同居人と入団式
新たな仲間と親睦を深めたアルト達は昼食を終えて、解散となった。
「明日は、今回のエレーデンテ全員が集合して入団式がある。時間は昼からだ。集合場所は最初に集まった一階のホールだ。十二時に集まること。入団式は地下聖堂で行われる。それまでは自由行動だ。それと明日からは部屋に用意した制服を着ること。それがエレーデンテの証明になる」
「「「わかりました」」」
「あ、そうだった。エレベーターだがエレーデンテが乗れるのは、緑色のやつだけだからな。灰色と黒色には、下級騎士と上級騎士専用だからね」
こうしてアルト達は緑透明のエレベーターに恐る恐る乗り込み寮へ帰った。
「それじゃ、エリーまた明日」
「えぇ、また明日!」
エリーと別れ、その先でクラルドとも別れ自室に入ると人がいた。癖毛の明るい茶色の髪が特徴的だと思った。
振り返った顔は整っており肌が白い。瞳は髪と同じで明るい茶色だった。彼は、アルトに尋ねた。
「あの、同居人の方ですか?」
「あ、え、はい。こんにちは! 五番部屋の者です。名前はアルトです」
「あ、どうも。リークトです。ははは、そんな所に立ち止まらずに中へどうぞ」
リークトは笑いながら、アルトを二人の自室へ招いた。
「同居人がいるってわかっていても他人がいるとビックリするよね」
「そうですね。部屋を間違えたのかと思いました」
「ははは、俺も同居人のことを思い出すまで固まったよ」
リークトとのんびり会話しながら、自己紹介をしていなかった事を思い出した。
「改めて、俺はアルト。バラール地方のリンド村出身で薬師をしてた。よろしく」
「俺はリークト。ノーラ地方の北にあるエゼリンの町出身。細工師の仕事をやってた。こちらこそよろしく」
アルトとリークトは握手をした。
「町出身って何かすごく立派な所に住んでそうなイメージがあるな」
「何だそれ。町って言っても村を少し大きくしたようなもんだよ。ノーラ地方の北の果てだから、行商もそんなに来ないし、畑も耕すのが大変な所だよ。でも、ちょっと良い鉱石が採れる土地だから代々、細工師の仕事で食っているんだ」
「細工師って宝石を加工する仕事だっけ?」
「それも出来るけど、ちょっとした仕掛けも作れるぞ」
「へ~、いつかお願いするよ!」
その後も、アルトの薬師の話や明日の入団式の話、お互いの今までの経歴など話題に事欠かなかった。
夕食ではクラルドと、その同居人。リークトの班の二人を合わせて六人で食堂で食べた。遠くにいたエリーも女性グループの中で食事をしていた。
アルトの視線に気づいたエリーは小さく手を振った。
***
「よし! これで良いかな。リークト、変な所はない?」
「大丈夫だ! バッチリ決まってる。元がいいから、制服だと余計にカッコ良く見えるな」
「何言ってるの?」
昼に行われる入団式に合わせて、二人は制服を着ていた。
白地に右肩から左脇腹を通り一周している緑の帯のマークが特徴的な制服だった。
「それじゃあ、集合時間があるから先に行ってるよ」
エレベーターに乗り、一階のホールに降りると、クラルドとエリーもいた。制服が丁度良いサイズになっているので、昨日は気にならなかったエリーの強調された胸に視線が流れてしまった。慌てて、視線を上に上がるとエリーがニコリと微笑んでいた。
「気にしなくても良いわ。慣れてるから。二人ともそういう年頃だし」
その言葉に罪悪感と羞恥心が肩に乗った。隣のクラルドを見ると、顔を赤くしていた。
「おーい。皆、いるな」
ルベンがやって来た。
「どうしたんだ、二人とも。顔を赤くして?」
「大丈夫ですよ、ルベン殿。二人とも年頃なんです」
何を言われているかわからない表情を浮かべるルベンをエリーは続きを促した。
「大丈夫ならいいけど。それじゃあ、地下聖堂に行くからついて来るように。エレーデンテの人数がいるから今日だけは灰色のエレベーターを使って降りるぞ」
