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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第一部:教会騎士 第二章:ザクルセスの塔
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リークトの戦い

 実技試験でアルトの初対戦相手はクラルドを降したリークトになった。ラーグとパトロの試合を観戦していたアルト達の側に来て、リークトはその明るい茶色の瞳を真剣なものとしアルトを見た。


「アルト、俺はお前みたいに上級剣術は使えない。だけど、この一年間、何もしなかったわけじゃない。俺は俺で大切なものを見つけて強くなろうと頑張った。俺の盾の型がどこまでお前に通用するかわからないけど、全力で挑む。そして、勝つ」


「あぁ。俺も大切なものの為に全力で挑む。そして、絶対にレベナティアになる。だから、ここで負けるわけにはいかない。だから俺は、勝つ」


 互いの思いを話した後、リークトは小さく笑い、エリーの頬にキスをした。


「ちょっと!」


「応援してくれるだろ?」


「・・・・・・うん。頑張って」


 エリーと軽く手を握り、リークトは試合場へと行った。エリーは少し顔を赤くして、アルトにも応援の言葉をくれた。

 アルトはありがとう、と返して胸に仕舞っている指輪を握った。


(ミーナ、俺も頑張るよ)


 アルトの肩にラーグが手を置く。


「アルト、この一年の努力をリークトに見せに行ってこい」


「うん!」


 アルトは試合場へと向かった。



 ***



 アルトは、皮の小手の紐を締め上げ装備する。


「よし!」


 向かった先でリークトは木剣を軽く振りながら待っていた。試合場に入ったアルトを見ると振りをやめて、剣を構えた。

 アルトも一呼吸して剣を構える。

 観戦席ではエリー、ラーグ、クラルドがいた。


 審判役の下級騎士の腕が、振り下ろされる。


 盾の型を基本とした戦いでは、双方が積極的には動かない。相手の隙や動きに対応するために身体強化をして、二人は剣を構え間合いを取りつつ試合場内を歩く。


「意外ね。アルトから仕掛けないなんて」


 エリーの疑問にラーグが顎に手を当てながら答える。


「シード選手だと他の選手の戦っている姿を見るのだが、リークトはとても素早い動きと器用な剣捌きが得意に見える。すぐに仕掛けてもいいが、リークトに反撃のタイミングを与えると考えているのだろう」


「それだと試合が進まないね。どうするのかな?」


「おそらく・・・。ほら」


 アルトはゆっくりと前に進み、リークトとの間合いを狭めていく。


「!」


 距離を狭められたリークトは離れようとするが、アルトは進む。


「ちっ。はぁぁ!」


 隅に追いやられて場外失格になる前にリークトはアルトを襲い掛かった。剣は真っ直ぐ振り下ろされるかと思いきや、軌道を変えて斜め横から来る。


「フェイントか!」


 リークトは持ち前の器用さで剣を操り、複雑な動きでアルトを攻めた。だが、アルトは難なく防いでいく。


「さすが、上級剣術か! 大体はフェイントに引っかかって攻撃を受けるんだけどな!」


「初見は驚いたけど、その手首と指の使い方をする人に散々、地面を舐めさせられたからな!」


 その言葉と同時にリークトの剣を大きく弾いた。アルトとリークトの間にできた間をアルトは素早く詰めて、剣を振るう。


「くっ!」


 次々とアルトの攻撃は続いていく、一連の動きは全て繋がり攻守一体となった。


「はぁ、はぁ。反撃する隙がないな。でも!」


 リークトは身体強化を足に集中させ、直感力を高める。次第にアルトの攻撃を受けきれるようになる。その素早さにアルトが後手に回り始めた。


(早すぎて、目だと追いつかない)


 攻守は逆転されて、アルトは攻撃を受けながら考えた。この素早い攻撃に対処する方法を。


(素早いけど、攻撃は軽い。それなら!)


 アルトは目を瞑った。リークトもそれに気付き攻撃を激しくしていくが、元の力はアルトの方がある。目に頼るのをやめて、直感力のみでリークトの剣を受けきる。


「ほう」


 ラーグは興味深げに試合場を見ていた。そこにクラルドがアルトの変化に気付く。


「あれ、アルトって目を瞑ってない?」


「よく気付いたな。目を瞑ってリークトの、あの素早い攻撃を受けきっている」


「そんなこと出来るの!?」


 エリーは驚き、身を乗り出してアルトを見る。


「リークトは足に身体強化を特化させて素早い攻撃を出しているんだ。だけど、その分、攻撃力が弱くなっている。元の力だとアルトの方があるから、アルトは目を閉じて直感力で対応しているんだ。ははは。リークトもこれは嫌だろうな」


「リーが嫌がる? どういうこと?」


「それは・・・」


 リークトは攻撃を当てようと剣をひたすら振るい、小さく呟いた。


「そんなのありかよ・・・」


 短期決戦を望み、足にマーラを集中させた反動が来る。重くなる足取りで動き回りアルトに一撃を狙うが、全て防がれる。


(これなら、一か八かだ!)


 足に集中させていたマーラを腕に回し、強力な一撃を加えようとする。連続する攻撃が乱れる。


(今だ!)


 アルトはマーラの強い揺れを感知し目を開け、マーラを腕に集中させてリークトの強力な一撃を迎え撃つ。


「はあぁぁ!」


「く、くそ!」


 ぶつかり合う二人の剣は、リークトを弾いた。飛ばされたリークトはすぐに体勢を直すが、ある事に気付いた。


「あ、足が・・・」


 身体強化の反動が、マーラを集中させていた足に来たのだ。立っていられなくなったリークトは跪く。

 アルトは、剣先をリークトに向けて宣言した。


「リークト、俺の勝ちだ」


 審判の号令が響く。勝負はアルトの勝ちだ。


 アルトは、立てなくなっていたリークトに肩を貸す。


「あの戦い方はズルいよ」


「ははは。リークトの速さについて行けなくてさ。目に頼るのをやめたんだ。それに俺、感知力が高いから」


「そうだったな。エルに告白する話をマーラの乱れだけで見破られたんだったな・・・。はぁ、疲れた」


 観戦席まで運ぶとエリー達がやって来た。


「二人共、すごかったわ。リーの素早さとアルトの感知力。良い勝負だったわ!」


 エリーの笑顔を見たリークトははにかみながら、この笑顔が見れたからいっか、と呟いた。


「二人共、お疲れ様。アルト、リークトの速さについて行くなんてすごかったよ。しかも目を瞑って。俺には思い付かなかったよ」


 リークトに負けたクラルドが二人の戦いを称賛する。


「あぁ、良い判断だった。初見の攻撃は私も驚いたが。リークトも、もしかしたら平和の型の適性があるのかもしれないな」


 ラーグは小さく拍手しながらリークトの可能性に注目した。


「そうなのか。いつか習得したいな。その時は、アルト頼むよ」


「わかったよ」


「ありがとう。でも、今は疲れたな。エルの側に運んでくれ」


 言葉通り、エリーの側にリークトを休ませた。


「リー、お疲れ様」


「うん」


 エリーにもたれ掛かりながら、小さく返事をした。

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