友を思う気持ち
レバレスの宝玉は今日も激しい光を放ち、アルトのマーラを吸い尽くしていく。
「はぁ、はぁ、はぁ」
グラウェルはアルトの様子を見て光り輝く宝玉に布を被せた。アルトは膝を付いて机の脚にもたれ掛かる。
「マーラを送れる時間も相当に長くなってる。やはり、感情を高める方法は成功だったな」
アルトはグラウェルの言葉は聞こえていたが返事が出来なかった。マーラを使い果たした疲労もあるが、胸の内を支配する怒りを漏れ出さないように努めていた。
ここ最近の訓練の終わりは、アルトは怒りと憎しみに任せて暴れたい衝動に駆られていた。だが、自制心により暴れずに済んでいる。それでも、夢で家族の死を見続けて、無限に続く悲しみに心が擦り切れそうになっていた。
ボーッとしているアルトにグラウェルは水筒を差し出し、水を飲ませる。
「しかし、君の自制心は立派な物だ。毎日、憎しみに駆られても決して暴走せずにいる。これは称賛に値する。さぁ、今日の訓練は終わりだ。寮に帰ってもいいぞ。ゆっくり休みなさい」
「・・・・・・はい」
グラウェルの腕を借りて立ち上がりヨロヨロと歩く。
(疲れた。・・・父さん、母さん、ティト)
寮の部屋に帰るとベッドに横たわる。リークト達はまだ通常の訓練中のため帰ってきていない。アルトは一人部屋で涙を溢す。それは悲しみと同時に沸々と黒い気持ちが湧き上がり、アルトの目を曇らせていく。
「・・・・・・ナリダス」
心から憎き神の名前を呟く、身を焦がす怒りに苛まれるが、幸いなことに力尽きて眠る。
***
「酷い顔だろ?」
「憔悴しているな」
「あぁ。どんな訓練をしてるんだ」
訓練の終わりにアルトの様子をラーグとパトロは見に来ていた。疲れた寝顔を見て、アルトの状態を察する。
「今は静かに眠っているけど、夜中に泣いている事があったんだ。その上この前、話したような状態になる。どうにかしてやりたいけど・・・」
リークトが二人にここ最近のアルトの様子を話した。自分が助けてやりたいという気持ちが伝わるような悔しい声だった。
「リークト、教えてくれてありがとう。手遅れになる前に手を打つか。パトロ、いつものを頼むぞ。気になった事があったら、教えてくれ」
「わかった。アルト、楽にしてやるからな」
「二人共、何かするの? 手伝えることはない?」
「それなら、食事を用意してやってくれ。この様子だと、ちゃんと食べてないだろう。食堂で粥を貰って来てくれ。それと医務室のポノリー先生にラーグが例のジュースを欲していると言えば、用意してくれる。それを飲ませて。抵抗するかもしれないが、そこは何とか飲ませろ」
「わかった。頑張るよ」
リークトの返事を聞き、パトロを連れてグラウェルの元に行く。寮のエレベーター前でパトロが話す。
「アルトのマーラがすごく強くなってる。最初に会った頃とは比べものにならないくらいだ。急成長。ただ、別人の様になっていってる。形が歪というか。そんな感じ」
「なるほど。人格にも影響を与えていると。・・・・・・まったく」
二人はやって来たエレベーターに乗った。二人きりになった空間で、パトロは長く仕える主の気持ちを察した。そして、分かり切っているが主の心の為に敢えて聞いた。
「なぁ、ラーグ。怒ってる?」
「とても。・・・アルトは俺を『親友』と呼んでくれた。嬉しかったよ。だから、俺も親友を助けたい。どんな手を使っても。アルトの目指す場所からは遠のくがやろう。まずは、ウェルマ訓練長に会いに行くぞ!」
「はっ」
***
『ダメだ! リークト、その剣を持つな!』
「リークト・・・」
「どうした?」
霞む視界の中で、ぼんやりとリークトの顔が見えた。
「アルト?」
「あれ? 寮?」
「そうだ。帰って来た事も覚えてないのか?」
