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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第一部:教会騎士 第二章:ザクルセスの塔
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剣術の特徴と癒しのマッサージ

 

 クラルドの長い恋路を温かく見守ろうと思いながら一夜を過ごした。

 今日は『鉄壁の型』と『平和の型』のどちらを決めればいいかラーグに相談する。自他共に認められているアルトの師匠になったラーグは上級剣術の使い手だ。決めるために何か良い話が聞けるのではと期待する。


 午前の訓練が終わり、最初の頃より体力がつき余裕が出来ていた。


「最近、朝の走り込みが楽に感じれるようになってきた気がする」


「あ、俺も。何か体が軽いよな!」


 アルトの言葉にリークトも同じだと言った。それを聞いたクラルドも同じだと言い不思議に思っていると、午後の訓練で理由がわかった。


 マーラの扱い方を学ぶ授業で、身体強化の技が身についていたのだ。アルトはそこで、以前ラーグとやった試合のことを思い出した。身体強化中は体が軽く、動きやすかった。


「それじゃあ俺達、無意識に身体強化していたのか」


 アルト達の言葉に教官は制御が必要、と言った。


「身体強化が使えるのは良い事だが限界を越えると、反動で体に激しい疲労感に襲われて動きが鈍くなる。上手く制御が必要だ」


「疲労感か。この前、アルトとラーグがボロボロになっていた状態になるのか」


「それと、体力向上の授業で身体強化を使ったら意味が無いからな! ちゃんと使い分けるように」


 教官の言葉に返事をして、制御を学ぶ授業となった。



 ***



「ラーグ、持って来たよ!」


 自由時間となっている剣術の授業ではラーグと一緒に上級剣術習得に時間を使っている。図書館で借りた本を持って行き、ラーグと読む。


「足さばきはやってみたか?」


「うん。鉄壁の型の方が動きやすかった」


「そうだろうな。鉄壁の型は盾の型の本流みたいな作りになっている。防御に優れた剣術だが、攻撃が弱すぎる。守り一辺倒な型だな」


「やっぱり、そう思う?」


「あぁ。俺に勝ちたいなら平和の型が良いかもしれない。攻守のバランスが良くて、ここに書いてある限りは他の剣術と互角。そこにマーラが加われば、いい勝負になると思う。あと、この型の攻撃ってどこか決闘者の型にも似てる部分があるな。一の技の回転切りに近い」


「本当に!?」


 ラーグの言葉に思わず飛びつく。ラーグみたいな強さの一部が手に入る。テンションが上がる。


「この攻撃の仕方なら具体的に教えれる。だが、まずは基本となる守りの型をしっかし学ぼう」


「わかった!」


 そこから、足さばきの練習や型の基本の動作を反復練習していく。足さばきで攻撃に回る時の動きをラーグと一緒にやってみると、決闘者の型の動きと似ていた。


 基本動作の動きを確かめるために、ゆっくりと基本動作のみを使った打ち合いもやって平和の型の『汎用』さを実感した。


「これって、二/三が守りで一/三が攻撃って感じがする」


「そうだな。それに比べて本を読む限りの鉄壁の型は、四/五が守りだな。なるほど。平和の型が全ての上級剣術と互角の意味がわかって来たぞ」


 その後も、緩い打ち合いをして型の動作を体に覚えさせていく。



 ***



「はぁ~、きもちいい」


 湯船に浸かり思わず声が出てしまう。新しい型を体に慣らすために時間一杯、緩く打ち合いをしていると、普段使わない筋肉の部分に疲れが溜まってしまう。


 隣からは小さく笑う声が聞こえてくる。


「アルト、おじいさんみたいだな」


「しょうがないだろ! 体の色んな部分が疲れたんだから」


「ラーグも決闘者の型を本格的に習い始めた時は同じ感じだっ・・。ぶはぁ!」


 パトロはラーグに湯を思いっきり掛けられた


「ちょ、ラーグ。俺にも掛けないでよ」


「すまない。クラルド」


 パトロの側にいたクラルドにも掛かり、素直に謝るラーグ。


「俺に謝らなくていいのか。ラーグ? あの時の事を洗いざらい喋ってもいいんだぜ?」


 濡れた灰色の癖毛をかき上げ、ラーグを挑発するとパトロをラーグはジッと見た。


(こういう時って、ラーグの中で葛藤が起きてるんだよな。そんなに、恥ずかしいことがあったのか)


