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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第一部:教会騎士 第二章:ザクルセスの塔
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特別な絆の証

 

 リークトの決意を聞いた翌日。アルトは落ち着かずにソワソワしていた。この落ち着かない気持ちをマーラで悟られないように気を静めようとするが難しい。最早、親友と言っても良いくらい互いに助け合い、今までの訓練の日々を過ごしてきた。そんな、親友の恋心が叶うか決まる日だ。

 アルトは色々な流れのまま、ミーナと思いを通じ合えたがリークトは自ら挑みに行く。自分がその立場だった時にミーナに思いをすぐに伝える事が出来るのか自信が湧かなかった。


(あんな事がなければ、弱腰になっていただろうなぁ。そもそも、あの時にミーナの思いに気付いてないんだから)


 右手首に巻かれたお揃いのお守りに手を当てて、自分の鈍さと弱腰さに情けなく思った。すると、服の下に仕舞ってある、ミーナから貰った指輪が一瞬冷たく感じた。ミーナを代弁するような冷たさだった。


「アルト君、聞いていますか!?」


「は、はい!」


「・・・落ち着きがないですね。集中しなさい」


 教官に謝罪し、授業に集中する。


「アルト、悪い。あの件で集中できないんだろ?」


「うん。リークトが悪い。・・・ドキドキする」


「それはこっちのセリフだ!」



 ***



 時は迫り、夜。一日の訓練を終えて、塔のホールでエリーを待つアルトとリークト。


「何か、良い服着てるね」


 エレーデンテを示す制服が常のアルト達だが、今日、リークトはオシャレな服を着ていた。


「あ、当たり前だ。大事な日だぞ! すぅー、はぁー」


 深呼吸をしながらエリーを待つ。アルトも緊張が移って来て、一緒に深呼吸する。


 心を落ち着け、少し雑談をしながらエリーを待っていると、緑色のエレベーターからエリーが降りて来た。その姿に二人は目を見開いた。制服で来ると思っていたエリーは、動きやすいが華やかな私服でやって来た。薄く化粧もして、普段の美しさに磨きがかかっていた。周りがエリーに注目している。


「エリー、いつもと雰囲気が違うね。私服って初めて会った時以来かな?」


「そうね。今日は久しぶりの城下町だからお化粧とかオシャレしてみたの。似合うかな?」


「と、とても綺麗だ!」


 リークトの大きい声にエリーは驚いた。


「あ、ありがとう・・・。大きい声で言われると恥ずかしいわね。リークトもその服、素敵ね。いつもより大人びて見えるわ」


「ありがとう。そ、それじゃあ、アルト行こうか」


 アルトを間に挟みながら、三人は話しながら秘密のエレベーターで城下町に降りて、酔いどれ騎士亭にやって来た。今日はリークトにとって大事な日だ。店には予約を入れておいた。


「よぉ、いらっしゃい! 席はとってあるぜ。そこだ」


「ありがとう。店主さん!」


「予約取ってるなんて珍しいわね」


「あ、あぁ。ここが満席だったら、他の高い店に行かれるかもしれないからな!」


「あはは。そんなことしないわよ。でも、今日はお誘いありがとう。他の人も来れたら良かったのにね!」


「勘弁してよ。今日は二人へのお礼を兼ねて御馳走するんだから。クラルドまで来られると、一文無しになる」


「そうね。クラルドは見てるこっちがお腹いっぱいになるほど食べるものね。でも、あんなに美味しそうに食べる人って私、好きだな~」


 その言葉にリークトは耳が動いた。


「それより、飯にしよう。店主さん、麦酒三杯とおつまみセット三人前で!」


「はいよ!」


 運ばれてきた麦酒と料理を前に三人はジョッキを掲げた。


「きょ、今日は、二人とも来てくれてありがとう。二人のお陰で剣術が上達した。たくさん飲んで食べて! 乾杯!」


「「乾杯!」」


 カンッとジョッキを空け麦酒を飲む。アルトとエリーは一口飲んだが、リークトはゴクゴクと飲み切った。


「はぁ~」


「いい飲みっぷりね! おかわりいる?」


「あぁ。貰うよ」


 エリーの注文で新しい麦酒が届いた。

 三人は食事をしながら、楽しくおしゃべりをした。それぞれの剣術の話、ラーグ大好き派をエリーが所属しているセラーナ派がどうやって抑え込むか、パトロのオススメお菓子店、アルトのちょっと役立つ薬草話。

