ラーグとパトロの戦い
「何年振りだ」
「少なくとも三年は経ってる」
エリーとの試合を終えたパトロは休憩の後、ラーグと対戦することになった。試合場で二人は向き合い話をしていた。審判役の下級騎士は静かに会話が終わるのを聞いている。
「覇者の型なんて、使う機会が無いから鈍っているんじゃないかと思ったけど、そうでもなかったな」
「皆には悪いが、いい準備運動になった。それと覇者の型を覚えてから、やっと、やっと、お前を泣かせる機会が巡って来たんだ。容赦はしないからな!」
木剣を突きつけて叫ぶパトロに、アルトや普段の二人を知っている人は胸がギュッとなった。心の中でパトロを応援してしまうほどだ。
「ふん! 分を弁えさせてやる。そのために命令で解除したんだ」
「いくぞ!」
ラーグはいつもの様に片手で構え、パトロは腰を少し落として剣を後ろに構える。
「はじめ!」
審判の合図とともにパトロが駆け抜け、下から斜め上に剣を振るう。ラーグは剣を受けずに距離を取ろうと飛びぬくが、すぐに動作を変えたパトロが突きで迫る。その突きを避けられないと判断したのか、ラーグは同じく突きを繰り出した。
「え、なんで突きを? 相打ち狙いなの?」
パトロに負けたエリーはアルトの隣に座って観戦していた。ラーグの動きが理解できないでいた。
しかし、アルトは知っている。何度もやられた手だった。
ラーグの突きは正確無比。そして身体強化で速さを出した突きの破壊力は凄まじい。ラーグが狙うパトロの木剣の剣先にお互いの剣が接触した瞬間、パトロの武器は破壊される。ラーグの武装解除の技の一つだ。
「!」
それを感じ取ったのかパトロは突きの動作をやめようとするが、動きが乗ってしまい体がラーグの方へと行ってしまう。このままではラーグの突きがパトロの体に当たる。
「うりゃぁ!」
パトロは体を思いっきり倒して転倒して避けた。その隙をラーグが見逃すはずも無く襲い掛かるが、剣の面を盾にして防いだ。ラーグの足の隙を見つけたパトロは蹴りでラーグの体勢を崩そうとすると、ラーグは後ろへと距離を取る。
「もう砂だらけじゃないか。あの意気込みはどうした?」
「うるせー」
パトロが地面から立ち上がり、剣を構えると、ラーグは動きを止めた。
「急に動かなくなって、どうしたのかしら?」
「二人の間でマーラが揺れてる。今、二人の間で何かあるんだよ」
アルトは全ての試合場のマーラの小さな揺れを感じていたが、あの二人の周りはマーラの揺れが激しい。
(二人共、マーラを放つとか出来ないのに何でこんなに揺れているんだ)
激しい揺れが収まり始めると二人は駆けだし、相手の攻撃を受け止め鍔迫り合いになる。
「っ」
「っ!」
二人は声を出さずに強く押し合う。押し合う剣は徐々に上へと上がっていく。パトロが上へ押し上げて、ラーグが下へと押し下げようと抵抗している。だが、徐々に剣は上へと上がっていく。
「くそ!」
ラーグの叫びと共に鍔を弾き上段構えの状態でパトロも打ち合いになった。
「あれは、ラーグが苦手なやつだ」
「苦手?」
「うん。上から攻撃するのは決闘者の型だと辛いんだ。あれは下から上へ。中央から上下へ攻撃するのが基本形なんだ。その欠点を補うために上からの攻撃の技もあるけど、疲れやすく他の技との連携が難しいらしい」
「なるほどね。それで苦手と。でも、二人共なんだかフェイントなのかしら? 無駄な動きが多いと思うわ」
「確かに。あれは何だろう」
ラーグとパトロの剣はお互いに打ち合うが、余計な動作も入っている様に見えた。
上段構えの二人は隙となる胴体を狙うが、パトロが優勢になって来た。ラーグが今の状態で体勢を下にするとパトロの上の攻撃に頭が狙われる。
「はぁ、はぁ」
「息が上がって来たな。降参し・・・。あぶねぇ!」
ラーグはパトロの攻撃の合間を縫って手元を攻撃したが、間一髪避けて飛び退いた。すると、ラーグは正面特化の構えでパトロを強襲した。腕への細かい攻撃は厄介だった。
「ちっ」
「はぁ、はぁ。どうした? 動きが鈍いぞ。疲れたか?」
「息を切らしながら言ってんじゃねぇ!」
連続で繰り出される突きを体ごと回転させて避けると、正面特化の時のラーグの死角となる右側面に入った。
「危ない!」
アルトの叫びと同時にラーグの技の一つの全面防御が行われた。至近距離からだと、刃が様々な方向から襲い掛かる。マーラで強化された体から繰り出される刃は早い。パトロは二回は防げたが三回目の攻撃に腕を当てられた。
「ッ!」
「終わりだ」
怯んだパトロにラーグは終わりを告げた。パトロの目の前にはラーグの手首と腕を使った回転切りが迫った。防御したパトロの木剣は弾き飛ばされた。
「そこまで!」
審判の止めがはいった。
「はぁ。くそ!」
パトロは拳を掌に叩きつけて悔しがった。
「分を弁えたか? 子分よ?」
「あぁ。・・・俺の負けだ!」
アルトは、パトロの負けを認める言葉を言った瞬間、パトロの周りが薄っすらと光った様に見えた。
「お疲れ、パトロ」
「泣かしてやるつもりが砂だらけになって、腕もボコボコにされて、俺が泣きたくなってきた」
エリーがパトロの砂だらけの癖のある髪を撫でた。
「よしよし。また頑張ろうね」
「エリー、ありがとう!」
パトロは泣いた。
「パトロ。さすがに、エリーに泣きつくのはみっともないぞ」
試合場から戻って来たラーグがパトロを見下ろす。
「ラーグ、私は良いの。パトロはよく頑張ったわ」
「エリーは良くてもリークトが良くないぞ。見ろ」
ラーグが顎で示す方向を見ると、こっちに近づいてくるリークトが目を細めていた。ラーグ程ではないが、リークトも端正な顔立ちなので、表情の冷たさに迫力がある。
「お、俺、髪洗ってくる」
パトロはエリーから急いで離れ逃げて行った。
「アルト、今の見ただろう。型の相性は実際やってみないとわからないもんだ。覇者の型を使うパトロはマーラを使った身体強化と直感力は良かったが、技術不足で私に負けた。マーラを使った上級剣術は番狂わせになるもんだ」
「そうだね。この戦い、学べたよ。ところで、二人は上段からの攻撃になった時に無駄な動きが多く入れるようにしたの?」
「あぁ。あれは、お互いの手の読み違いを誘うためだ。直感力を高めると相手の次の動きが何となくわかるだろ。そこで、余計な動作を入れる事で相手の手の読み違いをさせて攻撃するんだ」
「そんな事が出来るの!? 俺と訓練してる時ってそれはやっていたっけ?」
ラーグは二ッと笑った。
「やってない。今、初めて教えた。技の手の内は教えたが全てを教えた訳じゃないさ。ズルいなんて言うなよ?」
「・・・確かに」
アルトの言葉にラーグは満足気に笑った。
「それじゃあ、次はアルトの番だな。相手は、リークトか」
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