークリスマスの夜終わるところだった。
「……はい、プレゼント」
「……?」
「さっきのプレゼント交換の時、お前が俺の箱引いただろ。 その箱の中に『当たり!』とかそんな紙入ってなかったか?」
「……これ? これ奏士?」
「ああ。 はい、引き換え」
紅葉から紙切れを受け取って青いリボンで結ばれた箱を渡す。
「……開けていい?」
「どうぞご自由に」
紅葉は意外にも綺麗に素早く封を開けた。 もっとビリビリに破くかと思ってた。
「……おー」
中にはハンドクリームや小さな猫のぬいぐるみが。 俺特性プレゼントセットだ。
「……ハンドクリーム」
「冬場は手が荒れるし、誰にあたっても使えるからな」
「……猫のぬいぐるみ」
「猫は世界共通で可愛いだろ」
猫isキュート。 これは世界の理だ。
「……まだ何か入ってる」
「ああ、それはな──」
言い終わる前に紅葉が箱を開ける。
「…………指輪?」
「店員に進められた」
「……予算オーバー」
「実はしてないんだなぁこれ」
上手いことやって全部合わせても3000円超えてない。 嘘だ4000円は超えてない。 内緒。
「……青と猫」
「奇跡的にお前と一致してるよな。 これも何かの因果だろ」
「……狙った?」
「いんや全然」
全くの偶然なんだなコレ。 何となく指輪を選んで、何となく猫のぬいぐるみも入れて、何となく青いリボンを使ったら紅葉に辿り着いた。 偶然ってほんと不思議。
「…………おー」
指輪を見る紅葉の目は凄くキラキラ。 お気に召してくれたのなら良かった。
「…………」
紅葉は指輪をはめようとして、寸前で止まった。 サイズは問題無いハズだが。
「…………はい」
何故か箱ごと差し出してきた。 要らない?
「……何?」
「……折角だから」
「もしやはめろと?」
「……」
紅葉ちゃん頷いた。 ヤダ〜正直〜
「ヤダよなんでそんな。 自分でやれ」
「……なら奏士だけのプレゼントの直筆サイン色紙と私作の画集は破棄する」
「ぐっ……人質取りおって……」
しかし画集の誘惑に負けた。 だって酒呑童子先生一度も画集出さないんだもん。
「良いだろう。 箱を渡せ」
「……ん」
箱を受け取って指輪を取り出す。 うむ、さすが俺のセンス。
「…………」
紅葉の手を取って狙いを定める。 えーと前にはめたのはどの指だっけ。 確か左手中指だった様な……
「……………」
あれ、なんか震える。 いや脳じゃなくて手が。 流石に長い時間寒空の下に居るから冷えたかな。 反面紅葉の手は暖かい。 子供体温流石。
あ、ヤバいくしゃみ出る。
「……っくし!」
「……あ……」
間一髪顔を背けることが出来た。 さっさとはめないと。
「…………」
奇跡。 くしゃみの衝撃で指輪がはまってました。
紅葉の左手薬指に。
「あーっとぉ……………やり直すか」
色々とマズイから指輪を外そうとしたらその前に手を抜かれた。 えちょっ
「……2度目は無い」
「待て。 そこはマズイ。 色々と俺の命とかマズイからやり直しを要求する」
「……嫌」
そういうと、紅葉は素早く立ち上がって去った。
「待てうおっ!?」
慌てて追いかけるも寒さで足が思うように動かない。 縁側から落ちたんだけど。 腰が痛いです。
あーもういい知ったことか。 殺られる時は紅葉を生け贄にしてやる。
つーかこうなったら外しにくいよなぁ……
あんな嬉しそうな顔みたらさ。 良心が痛む。 幻肢痛とか言ったらヘモグロビンが一酸化炭素にNTRされる同人誌で脳破壊してやる。 脳破壊(物理)になりそう。
はいどーも最近生活リズムがクライシスな作者です。
どうにもサイレント夏バテ+暑さによる体力削りの影響で夕方から夜にかけて異様に眠くてですね。 夜寝て明け方起きて色々動いてまた朝まで寝るルーチンを繰り返していたら最後にまともな食事したのが何日前か分からなくなりました。 少なくとも5日前に冷やし中華食べたことは覚えてます。
皆さんも色々気をつけましょう。 夏バテは症状に出にくいのもありますから。
それはそうと紅葉√の第1話です。
主に紅葉と奏士がメインですが、他のキャラも忘れず登場します。 ベル達が捨て駒になるなんてこともありません。
以上
試しにそれぞれの告白シーンを書いてみたら尊死した作者より