 尽きない話題を楽しみながら、ふと、リークトを見ると、いつもよりバクバクと食べていた。


「リークト、いつもよりいっぱい食べるな」


「ん? あ、あぁ。今日はよく動いたから腹が減っていたんだ!」


「あははは。クラルドみたいに食べるわね」


「ははは。ん?」


 エリーの言葉でやっとリークトの行動の意味がわかった。


(え? リークトそういうこと!? 大事な日なんだから、無理するな!)


 クラルドの如く飲み食いするリークトに心の声を叫ぶが、もちろん伝わらない。


 会話もひと段落して、エリーがトイレに行ったのを見計らってリークトに伝えた。


「リークト、無理してクラルドの真似しなくていいよ! 今日は大事な日なんだろ。そんなに飲むと失態を晒すぞ!」


「でも、クラルドみたいに食べる人が好きだって・・・」


「落ち着け! あれは、そういう好きじゃないから。ひとまず水飲んどけ」


「わ、わかった」


 リークトに水を飲ませて落ち着かさせていると、エリーが戻って来た。宴会も終盤に入っていき、ダラダラと話す。しばらくすると、リークトがアルトの服を引っ張った。帰る合図だ。


「さてと、そろそろ二人とも満足したでしょ? 帰ろうか」


「そうね。今日はごちそうさまでした。ありがとう、アルト」


「満足したよ。ありがとう」


「どういたしまして。満足してくれて良かったよ。店主さん、お金置いておきます!」


 店主の返事を聞き、三人は店を出た。寒くなって来たサーリア地方の夜風が酒で温まった体には丁度いい。アルトは小さく深呼吸して、二人の方を向いた。


「二人とも、ごめん! ラーグに二日酔い止めの薬を作ってほしいって言われてるの忘れてた。明日の朝にいるって言ってたから、寝る前に急いで作らないと。先に帰るよ。二人はゆっくり帰って」


「そうなの。私、薬作りしてる所、見たこと無いから興味があるわ。見に行っても良い?」


「「え!」」


 エリーの言葉に二人は動揺した。


「エ、エリー。ごめん。もう眠たいから急いで作るから説明とか出来ない。また今度にしよう」


「そ、そうだな。その時は俺も一緒に見せてくれ。エリー、アルトは急いでるから二人でゆっくり帰ろう!」


「そうしなよ!」


「ふふ。わかったわ。また今度ね。それじゃあ、明日の秘密の茶会で会いましょう。おやすみ、アルト」


「あ、あぁ。おやすみ、二人とも」


 別れを告げてアルトは走って寮に帰った。親友を応援して。二人は朝の走り込み並みに早く走って行くアルトの背を見送った。


(頑張れ、リークト!)


 息を切らしながら寮に帰り、ベッドに横になった。そこでふと気づいた。明日は、どうすればいいのか。


(え? どうしよう。明日、リークトとどう接すればいいんだ!? 振られていたら、どうしよう。でも、成功したかなんて聞けない。あー、打ち合わせしておけばよかった!)


 一人頭を抱えどうすればいいか悩む。だが、無駄だと気付き寝ることにした。リークトが帰って来た時に起きている方が気まずい。そう思い着替えて、すぐにベッドに入った。


 夜中、隣のベッドに大きく軋む音とカランッと金属の何かが落ちる音が聞こえた。



 ***



 朝起きると、隣のベッドにはリークトがオシャレ着のまま眠っていた。起こさないように静かに動きソッと部屋を出た。


 朝食を前に、今日はどうするか考えた。秘密の茶会まで時間はかなりある。できればリークトとエリーには会いたくないが、一人は同居人だ。


「どうしよう」


「おはよう」


 悩んでいる後ろから、声をかけられ驚く。振り返るとラーグがいた。


「どうした?」


「い、いや。何でもない。どうしたの?」


「朝食、一緒にしないか?」


 ラーグは向かい側に座り、アルトと朝食を食べた。


「それで、どうしたんだ?」


「えっと?」


「悩んでいるんだろう?」


「うーん」


「はは。わかった。聞かないでおこう。それなら、時間はあるか?」


「あるよ?」


「なら、剣の練習に付き合ってくれ。そろそろ、剣術の試験があるだろう。上級剣術が身に着くと中級剣術がやりにくいんだ。その練習に付き合ってくれ。もちろん、アルトが良ければ盾の型の練習にも付き合うぞ」


