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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第一部:教会騎士 第二章:ザクルセスの塔
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すれ違った黒髪

 

 奴隷の話でどこか違和感を感じながら二層目を登りきり、城だと思った建物は館だと説明を受けた。

 コバク城が質実剛健なら、この館が豪華絢爛。細やかな意匠が施された館は財を誇示しているようだった。


「これが政治の中心部、ペラギウスの館。枢機卿院と大聖堂を兼ねた教皇の住む場所。まぁ、僕達は入ることはない場所だよ」


「豪華ですね・・・」


「ラウ。ここら辺で長居はしないでおこう。枢機卿達に会うと面倒だ」


「そうだね。今は観光がてら来ただけだから。普段は、呼ばれでもしない限り来ることはない場所だね」


 三人は踵を返し館前の広場から降りて二層目に戻り、一層目から登って来た道の裏を回った。そうすると別の広場に出た。


「ザクルセスの塔から、街へ行くときはこの道を使うんだ。道に迷っても衛兵がいるから聞けばいい」


 広場には荷物を持った人がチラホラといた。


「この人達もエレーデンテなのかな?」


「そうだろうね。それじゃあ、塔に行こうか」


 ラウ達について行き、岩の上に建つ塔に向かった。


「大きいな。移動は全部、階段ですか?」


「ははは。鍛えているけど、さすがにキツイな。中は、中央を貫通するように上下に移動できる乗り物が四か所あるんだ」


「乗り物?」


「仕組みはわからないけど、教会騎士団が設立してからずっと使ってる物だよ。ただ今回の件でドヴォルが魔法を使っていただろう。あれもその類なのかなって思い始めてる」


 魔法について話ながら広場から塔に続く階段を上っていると、人とすれ違った。視界の端を通った黒髪に思わず目が追う。

 階段を下りる黒髪の男は灰色の髪の男を連れて広場へ降りると立ち止まった。振り返る仕草を感じたので、ジッと見ていたことを悟られないようにラウ達を追いかけた。



 ***



「・・・」


「いかがなさいましたか?」


「・・・いや。あと、言葉遣い」


「すいません。つい」


 黒の瞳は階段の先を見てから、隣の男を見る。灰色の巻き毛の男はニコリと笑い謝罪した。


「それより急いで買い出しに行こう。ラーグ」


 名前を呼ばれた黒髪の男は、促されて街へ降りて行った。



 ***



 アルトは塔の下部。岩の部分へ入ると、その明るさに驚いた。昼間の様な明るさだ。

 窓は無く。天井に白い光を放つ何かが、何か所かに付いている。


「すごく明るいですね。あれは何ですか?」


「あれはパルメラ石。衝撃を与えると光続けるんだ。塔のそこら中にあるから、ずっと明るいままだよ。アルト君達が住む寮にもパルメラ石があるから明かりには困らないよ。ロウソクいらず」


