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第27話 お茶会 2

 お茶会では主催のミネルバ様が細かく私達の気を利かせ動いてくれる。用意されたお菓子はあまりこの世界で見たことの無いものだった。

 カラフルな透明感のあるサイコロ状の固形物で、一見グミとか寒天を使ったゼリーなのかとも思ったが、食べて驚く。なんと、味は完全に羊羹だ。


 思わぬ味覚に、私は懐かしさに包まれる。


「ウィナ……。でいいわね? どうかしら。美味しいでしょ?」

「はい。このお菓子って、街で流行っていたりするのですか?」

「うーん。特に流行ってはいないわね。ヴォルが作ったのよ」

「ヴォル様が?」


 驚いてヴォルフガングの方を見る。確かにこの国ではなかなか見ないお菓子だ。異国のお菓子と聞けば納得は出来るが、それを王家の人間が作るとは……。

 ヴォルフガングは少し恥ずかしそうに答える。


「父にはよく怒られたけどね。厨房に出入りするなんてって」

「そ、それはそうでしょうね」


 この世界ではなかなか珍しいかもしれない。確かに料理を趣味にする人間は居るには居るが。でも、日本のような飽食の世界ではない。料理を趣味として出来るのはかなり豊かな人たちで無いと無理なことも確かだ。


 話によると、ヴォルフガングは特にお菓子作りが好きなようで、このカラフルな羊羹の様なお菓子はヴォルフガングの国であるエンバラでは、庶民がお祝いの時に作るお菓子らしい。

 お祝いだからカラフルなのだろうが、色によって味はそこまで変わらない。この世界のお菓子にしては甘みは強めであり、お茶がよく合う。


 そして、そのお茶。


 この紅茶はなんだろう。気になってミルクを入れる前に飲んでみたけど、すごい美味しい。田舎から来た私には知らない銘柄なのだろうか。そんな私の様子をじっと見ていたミネルバ様が聞いてくる。


「どう? 美味しいでしょ。エンバラ産の茶葉なの」

「これもヴォルフガング様が?」

「いえ、ヴォルのお母様、王妃様から手土産にって頂いたのよ」

「なるほど、あまりこちらでは見かけないフレーバーですね」

「そうなのよ。良かった。ウィナも紅茶は好きなのね」

「はい」


 ミネルバ様が私の顔を覗き込むようにニッコリ笑う。その威力たるや、同性の私がドキドキしてしまうほどだ。


「このお茶、ミルクも合うから入れてみて」

「あ、はい」


 ミルクポットに手を伸ばし、お茶にそっと注ぐ。ポットから流れ入るミルクがまた違う。少し黄色味がかった色で、不思議な光沢がある。

 しかもヨーグルトかと思えるほどのモッタリ感で、ポトンと紅茶の中に沈んでいく。


「え? 何……。このミルク」

「ふふふ。アウドムラの乳なのよ」

「アウドムラの……そんな貴重な!」

「良いのよ、ウィナと初めてのお茶会だもの。そのくらいは手配させて」


 アウドムラは、神獣とも呼ばれ、国の管理下にある嘆きの森に住んでいる。そしてその乳は森の管理官により定期的に搾乳され、王家に提供されるもので、侯爵家たる我が家でさえ、とても手に入るような物ではなかった。



 これが公爵の……。いや。ここには殿下も居るし、エンバラ王国の王子も居る。普通にこういった食材が出てもおかしくないのかもしれない。



 そして私達は美味しいお茶とお菓子を食べながらゆったりとした時間を過ごす。


 話は主にエンバラへ行っていたミネルバ様の話が中心になっていた。


 エンバラという国名は、元々地方の名前であったという。我が国の南側に沢山の小国が集まる地域があり、そこの複数の小国をまとめてエンバラ地方と言われていた。

 世界の趨勢が少しづつ大国主義に傾く中で、エンバラもまた小国同士を合併させ一つの国家として変遷していく。


 南方では、まだ小国が完全になくなった訳では無いが、かなりの国が集まりそれなりの大きさの国へとなっている。


 我が国は昔からエンバラとは交易も盛んで、関係は良好であった。

 ミネルバ様の婚姻も両国の関係維持のための政略結婚ではあったが、お茶会での二人の関係を見る限り、二人の仲は良好のようだ。


 どうしてもそういった二人の関係的な事を聞いてしまうのは乙女の性だ。他人の恋愛話ほど楽しいものは無いわよね。初めて会った時のお互いの印象とか。


 しかし、二人の反応はそこまで芳しくない。


「ああ、まあ……。始めはな」

「貴方が失礼なことを言うからよ」

「そ、そうだな。ま、まあそれでルーの強さが見えたのもある」


 二人が初めてあった時の話のようだが、何を言っているのかさっぱりわからない。一体何が起こったのか、頭を悩ませていると、殿下も気になったのだろう、二人に尋ねる。


「ルー姉の強さ? どういうことだ?」

「あ、いや、まあ……。なんというかな。初めて会ったときは、その……。結婚するにはまだ若い。そう、学生だからな。まだ学生じゃないかと……」


 ヴォルフガングの言葉が妙に歯に物が詰まったように、言いづらそうだ。


「ま、良いじゃないか」

「まさかヴォル……。あの言葉を?」


 殿下がちょっと怯えたような表情で尋ねると、ヴォルフガングも何か幽霊でも見たような顔でうなずく。


 ――あの言葉って……やっぱり。


「ヴォルが失礼なことを言うのだもの。少しおいたが過ぎたのですよ。ほほほ」

「まさか結界の魔導具が壊れるとは思わなかったよ」

「あれは不良品だったのじゃなくて?」

「王家の人間がそんな物持つわけが無いだろ」


 うわぁ。ガチで攻撃しています。ミネルバ様……。

 初対面で「可愛い」とか言っちゃうのはしょうがない気もするが。むしろヴォルフガングは婚約者が予想以上の子供で、「こんな子供と結婚なんて出来るか」と言った反応だったようだ。


 それが痛いしっぺ返しを食らい、その結果ヴォルフガングがミネルバ様の強さに惚れ込んだという流れのようだ。



 ミネルバ様やヴォルフガングも、そんなふうに自分達の話ばかりしていると、仕返しがしたいのだろう。今度は矛先がこちらに向く。


「で、お前らはどうなんだ?」

「そうよ、リックとウィナ。二人はとてもお似合いよね」

「え……」

「いや……俺たちは……」


 当然のことながら私達は返答に窮する。作り笑いをしたまま殿下の方を見れば、少し真面目な顔をした殿下が何かを思い悩んでいるように思えた。

 


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