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~~フレデリック~~ 2


 俺は少し混乱していた。


 そしてその混乱の中でも、あのウィノリタ嬢の態度は俺を苛立たせるのに十分だった。俺との許嫁関係を解消したいのはわかった。だが、あの場で先生たちからのダンスの依頼を断るなんてこと、上級貴族である侯爵家の人間としてありえるのか。


 そんな気持ちが思わず口から零れる。


「……普通あそこで断るか?」


 その言葉に、横で生徒の名簿を見ながら紅茶を飲んでいたクルーガーが驚いて振り向いた。


「ん? 何か言ったか?」

「いや。なんでもない……」


 くっそ……。クルーガーと言えどもこの話は慎重に扱わないといけない。



 許嫁……。


 ある日、父とアンバーストーン侯爵の娘がちょうど同じ年ということで、許嫁の話が持ち上がった。侯爵令嬢は小さな頃から聡明で、天才とも噂されていたらしい。

 しかも、そのアンバーストーン侯爵は、父である国王と、学院時代の同期であるとも言う。若い頃からの付き合いもあったのだろう、俺の気持ちなど考えもせずに父は約束を取り付けてきた。


 当然俺はその話を断ってもらうつもりだった。


 あの頃の俺は、ちょうど亡くなった母親の実家で毎日のようにクルーガーやエリーゼと野山を駆け回っていた。


 母親の死で傷ついた心もだいぶ癒え、荒れていた時代は終わりを告げていた。そういった背景もあったのだろう。父がそんな話を持ち込んだのも。

 だが父は知らないと思うが、俺の心はその頃からエリーゼの物だった。当然その話も断るつもりであったが、王家とは言え公爵家の令嬢との許嫁の話を一方的に断ることは出来ない。


 貴族同士での約束事は、たとえ上の立場からでも、それを無かったことにする事は簡単ではない。



 この国の王子である俺との結婚は、この国の王妃になることを意味する。それを望む女性はいくらでもいることは分かっていた。当然、ウィノリタという女性も同じだと思っていたのだが……。


 ――どういうことだ?


 

 あの時の彼女の言葉、涙、表情。その全てに嘘があるとは思えなかった。本当に彼女は俺と結婚をしたくないということか。


 俺の中で安堵の気持ちもある。当事者同士が、許嫁の関係を解消したいと申し出れば、なんの支障もなくそれが叶うと思えた。


 親同士が決めた許嫁関係だ、確かに彼女だって自分からそれを申し出たわけでもない。俺と同じ様に心に決めた相手が居ても不思議じゃない。


 彼女も同じことを考えていたのなら、やりようもある。俺は今後の関係に一筋の光を見出していた。



 しかし、それにしても。


「なぜ私があそこまで言われなくちゃいけない!」


 先程の会話を思い出しせば、ウィノリタの感情に任せた暴言も同時に思い出される。心のなかに怒りまで湧き上がり、俺は思わず声を出してしまう。


 流石に今度はクルーガーも、俺の言葉をちゃんと聞き取れたようだ。

 ただ事じゃない血相を変える。


「ん? どうした? リック」

「いや……。なんでもない」

「なんでもないって、なにか言われたのか? 相手はだれだ?」

「気にしないでくれ、本当になんでもないんだ」

「……。そうか」


 答えない俺にクルーガーは渋々引き下がる。


 慎重に、慎重に行こう。


 俺は燕尾服に着換え、これから始まるダンスパーティーに備える。

 俺にとっては、入学式のパーティーと言えども公務の一環として捉えている。思うことは色々あるが、まずは眼の前のダンスパーティーをきっちりこなしていこう。


 ……。


 ……。


 

 ……それにしても本当にこれがウィノリタなのか? 才女とも聞いてるし、王妃候補としての公女教育もしっかりやっているはずだ。こういったパーティーでの振る舞いなど基本中の基本じゃないのか?


 みれば、彼女はスピーチすらちゃんと聞いていない。スピーチこそ、相手に失礼のないようにちゃんと聞くというのが当たり前のことじゃないのか? 下を向いて爪をいじる姿はとても貴族のようには見えなかった。


<ちゃ ん と は な し を き け>


 小声で注意をするとビクッとこっちをみる。まるで怯えた小動物のようだ。



 そしてダンスは……。少し拙さはあるものの、次第点と言ったところか、俺達は無事に役目を果たすことは出来た。


 それより、少し気になることがある。俺がエリーゼと踊ったあと、ふと視線を向けたときだ。


 あれはバカにしていたのか? それとも、単純に俺とエリーゼのダンスを楽しんで見ていたのか。


 なんとも言えない恍惚とした表情で、こちらを見ていた。


 ……。


 ……。


 ウィノリタ……。一体、彼女は何を考えているのか。

 


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