ありがたい提案
「くっ! まだまだ!」
「よし、いくぞ!」
防ぎきれなかった剣の連撃に体を打たれ膝をつくが再び立ち上がり、アルトは次を求めた。その姿に笑みを浮かべたリークトの剣が襲い掛かる。
***
『剣の型』、『盾の型』を習い始めて適性がわかり始めた頃に、二つのグループに分かれて訓練をする事になった。アルトは『盾の型』のグループだ。実技試験の時にラーグに勝てるかもしれない剣の型の派生。上級剣術『覇者の型』を望んだが、アルトの体は盾の型に向いていた。
盾の型は基本的に攻撃を受け止めながら、反撃をする剣術である。攻撃を感知して受け止め続ける持久力と反撃のチャンスを見極める目を持たないと難しい。
だが、アルトは今まで戦ってきた経験と、マーラの力で攻撃の感知が長けていた。そして訓練が始まってから続けられる体力・筋力向上の授業で鍛えられた体に加え、何より部分的な身体強化により持久力を保っていられる。まさに盾の型に向いた体を手に入れていた。残る課題は反撃を見極める目だ。
剣の型は守りを弱めて、スピードと攻撃力を求める型である。足腰と腕の力強さが求められ力で圧倒する。これが、剣の型の特徴だ。
「目が追いついてないぞ!」
「ぐぁ!」
複数の教官達がエレーデンテ達を指導する。アルトの番となり、打ち合いをするが、素早い攻撃に体を何度も打ち付けられる。
交代となり立ち上がって場を離れると、剣の型が使っているコートで歓声が上がった。見てみると、ラーグと教官が打ち合いをしていた。
長く続く打ち合いに歓声が上がり、周りは教官を応援していた。その応援の中にパトロもいた。
「いけー! あいつの綺麗な顔に泥をつけてやれ!」
普段、ラーグを毛嫌いしている人がパトロに問いかけた。
「お前、あいつの取り巻きじゃないのか?」
「もう取り巻きじゃない! 昨日、あいつに城下町で売っていた限定生菓子をジャンケンで負けて食われた。マーラを使って勝ったんだ。もう、あんな酷い奴の取り巻きはしない! 教官! 今だ右側を突け!」
それを聞いたのか、ラーグは思いっきり教官の剣を弾き返し、右側を突き教官を地面に倒れさせた。途端に残念がる声と歓声の両方の声が上がった。ラーグはパトロを見て、笑顔を浮かべた。
「パトロ、ありがとう。お前のアドバイスのお陰で右側に突きを入れたら勝てたよ。教官、お手をどうぞ」
「く、くそ! 嫌味な奴だ!」
ラーグは倒れた教官に手を貸して立たせた。打ち合いの後に教官から指摘が入るが、ラーグの場合は違った。
「セレス君、私を使って遊んでいただろう?」
ラーグは返事もしないでニコリと笑った。
その後、両方のコートではラーグ以外に教官に勝てたエレーデンテはいなかった。
***
「出来た! アルト、出来たぞ! マーラを感じる。力がみなぎる」
「おめでとう、リークト! 覚醒したな!」
「あぁ、体に力が満ちてるのが分かる。すごいな。お前、いつもこんなのを感じていたのか。なんか、心も安らぎを感じる。温かい」
「初めの頃はそんな感じだよ。次第に慣れて来るから」
「あぁ。ありがとうな。色々と忙しいのに最後まで付き合ってもらって」
「いいよ。俺も、他の人が覚醒するのを初めて体験したから驚いた。弾けるような感覚が伝わって来たよ」
「覚醒したのが伝わったのか?」
「多分そうだと思う。驚いた。それにしてもめでたいよ!」
しばらく二人は覚醒した喜びを共感しあった。そして、リークトが言った。
「なぁ、秘密の茶会のメンバーが全員覚醒したらお祝いの品を作ろうと思うんだ。こういうやつでな・・・」
「ははは。いいね、それ。皆には内緒にしておこう」
「あぁ。驚く顔が楽しみだな!」
二人は秘密の計画に笑いあった。
***
剣術の授業では、いつもの様に二つのグループに分かれ訓練をしていく。アルトは次第にマーラの力を使い攻撃を防げるようになって来た。だが、それでも数回は急所に打ち込まれる。まだ反撃するタイミングを見抜く目が育っておらず、少しだけ進み停滞をしてしまった。
「くそ。これじゃあ、選抜試験に間に合わない!」
枕に八つ当たりするアルトにやれやれ、とリークトは溜息をついた。
「アルト、中級剣術の授業はまだ始まったばかりなんだぞ。今の段階でも十分早い成長なのに焦り過ぎだ」
「でも、反撃のチャンスが見えないんだ! 守ってばかりだと勝てない!」
「それもそうだけど・・・。なら、特訓するか? 俺は反撃をするタイミングが見えるし、お前は守りの硬さがある。お互いの長所を教え合おう」
盾の型を進むリークトは、マーラが覚醒した後から剣術での応用を効かせ、守りながらの反撃の一撃を教官に入れた。一撃を入れたのはラーグ以外で初めての事だった。
「・・・わかった。お願いするよ。リークト、ごめん。俺はもっと強くならないといけないんだ」
「あぁ。解ってる」
申し訳なさそうに言うアルトに、リークトはやれやれと笑いながら、これからの予定を話す。
一日の訓練が終わり、実践場のコートに来た二人は向き合い木剣を構えた。リークトが剣の型での攻撃、アルトが盾の型での守りの役割で行う。アルトに反撃の目を養わせる。
「いくぞ!」
「あぁ!」
盾の型を得意とする二人だが、攻撃手段としての剣の型の訓練も十分に行っている。その攻撃にはしっかりと鋭さが宿っている。
始まったリークトの猛攻にアルトは剣で応じる。教官となる下級騎士程の腕ではない為、打ち付けられることは無いが、反撃のタイミングが見えない。
「アルト、意識を目の前の守りだけに使うんじゃない! マーラで二手先を読むんだ!」
リークトのアドバイスを聞き、意識を向けようとした瞬間、アルトの体に痛みが走った。リークトに打ち付けられた。
「大丈夫か!?」
「・・・うん。大丈夫。もう一回」
痛みを堪えながら、何度か挑戦するが、意識の転換点が隙となりアルトの体を木剣が打ちつける。
***
マーラの覚醒をする訓練が始まって一か月経った頃にポツポツと覚醒者が出て来た。リークトも内側からマーラを練り上げる感覚を掴み、静坐瞑想に集中していた。アルトは覚醒者が出る度に弾けるような感覚を味わった。
覚醒者が増えていく中、クラルドの覚醒は目覚ましかった。ラーグを相手に戦闘瞑想をしている内にアルトと同じく、主に腕に部分的な身体能力の強化が出来たのだ。剣の型に進むクラルドにとってちょうど良い結果となった。
エリーは覚醒後、直感力が大きく向上して、盾の型に進んだ彼女は攻撃の見切りが上手くなった。
パトロは意外にもすぐに覚醒し、ラーグの不興を買っていた。ラーグと共に故郷エスト・ノヴァの領軍と訓練をしていたパトロは、すぐに進んだ剣の型で力を発揮した。
アルトとリークトは仲間達が覚醒していく事に喜び、プレゼントの準備に取り掛かった。
こうしてマーラを覚醒させた、ほとんどのエレーデンテ達は身体強化へと進んでいく。
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