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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第一部:教会騎士 第二章:ザクルセスの塔
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選抜試験開始

 

 講堂に集められたエレーデンテ達の空気は緊張で張りつめていた。これから始まる選抜試験。最優秀者には上級騎士と特別訓練を受けられる。

 皆がこの道を求めた。入団して間もない頃はマーラの感知者になってしまった自らの悲運を嘆いていたが、訓練を進めていくうちに自分達が背負ってしまった責任の大きさに気付いた。魔物を倒す事、異教徒の野望を阻止する事、世界を守る意味を。


 この自覚が生まれてからのエレーデンテ達の行動は変わっていった。強大な力を持つ魔物から人々を、自らを護るために体を鍛え、勉学に励んだ。その行動の原動力にはそれぞれの大切な人の存在もあったのであろう。そんな背景を負い、皆が目指す事になった道。上級騎士との特別訓練だ。

 上級騎士に鍛えてもらい、より強くなる。そして、自分は世界の守護者たらんと示すのだ。


 選抜試験は総合的に評価される。教会や歴史、法や騎士規範の筆記試験。マーラを用いた剣術トーナメントが行われる実技試験。実際は実技試験の成績が大きく影響を与えるが、総合的に優れていれば最優秀者になれる。


 エレーデンテ達の前に紙が置かれた。試験官の説明を聞く。午前は筆記試験。休憩を挟み午後は実技試験。

 一通りの説明を話した試験官は鐘の音を合図に試験開始を宣言した。

 一斉に紙を開き筆記が始まる。


 アルトも筆記試験を始める。志を持って入団したアルトは、日頃から座学の授業をしっかりと学んでいた。ラーグの星の民として語る歴史や教会の教えの裏側の話を聞いた時は、どうすればいいのか迷ったが、自由な裁量を得て戦うことができる上級騎士『レベナティア』を目指すためには、真っ直ぐ教会の話を聞くと良いとラーグからのアドバイスを貰い、教会の教えの範囲で学んで来た。時には、教えに疑問を持った時はラーグに星の民としての話を聞いたり、自分を納得させながらやってきた。


 そんなアルトにとって、この筆記試験は簡単なものであった。それは嬉しくもあり、嬉しくも無い話だ。

 アルトにとって簡単なら間違いなくライバル(ラーグ)にとっても簡単なのだ。普段の座学ではほとんど寝ているが、幼少の頃からの英才教育は伊達ではない。

 ある日、勉強会をする事になってパトロに無理矢理連れて来られたラーグは、皆が悩む所を簡単に説明し納得させた。教会で学ぶこと、星の民で学ぶこと。両方をやって来たラーグにとって、教会での座学は本当に昼寝の時間なのだ。


 そんなことを思い出しながら筆を進める。カリカリと鉛筆が紙を刻む音を聞き、筆記試験は終わった。


「ふぅー」


 緊張した肩をほぐし、息を吐く。


「さすがに、アルトも緊張したみたいね」


 食堂の席に座っているとエリーとリークトがやって来た。


「この一年の集大成だからね。一回きりの勝負だから緊張するよ。それに次は・・・」


「えぇ、私達もちょっと楽しみなの。二人がどんな戦いをするのか。上級剣術同士の戦いなんて、チケット販売したら売れると思うわ!」


「上級剣術の戦いじゃなくてもエルが売ってたら買うだろうな」


 リークトの言葉にエリーは少し照れて、リークトを見上げる。


「惚気はやめてくれる? 昼食が甘くなるよ」


 見つめ合う二人を他所にそそくさと昼食を終えて、実技試験が行われる会場に行ってみた。


「あっ、アルト君!」


「グラウェル卿」


 アルトを見つけたグラウェルがやって来た。


「筆記試験はどうだったかな?」


「満点はとれていると思います。意外と簡単でした」


「そうか、そうか。それなら後は実技試験だ。剣術の授業を見ている時に思ったが、やはりセレス君は強い。一番の強敵だ。上級剣術の方はどうかな。平和の型はものになったかい?」


「ある程度はなったかと思います。最低でも勝てないまでも負けない。そんな状態です。長い打ち合いになりそうです」


「そうか・・・。経験だが、そういう時は、虚をつくことも意識するんだ。彼は片手で戦うだろ。空いた手で掴み攻撃もあり得る。そういう虚に気を付けて、こちらも策を講じるんだ」


「はい。ご助言ありがとうございます」


「うむ。・・・それじゃあ、私は観戦席で見ているよ。勝って、神にも勝ち得る力を手に入れよう」


 そう言い残し、グラウェルは足早に去って行った。グラウェルが見ていた方向を見ると、老年の上級騎士がいた。彼はアルトを見ると去った。


「誰だろう?」



 ***



 バン! バン!


 木剣が激しくぶつかり合う音が各所で響く。

 年長エレーデンテは四十人いる。トーナメント方式で行われ広い訓練所で審判となる下級騎士達の下、各所で試合が行われる。

 上級剣術を学んだアルトとラーグはシード選手として序盤での試合は無く、全体の様子を見ていた。

 エリーは踊るような動きで相手を翻弄し、着実に相手を打ち付けていく。

 クラルドは力強く。一撃一撃が重いようで、相手の防御がすぐに崩される。

 リークトはマーラを使い素早く動き、防御をして攻撃を防いだ後は、すぐに反撃に転じ相手を倒す。

 そして、意外だったのがパトロだった。一撃で相手の防御を崩し、すぐさま止めにかかる。授業で見せていた剣の型の戦いではなく、暴れているような激しい攻撃だった。ラーグの剣が冷静というなら、今のパトロの剣は情熱を溢れさせたが如く、火を噴くようなものだった。


「すごいな。パトロがあんなに強かったなんて。それにあれって」


「覇者の型だ」


「ラーグ。パトロって上級剣術が使えたの?」


 隣に座ったラーグにパトロの剣の説明を求めた。


「あぁ。普段はダラけているが、パトロは上級剣術『覇者の型』の使い手だ」


 眼前で繰り広げられる覇者の型の力を見て、息を飲んだ。あの激しさがあれば、今まで見て来たラーグの決闘者の型を倒せるかもと。そこであることに気付いた。


「このままパトロが勝ち進めば、当たるのってラーグじゃ?」


 アルトの言葉にニヤッと笑った。


「今日のあいつは本気だからな。子分としての分を弁えさせないとな!」


「でも、決闘者の型って覇者の型に弱いって」


「アルト、この序盤の戦いは型の相性とちょっとした素質で勝ち上がっているのがほとんどだ。だけど、マーラの感知者同士、上級剣術同士の戦いがどんなものか見せてやるよ」


 ラーグは意気揚々と試合場に行った。


「パトロ! 上級剣術が使えるなんてズルいじゃない!」


「ははは。ごめんごめん! 今日は絶対に泣かせたい奴がいるから本気出してるんだ」


 エリーはパトロの攻撃に耐えられずに負けてしまった。

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