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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第一部:教会騎士 第二章:ザクルセスの塔
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和解

 

 アルトとラーグ。二人のお茶会は続いた。ちょっとした雑談など話していると、とても大きな存在に感じられたラーグの姿が自分と同じ年の青年に感じられた。ラーグの淹れる紅茶に温まる。


「ふぅ、パトロ以外とこんなに話したのは久しぶりだよ」


「そういえば、パトロとは仲直りしたの?」


「仲直りも何も、あいつが勝手に怒っているだけだ」


「パトロはラーグの悪口を言われて相手を殴ったんだ。ありがとうくらい言ってあげたら?」


「私の悪口を言われた程度で怒っていたら、あいつの身が持たないぞ」


「どういうこと?」


「いや、すまない。今のは忘れてくれ。まぁ、そうだな。好きな菓子くらい買ってやるか」


 ラーグの言葉に疑問を持ったが、深く聞かないことにした。聞いてほしくない様な雰囲気だった。


「そういえば、相談したいことがあったんだ」


「なんだ?」


「『キケロ・ソダリス』って人を知ってる? セレス地方出身の貴族らしいんだけど」


「ソダリス。いや、セレス地方でそんな家名は聞いたことが無いな。忘れているかもしれないが。その人がどうしたんだ?」


 アルトはキケロ・ソダリスと会った時の話をした。そこから、色々な人にキケロ・ソダリスという人物に詳しく聞かれた事など。ラーグは少し考えてアルトに言った。


「まず、その人は教会騎士にはいないのだろう。セレス地方で貴族出身の教会騎士なんて、とても目立つ。ましてや、数少ない上級騎士なら忘れることはないだろう」


「それじゃあ、あの人は何だったんだろう」


「もしかしたら野良の強力なマーラの感知者が未来予知でやって来たということもありえそうだ」


「そっか。ありがとう。それでもう一つなんだけど、今の平民出身と貴族出身のわだかまりについて」


「あぁ、あれか。あれは無理だな。当人達の歩み寄り次第だ」


「そんな事を言わずに考えてよ」


「歴史を知らないと無理だろう。それにアルトみたいに、話した所で理解しようとしなければ時間の無駄だ。結局は、知った所で命懸けで戦うのは変わりない。それなら誰かのせいで、こうなったって思う方が心が楽だからな」


 だが、とラーグは続けた。


「仲が良いグループが出来ると、周りはそれを見て考えるんじゃないのか? 今のままが健全なのか。そして私はモデルとなる仲良しグループが作れる人達を知っている」


「誰!?」


 ラーグは紅茶を一口飲み、ニコリと笑いアルトをジッと見た。


「俺?」


「あぁ。アルト達だ。エリーに問題は無いだろう。問題はクラルドだ。彼をどうするかで、三人の関係は大きく変わる」


「何で分かるの?」


「ははは。私もマーラの感知者だ。直感だよ。それに、アルトなら出来る気がする。他が遠慮して話しかけてこなかったのに、私を理解しようと話を聞いた。その態度は好感が持てるし、人を結ぶのに必要な事だと思う。アルトなら、出来る。私の直感もそう言ってる。頑張ってみろ」


 さて、とラーグは立ち上がりアルトと自分の分の茶器を片づけた。


「楽しい茶会だったよ。そろそろ、寝よう。パトロも寝かせてやらないとな」


「え?」


「私が部屋を出る時に起きた。今も戻って来るのを待っている様だ。そろそろ寝かせてやろう」


「ラーグとパトロの関係って不思議だな」


「あぁ。あいつは子分根性が染みついているからな。

 それとアルト、今日話した事は教会では言わない方が良い。心の中に留めておくんだ。今回、君は色々な視点で物事を見るって事を学んだはずだ。それは忘れないでほしい。あと君は、レベナティアを目指しているんだろう。ならば、品行方正良く過ごすんだ。私みたいに訓練をサボりたいからって、懲罰室行になる必要はないからな」


「あれって、サボりたかったからなの!?」


 ラーグは笑い、談話室を出た。



 ***



 夜の茶会から数日過ごし、クラルドとエリーの仲を戻す方法を考えていた。なかなか難しい問題で答えが出ない。ラーグやパトロに相談しても、答えは同じだった。自分の思うようにしろ、と。


「う~ん」


 腕を組み、唸るアルトをリークトは溜息をつきながら見た。


「その唸り声で二十三回目」


「数えてたの?」


「適当に言っただけ。でも二十三回以上は唸ってる」


「ごめんごめん。でも、どうしようか答えが出ないんだ」


「そうだよな。平民と貴族の仲を取り持つって大変だろうよ。いっその事、二人を揃えて言いたい事を言わせた方がいいんじゃない?