「パトロ、教えてよ。何があ「パトロ、すまない!」」


 アルトの言葉に重ねるようにラーグは謝った。パトロはニヤリと笑いアルトを見た後にラーグを見た。


「俺は謝られて満足したけど、アルトが知りたいみたいだしな~。どうしようかな~」


 グッと堪えるラーグの反応が面白かったアルトは続きを知りたいと促すと、提案された。


「アルト、私の話なんかより良いことをしてあげよう。マッサージだ。背中と肩と腕と足をほぐしてやろう」


 その提案を聞いたパトロは大笑いした。クラルドもラーグがマッサージをするという意外な言葉に目を点にしていた。


「アルト、マッサージやってもらえよ! こいつのマッサージの後は体が楽になるぞ」


 ジッとアルトを見るラーグに、からかうのもここまでにしておこうとした。


「それじゃ、マッサージお願いします」


「わかった。香油とタオルを持って後で部屋に行く」


「良かったな。元大貴族が秘伝のあのマッサージをしてくれるなんて、滅多にないぞ」


 グッと悔しがってパトロを見るラーグにちょっと悪いことしたなと少しだけの反省をした。



 ***



 夕食を終え、部屋で本を読んでいると扉をノックされた。


「どうぞー」


 扉を開けて入って来たラーグは道具を持っていた。


「はぁ。アルト、マッサージするぞ」


 溜息交じりにベッドに大きいなタオルを敷いて準備していくラーグを見ながら聞いた。


「無理にマッサージしなくても良いんだよ。風呂場で何があったか話してくれれば」


「最近、お前は俺をからかうようになったな。話すくらいならマッサージする。ほら、これに着替えろ。大きさはちょうどいいと思う」


 ラーグの持って来た麻の服に着替えるとベッドに横になる。


「ははは。ごめんって。最近、ラーグの考えている事がわかるようになって来たから思わず」


「はぁ。それじゃあ、やるぞ」


「お願いしまーす」


 香油を足に掛けられてラーグの手が筋肉を動かすように手を滑らす。


「この香り、たまにラーグからする匂いと一緒だ」


「あぁ、自分でマッサージする時に使っている物だ。痛くないか?」


「うん。何だか足が温まって来るような感じ」


「血の流れが良くなっているんだ。こうすると疲れがとれて体が楽になる」


 丁寧に足をほぐされていく。ゆっくりと体も温かくなっていくのがわかる。


「うつ伏せになれ。背中、肩、腕をするぞ。それと跨るから」


 言われた通りに仰向けからうつ伏せになり腕を広げると腰に重みが掛かった。


「元大貴族の子息にマッサージしてもらうってどんな気持ちだ?」


「良い気分だね。明日の剣術の授業の後もおねがいしま・・・いたっ!」


「マッサージってちょっと力を入れれば、とても痛く出来るんだぞ。覚えておいた方がいい」


「すいません。ラーグ様・・・」


 上から鼻を鳴らす音が聞こえるが、楽しそうな感じだったので命拾いはした様だった。


「それにしても、俺にマッサージするのが良いと思えるような事が風呂場でラーグにあったんだね。気になるな~」


「はぁ。結局、聞くのか」


「ダメ?」


「・・・内緒だぞ。小さい頃に本格的に剣術の訓練が始まって疲れきっていたんだ。それで風呂に入ったら眠気に耐えれずに寝た」


「え? それだけ? それだけのためにマッサージしてるの?」


「・・・溺れたんだ。浴槽で寝てしまって、体が滑って全身が沈んで溺れた。混乱してバタバタと暴れてた時に、体を洗ってたパトロが来て引き上げてくれた。それから、少しの間一人で浴槽に入るのが怖くてパトロの腕を掴んで入ってた」


「ぷくく、いたぁ! 痛い! ラーグ痛い!」


「笑うな!」


 周りから王子様と言われている男の意外な昔話にアルトは笑いを堪えられずにいた。その代償に背中と肩に痛みが走る。


「あはは、いたぁい! くく、い、痛い。・・・くくく、ごめん。いたぁ!」


 容赦のない攻めに無防備なアルトは抵抗のしようが無く、痛みと筋肉がほぐれる気持ちよさの狭間で泣いた。


「・・・二人共、何してるの?」


 部屋に帰って来たリークトには、薔薇の香油が香る部屋で、痛いと泣くアルトと、その上に少しだけ笑いながらアルトの上に座るラーグが、どのように見えたのだろうか。

これはBLではありません。二人は超仲良しなだけです!


読者のみなさまへ


今回はお読みいただきありがとうございます! 


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