力の源と歪み
アルトが衝撃波を放ち医務室送りになってからしばらく経ち、アルトは行き詰まっていた。レバレスの宝玉へのマーラの注入は出来ているのだが、送り続けられる時間が一定となり、アルトの体内に宿るマーラの上限を感じていた。
「キケロ・ソダリスにマーラの覚醒をしてもらった時は未来予知が出来たが、今は出来ない。うーん。本来の力は未来予知が出来る程なのに、そこまで達せないのか。これはどういうことだろうか?」
グラウェルは腕を組み考える。当初のグラウェルの考察では、アルトは未来予知が出来る程の器を持っていて、今は何らかの原因でその器が小さくなっている。その器を元の大きさに戻す為に、古代の記録を参考にしてマーラを吸収できるレバレスの宝玉にマーラを送り切る事で、アルトの体内のマーラを空にして器を大きくしていく。という計画を考え修練をしていたが、器の大きさが止まったような状態になった。
「今にして思えば、あれは俺の能力というより死んだ弟が見せてくれた物なのかもしれません」
アルトの考えも一理あるとグラウェルは考えたが、グラウェル自身が集めた未来予知に関する記録もあって納得できずにいた。
「記録によると程度はあれ、他の未来予知が出来る者はマーラの総量と言うべきか。それが多いはずなんだ。未来予知が出来る程の器の大きさがある。アルト君みたいな衝撃波などマーラを体外に出せなくても、マーラの感知力が高い者特有の能力がある。言葉の通り感知力が高いことや直感力が大きく向上したり、常時マーラを使用していても疲れないとか。君の監督者のルベンも直感力が高い特性があった。彼は、マーラの覚醒と同時くらいに未来予知が出来るようになったんだ」
その言葉に、自分の普段おこなっている行動を振り返ると、確かに感知力の高い者の特有の能力を持っていた。
「だから、私としては未来予知自体は君の能力で、そこにマーラと化した弟君が干渉したと読んでいるんだ。という事で、君の器の大きさは今が限界ではないと考える。だが、どうしたものか」
アルトの可能性はまだあると判断したグラウェルだが、器を大きくする方法がわからないでいた。アルトも考えていたが、ふとある話を思い出した。
「今、思い出しましたが、キケロさんが言っていた事なんですが、俺の感知力をわざとある程度の所で止めているって言ってました」
「ほう。それはどういう事かな?」
「本来の力はとても大きいけれど、わざとマーラの感知力を制限して未来予知が出来る所までしか覚醒させないとか。そんな感じの言葉でした」
「うむ。やはりキケロ・ソダリスなる者も、アルト君本来の力で未来予知が出来ると思っていたわけだ。以前にも聞いたが、いつから未来予知が出来なくなったのか詳しく話してもらえないか?」
「はい。故郷ゴル村の森で魔物に襲われて義父が重傷を負いました。その時に、傷を治そうと衝撃波を出した時みたいに必死にイメージをしていました。でも、どうもならなくて助けてくれと祈っていたらマーラになった弟が出て来て、義父の傷を治してくれました。そこから気絶して、それ以降、使えなくなっていました」
「マーラの力で人の傷が治る。その時に、アルト君の器がおかしくなったのか・・・。なるほど、そうか!」
グラウェルは何かを思いついたかのように表情が明るくなったが、アルトを見て躊躇うような素振りになった。
「アルト君、もしかしたら強い感情が君の器を大きくする鍵かもしれない。君の義父が死にかけた時に、助けてほしいという強い感情が引き金になって制限されていたマーラが解除され、ティト君が具現化するほどの力を発揮したのではないか?」
「強い感情・・・。確かにあの時の状態を言うなら強い感情でした。それが引き金になった」
