お裾分けと父親の知り合い
「頭痛い」
「痛いね」
ルベン主催の歓迎会が終わり、いつの間にか寝ていたアルト達は、朝方にラーグに起こされて寮へ帰った。大勢の二日酔いの下級騎士とエレーデンテが乗るエレベーターは酒臭かった。
寮に着き部屋に入るとベッドで蹲っているリークトがいた。彼の班も歓迎会があり、アルトと同じ状況になっていた。
静かに寝ていようかと思ったが、空腹に負けてリークトと食堂へ行った。そこには、二日酔いで沈んでいる面子が具たくさんのスープを飲んでいた。ラーグは一人食堂に来て、どこか嬉しそうに硬いパンを齧っていた。
「みんな、おはよう。大丈夫?」
「アルト、おはよう。今日は辛いわね。あんなに飲むなんて、恥ずかしいわ」
「昨日のエリー、すごかったよ」
「やめなさい! そういうのは秘密にしておくの!」
「ははは、ごめんごめん。メライドとマルクスも二日酔い?」
「うん」
「・・・」
二人はリークトの班員だ。よっぽど辛いのか最小限の言葉だった。
「実はさ、これから二日酔いが楽になる薬を作ろうかと、城下町の薬草店に行くんだ。良かったら作った薬をお裾分けするよ?」
「ホントに!? というか、作れるの?」
「村で薬師をしていたんだ。しかも、バラール地方一番の薬師の弟子」
食堂で感嘆の声が上がり、欲しいと知らない人からも注文が入った。そこに食べ終えたラーグがやって来て『子分の分も作ってほしい』と銀貨を渡してきた。
「銀貨!? いらないよ! 貰ったとしても銅貨五枚で十分だよ」
「そうか。今、銅貨は無いから薬を貰いに来た時に払うよ。悪いな」
ラーグの笑みに、声が萎んで返事をする。ラーグの笑顔をジッと見るエリー。
「皆、アルトが銅貨五枚で薬を作ってくれるそうだ。金の準備をするように。受け取り場所はここでいいか? いつ取りに来ればいい?」
「場所はここで良いよ。ただ薬草店の場所がわからないんだ」
「それなら、俺が一緒に行く。近場にあるよ」
リークトが声をあげた。主要な場所は知っているらしい。
「ありがとう。それなら、一時間半後に」
それぞれ返事をして好きに行動する。ラーグはこっそりアルトに囁いた。
「金は稼げるうちに稼いでおけ」
王子様からのまさかの言葉に驚いたが、小さく感謝を伝えた。
「リークト、悪いけど運ぶのも手伝ってほしい。流石に数が多い」
「わかった。けど、先にスープを飲もう。それからだ」
スープが体に染み渡り、少し元気が出た所でリークトの案内で城下町に降りた。街の喧騒が今は苦しい。
アルトは道に行き交う奴隷の姿に、初めて来たときと同じく違和感と罪悪感が胸に溜まる。
「あれは、あんまりだよ」
「確かにキツイな。五月蠅すぎて頭が痛い。もうすぐだから」
リークトと嚙み合わない会話をして、普段ならマーラの力を使い人混みを避けるが、この状態では出来なかった。人に揉まれ辿り着いた店の前は薬品の匂いがした。懐かしい匂いだ
リークトは、その匂いに口を抑えた。
「アルト、ごめん。ここで待ってる」
「わかった。出来るだけ早くに戻って来るよ」
店内に入ると、匂いが籠っていた。
「いらっしゃい」
枯れた声でアルトの来店に老婆が反応した。
アルトは店内を見渡して、必要な薬草を持って会計をする。その薬草の種類を見て老婆が尋ねる。
「坊や、これらの薬草はエレーデンテの課題じゃ使いもんにならんよ」
「え? あぁ、いや。課題じゃなくて個人的に薬を作ろうと思って」
「ほう。坊やは薬を作れるのかい?」
「はい。村で薬師をしていました。二日酔いを楽にする薬を作ろうと思って」
「二日酔いを楽にする薬? 聞いたこと無いね。誰かから教わったのかい?」
「はい。元々は師匠である父から。そこから俺が発展させた物がありまして」
「ほう、父親の名前は?」
「オーロンです。ゴル村のオーロン。バラール地方一の薬師って言われていましたね」