エレベーターにある程度の人数を乗せて地下聖堂に降りて行った。
地下空間だから薄暗いのかと思った光景は意外なほど明るかった。パルメラ石だろう。
岩づくりの聖堂の奥には大きな絵が飾られていた。女神サドミアが救世の巫女プルセミナに神託を与えている光景だ。
絵の手前には一団高い壇上があり、そこから、アルト達が並ぶ場所を見渡せる。
ルベンや他の下級騎士達の指示で並んでいく。
しばらく静かな空気が続いたが、奥から人が出て来た。入団式が始まる。
神託を与えられている巨大な絵画の横の通路から人が出て来た。入団式が始まる。
最初は黒色のローブを着た人。上級騎士が並び後ろへ下がる。その次に白い祭服を着た人達が三人、上級騎士の前に立った。最後に赤いローブを着た人が出て来た。以前、アーブ達から聞いた教会騎士団長であることを示すローブだ。
白い髪が歳を感じさせるが纏おう雰囲気が違う。戦いの経験がそんなに多くないアルトでも、この騎士団長が強いのはわかる。
騎士団長が前に出て話し始めた。
「これより、プルセミナ教会騎士団、入団式を行う。私は、プルセミナ教会騎士団長ロベルトだ。新たにエレーデンテとなった諸君達を心から歓迎する。
近年、魔物や邪神を崇拝する異教徒達の活動が活発になってきている。その動きに合わせ、我々、教会騎士も戦うが殉職が相次いでいる。諸君らには訓練完了後、前線へ出る事になるが、その時、自らが生き残れるように、そして大陸に住まう民達を守れるようにならなければならない。そのための訓練がこれから始まる。
訓練は厳しく辛いこともあるだろう。一人、険しい道を上るような気持ちになるだろう。しかし、諸君らには友がいる。この場にいる者達だけでなく、共に大陸を守護する我々、教会騎士達が。その友の手が険しい道を上る時、助けになるだろう。暗く険しい道を進んだ先に女神サドミアの象徴たる鉄の心が手に入る。それは諸君らの盾ともなり、一本の剣となる。その剣を使い、強大な闇に立ち向かうのだ!
諸君ら、エレーデンテのもとにプルセミナ様のご加護があらんことを!」
ロベルトの言葉を聞いてアルトは小さく首を動かし横を見た。クラルドとエリーがいる。二人もこちらを見ていた。同じ行動に微かに笑い前を向く。
ロベルトの次に白い祭服を着ていた三人から一人前へ出た。三人の中で一番の年長者に見える。
「エレーデンテの皆さん。今日、この日を迎えられた事を心から喜ばしく思います。私は、教会騎士団評議員のバルダ・ノトラです。騎士団長や上級騎士と共に司教を加えた評議会で教会騎士団は運営されています。魔物や邪神を信奉する異教徒から民達を守るために、我々、評議会は必要な判断をして、皆さんに戦地に赴いてもらいます。戦いの場では、過酷な現実をたくさん突きつけられます。ですが、そこで心が折れてはなりません。我々が膝を屈すれば、多くの犠牲者がでます。我々は、戦い抜かなければなりません。エレーデンテの皆さんには、屈しない心、鉄の心を訓練を通して手に入れ、迫る闇へ立ち向かってください」
ノトラは前を向いていた顔を動かし、どこかを見ていた。
「迫る闇に慈悲は無用です。闇は切り裂き、異教徒達には改心をさせなければならない。罪を汗で清め、彼らを救済するのも我々の使命です。決して、揺らいではなりません」
再び顔を前に向け話した。
「皆さんには女神サドミアの恩寵であるマーラがあります。神の恩寵を使いこなし、大陸の支配を目論む闇を払うのです。エレーデンテの皆さんにプルセミナ様のご加護があらんことを!」
ノトラの演説が終わると、上の階にいたらしい騎士団員の聖歌が歌われた。
こうして、入団式は終わった。
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