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第七話 入寮

 三日間遊び倒した私達(ハンナも楽しんだはずよね?)は、いよいよ入寮の日を迎える。そこから入学式はさらに二日後になる。


 入寮すると、一ヶ月は外出が禁止になる。

 これは元々、貴族の多い学院で贅沢に、ワガママに育てられた貴族の子供たちを親から離すことで、学院生として自立させたいという話だったと思う。


「それにしても、学院では身分は関係ないという話は名ばかりね?」

「一応寮生活は、学院生活とは別だからという事らしいですよ」

「それも無理やりよね」


 学院内に身分は持ち込まないというのが、学院の方針ではあるらしい。だが、王家やその親族たる公爵家に狭い部屋で二人部屋などを押し付ける事は出来なかったのだろう。

 そして、王の一族だけでは貴族たちの反感を買うということで、侯爵家までということで特例で従者を一人つけれるようにした、というのが落とし所だったのかもしれない。


「ま、私はハンナと一緒にいられるだけで幸せよ」

「はいはい。左様でございますか」

「なによそれ」

「ウィナは初等院にも通わなかったのです。今度はちゃんと学院でお友達を作ってください」

「分かってるわよ。そんな事」


 ふと、二人の取り巻きの子を思い出す。二人共、悪役令嬢の手先となって主人公であるエリーゼに色々と意地悪をするキャラなのだ。正直、とてもお近づきになりたいとは思えないのだが……。

 それでも私を慕って近づいてくる少女を邪険に出来るかと言われると、無理だ。


 私が変なことを指示しなければ、きっと大丈夫だと信じるしか無い。


 それにしても……。


「ミネルバ様はいらっしゃるのかしら、挨拶に行きたいわ」

「上級生は今は長期休暇中ですので、おそらく前日くらいにいらっしゃるのでは?」

「そう……早くお姉さまにお会いしたいわ」

「そうですね、ミネルバ様は殿下の従姉になりますので、きっと間に入っていただけるんじゃないですか?」

「間に?」

「はい、もう少し殿下とウィナが――」

「そんな事頼むわけ無いでしょ?」

「だけど……」


 困ったようなハンナを一瞥すると、私は部屋の隅に設置してある従者用の部屋を覗く。部屋は三畳あるかというくらいの狭い部屋だ。そこに小さいベッドが置いてあり、更に部屋の圧迫感を感じさせる。


「ハンナ」

「な、なんですか?」

「ここはちょっと狭いわね」

「そうですか? このくらいあれば十分ですよ」

「うーん。ここは倉庫にして私のベッドで一緒に寝ましょ?」

「だ、駄目ですよ。そんなの人に見られたらなにを言われるか」

「人は人、私達は私達。ね?」

「もしかして、ウィナはもうホームシックなのですか?」

「はい? ち、違うわよっ」


 ハンナは頑なに私の提案を断ろうとする。これは説得は無理だなと諦めかけた時、トントンとドアがノックされる。すぐにハンナがドアに駆け寄った。


「……」

「……」


 ああ……。私はすぐに来客の正体に気がついてドアに向かう。ドアの向こうには二人の少女がキラキラした目をして私を見つめていた。


「まあ……なんて……お美しい」

「ウィノリタ様! やっとお会いできましたわ!」


 二人はうちの侯爵領に住んでいる貴族の娘だ。貴族=領地持ち、というわけでは無い。領地経営には多くの人員が必要になる。いわゆる役人というやつだが、すべてが貴族というわけでは無いが、その役人のうち上役として指示をするのは貴族となる。

 そしてその領地の主が侯爵クラスになれば、その爵位も高い者がいる。子爵領などになると、士爵がかろうじて居る程度だが、二人の家はれっきとした男爵家にあたる。


 名前はテルーとドリュー。随分適当な名前をつけられたなあと、少し可愛そうになるが、悪役令嬢の取り巻きとして読者のヘイトを受け持つ二人にはそんなお情けは持つものなどいなかったのだろう。


