~~フレデリック 3
俺がウィノリタを医務室へ連れて行ったその時、エリーゼのフォローはクルーガーがやってくれていた。
本心としてはエリーゼの元に居てあげたかったが、あの状況で、俺がエリーゼのフォローをし、ウィノリタをそのままにしておくなんてことは出来なかった。
エリーゼが足を引っ掛けられ転んだのも見ていたが、怪我をした許嫁を放置していたなんて事があれば、噂が一気に広がるだろう……。
いや……。火傷をしたウィノリタを放っておけなかったのか? 俺は……。
――仕方なかったんだ。
そう自分に言い聞かせる。
「確かにあの場じゃそうするしかなかっだだろう。間違っちゃいないが……。エリーゼはこんな伏魔殿のような貴族の子らの場に放り込まれ、右も左もわからない状態なんだぜ?」
「分かってる。だからお前にエリーゼのフォローを頼んだんだろ?」
「俺にそんな繊細な気遣いなんて期待するなって」
「だが、やってくれたんだろ?」
「……まあな、だが、どちらかと言うとシルバーレイクがエリーゼをかばってくれていた」
「シルバーレイク? ……そうか」
シルバーレイクのアマリアはどうやらウィノリタとも仲が良いようだ。寮の特別室のある階に部屋を持てるのも侯爵家のウィノリタと辺境伯家のアマリアの二人だけだ、自然と仲が良くなるのだろう。
それにしても不思議だ。
なぜウィノリタは、火傷をしながらもエリーゼを庇おうとしたのだ? むしろ俺が医務室に連れていくのを嫌がろうとする素振りまで見せた。
全く理解できなかった。
……。
……。
そして、すぐにその理由がわかる。
「それは本当か?」
「ああ、どうやらな……」
「一体どういうことだ!」
「どういう? お前の許婚という立場を脅かす存在は許せないということだろ?」
「だがっ……」
「ん? だが?」
俺はクルーガーに入学式でのダンスパーティーの時の話をする。ウィノリタが俺との許嫁関係を解消したいと考えていた話だ。
当然クルーガーも大いに驚く。
「それはウィノリタが本当に言ったのか?」
「そうだ」
「だが、それでは……。つじつまが合わないぞ?」
それでもあの時、俺が医務室に連れて行こうとするのを嫌がった態度は納得できる。
自作自演とならば、俺に見つかった事で相当焦っていたはずだ。
だが、この話は本当なのだろうか。
「……その話を聞いたのはベッツィといったか?」
「ああ、エリーゼとも仲良くしているようだ。庶民ではあるが、大商会の娘だからな、エリーゼと違って一目置かれている」
「ああ……。ロートハールの娘か」
「そうだ」
「……一度話を聞きたい」
「わかった。手配しよう」
……。
……。
ロートハールの娘の言葉も、嘘はないように思えた。
あのあと、謝罪に行ったエリーゼに、お茶会と言いながら庶民の使うカップで饗したという。それはあまりにも酷い仕打ちに思えた。そして、ジャクリーヌ等がトイレで話していたという会話。貴族同士の派閥関係を考えれば合点がいく。
……。
ただ……。無実を訴えるウィノリタの言葉にも、嘘を感じることが出来なかった。
――俺は……。
兎にも角にも、許嫁の解消がすべてを帳消しにする。
早く、話を進めるべきだな。
俺はそう決心をする。