重い頭を押さえ記憶を辿り、意識がハッキリして来た。
「そうだった。帰って来たんだった。・・・いい匂いがする」
「あぁ、粥を貰ってきたんだ。しっかりと食べてないだろう。起きれるか?」
「うん」
重く感じる体を起こしベッドに座る。リークトから皿を受け取り、卵粥を一口食べる。
「温かい」
「そうか。それとこれも飲め」
そう言うと、紫色の飲み物を机に置いた。
「・・・・・・いやだ」
「はぁ、ラーグの言ったとおりだな。これ、栄養補給にいいんだろ。頑張って飲めよ」
タプタプと入ったデルベラジュースに目が細まる。
「これの味、知ってる? 本当に不味いんだから!」
「知らない。医務室にお世話になってないから。疲れにも効くらしいから、飲んどけって」
アルトは諦めて卵粥を食べて、デルベラジュースを一気に飲んだ。飲み干したアルトの顔を見て、本当に不味いんだなとリークトは思った。
「なぁ、アルト。そろそろ教えてくれ。どんな訓練をしてるんだ? そんなに憔悴して。皆、心配してるぞ。今日はラーグとパトロが様子を見に来たんだ」
「ラーグとパトロが?」
「あぁ。アルトがあまりにも酷い状態だから、何かするみたいだぞ」
「え! 何をするの?」
「わからない。パトロを連れてグラウェル卿の所に行くみたいだったけど」
その言葉にアルトは慌てて立ち上がり、駆けだそうとした。
「待て待て、どこに行くんだ!?」
「二人が余計な事をする前に止めないと!」
「余計な事って・・・。アルト、お前が思っている以上に周りは心配してるんだぞ!」
「でも、俺はイーグニス・エレーデンテだ! やっとの思いで手に入れた席なんだ。邪魔してほしくない!」
そう言うとグラウェルの元へ走って行った。リークトは頭を掻いて溜息をつき、後を追いかける。
***
グラウェルの部屋で老齢の上級騎士とグラウェル、ラーグとパトロがいた。ラーグ達は扉の側に控え、上級騎士二人が話し合っていた。
「グラウェル卿、お主の訓練でイーグニス・エレーデンテが、憔悴して体調を悪くしているとこの者達から話を聞いたが、どのような訓練をしておるのだ?」
「ウェルマ訓練長。上級騎士訓練は私の管轄です。どのような訓練をしていようとあなたには関係が無いです。それに、何を聞いたか知りませんが上級騎士訓練は厳しいもの。憔悴することもあります」
エレーデンテ達の長、訓練長ウェルマは厳しい顔をしてグラウェルに言う。
「わしは全てのエレーデンテを監督する者。それはイーグニス・エレーデンテも入っておる。それに確認したがポノリーの所にも相当、世話になっておるそうじゃ。精神的疲労による体調不良と記録されておる。怪我ならともかく、何度も精神的疲労で医務室に世話になるのは異常だ。どんな訓練をしているか教えよ。場合によっては、上級騎士訓練を中止するように騎士団長に進言する」
グラウェルはやれやれと頭を振り答える。
「アルト君のマーラの感知力を高める訓練ですよ。彼独自に出来る体内のマーラを全て放出させて、空にする事で、体内のマーラを増幅させる方法ですよ」
グラウェルは話終えると、ウェルマを見る。二人はしばらく無言が続いた。
「・・・・・・マーラを使い切れば、激しい疲労が来る。それを毎日おこなえば、必要以上に精神的疲労も来るじゃろうて、訓練長の権限としてエレーデンテの保護の為に命じる。訓練の休みを増やす事。一週間の内、三日は休ませる事。よいか?」
「わかりました。そうしましょう」
グラウェルは頷き、それを見たウェルマは席を立ち、ラーグ達を連れて部屋を出ようとする。グラウェルはそれを見送る為に同行する。
「失礼します!」
「アルト」
扉が勢いよく開けられてアルトが入って来た。
「丁度良い、イーグニス・エレーデンテ、アルトよ。訓練長の権限により上級騎士訓練一週間の内、三日休むように命じる。これはグラウェル卿にも命じた」
