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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第一部:教会騎士 第二章:ザクルセスの塔
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お裾分けと父親の知り合い

 

「頭痛い」


「痛いね」


 ルベン主催の歓迎会が終わり、いつの間にか寝ていたアルト達は、朝方にラーグに起こされて寮へ帰った。大勢の二日酔いの下級騎士とエレーデンテが乗るエレベーターは酒臭かった。


 寮に着き部屋に入るとベッドで蹲っているリークトがいた。彼の班も歓迎会があり、アルトと同じ状況になっていた。

 静かに寝ていようかと思ったが、空腹に負けてリークトと食堂へ行った。そこには、二日酔いで沈んでいる面子が具たくさんのスープを飲んでいた。ラーグは一人食堂に来て、どこか嬉しそうに硬いパンを齧っていた。


「みんな、おはよう。大丈夫?」


「アルト、おはよう。今日は辛いわね。あんなに飲むなんて、恥ずかしいわ」


「昨日のエリー、すごかったよ」


「やめなさい! そういうのは秘密にしておくの!」


「ははは、ごめんごめん。メライドとマルクスも二日酔い?」


「うん」


「・・・」


 二人はリークトの班員だ。よっぽど辛いのか最小限の言葉だった。


「実はさ、これから二日酔いが楽になる薬を作ろうかと、城下町の薬草店に行くんだ。良かったら作った薬をお裾分けするよ?」


「ホントに!? というか、作れるの?」


「村で薬師をしていたんだ。しかも、バラール地方一番の薬師の弟子」


 食堂で感嘆の声が上がり、欲しいと知らない人からも注文が入った。そこに食べ終えたラーグがやって来て『子分の分も作ってほしい』と銀貨を渡してきた。


「銀貨!? いらないよ! 貰ったとしても銅貨五枚で十分だよ」


「そうか。今、銅貨は無いから薬を貰いに来た時に払うよ。悪いな」


 ラーグの笑みに、声が萎んで返事をする。ラーグの笑顔をジッと見るエリー。


「皆、アルトが()()()()()()()()()()()()()そうだ。金の準備をするように。受け取り場所はここでいいか? いつ取りに来ればいい?」


「場所はここで良いよ。ただ薬草店の場所がわからないんだ」


「それなら、俺が一緒に行く。近場にあるよ」


 リークトが声をあげた。主要な場所は知っているらしい。


「ありがとう。それなら、一時間半後に」


 それぞれ返事をして好きに行動する。ラーグはこっそりアルトに囁いた。


「金は稼げるうちに稼いでおけ」


 王子様からのまさかの言葉に驚いたが、小さく感謝を伝えた。


「リークト、悪いけど運ぶのも手伝ってほしい。流石に数が多い」


「わかった。けど、先にスープを飲もう。それからだ」


 スープが体に染み渡り、少し元気が出た所でリークトの案内で城下町に降りた。街の喧騒が今は苦しい。

 アルトは道に行き交う奴隷の姿に、初めて来たときと同じく違和感と罪悪感が胸に溜まる。


「あれは、あんまりだよ」


「確かにキツイな。五月蠅うるさすぎて頭が痛い。もうすぐだから」


 リークトと嚙み合わない会話をして、普段ならマーラの力を使い人混みを避けるが、この状態では出来なかった。人に揉まれ辿り着いた店の前は薬品の匂いがした。懐かしい匂いだ

