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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第一部:教会騎士 第二章:ザクルセスの塔
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安らぎの夜

 

 リークトとエリー。二人の新しい関係を祝福し、お祝いの言葉を言おうとしたが止められた。リークトに小声で内緒、と言われた。


 その言葉に従い何も言わずに特別なバングルを受け取り、ソファに座る。


「アルト、ニヤけてどうした?」


 パトロの言葉に焦りながら、慌ててバングルを見せた。


「思った以上に良い出来だから嬉しくて! ほら、これ特殊な金属を使っているんだ!」


「へー、特殊な金属?」


 パトロはバングルを見回しながら訪ねる。リークトがニヤリと笑い答える。


「このバングルはアドルマ金属って言う物を使っているんだ。錆びないし、傷も付かないんだ。鍛冶屋で見た時はビックリしたよ。ノーラ地方の北方でしか採掘できない石があるんだから」


「そんな金属を使ってるって、作るの高かったんじゃない」


 リークトの話を聞いたクラルドは、片手で持っていたのを両手でソッと持ち替えた。


「ははは。まぁ、高いけど金持ちがいたからな。奮発してもらった」


 その言葉に周りの視線はラーグに集まる。


「いや。私ではない」


「他に金持ちっているか? 持ってそうなのはエリー?」


「ははは。俺だよ」


 アルトは手を上げて自分だと伝えた。周りは、誰からのプレゼントだったか思い出した。


「アルトって、お金持ちだったの?」


「いや。実はラーグに稼がせてもらったんだ。その金で作った」


 思い出したのか、ラーグはバングルを見ていた顔を上げた。


「あぁ、二日酔い止めの薬を売った時か。確か、金貨十枚の利益って言ってたな」


「「「金貨十枚!?」」」


 クラルドとエリーとパトロが一緒に驚き、アルトを振り返った。


「あの薬で、そんなに儲けていたの!?」


「でも、あの時、百本薬売ってなかったか? 一本銀貨二枚で売って完売だろ。金貨二十枚じゃないか?」


「ん? 一本銀貨一枚で売ったから、金貨十枚だよ。本当はちょっと手間賃を乗せて銅貨五百枚で売ろうみたいになったんだけど、ラーグのお陰で銀貨一枚に値上げした」


 アルトの言葉にパトロは腕を組み、考え込んでいる。何だろと思いながらも話を続けた。


「ラーグが色んな所に声をかけて、大勢来たんだよな。正直、銀貨一枚で百本完売するとは思わなかった」


「アルトの薬学の腕はバラール地方一番の薬師である父上から学んだのだろう。それくらいの価値はあるさ」


「・・・ありがとう。ラーグ」


 ラーグの当然だろという笑みと、オーロンと自分を褒めてくれる言葉に、嬉しさと恥ずかしさが混ざり、頬を掻く。そんな二人は、お互いの顔を見て笑ってしまう。


「本当に二人とも仲が良いわね」


 エリーはそんな二人を見て、体を少しリークトに寄せながら微笑む。


 そこでパトロは考えている事がまとまったのか、アルトに尋ねた。


「アルト、本当に銀貨一枚だったのか?」


「そうだってば。さっきからどうしたの?」


 今度はラーグの方を向き尋ねた。


「・・・あの薬、俺に銀貨二枚で売ってこなかったか?」


「そうだが。それがどうした?」


 その言葉でアルトも思い出し、周りは察した。そして、いつもの事だとバングルの話や茶会を楽しみはじめた。パトロは深呼吸してからラーグに聞いた。


「すぅー、はぁー。正直、答えはわかってるが聞かせてくれ。何で、俺から銀貨一枚を余計に取ったんだ?」


「お前から、金を巻き上げたかったからだ。ちなみに、お前に売ったあの薬は銅貨五百枚で買った」


「・・・もう一つ思い出したが、つまり、お前は二日酔いで苦しむ俺に銀貨一枚で買えるはずだったのに、嘘の時間を教えて買えなくさせて、銀貨一枚と銅貨五百枚の利益を得た訳だ。金に困ってないのに」


「そうだ」


 キッパリと言い切ったラーグにパトロは口をワナワナとさせて最終手段だ、とラーグに言った。


「セラーナ様に手紙で言いつけてやる!」


「ふん。お前の名前だけで、宮殿の中にいるセラーナのもとまで手紙が届くわけがないだろう」


「ニクス侯爵にはお前達の世話をしてくれてありがとうって日頃から感謝されてんだよ。やってみないとわからないだろう! それと、アルト。一生の頼みだ。しばらくこいつの口が回らなくなる薬を売ってくれ!」