「あぁ。だが、また問題が出た。今、強い感情を出すとなると『誰かを助けて欲しい』という状況ではない。人間の中で一番強い感情。それは悲しみだ。そして、そこから具体的な形として怒りや憎しみに変えるんだ。アルト君の一番深い悲しみは何だい?」
アルトはしばらく考えた。いや、答えは出ている。だが、この道が本当に良いのか迷いがあった。
「アルト君、辛い過去を思い出すのは嫌だろうが、君は強くなりたいのだろう? 神を殺せるほどの強さを」
グラウェルの言葉に心が揺れる。確かに邪神ナリダスに復讐したい。それほどの力を手に入れれば、アルトが教会騎士になった目的を達成する大きな鍵ともなる。首に掛けている鎖を通した指輪を握る。
(・・・・・・ミーナ。ミーナや父さん達を守りたい。だから)
「俺の一番悲しんだ過去は魔物にナリダスに家族を殺された事です」
アルトの言葉にグラウェルは優しく微笑んだ。場違いな微笑みの様な気がしたが、今のアルトにはどうでもよかった。
「それならば、家族を殺された悲しみを思い出しナリダスへの怒りと憎しみに変えてみよう。何、本当にいる敵だ。辛い道かもしれないがナリダスを倒す方法の一つとして受け入れればいい」
グラウェルはレバレスの宝玉へと道を示した。
「やってみよう」
アルトは、ゴル村で見た冷たくなった両親へと思いを馳せた。そして、父が味わった苦悩と果たせなかった母との約束、弟が魔物に殺された日を思い出し、魔物を作り出したナリダスへの敵意を湧き上がらせて行った。
そして、レバレスの宝玉に触れた。
***
「ここは、ゴル村? ・・・・・・父さん、母さん、ティト!」
ゴル村のシンボルである太い白檀の木の側で三人はアルトを見て笑っている。アルトは走り出して三人の元へ行く。三人の笑顔を見て嬉しくなり抱きしめようとするが、霧の様になり消えてしまった。
「・・・・・・なんで? 皆、どこ!?」
「お兄ちゃん・・・」
「ティト!」
後ろからティトの呼ぶ声が聞こえ振り返ると、血にまみれながら母アルマに抱きしめられているティトの姿があった。アルトはすぐに駆け寄る。
「母さん、ティトが! 母さん?」
ティトを抱きしめるアルマを揺さぶるとコテリと倒れた。アルマは正面から斬られていた。
「母さん! なんで・・・」
「アルト、逃げ、ろ」
掠れるような声でアルトの側で父オーロンが倒れていた。
「父さん! くそ、待ってて。薬を持ってくる、か、ら」
アルト達を大きな影が覆う。顔を上げるとゴル村で倒したはずの熊の魔物だった。
『皆、死ぬがよい』
「・・・・・・ナリダス!」
熊の魔物はアルトに大きな腕を振り下ろした。
「ッ!」
目を開けると、そこは暗闇に包まれた寮の部屋だった。アルトはいつの間にか流れていた涙を拭い、ソッと起き上がる。リークトは眠っていた。
「はぁ」
グラウェルから提案された方法、家族を失った悲しみをナリダスへの怒りや憎しみに変えて強い感情を引き出しマーラを限界まで宝玉に送り出す。この方法は効果覿面だった。宝玉の輝きは増して、今までは宝玉に送れる時間で感じていた体内のマーラの総量が、感覚的にも増えている実感があった。大量に送られるマーラに宝玉は喜びを感じているかのように、うねる様な輝きだった。
アルトのマーラの感知者としての能力は向上する一方だった。その証拠に、以前は頭に激痛を伴っていた衝撃波を難なく出すことが出来た。それにより力が向上していることに確信を持った。その確信のままにグラウェルとの訓練は進んでいく。
だが、アルトの力は増すにつれて心は疲れていった。アルトにとって、家族三人の死に向き合う事は今でも辛く心に残っているものだ。この気持ちを引っ張り出し力に変えるのは、いつも苦労する。しかし、苦労した分だけ力が手に入る実感はアルトを魅了し癖にさせる。
