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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第一部:教会騎士 第二章:ザクルセスの塔
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仇の正体

 

「『ナリダス』陰謀と享楽と狩猟の神。そいつが父さん達の仇・・・」


「そうだ。その邪神を崇拝してた連中のアジトでは信者同士が殺し合いをしていたよ。決闘で血を流すことでナリダスの信仰を証明するのだとか。ついでに信者同士の娯楽らしい。さすが、邪神信仰と言った感じだな」


 アルトは震える自分の手を抑えた。とうとう、『大公』の正体が分かったのだ。


「でも、やっぱり相手は神だったんですね。それじゃあ、復讐しようにも勝てませんね」


 その言葉を聞いたグラウェルは笑った。方法はある、と。


「強いマーラの感知者になることだ。強大なマーラの感知者は神さえも倒せると言い伝えがある。エルフ族の原初の神『フェネスティア』を強大なマーラの感知者が倒したと記録にある。ちなみに、倒されたフェネスティアのマーラが分裂してエルフ族の誕生に繋がったわけだが。まぁ、先例はある」


「どうやったら、その強大なマーラの感知者になれるのでしょうか?」


「分からない。だが、アルト君のマーラの感知力は絶大だ。人の体に作用出来る程の力は聞いたことが無い。これを更に鍛え上げて、真なる力を取り戻そう。今の私だと、訓練長の方針で君に指導できない。そのためにも、選抜試験では優勝してもらいたい」


「わかりました。まずは、選抜試験の優勝ですね」


 グラウェルは返事をすると、果実水を飲み喉を潤し、選抜試験で行われる内容を話した。


「試験内容は二つある。筆記と実技だ。筆記では、今習っているプルセミナ教会についてだ。ここら辺は授業を聞いていれば問題ない。だが、実技はそうもいかない。剣術試合のトーナメントだ。実際はここが評価をつけるのに重要視される。剣の腕に自信はあるか?」


「今、習っているエレーデンテの型だけでは自信がありません。我流ならば、自信はあります」


「そうか。まぁ、実際に我流の剣術で魔物と戦ったわけだしな。それでも構わないが、教会騎士の剣術をしっかり学んでみなさい。無駄も無く洗練された剣術だ。エレーデンテの型の授業も試験が終われば、実践的なものになる。そこで自分に合う剣の型を考えてみると良い」


 アルトの返事を聞いた後に、グラウェルはしかし、と続けた。


「手練れが一人いるからな。セレス家の男だ。あれは強いぞ」


「ラーグですか?」


「あぁ、彼は上級剣術『決闘者の型』を使える。対人戦ではかなり強力な型だ」


「上級剣術? 決闘者の型?」


「剣術には三段階あって、初級がエレーデンテの型。中級が初級から枝分かれして、『剣の型』と『盾の型』。実はエレーデンテの訓練でやるのは、ここまでなんだ。ここまでが下級騎士に必要なレベルだ。上級剣術はひたすら修業して習得できるものだ、その上級だが剣の型から枝分かれして『決闘者の型』と『覇者の型』。盾の型から枝分かれしたものが『鉄壁の型』と『平和の型』」


「中級剣術で終わりですか。それじゃあラーグに対抗できない」


「あぁ。だから特別に図書館の利用の許可を出そう。私が教えること出来ないが、上級剣術に書かれている事を本を読んで学び、独学で訓練するんだ。一歩でも進むことが大事だ。ついで言えば、決闘者の型は技の多さを活かした精密攻撃だ。これに対抗しやすいのが、覇者の型だな。あれは超攻撃重視。一撃一撃が重い。」


 エレーデンテは図書館の利用は禁じられていた。貴重な書物も多く、管理を厳重にしているためだ。それをグラウェルは利用許可を出してくれるのだ。


「それなら、俺は覇者の型を目指した方が良いですね」


「こればかりは適正だからな。中級剣術の授業で剣の型と盾の型、両方を学ぶ。そこから、しっくりと来るものを選んで、上級剣術を学んでみなさい。それに今の組み合わせは、普通の人の話だ。我々、マーラの感知者にとって、マーラの直感力を活かした戦いになるとこの組み合わせ以外でも勝てる。相手の行動をいかに感じ取れるかが重要だ。

 その点、アルト君は心配ないと思っている。君はマーラの扱いも上手い方だ。マーラの覚醒も完璧に出来ている様だし、あとは身体強化だ。これで剣術の差を埋める事も出来る。頑張ってみなさい」


「はい! 色々とありがとうございます」


 二人は、その会話以降は世間話をしながら豪華な昼食を食べた。


(ナリダスを倒す道が見えるなんて思わなかった。今まで以上にやらないと)



 ***



 グラウェルとの昼食以降、熱心に体を鍛えて勉学に励んで日は経ち、遂にエレーデンテの型の試験となった。

 一連の型を繋げるように動きけるか見る試験だった。長い訓練期間もあって、落第者は無く次の中級剣術へと移行となった。


 攻めるタイプか守るタイプか、アルトは覇者の型に繋がる剣の型を願いながら訓練を受けた。

 だが、初日の基本の型の練習から攻めの剣より守りの剣がしっくりと動ける事に嫌な思いを抱いた。一日の訓練も終わり、一人、剣の型を確かめていくが盾の型が動きやすかった。こうなればと、盾の型の訓練に精を入れる。


 剣の訓練が終わった後は、日課となった、リークトのマーラの覚醒の特訓に付き合った。何か掴む物があったらしく、少しずつだが、マーラを感じれるようになった。


「アルト、いつも悪いな。最近、疲れてるみたいなのに付き合ってもらって」


「いいよ。部屋で見てるだけだし、たいしたことじゃない」


「それにしもグラウェル卿との飯の後から更に熱心になったよな。どうしたんだ」


 アルトはグラウェルとの話をリークトに話した。


「そうか、神が仇って壮大な話だな。まずは選抜試験の優勝。それなら間違いなく実技はラーグと当たることになるな。というか、あいつ上級剣術を使えるのかよ。授業でチラッと言ってたけど、決闘者の型って一番難しい剣術じゃないか。顔も良くて、頭も良くて、性格も良くて、強いとか。あいつ神なんじゃない」


「ははは。食堂の硬いパンに感動する神様か!」


 その言葉にリークトは腹を抱えて大笑いした。


「あははは! アルト、最近は硬いパンじゃなくて薄味のスープの具材に、我らの神はご執心だぞ!」


 次はアルトが笑う番になった。二人が笑い疲れた頃にリークトはアルトに言った。


「焦る気持ちも何となく分かるけど、急ぎ過ぎるなよ。急ぎ過ぎて疲れると本来の力が発揮できないからな。長い道のりなんだ。それに俺との特訓が負担になる日は言ってくれ。アルトの目標の邪魔になりたくないから」


「心配してくれてありがとう。休む時はしっかり休むよ」


 アルトの言葉に二ッとリークトは笑った。

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