アルトとミーナと二人だけの秘密
村長と行商人にミーナの宿泊場所を伝えたアルトはオーロンの店に戻ってきた。店には薬草を煮込んだ匂いがした。
「おかえり、アルト君。今、ミーナさんと消毒の薬を作ってるからちょっと待っててね」
「わかった。それじゃあ、あっちで仕事してるから終わったら声をかけて」
アルトは作業場所に向かうときにチラッとミーナを見て、大量に買われていった二日酔いの薬の材料の下処理を始めた。
(夢に出てくる子とそっくりだ。それに行商人の荷車も一緒の形をしてた。夢だと逃げて来た方向って家の方向からだし、偶然にしても気味が悪い。・・・もし正夢ならティトと会えるのか?)
アルトの心配を他所に、初めての薬作りをミーナは楽しんでいた。
「マールさん、色々と教えてもらいありがとうございました!」
「いえいえ、人に教えるなんてアルト君以来だから緊張しましたよ。帰ったらまた作ってみてください。それじゃあアルト君、あとはよろしくね」
「わかった。父さんが来たら、村長と行商人に伝えたって言っておいて。それじゃあ、ミーナさん行きましょうか。荷物持ちます」
「ありがとうございます。マールさん、お世話になりました!」
マールに見送られながらオーロンの店を後にした二人は、通り過ぎる人達の好奇心に満ちた目を受けながら、家に向かった。
「なんだかすいません。村のみんな、他所の人が珍しくて・・・」
「大丈夫ですよ。それに髪色もあるでしょうし。リンド村でも、この髪色は珍しいから最初はみんなにジーっと見られてました」
「やっぱり。ミーナさんを見たとき綺麗な髪で俺も思わず固まってしまいました」
「ふふ、褒めてくれてありがとうございます。それと、歳も近いしミーナって呼んでください。言葉も崩してもらえると助かります。二日間、お世話になりますし」
「っ。わかった。それなら俺のことはアルトで」
自分の言葉に、褒めてくれてありがとうとミーナに返されて、アルトは少しだけ恥ずかしくなりながらも、お互いの呼び方を決めた。
「お店でも聞いたけど、アルトってすごい薬を作れるんだね。朝からあんなに店を繁盛させるんだから」
「ははは、元々、父さんがたまに作っていたけど、他の仕事もあるからたくさんは作れなかったんだ。それで色々あって俺が作れるようになったから、今は量産してる。おかげで、酒場に通う人達の奥さんからは睨まれてるんだ。『余計なもの作りやがって』って感じ。でも、俺が作ってる事は知られてないから、父さんが睨まれてる」
「そうだったんだ。たしかに、うちの宿にも二日酔い止めの薬なんてあったら大繁盛するわね。奥さん達の恨みは買いそうだけど」
楽しそうに笑うミーナにつられてアルトも笑い、家に着いた。
家ではアルマが昼食の弁当を作っていた。今日は、魚を焼いたものにペーストにしたハーブを塗ってパンに挟んだものだ。
「ただいま、母さん。手紙で連絡があった、リンド村のお客さんを連れて来たよ」
「こんにちは。リンド村のミーナといいます。お世話になります」
「いらっしゃい。アルトの母のアルマよ。ゆっくりしていってね。アルト、部屋は二階にあるわ。案内と荷物を運んであげて」
「わかった。ミーナこっち」
ミーナに部屋と家の案内をして荷物を運んだ。また一階に降りるとアルマがアルトに二人分の弁当を持たせて村を案内するように言った。
「村の案内っていっても、案内するほどのものはないしなぁ。・・・そうだ、一応、避難所を教えておくよ。最近、物騒な話を聞くから」
夢のことが一瞬よぎり、念のために避難場所を教えることにした。盗賊などに村が襲撃に会った時に地下へと隠れる場所がある。そこから村はずれへと脱出できるようになっている。
歩きながらゴル村までの旅の話や村の外の話にアルトは興味津々に聞いた。
「そういえばリンド村でも聞いたけど、ゴル村の北に獣人族がいるらしいわね。怖いけど、でも、獣人達が逃げるのもわかるわ。旅人の話を聞くと、どれもひどい話ばっかりよ。満足に食事ももらえずに、朝から夜まで働かされて、些細な事で鞭を打たれる。反抗的な獣人がいたら、目の前で別の獣人を痛めつけるの。ときには子供を・・・。ごめんなさい、ちょっと思い出したら気持ちが」
「・・・わかった。あそこの木で休もう」
ちょうど、村のシンボルになっている大きな白檀の木が近かったのでミーナを休ませた。持っている水筒を渡し水を与えた。
「ありがとう。ごめんね。自分で話して気分が悪くなるなんて」
「いいよ。気にしないで。酷い話だったんだね。そうだ。これを嗅いでみて」
アルトはカバンから袋を取り出し、もみこんだ後にミーナに渡した。ミーナは袋から発する香りを感じて驚いた。
「なにこれ! すごく良い香り。そういえば、この辺りからも似た香りがする・・・」
「白檀っていう木。甘い香りでしょ。その袋に削ったものを入れてるんだ。気分が悪くなった時に使うと落ち着く。あっ、この袋は内緒にしてね。村のシンボルだから、削ったことがバレると怒られるんだ」
「ふふ、わかったわ。香りを発する木なんてあるのね。素敵なシンボル。リンド村のシンボルとは大違い」
「リンド村のシンボル? そういえば、ミーナの両親がやってる宿屋の『ステーキ』って料理がすごいって聞いた。それがシンボル?」
「あははは、ステーキがシンボルは嫌だな~。リンド村のシンボルは『酒場付きの宿屋エイド』よ! エイドお爺ちゃんが開業してからリンド村のシンボルになったのよ。なんでリンド村にしたのかわからなかったけど、今はリンド村のシンボルだって自信をもって言えるわ。宿屋で新年のお祝いを村のみんなでやったり、結婚式や新作料理のお披露目会もあったわ。いろんな思い出がある。この白檀の木にも、思い出があるのかな」
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