「麻痺毒って事かな? 売れないし、作らないよ!」


「何でだ!」


「ラーグに使うに決まってるからだ」


「お前は今の話と、あの態度を見て何も思わないのか!?」


「ラーグらしいなって」


「あいつに甘すぎるだろ!」


 こうして、エリーとリークトはクラルドを交えながら話をして、パトロはアルトに縋りつきながら麻痺毒の作成をお願いして、ラーグは紅茶の香りを楽しみながら嬉しそうにバングルを左手首に着けて見ていた。


 秘密の茶会はいつもより賑やかに終わった。



 ***



 秘密の茶会が終わった後は、いつもラーグとパトロが片づけをするが、怒ったパトロは自分の分を片づけ部屋に行った。ラーグ一人で片付けをする事になるから、周りは手伝おうとしたが断られたため部屋に行くことになった。アルトは片付けの間、暇だからとラーグの話し相手に指名された。


「皆、おやすみ」


「おやすみなさい。あ、()()、おやすみ!」


「っ。あぁ、()()もおやすみ」


 アルトとラーグ以外は部屋に帰った。共通談話室の扉が閉まると、ラーグは笑った。


「はははは。二人共、新しい関係になったんだな。アルトは知っていたのか?」


「・・・え? 何のこと?」


 ドキッとしながら、ラーグの言葉にとぼける。だが、ラーグを相手にとぼけきれる自信が無い。


「くく。てっきり、リークトと喧嘩でもして部屋に居づらいのかと思っていたが、リークトから別の理由で逃げていたんだな」


「・・・ふぅ。ラーグは何でもお見通しなんだな」


「ははは。バングルを渡された時のアルトの反応、色違いのバングル、エリーのバングルの内側の文字、さっきの呼び方。全ての点が繋がって線になった。そうか、めでたいことだ。それに気を遣わせたな」


「俺の反応は、そうだけど。気を遣わせた? それに色違いなんてあった? エリーのバングルの内側に文字が?」


「リークトとエリーのバングルは色が一緒だった。微かに赤色が入ってたから、特別に作ってもらったんだろう。内側の文字は部分的にしか見えなかったが、『君を思って』って刻まれていた。それと、気遣いだが、主に私へかな」


 アルトは自分のバングルを見て色を確かめたが、赤色が入っているように見えなかった。内側に文字も無い。ラーグは洗った茶器を拭きながら、アルトの方へ向いた。


「気遣いだが。アルトと私は、大切な人と別れざるを得なかっただろう。まだ、別れてから一年も経っていない。それでエリーがまだ話さないでおこうと配慮してくれたんだ。アルトは関係者だから必要ないから、主に私への気遣いだ。エリーは優しい人だな。人気があるのも頷ける。だけど、最後に我慢が出来なかったんだろうな。愛称でおやすみを伝えるなんて。まぁ、どこかで正式に話すつもりだろう」


 笑いながら、拭いた茶器を持って来たワゴンに仕舞う。そして、小さく溜息をついた。


「ラーグ?」


「いや、少しだけ羨ましく思ってな。想い合っている二人が、一緒に居れることに」


「セラーナ様に会いたい?」


 アルトの問いに、ラーグは目を細め答えた。その光景を見ているかの様に。


「あぁ。会って抱きしめたい。あの温もりを感じたい。ニクスのカラッとした晴天の下、夏服を着て、一緒に果実水を飲みたい。エスト・ノヴァの市場を幼い頃みたいに一緒に食べ歩きたい。・・・何より、一緒に眠りたい」


 一度、目を閉じてすぐに開くとアルトは、と聞かれた。


「俺もミーナに会いたい。ラーグと一緒で抱きしめたいよ。宿屋に薬の配達に行った時に何気ないことをダラダラと喋っていたい。ふと、髪を撫でられる手が恋しい。ミーナの料理を一緒に食べて、美味しいって笑い合いたい」


 アルトの言葉を微かに笑いながら聞く。ワゴンに寄り掛かっていた体を動かし対面に座る。


()()、似た者同士だな。なぁ、アルト。今度、飲みに行かないか。故郷の話やミーナさんの事を聞きたい」


「いいよ。その代わり、セラーナ様の事やニクス地方とか色々と聞かせて」


「あぁ。もちろん」


 どちらともなく笑い合い、生まれも財も能力も違う似た者同士はしばし喋り合い、部屋へと帰った。


 リークトにラーグの様子を聞かれたが、ラーグに言われた通り『特に何もない』と答えた。


 ベッドに横になり目を閉じる。浮かぶミーナの笑顔に、ずっと首に下げている指輪を握り眠りにつく。

 安らぎの夜は終わる。

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