「喧嘩にしかならないと思うけど」


「良いじゃないか。喧嘩もせずに、影で言い合ってるから雰囲気が悪くなるんだ。いっその事、ぶつけてしまえばいい」


「乱暴だなぁ。でも、正直に言うとそれしかないのかなと思ってた」


 リークトはニッと笑い、やってみろと言った。


 翌日、最後の訓練である、剣の型稽古を終えたアルトは身だしなみを整えて、塔の上階にある。後方支援部を尋ねた。アルト達の監督者ルベンに会うために。


「久しぶりだね。皆は元気にしてる?」


「元気ではないですね。実は・・・」


 アルトから最近のエレーデンテ達の話、エリーとクラルドの状況を話した。そして、先輩として二人をぶつける場に立ち会ってほしいとお願いした。


「なるほどね~。今回はセレス家からも来てる人がいるから、尚更、気にするんだろうね」


「ルベンさんの時は、どうしてました?」


「ん~。エレーデンテの頃は仲が悪かったけど、働いている内に仲良くなっていたよ。皆、命懸けだからね。とりあえず、状況はわかったよ。俺も立ち会おう。場所と時間はこっちで決めさせてもらうよ。仕事を調整するから」


「忙しいのにすいません」


「いいよ。こういう時の監督者だから。頼ってくれてありがとう。それじゃあ、後日、招待状を出すよ」


「はい。よろしくお願いします」



 ***



「・・・」


「・・・」


(気まずい。早く来て、ルベンさん!)


 ルベンの招待状でアルト、エリー、クラルドの三人は歓迎会をした『酔いどれ騎士亭』にやって来た。

 だが、招待者当人が時間になっても来ない。三人の沈黙が三人共、精神的に苦しめる。


「・・・あの、店主さん、麦酒をください」


「・・・はいよ」


 気まずい雰囲気を出す一角に店主も他の客も、気まずかった。

 頼んだ、麦酒を受け取るとアルトは一気にゴクゴクと飲んだ。その様子に二人は驚く。


(なるようになれ!)


「二人とも、今日は二人に喧嘩をしてもらう為にルベンさんを通して二人を呼んだ!」


「私達を喧嘩させるために?」


「何だそれ?」


「二人もわかってるだろ。平民出身と貴族出身のエレーデンテがいがみ合っているのを! 二人だってそうだ。クラルド、貴族出身の悪口を言ってるじゃないか!」


「そう、だけど・・・」


「エリーも俺達を無視してる!」


「・・・」


「これが、良い状態じゃないってわかっているだろう!? いずれ合同訓練も始まる。どの出身かで仲が悪くなっている場合じゃないんだ。俺達は訓練して強くなって魔物と戦わないといけない。だから、今日は二人を喧嘩させて、仲直りさせるために呼んだ。さぁ、喧嘩してくれ! 今日は俺の奢りだ。店主さん、麦酒三つ!」


 用意された麦酒を二人はおずおずと飲む。アルトはゴクゴク飲む。


「・・・二人を無視したのは、迷惑をかけないようにって思ったからよ」


 エリーが話し始めた。


「本当は三人で仲良くしたい。けど、私達みたいな貴族のせいで戦わないといけないのも事実。会った時から後ろめたさがあったわ。だけど、二人と話してると楽しくて忘れていたの。それで授業であの話をされてから、現実を思い出したのよ。私が二人に関わると、二人が同じ平民出身の人と仲を悪くするのかもって。それなら、私は我慢しようと。この前、アルトがクラルドを連れて一緒に食事をしようとしてくれたのは本当に嬉しかった。けど、クラルドは嫌だったみたいだから・・・」


 その言葉を聞いたアルトはまた、麦酒をゴクゴクと飲み、次! っとクラルドを見た。


「・・・俺は、ただの農家でいたかった。なのに、マーラの感知者になって教会に連れて行かれる事になった。知ってるか? エレーデンテになると村の税が安くなるだ。労働力が減るからって。俺は税を安くするために、ここに連れて来られて化け物と戦わないといけないんだ! 今の訓練だってついて行くのに精一杯で、魔物に殺される未来しかない! その魔物が生まれる原因がエリーの先祖達がやったことが原因なら、腹も立つさ。こんなの貴族だけでやればいいって思って何が悪い!」


