二人だけの世界
アルトがひたすら逃げ回った、リークトとエリーの交際がわかった秘密の茶会から二週間が経った。その間、似た者同士であるラーグとの関係が深まり、遂には彼に剣を師事する。
以前していたリークトとの特訓はしなくなった。せっかく思いの通じ合った二人に一緒に過ごす時間を贈りたかった。好きな人と一緒に過ごせる時間が、どれほど大切かわかるアルトの配慮だった。
今でもラーグはアルトにとって乗り越えないといけない壁には変わりないが、以前みたいな暗い感情は消えてラーグを尊敬し、その実力に憧れた。
『ラーグみたいに強くなりたい』
その一心で教えを請い、懸命に努力をした。
ラーグに強さを求める理由を聞かれた時にアルトは素直に答えた。上級騎士レイド・グラウェルから聞かされた話。仇の正体。仇に勝つために必要なこと。神を倒した伝説。グラウェルに教えを請うために、選抜試験の剣術試験で必ず当たる事になるラーグを倒すこと。
最後の話を聞いたラーグは暫く笑っていた。
「俺を倒すために、俺から学ぶか。でも、納得したよ。確かに今のエレーデンテで俺に勝てる者はいないだろう。剣術の訓練も中級剣術で教えは止まる。さらに強くなりたいなら型は違っても上級剣術を使える人に聞いた方がいい。これからも協力するよ。それとアルトの手の内は全て知っているから、俺の手の内も明かそう。そして、一緒にアルトに合う盾の型の上級剣術を探してみよう」
その言葉通り、アルトと試合を通しながらラーグは決闘者の型のそれぞれの技の弱点を明かした。
だが、知れば知るほどラーグに勝つのがどれほど難しいのか理解させられた。しかし、成果もあった。盾の型で決闘者の型の攻撃を防げているのだ。勝てないまでも、負けない力を手に入れつつあった。
ラーグも部分強化を扱えるようになり攻撃は激しくなるが、アルトもマーラの使い方に気を付けて部分強化を行い、攻めと守りの力が拮抗した。
そして、あれから二週間経った今も二人は剣術を磨き上げようと戦う。
「脇が甘い!」
「ッ!」
アルトの隙を容赦なくラーグの剣が襲い掛かる。ギリギリの所で防ぐが腕が痺れる。部分強化された腕から出される一撃はとても重い。
「足の動きを観るんだ。足の動きで次にどの動作が来るかわかる。教えた事と、マーラで高められた直感を信じるんだ」
今まで教えられて見てきたラーグのクセと足の動き。それらを直感で処理して動作を判断する。難しいことだが、ラーグに勝つためにはやるしかないのだ。
アルトは集中しラーグの体と足下を観察する。
「!」
動きを読み攻撃を防げたが、ラーグは呟いた。
「近すぎだ」
(しまった!)
アルトの体は投げ飛ばされた。倒れるアルトにラーグは剣を突きつける。
空いていたラーグの片手に捕まり、投げ飛ばされたのだ。
「はぁ、はぁ。剣に意識を、集中し過ぎた」
「はぁ、はぁ、はぁ。そうだな。ほら」
伸ばされた手を取り立ち上がる。
「今日はここまでにしよう。最近、アルトの守りも固くなっていくから、一本取るまでに息が上がる」
「ははは。やった!」
最初の頃のラーグの余裕を乱せたことに、自分の成長を感じて嬉しくなる。アルトの様子にやれやれと首を振り、木剣を片づける。
「さてと、俺は風呂に入ってから夕食にするよ」
「俺も風呂に入ろ。お陰様で土だらけだ」
「俺にもいつか土汚れをつけてくれ」
「・・・剣術試験の時に絶対につけてやる」
決意を新たに、今は風呂場に行く。
***
「そろそろ図書館に行ってみるか」
ラーグとの練習の休憩中にアルトは呟いた。
「あぁ。あれだけ出来れば上級剣術に進んでも問題ないだろう」
二人はこの間の授業中での試合を思い出した。
ラーグに鍛えられて盾の型も上手くなり、教官との試合でも勝てるようになった。急成長するアルトに周りは驚いた。訓練が始まって間もないのに、教官を倒せたのだ。