「本当に!? ありがとう!」


「あぁ。秘密の茶会まで暇だからな。好きなだけ付き合う」


 こうしてラーグと緩く剣術の練習をした。ラーグは何も聞かず、剣のアドバイスのみをしてくれる。剣を振っている間は、心の引っ掛かりを忘れさせてくれる。昼食も一緒に軽く食べ、アルトがやめるというまで付き合ってくれた。


「はぁ、はぁ。ラーグありがとう。十分、練習出来たよ。これで試験も楽勝だ」


「そうか。それなら、風呂に入って夕食にしよう。その後は秘密の茶会だ。それまでどうする?」


「うーん。どうしようか?」


「ははは。よし、私の部屋で茶会の準備を手伝ってくれ。今日は良い茶葉を出す。上手く淹れているか味見してくれ」


「わ、わかった。その、ごめん」


「気にするな」


 風呂のセットを取りに部屋に戻り、リークトがいないことに安堵しラーグと風呂で他愛のない話をした。夕食を食べ終え、ラーグの部屋に行った。


「おかえり~。ん? アルト?」


「おじゃまします・・・」


 パトロがベッドで寝転がりながら本を読み、ラーグを迎えた。アルトの姿を見た後、ラーグに視線を投げる。


「アルトに今日の茶会で出す紅茶の味見をしてもらうんだ。珍しい物だから、練習を兼ねてな。アルト、座って待っていろ」


「うん。パトロは何読んでるの?」


「最近、町の若者に流行ってる小説。なんか、いきなり主人公が死んで神様に会うんだ。そこですごい力を授かって別の世界で生まれ変わって最強になる話。それで、冒険をして大勢の女子にもモテまくりで金持ちになる。はぁ、いいな。最強になりたいな。モテたいな。金持ちになりたいな」


「ふん。努力なしに手に入れた力で最強になれるわけがない。まがい物の力なんて、すぐに滅びる。そんな力で別の世界で最強になっても虚しい名声だ。別の世界でモテたいだの、金持ちになりたいだの。作者はきっと、今の生活に余程の不満があるのだろう。その不満な気持ちを満たすために想像の世界で、そういう話を書いてるに違いない」


「しんらつ~。でも、これ売上がすごいらしいぞ」


「それなら、大勢の若者が今に不満を持っているのだろう。この国の現状がよくわかる。それに、お前は真面目にやれば、あっという間に強くなれるし、今もモテているだろう? 金は知らないが」


「お前と同じ訓練だと身が持たないの。それにモテてるだと。嫌味か!」


「え、違うの? 頻繁に女子から手紙貰ってるの見るけど?」


 頻繁に女子から手紙やプレゼントを貰う姿を見ているアルトは意外と思った。


「はぁ。あれは全部ラーグ宛。手紙は中身を改めて、プレゼントは危険な物が無いか見てるの。全部、お前に渡してるじゃん」


「あれは、そうだったのか。悪いな。確か菓子も贈られていたよな。全部、食べて良いぞ。感想だけ報告してくれ」


「お世辞にも美味いとは言えない」


「毒見、ご苦労」


「ふん」


「まぁ、まぁ」


 二人を宥めながら、気付くと部屋に良い香りが漂い始めた。懐かしい香りだった。


「ラーグ。この茶葉って・・・」


「なんだ、知ってたのか。それなら皆には内緒だ。はい」


 渡されたティーカップから、懐かしい爽やかな甘さのある香りがする紅茶が入っていた。パトロも渡された紅茶を飲み、機嫌を直した。



 ***



 秘密の茶会の時間だ。ラーグは茶器と茶葉を持って行き、アルトとパトロは焼き菓子を持て行く。

 共通談話室には皆が来ていた。

 リークトと目が合ったが、思わず逸らしてしまった。


 いつも通りパトロの菓子の準備を手伝いながら、周りの気配を感じる。席順はこのままだと、円状にアルト、エリー、リークト、パトロ、クラルド、ラーグだ。今はそれぞれが座り話している。特にリークトとエリーに不穏な感じはしていないので、少し安心した。