「ゴル村のオーロンかい!? そうかい、そうかい! あいつに息子がいたのか」
老婆はアルトの言葉に驚き、手を叩いて愉快そうに話した。
「オーロンとはドンゴ地方で知り合ってね! 一緒に砦で薬師をしていたんだ。あいつは、兵士兼任の薬師だったからねぇ」
「へぇ、父さんが兵士。初めて知りました」
「話してないのか。まぁ、自慢できる話ではないからね。まぁ、いい。薬はうちで調合してきなさい。塔より設備が整っているから、やりやすいと思うがね」
「ありがとうございます。外で友達が待っているのですが、彼が横になれる場所も貸してもらえますか。二日酔いで」
「あははは。いいとも。呼んできなさい」
アルトは店を出てリークトを呼びに行った。
「オーロン。あんたに子供がいたなんてね。・・・良かったね」
老婆は呟き、作業場に行った。
アルトを作業場に入れて、その作業風景を老婆は見ていた。その手際の良さと見た事のない手法に興味が湧いた。
「坊や、よかったらレシピを起こしてくれないかい。その代わり、薬草の代金はタダにするよ」
その言葉に驚き、手を止めて振り返る。
「レシピくらいい良いですけど、貰って良いんですか?」
「あぁ、わしも自分で作ってみたくなったよ」
「ははは。その気持ちわかります。それなら、ありがたく薬草は頂きます」
「ふぅ。終わった。リークト、大丈夫? これを運んで貰いたいんだけど。とりあえず、これ飲んで」
渡された小瓶の薬をリークトが飲み、息をつく。
「はぁ、胸がスース―する。すごいな。少し楽になったよ」
その様子に良かったと表情を緩めて自分も飲む。老婆は薬をまじまじと見ながら参考品として買い取ると言った。そこでも思わぬ儲けが出た。
薬をまとめて、リークトと分担して持った。アルトは気になっていた事を老婆に尋ねた。
「あの、もし良かったらですが父の話を聞かせてもらえませんか?」
「ん? 構わんが、直接聞けばよかろう?」
「実は、父さんはゴル村が魔物に襲われた時に死んだんです」
「あいつが死んだ!? そうだったのかい。・・・それなら、聞きにおいで。エレーデンテの課題でまたここに来る機会があるから、その時にでも話そう。訓練は大変らしいからね。普段は来れんじゃろ」
「ありがとうございます! ぜひ、お願いします」
「あぁ。それじゃあ、気を付けての」
老婆に見送られながら、アルトは店を出て塔に帰った。そこには、薬を今かと待ち受けている人で溢れていた。最初の人数より多かった。
「薬の数が足りないよ!」
叫ぶアルトの横でラーグが叫んだ。
「全員聞け。今から値上げだ。銅貨五枚から銀貨一枚だ!」
「ラーグ!?」
「稼げる時に、稼いでおけ」
ラーグの言葉に悲鳴を上げる群衆だが、薬はどんどん売れていく。籠の薬はあっという間に無くなった。
「えっと、金貨十枚分の利益になっちゃった」
アルトは小金持ちになった。横で見ていたラーグは、昨日の礼だと笑った。アルトが尋ねる。
「昨日は楽しかった。全てが新鮮で良い夜だったから、お礼に稼がせようと思ってな。値上げをするために色々な所に声を掛けた」
アルトは王子様の意外な一面に笑った。
そこへ財布を持って来たパトロが来た。
「あれ。人、少ないね。アルト、薬ちょーだい」
「もう売り切れだ」
「え! 今から売るんじゃないの!? ・・・まさか」
パトロは青い顔をさらに青ざめながらラーグを見た。ニヤリと笑い返したラーグの一言にパトロは膝をついた。
「昨日の仕返しだ。子分」
「くそおぉぉ!」
膝をつき頭を抱え叫ぶパトロに、アルトは笑った。皆に売る前にラーグは一本買っていたのである。
ラーグは人差し指を口に当てて内緒と口を動かした。その表情に、どこか既視感があった。
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