誤解の解消と望む者
「はぁ! ふん!」
アルトは平和の型の基本動作の反復練習をしていた。今日は一人で練習だ。
ファーニから聞いた話がアルトの胸の中で様々な感情を渦巻かせ、発散するように剣を振るう。
父オーロンの過去を聞き、父が負った悲劇。父の生き方。ファーニが話してくれた様々な言葉がアルトの心に刺さった。そして、アルトと繋ぐ二つの可能性を考える。
オーロンは『未来予知をしていたのか』、『黄金の瞳を持った勇者はキケロ・ソダリスなのか』。二年前に会った、あの勇者を思わせる人は何十年も前にオーロンの未来予知の中で出て来て奴隷となったオークを開放したのか。
だが、別の可能性もある。当時、キケロ・ソダリスではない、別の黄金の瞳を持った勇者と思われる人がオーク達を開放した可能性。オーク達は鎖で繋がれていたとファーニは話していた。その別の人が暴動が発生したという鉱山の区画に現れて、オーク達を開放して、事件に繋がったのではないか。
(そうなると、父さんが見た夢も間違っていないような。だとしたら、本当に未来予知を?)
「勇者・・・。それに魔物の事もあったな」
振っていた剣を下ろし、魔物の事も考える。
暴動が起きて、しばらくするとオークが魔物になった。魔物を生み出す存在。かつて、ゴル村の森で現れた存在を思い出す。『大公ナリダス』。目の前で獣人を魔物に変えた邪神。
(暴動は偶然かナリダスが仕組んだ物で、結果としてあいつが魔物を生み出した。この線もある)
オーロンの未来予知と勇者と思われる存在とナリダスの影。三つの可能性にどれも有り得るのではないかと考える。
ただ、悲しい話だらけだけど一つ嬉しかった。オーロンは奴隷となった種族を奴隷として見ていなかった。処刑される可能性もある中で、自分の信念の下、オークと平等に接していた事。アルトがエストに来て、実際に目の前にした奴隷となっている獣人族達を見て『おかしい』、『異常だ』と思ったアルトの感性は間違っていないのだと勇気を貰えた。
父を襲った様々な苦悩と悲しみに胸が締め付けられるが、父を誇れる理由が新たに加わった喜びもあった。
***
いつもの顔ぶれで夕食を共にするが、ラーグが現れた瞬間、アルトに視線が刺さるような感覚が襲った。周りを見ると女子達がこっそりと見ているのがわかる。エリーとリークトの視線も感じる。
(またか・・・)
あの夜の事はエリーとリークトしか知らないが、二人の距離の近さに女子達の視線が注がれる。
席を座ろうとしたタイミングで、リークトがソッと誘導しラーグの隣に座らされる。
(『気遣い』のつもりなのか!?)
しぶしぶ、隣に座り夕食を食べようとする頃に、いつものラーグの食堂料理講座が始まる。今では、皆も軽く流して隣にいるアルトに爽やかな笑顔で話す。そんなラーグの輝くような笑顔に目を細め、ポツリと話す
「ラーグ。俺達、色々と誤解を受けている様なんだ。ラーグのことはとても尊敬してるし憧れだけど、どうも周りは別の意味で俺達が仲が良いと思われているんだ。だから、距離を取らないか?」
アルトの小さな声を拾ったエリーが立ち上がり、アルトを叱るように言った。
「アルト! なんてことを言うの! こんな狭い世界だから、色々と気にするのはわかるわ。でも、ラーグの気持ちも考えてあげて。ラーグの安心できる場所はアルトの側なのよ。アルトもラーグが離れてしまっていいの? 孤独を癒すのは結局は人なのよ。だから、二人の関係を大切にして、お願い」
「そうだ。辛いなら、誰かと分かち合え。周り何て気にするな。いざとなったら、俺達が守る。二人の抱える孤独を理解できるのは二人しかいないんだ」
リークトも真剣な顔でアルトに訴える。隣で話を聞いていたラーグはポカンとしている。
「だから二人共。前提が違うんだ! 俺達は確かに孤独感を共有してるけど、そんな関係じゃない。師匠と弟子。仲の良い友人。その、俺にとってライバルなんだ。恋人とか慰め合う関係じゃない!」
アルトの言葉は食堂に響き、周りはシンっと静まり返った。すぐにざわめきが走った。
「待て、三人共。何の話をしているんだ」
困惑しているラーグにアルトは言った。
「この前、香油でマッサージしてもらってたのを二人は、そ、その、俺達が慰め合ってるって誤解してるんだ!」
アルトの言葉に食堂に悲鳴が走った。『ラーグ様とアルト君が・・・』、『やっぱり』、『でも、しょうがないわ』。いろいろな声が飛び交い混乱し始めた。
「リークト、あれは単にマッサージをしていただけだって伝えたはずだが」
「いや、どう見てもあれは違うだろ! 薔薇の香りに満たされながら、泣き喜ぶアルトと、アルトの上に座って体を撫でまわして楽しんでるラーグ。どう見てもあれだろ!」
「あははははは!」
パトロはリークトの言葉を聞いて爆笑した。
「へー、二人はそんな関係だったんだ~」
ラーグの鋭い視線にパトロの笑いは止まらない。
「二人共。実はさ、俺もセラーナ様に同じ誤解を受けたことがあるんだよ」
「え?」
「こいつのマッサージってすごい気持ち良いんだ。だけど痛くすることも出来るんだが、マッサージ中に言い合いになって、背中をほぐし痛めつけられていたんだ。気持ちいけど痛くて泣いてる姿をセラーナ様に見られて、俺達はそういう関係になったのかと数日間、誤解されたよ。だから、アルトもそれだと思うよ。本人達がそういう関係じゃないっていうなら。それにマッサージをするって話は俺とクラルドもいたけど、慰め合うって意味でマッサージをするわけじゃなかったぞ。ラーグのある秘密を聞かない代わりに疲れているアルトにマッサージをしてやろうって流れ」
「二人共、わかったか!」
パトロの援護に助けられながら、エリーとリークトの誤解を解く。ポカンと口を開ける二人は、やっと理解したのか、小さな声で謝った。
「パトロ、ありがとう! 今度、お菓子奢るよ!」
「やった! でも、アルトも大変だったな。それもこれも、ラーグの顔が良すぎるのが悪いんだ。そういう妄想が出来る人にとっては格好の材料だからな」
当のラーグはエリーとリークトを睨んでいる。食堂もパトロの説明と、アルトとラーグの否定の言葉により落ち着きを取り戻した。
「でも、そういう関係だったら良かったのに」
ぼそりと食堂のどこからか聞こえた。
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