「あら、良い香り」


「ほんとだ。何だろうこの香り。甘いけど、サラッと抜けるような」


「ははは。皆、鼻が良いな。今日は特別な茶葉を出した。エストでもなかなか手に入らない物だ」


 人数分の紅茶をティーカップに注ぎ渡していく。全員が座ったのを確認してからラーグが告げた。


「それでは始めようか。秘密の茶会を」


 その言葉に、真っ先にパトロ推薦の焼き菓子に手が延ばされる。


「さすが、パトロ。すごく美味しいよ」


「ほんと、焼き菓子なのにしっとりとした口当たりが新鮮ね」


「うまっ」


 皆の誉め言葉に、パトロはソファに浅く腰掛け満足気に紅茶を飲む。他の人も菓子を一つ食べ終わると紅茶に口をつける。


「「「!」」」


 皆の驚いた顔を見て、ラーグも満足気に優雅に紅茶を飲み、茶葉の正体を明かす。


「これはニクスの花だ。ニクス地方でしか咲かない花を使った紅茶だ」


「こ、これがニクスの花! すごく甘いのに口に含むと爽やかな香りになる。初めて飲んだわ」


「すごいな。口に入れるまでは甘いのに、飲むと爽やかだ!」


「うまっ」


 クラルドは美味いとしか、言えなくなっていた。


「良い香りだろう。この花が咲いてる場所はオアシスなんだが、綺麗な水が湧き出て可憐なニクスの白い花がポツポツあって美しい。周りが砂漠だからか、あれほど際立って美しく思えるんだろうな。懐かしい」


「そこにはセラーナ様と?」


「あぁ。セラーナがニクスの花を摘んで来るんだ。その花弁を噛むと甘い蜜が出る。オヤツ代わりに齧っていたよ。今考えると恐ろしい事をしていたな」


 笑うラーグにちょっとだけ引いてしまった。金貨を齧っているようなものだ。

 そこからは甘い香りに包まれながら雑談していく。


「そういえば、ラーグは二日酔いは大丈夫なの?」


(しまった!)


 昨日、走って帰った理由をラーグに伝えていなかった。アルトが口を開こうとすると、ラーグが言った。


「あぁ。アルトが作ってくれた薬のお陰ですぐに楽になったよ。ありがとう」


(!?)


 ラーグは笑いながらアルトに感謝を言った。内心の動揺を悟られないようにアルトも適当に返す。エリーは笑い、リークトに何かを促した。


「皆にプレゼントがあるんだ。これを」


 リークトは後ろにあった袋から金属の輪を出した。アルトも見覚えがある物だった。


「皆が無事マーラの覚醒が出来たらプレゼントしようと、アルトと考えていた物なんだ。完成したから渡すよ」


 リークトは皆に別々に渡していく。リークトに渡される時、小さな声で伝えられた。


「任務完了」


 その言葉を聞き、思わずエリーを見た。アルトを見てニコニコと笑っていた。その顔に安心して、大きく溜息をついてしまった。二人は笑いながら、アルトの背中を優しく叩く。


「三人共、どうしたの?」


「いや。心配事が無くなって安心したんだ。あー、良かった」


 クラルドの問いに答えて、プレゼントされた幅が広いバングルを見る。そこには文字が刻まれている。


『秘密の茶会


 主催者

 ラーグ・ボルティア・エスト=セレス


 会員

 パトロ

 アルト

 クラルド

 エリー・レドロ

 リークト


 我々の、特別な絆の証を記す』

読者のみなさまへ


今回はお読みいただきありがとうございます! 


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