 おそらく最初は二人も私の短い髪型に一瞬戸惑っているようだったが、すぐに素晴らしいと褒め称える。くすぐったいくらいのおべっかに私は苦笑いで応じていた。


「初等院でお会いしたかったのですが、残念でしたわ」

「ごめんなさいね、小さい頃は病弱で……。とても学院に通える状態じゃなかったの」

「わかりますわ。ウィノリタ様は可憐でいらっしゃるから」


 横でハンナが白い目で私を見ているが、それも無視だ。


 二人はキャピキャピとガールズトークを重ねる。今まで家からあまり出ていない事もあり知らないことが多いが、いつまでも二人の興奮は収まらない。

 流石に私も疲れてきて会話を終わらせようとする。


「そう言えば、寮の食堂のデザートがとても美味しいと聞いていますわ」

「本当ですか? 楽しみですわ」

「ええ、また夕食時に食堂でお会いしましょう。今ついたばかりで、少し部屋の片付けをしないといけないのよ」

「あ、そうですね。楽しすぎてしゃべりすぎましたわ。はい、続きはまた夕食の時に」

「ええ、楽しみにしておりますわ」



 ……。


 二人が帰った後、私はぐったりとベッドに横たわる。


「えーと……。お友達が出来ましたようで」

「友達付き合いというのも大変ね……」

「頑張ってくださいね」

「……色々と頑張ることが多そうね」


 私はため息を付きながらハンナを手招きする。


「ハンナ。膝枕して」

「なんですか? 子供みたいに」

「やっぱりホームシックみたい……」

「もう……。特別ですよ」


 ギシッとベットが揺れる。私はハンナの方に近寄り、その腿に頭を乗せる。


「ふふふ。貴女はいつも私の特別よ」

「そんな趣味は無いでしょ?」


 軽口を叩きながらもハンナはそのまま私に膝を貸してくれる。そして優しく髪をなでてくれる。

 私はその心地よさにいつまでもそうしていたいと感じていた。



 ……。


 ……。


 寮の食堂は学生しか入れない。ハンナは従者の専用の調理場があるということでそちらに向かう。従者は自分で食事を作らなければいけないようだ。

 私が食堂に行くと、入り口ではテルーとドリューの二人が既に入り口で私を待っていた。


 食堂はオープンキッチンになっており、トレーを持った学生がカウンター沿いに歩きながら食べたいものを取っていく。貴族が使う食堂にしては庶民的な感じもあり、テルーとドリューは少し躊躇いながら列に並ぶ。


 確かに貴族がバイキングの料理を食べるイメージは無い。立食パーティーはするかもしれないが、貴族ともなれば自分で料理を取りに行くことは少ない。

 私はさり気なく、二人にやり方を見せながら先頭にたって食べ物を取っていく。初めは戸惑っていた二人だが、食べ物を取り始めると楽しさを感じるのかすぐに集中し始める。


 どれもこれも美味しそうでドンドンと積み上がる私のトレーを見て二人はびっくりしている。


「ウィノリタ様、そんなにお食べになられるのですか?」

「ええ、こうみえて私は大食らいなのよ」

「それでいてそんなスリムでいらして、羨ましいですわ」


 そう、私はいくら食べても太らない。いや、太れない。フラグを折るために太ろうと必死に食事をしたことがあったが、どうやら私は太れない設定のようだ。おかげで胃袋だけが大きくなり、こんな大食漢が出来上がったわけだが……。


 美味しいものには罪がない。


 一通りの料理をトレーに載せ、開いてる席を探して食堂を見回す。すると、食堂の隅でひっそりと食事をするエリーゼが目に入る。


 なんだかんだ言って、学院は貴族の子供たちの社交場のような一面もある。庶民出身の主人公は貴族の令嬢達からは中々受け入れられない。

 その姿があまりにも寂しそうで思わずエリーゼの方に行きかける。


「ウィノリタ様、あの方は庶民のようですよ」


 後ろからついてくるテルーが慌てたように私に告げる。その言葉に少しイラッとしてしまう。


「それがどうしたのかしら?」

「え? いや……だって学院は……」

「王立学院は国のための人材を育てる場ですよ。それが貴族であろうと庶民であろうと、優秀な方は国の大事な宝だと思いません?」

「そ、そうですが……」


 テルーが私の言葉に驚いたように口どもる。私は少し語気が強かったと、少し柔らかく言葉を続ける。


「そもそも、学院に身分の差は持ち込まないことが決められているはずです。今はそういう事は忘れましょう?」

「は、はい……」


 その時、一人の少女がエリーゼの前に座るのが見えた。


 ――あの子は……。


 そうか……。エリーゼが学院で初めて作る親友のベッツィか。たしか入学前に食堂で知り合うんだったっけ。ベッツィは貴族では無いけど大商人の娘で、カラッとした性格の私も好きなキャラだった。


 私はそれを見て、ホッとしたように足を止め、別の席に座る。


 ――本当に小説のように話は進んでいくのね。

 

 私は、楽しそうに会話をする二人を羨ましそうに見ていた。


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