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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第一部:教会騎士 第二章:ザクルセスの塔
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仲間との親睦

 

 着いた食堂には、そこそこ人がいて自分達と同じエレーデンテと思われる人と、下級騎士がいた。

 アルト達は食事を受け取り、席に着いた。食堂の食事は、体作りに配慮されたエレーデンテ用。疲労回復と健康を配慮させた教会騎士用と別れている。


 アルト達、三人はエレーデンテ用の食事。硬いパンと具材の多いスープとメインとなる肉料理。量はそれぞれ好みに合わされる。

 ルベンは、教会騎士用の食事。少し硬いパンと海鮮の具材が多いスープとメインの肉料理。ここまでは一緒だが、飲み物がついていた。紫色のトロミのある液体だ。それを見たクラルドが聞いた。


「あの、その紫色の飲み物は何ですか?」


「これは、そうだな。疲労回復の飲み物! これを飲むと長時間働けるんだ。味は、ね。いつか君達もこれにお世話になるから、覚悟した方がいいよ」


 ルベンは紫色の液体のコップを掲げ、アルト達は水の入ったコップを掲げた。


「それじゃあ、教会騎士本部ザクルセスの塔へ、ようこそ! 乾杯!」


「「「乾杯!」」」


 そういうと、アルト達は水を軽く飲んだが、ルベンは一気に紫色の飲み物を飲み尽くした。


「はぁ~、終わった! はぁ、はぁ」


 飲み終えて息切れしている様子に、三人はあの飲み物の味を察した。


 ルベンは口元を拭い、本題に入った。


「はぁ、はぁ。さて、本題の親睦を深めるためにお互いの話でもしようか。まずは、俺だな。

 名前はルベン。ノーラ地方のポッソ出身。未来予知が出来る騎士として重宝されてる。今は下級騎士として剣の代わりにペンを握って、紙と戦っている。あっ、でも剣の腕前もそこそこあるよ。今回、君達三人の監督者になるから、何か困ったことがあれが相談してね」


 エリー・レドロがルベンの自己紹介に質問をいれた。


「色々とお聞きしたいのですが、未来予知はマーラを使って出来るのですか?」


「そうだよ。マーラの感知力が高いと未来予知まで出来るんだ。俺の場合は、ぼんやりと誰がいつ来るとか、たいしたものではないけどね。この力を自覚して、教会騎士に入ることになったんだ」


「本当にそんな力があるのですね」


「すごいな~。物語の世界みたいだ」


「ふふ。まぁ、誰かさんの自己紹介を聞けば、もっと驚くかもね」


 アルトを横目で見ながら、ルベンは呟いた。


「あっ、それと先程おっしゃった剣の代わりにペンを持って紙と戦うとは、どういう意味でしょうか?」


「教会騎士が戦う相手は魔物や異教徒だけじゃないんだ。騎士団の財務や物資の補給、騎士達からの報告書で情報分析や貴族の要請などなど。騎士団の運営をする後方支援の騎士もいるんだ。俺はその後方支援の騎士」


「縁の下の力持ちですね」


「そうそう。君達が前線で戦う為に色々と準備しているんだよ。さて、他に質問が無ければ、クラルド君だね」


「はい! 俺はクラルドと言います。十七歳です。生まれはウェールド地方北部のノゴリス村です。えっと、五人兄弟の二男で、村では農業をしてました。急に力強くなったりならなかったりして病気かと思って教会に見てもらい、マーラの感知者ってわかりました。まさか自分が、物語で聞いていた教会騎士になるなんて思いもしなかったです。皆、よろしく」


 何を言おうかと迷いながらも、赤い目を細めて笑顔で自己紹介した。

 アルトは、ずっとウェールドの人に聞いてみたかった質問をクラルドにした。


「ウェールド地方って豊かな土地で麦酒がすごく美味しいって聞いたけど本当?」


「あぁ! ウェールドの麦酒は美味いよ! 他所の麦酒は知らないけど、ウェールドの麦酒はコクがあって良い香りがするんだ。良い小麦もとれるからパンも柔らかくて、美味いんだ」


「ははは。それなら、この硬いパンには驚いただろう。ここの料理は食事を楽しむというより、栄養補給のためだからね。それと、酒が好きなら街の大きな酒場に行けばウェールドの麦酒も飲めるよ」


「本当ですか!? あ、でも・・・」


 思わず、アルトは食いつくように聞き返した。ゴル村にいた時に聞いた話を確かめる事が出来る。だが、現実を思い出した。お金が無いのである。村にいた頃は薬師として稼いでいたが、今はお金を手に入れる方法が無い。