その言葉に焦りを出して訓練長にアルトは伝える。アルトは実技試験前にグラウェルと話した時に見かけた老騎士を見る。
「あの時の・・・。待ってください。俺は大丈夫です! 少し疲れている程度で、問題はありません」
「ならぬ。この者達の話とポノリーの話を聞き考えると、お主の健康状態に著しく影響が出ている。もう訓練長としての命令は下した。グラウェル卿、見送りはいらぬ」
アルトの横を通り過ぎるウェルマとラーグ達は退室した。アルトとグラウェルの二人きりになって、アルトは聞く。
「どうして、あんな命令が出たのですか?」
「君の友達が訓練長を使って横やりを入れたみたいだ。残念だよ。君は強くなろうと努力をしているだけなのに、それを邪魔するなんて。だが、エレーデンテ保護の為に命令がでたのなら仕方がない。命令通り、一週間の内三日は休みとしよう」
「どうにもならないのですか?」
「わからないが、君の友達が訓練長に話した内容が嘘だったとでも言えば、命令は撤回させるのかもしれないね。さてと、私は一休みするよ。明日は休みだ。私は部屋を空けるが、鍵はかけていないから暇なら私の部屋で好きにするといい」
グラウェルはそう言い残し、部屋の奥へと去った。
「ラーグ・・・」
振るえる拳で親友の名前を呟き、ラーグの後を追った。
***
ウェルマとラーグ達はエレベーター前で話していた。
「ラーグ様、これでよろしかったでしょうか?」
「はい。ありがとうございます。ウェルマ卿」
「いえ。しかし、珍しいですな。ラーグ様が、ご自身の影響力をお使いになるなんて。余程、大切にしておられるのですな」
「えぇ。彼は私の親友ですから。卿も御覧の通り、様子がおかしかったでしょう?」
「はい。あれはポノリーの所見通り、精神的に追い込まれているような状態でしたな。私にご連絡いただいたのは、私の職務としても賢明なご判断かと」
「卿にはご迷惑をおかけした。パトロ、あとで例の物を」
「かしこまりました」
会話を続けようとした時に叫び声が響いた。
「ラーグ!」
呼ばれた本人は想定通りと振り返った。
「アルト。どうした? 一緒に寮に帰って休もう。それか粥は食べただろうが食堂で食事をするか?」
心から心配するラーグの言葉はアルトには、ふざけて言われている様にしか聞こえなかった。
「ふざけるな。そんなに俺が選ばれたのが悔しいのか!? ここまで邪魔をするなんて。リークトもお前もいい加減にしろ!」
パトロが前を出ようとするのをラーグが止めた。
「俺が悔しい? アルトが自分の力で選抜試験を勝ち抜いたのを俺は嬉しかったぞ。誇らしくも思った。アルトの今までの努力が実を結んだんだと。剣の師として、親友として嬉しかった。負けたのに少しの悔しさはあるが、それを上回る喜びだ」
「嘘だ。それなら何であんな邪魔をする! 俺がもっと強くなれるチャンスを奪うな! もっと強くなってレベナティアになって、邪神ナリダスを殺す。神を倒す力を手に入れるチャンスをお前は・・・。ラーグ、勝負しろ! 俺が勝ったら、もう訓練に干渉するな」
その言葉を聞き、ラーグは静かに見守っていたウェルマに小声で話した。ウェルマは先にエレベーターに乗り去った。
「良いだろう。ただし木剣じゃなくて真剣で勝負だ。アルトも実家から持って来てた剣があるのだろう。それでもいいぞ」
「わかった。後悔するなよ!」
「場所は訓練場だ。剣を持ってきたらそこで待っていろ」
アルトの灰色の瞳は暗く、闇の情熱が宿っていた。通り過ぎるアルトに、ラーグは呟いた。
「目を覚ましてやるかな。友よ」
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