 リークトは、その匂いに口を抑えた。


「アルト、ごめん。ここで待ってる」


「わかった。出来るだけ早くに戻って来るよ」


 店内に入ると、匂いが籠っていた。


「いらっしゃい」


 枯れた声でアルトの来店に老婆が反応した。

 アルトは店内を見渡して、必要な薬草を持って会計をする。その薬草の種類を見て老婆が尋ねる。


「坊や、これらの薬草はエレーデンテの課題じゃ使いもんにならんよ」


「え? あぁ、いや。課題じゃなくて個人的に薬を作ろうと思って」


「ほう。坊やは薬を作れるのかい?」


「はい。村で薬師をしていました。二日酔いを楽にする薬を作ろうと思って」


「二日酔いを楽にする薬? 聞いたこと無いね。誰かから教わったのかい?」


「はい。元々は師匠である父から。そこから俺が発展させた物がありまして」


「ほう、父親の名前は?」


「オーロンです。ゴル村のオーロン。バラール地方一の薬師って言われていましたね」


「ゴル村のオーロンかい!? そうかい、そうかい! あいつに息子がいたのか」


 老婆はアルトの言葉に驚き、手を叩いて愉快そうに話した。


「オーロンとはドンゴ地方で知り合ってね! 一緒に砦で薬師をしていたんだ。あいつは、兵士兼任の薬師だったからねぇ」


「へぇ、父さんが兵士。初めて知りました」


「話してないのか。まぁ、自慢できる話ではないからね。まぁ、いい。薬はうちで調合してきなさい。塔より設備が整っているから、やりやすいと思うがね」


「ありがとうございます。外で友達が待っているのですが、彼が横になれる場所も貸してもらえますか。二日酔いで」


「あははは。いいとも。呼んできなさい」


 アルトは店を出てリークトを呼びに行った。


「オーロン。あんたに子供がいたなんてね。・・・良かったね」


 老婆は呟き、作業場に行った。


 アルトを作業場に入れて、その作業風景を老婆は見ていた。その手際の良さと見た事のない手法に興味が湧いた。


「坊や、よかったらレシピを起こしてくれないかい。その代わり、薬草の代金はタダにするよ」


 その言葉に驚き、手を止めて振り返る。


「レシピくらいい良いですけど、貰って良いんですか?」


「あぁ、わしも自分で作ってみたくなったよ」


「ははは。その気持ちわかります。それなら、ありがたく薬草は頂きます」


「ふぅ。終わった。リークト、大丈夫? これを運んで貰いたいんだけど。とりあえず、これ飲んで」


 渡された小瓶の薬をリークトが飲み、息をつく。


「はぁ、胸がスース―する。すごいな。少し楽になったよ」


 その様子に良かったと表情を緩めて自分も飲む。老婆は薬をまじまじと見ながら参考品として買い取ると言った。そこでも思わぬ儲けが出た。


 薬をまとめて、リークトと分担して持った。アルトは気になっていた事を老婆に尋ねた。


「あの、もし良かったらですが父の話を聞かせてもらえませんか?」


「ん? 構わんが、直接聞けばよかろう?」


「実は、父さんはゴル村が魔物に襲われた時に死んだんです」


「あいつが死んだ!? そうだったのかい。・・・それなら、聞きにおいで。エレーデンテの課題でまたここに来る機会があるから、その時にでも話そう。訓練は大変らしいからね。普段は来れんじゃろ」


「ありがとうございます! ぜひ、お願いします」


「あぁ。それじゃあ、気を付けての」


 老婆に見送られながら、アルトは店を出て塔に帰った。そこには、薬を今かと待ち受けている人で溢れていた。最初の人数より多かった。


「薬の数が足りないよ!」


 叫ぶアルトの横でラーグが叫んだ。


「全員聞け。今から値上げだ。銅貨五枚から銀貨一枚だ!」


「ラーグ!?」


「稼げる時に、稼いでおけ」


 ラーグの言葉に悲鳴を上げる群衆だが、薬はどんどん売れていく。籠の薬はあっという間に無くなった。


「えっと、金貨十枚分の利益になっちゃった」


 アルトは小金持ちになった。横で見ていたラーグは、昨日の礼だと笑った。アルトが尋ねる。


「昨日は楽しかった。全てが新鮮で良い夜だったから、お礼に稼がせようと思ってな。値上げをするために色々な所に声を掛けた」


 アルトは王子様の意外な一面に笑った。

 そこへ財布を持って来たパトロが来た。


「あれ。人、少ないね。アルト、薬ちょーだい」


「もう売り切れだ」


「え! 今から売るんじゃないの!? ・・・まさか」


 パトロは青い顔をさらに青ざめながらラーグを見た。ニヤリと笑い返したラーグの一言にパトロは膝をついた。


「昨日の仕返しだ。子分」


「くそおぉぉ!」


 膝をつき頭を抱え叫ぶパトロに、アルトは笑った。皆に売る前にラーグは一本買っていたのである。

 ラーグは人差し指を口に当てて内緒と口を動かした。その表情に、どこか既視感があった。

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