「ははは。さては金に関して心配してるな。教会騎士団に加入した人は給金が貰えるんだ。エレーデンテは一番安いけど、普通に暮らす分には、そこらの平民よりもいいぞ。下級騎士になると、グンッと貰える金が多くなる。訓練が休みの日もあるから、行ってみると良い」


 その言葉に、アルトとクラルド、平民二人は喜んだ。


(父さん。父さん達の代わりに、あの話が本当なのか確かめるから)


「さてと、食いしん坊の次は、お嬢様にご紹介願おうか」


 エリー・レドロはニコリと笑い、自己紹介を始めた。


「はい。私は、プラド地方の南部、ダリッサの街を治めるレドロ男爵家の長女エリー・レドロと言います。歳は十六です。皆様のお察しの通り、我が家は非選任貴族です。ある日、直感力が向上してマーラの感知者と気付き、家を出てここに参りました」


 スラスラと流れるような自己紹介に、平民二人は『これが貴族か』と思った。クラルドは、緊張しながらも質問をしてみた。


「あの、レドロ様」


「エリーで大丈夫ですよ。敬語も必要ないです。もう貴族ではありませんから」


「あ、うん。それじゃ、エリー。プラド地方ってどこにあるの? ダリッサの街って?」


 エリーは意外そうな顔をして答えた。


「プラド地方は、ここサーリア地方の東で大陸の東部です。エルフ族が住んでいた地域よ

 。ダリッサの街はプラド地方の南端の港町で向かい側にはセレス地方があります」


「エルフ族? セレス地方?」


 クラルドの質問攻めに少し目を細めたが、その様子に気付いたクラルドは慌てた。


「あ、ごめん! 村から出たことがないからエルフとか、他の地方のことを聞いたことがないんだ! 面倒だったら、答えなくてもいいよ!」


 エリーは溜息をつき、深呼吸して答えた


「・・・はぁ、貴族じゃないって言ったのに、自分が貴族気分が抜けてないわね。クラルド、ごめんなさい。貴族同士だと知っていて当然のことだから、思わず。

 それで質問の答えだけど、エルフはプラド地方の東、サラザール島ってところからやって来た異教徒なの。邪神ベリノールを崇拝してる危険な種族よ。ベリノールに関してはルベン殿が詳しいでしょうけど、簡単に言えば、時間を歪める神よ。それでセレス地方は大陸南部でバラルト海を挟んでサーリア地方の南にある地域よ。エスト・ノヴァって城塞都市がすごく発展してるわ。そこを治めるのは大陸で唯一の公爵家、セレス公爵よ。何度も聖戦を勝ち抜いた。今では大陸で一番古い名家ね」


「すごそうな話ばかりでついて行けないよ」


「ははは。まぁ、ここら辺も座学で習うから。今は、自己紹介がてらの話だと思って聞けばいいよ。それじゃ、最後は君だね」


 アルトの番になった。一番最後の自己紹介に今更、緊張してきた。


「俺の名前はアルト。十六歳。バラール地方のゴル村が故郷なんだけど、魔物に襲われて村を捨てたんだ。今の故郷はリンド村で、仕事は薬師をしてた。マーラの感知者って気付いたのは、ゴル村が獣人に襲われる夢を見たからなんだ。それをある人に話したら未来予知だとわかってマーラの感知者って自覚した」


「未来予知も気になるけど、魔物に襲われて生き残れるなんてすごいわ」


「色々あって魔物と戦う事になったんだけど何とか生き残れたよ。それで、移住先のリンド村も魔物に襲われて戦ったんだ」


「戦ったの!? 本当によく無事だったわね」


 アルトはあえて、実の両親の話はしなかった。エリーは魔物と戦った勇気を褒めながら、未来予知について聞いた。


「未来予知だけど、最初は夢の中の話だったんだ。だけど、夢に出て来る攫われる人と直接出会って、もしかしたら夢じゃないのかと思って色々と動いたんだ。そこで、ゴル村に来た教会騎士に話すと未来予知って教えて貰った。その事件の後からは未来予知は出来なくなったんだ」


「俺の未来予知の時は、頭にスッと場面が流れて来たな。それで、その通りになって未来予知って気付いたよ。アルト君程、具体的なものじゃなかった。マーラの感知力が強いんだね。もしかしたら、訓練をしてる時に、また未来予知が出来るかもしれないね」


 興味深く聞く二人は、頷きながらルベンの話を聞いた。


 一通りの自己紹介が終えたアルト達は、食事をしながら、実家の事や故郷の事を話し合った。最初は、貴族だと身構えていたクラルドもエリーに気安く話し、エリーも口調が和らぎながら、思い思いの話をした。この三人だと上手くやっていけるかとアルトは安心した。


 噛みついたパンはすごく硬かった。

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