今の所、教官を倒せたのはラーグとアルトの二人だけだ。同じ盾の型であるリークトとエリーの成長も著しいが、アルトとの開きは大きい。そして、合同訓練で剣の型使いと盾の型使いの試合では相手を難なく倒した。
試合を見守っていた教官達はそんなアルトの成長に興味を持ち、ラーグと戦わせた。ラーグへの条件として中級剣術のみで戦う様に指示を出した。
アルトとラーグは笑った。お互いの手の内を知る二人が同じ土俵で戦うと、今の段階でどちらが強いのかはっきりさせれる。
アルトは、楽しみと笑い。ラーグは実力に裏付けされた余裕の笑みを浮かべる。二人は高まる気持ちのままに、内側に宿るマーラを練り上げ、今できる限りの身体強化を行った。
場に入り、木剣を構える。静まり返る空間に教官の合図が入る。
アルトが一気に距離を詰めて剣を振るうと、ラーグは正面から受け止めて鍔迫り合いをする。
「勝った方が、奢るのはどう?」
「ほう。いいだろう」
鍔迫り合いは徐々にラーグが優勢になっていく。アルトはタイミングを計り、剣をズラしラーグを転倒させようとする。ラーグは急に抜けた力に転倒すること、は無かった。横に動くアルトにすかさず横に剣を振るう。
「あぶな!」
「ふっ」
そこからはラーグが攻め、アルトが守りになった。お互いが直感力で相手の手を読み、未熟な身体強化で高められた体で剣を打ち合い、相手の隙や油断を攻め合う。
条件で縛られている試合だが、ラーグと互角にやりあえている喜びと自らの成長。そして、今、ラーグの本気を引っ張り出せた事にアルトの気持ちは昂ぶる。
ラーグも条件で縛られた中でも、全力を出せる事に喜びが湧いた。自分を倒すために教えを請いに来たアルトに様々な事を教えて鍛えた。本来の土俵とは違うが、今、自分に全力を出させている。師として友として嬉しくて堪らない。
「ラーグ、楽しいよ!」
「あぁ。もっとやるぞ!」
息切れする中、どうしても伝えたかった気持ちを声に出した。
徐々に早くなる剣戟に周りの観戦者達は緊張していく。自分達はこの二人の剣を受けることが出来るのかと。
二人は肩に負うもの全てを忘れて、この時だけに集中できる時間が永遠に続けば良いと思った。二人だけの世界。だが、舞台の幕はいずれ降りてしまう。
長時間に及ぶ戦いで、お互いに身体強化も弱くなっていき、思考にも陰りを感じた。その油断の瞬間にそれは来た。
集中力を切らしてラーグの手を読み違えたアルトは防御を崩された。ラーグの二撃目の剣が横腹を叩きつける。
「グハッ!」
「ハァ」
痛みに呻く声と、一太刀を入れて力が抜ける声。アルトは倒れ、ラーグは膝を付いた。
「そこまで!」
教官の言葉で幕は降りた。
痛みと身体強化の反動で、力尽きて倒れたままのアルトと、同じく反動で膝立ちの状態から固まっていたラーグは剣を杖にして何とか立ち上がり剣を掲げた。
激しい拍手が訓練所を満たす。クラルドとエリー達はアルトに駆け寄り、意識を確かめる。パトロは立ったまま動けないでいたラーグに手を貸し、ベンチに座らせる。
仰向けで訓練所の天井を見るアルトは涙が出て来た。
「アルト、痛むのか!?」
心配するクラルドの声に思わず笑いながら返す。
「ははは。悔しくて・・・。あと少しだった!」
その言葉にクラルド達は苦笑し、労った。
「そうね。でも、ラーグのあんな姿は初めて見たわ。あそこまで追い込んだアルトはすごいわ!」
「あぁ、本当にすごいぞ! それに感動した。一つの踊りを見ている様だった!」
エリーとリークトの言葉に力なく笑い、意識を失くした。
パトロはラーグの顔を拭き、自力では飲めなくなっていた水を体勢を変えさせて飲ませた。
「今のお前なら、日頃の仕返しも出来そうだな」
パトロはニヤニヤと笑いながら冗談を言う。何か言い返そうとしたラーグの口は閉じられ、そのまま眠りについた。
ラーグをベンチに寝かせ、パトロは思わず笑いながら呟いた。
「アルト、お前すげぇよ」
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