 ゴクゴクとクラルドが飲む。それを見たアルトはすぐにもう一杯持ってくるように頼んだ。

 クラルドの言葉に俯いたエリーは小さく謝る。


「エリー、これは喧嘩だ! クラルドに言ってやりたい事はないのか!? こんなバカなことを言われて悔しくないのか!?」


 エリーはアルトの顔を見て、驚く。また、しばらく沈黙が続く。エリーは深呼吸してクラルドを見た。その様子にクラルドは身構える。


「クラルド。私だって魔物と戦うのは怖い、嫌よ! ご先祖様は何やってるのよって言ってやりたいわ。だけど、やるしかないの。私達はマーラの感知者なのよ。仕方ないじゃない。それに私が悪いって言うの!? やったのはご先祖様よ! それを私に文句を言わないで。私だって訓練が辛いわ。でも、生き延びるためにも強くならないといけないの。世界を守るのは私達なの!」


 一気にまくしたてて、一旦、息を整えるエリーの攻撃は続いた。


「あなたは、エレーデンテになったら税が安くなるって言ってたけど、私達だって大変なのよ! 非選任貴族で唯一の跡取りがエレーデンテになったら何が起きると思おう? 爵位は継げないのよ!」


「しゃ、爵位が継げないことが大変な事なのか!? ふざけるな!」


 クラルドの言葉に眉をキッと上げて、エリーは怒鳴った。


「これだから、平民はわかってないのよ! 跡取りがエレーデンテになると爵位は継げないの。これは家が潰れるって事よ。家が潰れたら何が起きると思う? 今まで守って来た領民が捨てられるのよ! 近くに非選任貴族が居れば合併してもらえるけど、選任貴族の領地だと奴隷や兵士にされる事が多いの。奴隷と兵士よ!? 領民がお金の為に兵士と奴隷にされる悲しみが分かるの!? 我が家が落ちぶれるだけなら構わないわ。でも、領民が酷い目に遭うなんて、どんなに辛いことか、あなたに分かるの!? 私達、貴族は多くの人の人生を握っているの。あなたは自分の村の税の為に死ぬというけど、私は全ての領民を苦しみに突き落として死ぬのよ!」


 息を切らしながら、エリーは涙を溢しながら続けた。


「ここまで、言えばわかるでしょ。レドロ家の跡取りは私だけなの。その私がエレーデンテになったから、レドロ家は潰れる。家が持っている領地ダリッサの町は選任貴族の物になるのよ! この悲しみが、あなたに分かるの!?」


 涙を拭きながら、エリーは麦酒を飲む。それに対抗しようとしたクラルドの言葉にエリーはカップをテーブルに叩きつけた。


「よ、養子とかあるじゃないか! 養子でも入れれば家は潰れないだろう!」


「バカ! 非選任貴族の家に養子になりたい人なんていないわよ! 私達は損な役割を押し付けられているの。『非』がつくかで貴族の待遇は違うの。覚えておきなさい! アルト、おかわり!」


「はい」


 余りの剣幕に思わず、アルトもたじろいでしまう。エリーは泣きながら、貴族の大変さと領民への思いを話した。それにクラルドは何も言い返せず、黙って麦酒を飲んだ。


「ぐすっ。それでも、あなた達と頑張りたいの。三人で仲良く出来たら、色々な事が出来ると思うの。理由は分からないわ。きっと直感よ。クラルドにその気が無いのならそれでも良いわ。

 でも、私は強くなって、奴隷や兵士になってしまう領民達の為に世界を救うわ。彼らを戦場に行かせないために。いつか元領民の奴隷を開放できるようにするの」


「クラルド、どうする?」


「・・・ごめん。自分の事しか考えていなかった俺がバカだったよ。俺も生き残りたい。アルトやエリーみたいに目的があるわけじゃないけど、生きたい。エリー、ごめん。仲直りしたい」


「えぇ、仲直りしましょう。三人で頑張るのよ。それぞれ、思惑はあるけど強くなりたいって気持ちは一緒よ。頑張りましょう」


 涙を拭きエリーは笑った。クラルドも少しの涙を拭き、強く頷いた。アルトは、酔いが回っていた。


「さぁ、今日はアルトの奢りで、明日は休みだ! エリー、飲もう!」


「えぇ、飲みましょう! 店主さん、麦酒とおつまみセットをお願いします!」


「はいよ!」


 二人の注文と店主の掛け声を、カウンターに座っていたルベンは聞いていた。


「良かった、良かった」


 そう思いながら、ワインを飲もうとしたルベンの肩を誰かに捕まれた。振り向くと酔っぱらったアルトがいた。


「どこかで、気配がすると思ったら、ここにいた。皆、ルベンがいたぞ! 財布をやっちまえ!」


 二人はルベンの方を向くと『おぉ!』と掛け声を上げた。


「ルベン、毎度あり!」


 店主の言葉が悪魔の囁きに聞こえたルベンであった。

読者のみなさまへ


今回はお読みいただきありがとうございます! 


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