今日も三人の死の夢と共に目覚め、一日が始まる。
***
「アルト、今日は休みなんだろ。今から城下町に行かないか? 夜は秘密の茶会もあるぞ。久しぶりに出ないか?」
ベッドに座りボーッとしていたアルトにリークトが誘う。最近では、朝のお互い起きた時の部屋でしか会わなくなった二人は、以前より会話が少なくなっていた。
「いや、今日もグラウェル卿の所に行くって約束してるんだ。・・・・・・最近、初めて覚醒した時みたいな感覚があるんだ。もしかしたら、もうすぐ未来予知が出来るまで力を取り戻せるかもしれない。もっと強くなれるチャンスなんだ」
「・・・・・・そうか。でも、飲みに行かないにしても休まないとダメだぞ。今日くらい、寝て過ごしたらどうだ? グラウェル卿には伝言しておくぞ?」
リークトの言葉に咄嗟に顔を上げて、声を荒げた。
「余計なお世話だ! 今が、チャンスなんだ。グラウェル卿との一年の訓練で出来る所まで強くなるんだ。ナリダスを必ず殺せるように。遊びに行きたいならエリーと行けばいいだろう! もう行くよ」
そう言い切り、出て行こうとするアルトの腕をリークトは掴んだ。
「離せよ」
「アルト、今日はやめろ。明らかにおかしくなってるぞ。休むんだ。二週間ずっと訓練してるだろ。また、倒れるぞ」
「大丈夫だって言ってるだろ! 何かあれば、グラウェル卿が面倒を見てくれるようになってる!」
「頼むから、休んでくれ。夜、夢に苦しんでるだろ? 訓練が何かおかしいのかもしれない。一旦、休んで冷静になってみろ!」
「うるさい!」
「ッ!」
アルトは手を突き出しリークトを弱い衝撃波で飛ばした。リークトは窓際の机に体を打ちつける。
「ゴホッ。アルト・・・」
「・・・・・・ごめん。リークト、ごめん!」
「大丈夫だ。落ち着け。アルト、大丈夫だ」
自分のやってしまったことに唖然としてリークトに駆け寄る。嫌な汗がアルトの体を伝い。混乱していく。リークトはアルトを安心させるように手を握り、大丈夫と繰り返す。
「アルト、大丈夫だ。なっ、お前、疲れてるだろ。今日は休め。明日、頑張ればいいじゃないか」
「・・・・・・うん。本当にごめん」
安心させるようにアルトを引き寄せ抱きしめる。アルトもゆっくりと混乱が収まり、リークトの言葉に従う。
「落ち着いたか? ほら、ベッドに寝転がれ。何も考えずに目を瞑って」
言われた通りに動いて目を瞑る。
「アルト、大丈夫だ」
じっくりと囁くような声を聞き、眠りに落ちた。
***
「そんな事があったの・・・。リー、大丈夫?」
エリーはリークトの背中を触る。
「あぁ、弱い奴だったから大丈夫。流石にビックリはしたけど。でも、そんな調子なんだ。グラウェル卿にも今朝の話をしたけど、そうかって言っただけだった」
リークトの言葉を聞いたラーグはパトロに目配せをして話した。
「せっかく、アルトの好きなニクスの花を持って来たのに残念だな。でも、そんなに疲弊してるのか。一度、グラウェル卿にどんな訓練してるか聞いてみるか。パトロ、ついて来てくれ」
パトロが返事をすると、エリーとクラルドも一緒にと言ってきた。
「四人も行かなくていいさ。久しぶりに、元大貴族らしい振る舞いで相手に探りを入れてみる。それに今の私の立場でグラウェル卿が質問に答えないと、彼にとっても良くないからな」
「どういうこと?」
「ははは。私は腐っても大貴族って事だ。後の事は任せろ。さぁ、紅茶が冷めるぞ。パトロ、アルト用に菓子を包んでおいてくれ」
皆がアルトのことを心配する中、いつもの余裕の笑みを浮かべながら、困惑してる三人に紅茶を進める。
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