「へー、便利ですね。ん?」


 明るい空間をキョロキョロと見回していると、塔の中央にある大きな透明な柱から皿の形をした物が降りて来た。


「あれに乗って他の階に行くんだ」


「大丈夫ですか・・・?」


「大丈夫、大丈夫。最初は怖いけど慣れるから」


 不安に思いながらも近づいていくと声が掛かった。


「おーい! アーブ、ラウ。待ってくれ!」


 二人は呼ばれた方向を向くと、灰色のローブを纏った男が走って来た。


「ルベン、久しぶりだな。どうした?」


「二人とも久しぶり。手紙の日付通りに来ないから心配した。ロベルト団長が二人の帰りを待っていたんだ。帰ってきたら、すぐに団長室に行くようにと伝言を預かってる」


「わかった。悪かったな。道中、色々あって。こいつを連れて行くかどうかは聞いてるか?」


「アルト君は俺が預かるよ。今日、合流する他のエレーデンテと一緒に寮に連れて行く」


「わかった。アルト、こいつはルベンだ。後はこいつの指示に従え。俺達とはここまでだ」


「わかりました。ここまで連れて来てくれて、ありがとうございました!」


「訓練、頑張って。目指す場所は大変だけど、努力を続ければ道が見えるかもしれない」


「はい。頑張ります」


 アーブ達は手を振り、透明な柱の中に入っていった。それを見送ったルベンは自己紹介をした。


「はじめまして、アルト君。俺はルベン。下級騎士だ。君のことは団長から聞いてるよ。実は君と一緒で未来予知が出来る騎士だ」


 軽い挨拶の中に、とんでもない言葉が入っていた。


「ルベンさんも、未来予知が!?」


 軽い自己紹介の中で伝えられた事実にアルトは驚いた。


「俺の知ってる限りの話だと、アルト君ほどの未来予知は出来ないけど、今日、アーブ達が帰還するぐらいのことは見えていたんだ」


「それで、待っていたんですね。あの、他にも未来予知が出来る騎士もいるのですか?」


「俺を除いて三人いるよ。上級騎士に二人。下級騎士に一人。今、その人達は任務で出ているけど、いつか会える。未来予知が出来る人に会うなんて何年ぶりだろう。俺が下級騎士になってからは会ったことが無い。上の人達もアルト君に興味津々だった」


 それよりもとルベンは周りを見渡した。


「今日は他のエレーデンテの子達と合流する予定なんだ。アルト君を含め三人。君達を寮まで案内するのが俺の仕事」


 ルベンと話をしていると、恐る恐るといった感じで声が掛けられた。


「あの、すいません。さきほど、ルベンと聞こえたのですが、この手紙の方でしょうか?」


 明るい赤色の髪と目をした、穏やかな顔つきの青年が立っていた。ルベンは差し出された手紙を見て、挨拶をした。


「俺がルベンだ。君はウェールド地方のノゴリス村から来たクラルド君だね。待っていたよ」


「はい、よろしくお願いします。君は?」


「俺はアルトです。バラール地方のリンド村から来ました。よろしくお願いします」


「リンド村!? 魔物の集団に襲われた村じゃないか」


「よくご存じですね」


「当然だよ。ダボンの街と一帯の村が壊滅したことはあの近くに住む人なら皆知ってるよ。唯一、無事だったのがリンド村だって」


「え! ダボンの街が壊滅した?」


「知らなかったのかい。ダボンの街で生き残った人達が、無事だったリンド村に移住することになったんだ」


「そんなことになっていたんだ。俺が村を出た後の話か。教えてくれてありがとうございます」


「いや。でも、リンド村だけよく無事だったね」


「無事とは言えない、ですね。人も多く死んだから。建物は無事だったけど」


「あ、ごめん。そっか。そうだよね」


 表情を暗くしたクラルドに気にしないように伝える。ルベンはクラルドの肩に手を置き話した。


「魔物と戦って人が無事ってことは無いかな。クラルド君、噂を信じすぎるのは良くないよ」


「はい。すいません」


 落ち込んだクラルドを励ましながら、お互いのことを話し合った。


 十七歳でアルトの一つ上のクラルドはウェールド地方北部にある農村ノゴリスの生まれ。突然、怪力になったりならなかったりと体の異常を心配した両親が村の小さな教会に見てもらった所、マーラの感知者だと判明した。アルトは話していて、自分と同じく田舎出身を思わせる明るくのんびりとした性格だと思った。

 クラルドの方もアルトの生い立ちを聞いて驚いた。魔物と二回も戦った人。

 ただ、両親の話になると目を潤ませながら、祈りを捧げてくれた。情に厚いようだった。


 新しい場所に住み、生活していきながら厳しい訓練をしていく環境の中で、クラルドみたいな人に会えたのは運が良いとアルトは思った。


 もう一人のエレーデンテが来るまで、ルベンを交えて三人で話していた。


「もう一人のエレーデンテはどんな人ですか?」


「女性だよ。プラド地方出身の非選任貴族」


「貴族!?」


 クラルドが大きく反応した。


「クラルドは貴族に会ったことないの?」


「ないない! どうやって挨拶とかすればいいんだろう」


「貴族への挨拶ならこうやるんだ」


 アルトは貴族に対する一礼を見せた。クラルドも真似てやってみたが、動きがぎこちなかった。

 数回練習して軽やかに一礼が出来るようになった。


 ふと周りを見ると、下級騎士一人の側に何人かエレーデンテと思われる人が集まっていた。それは三人だったり、五人の集まりだったり。幼い子の集団もあった。

 すれ違いざまに会った黒髪の男も別の集団にいた。


 それらの集団の一つがアルト達を指差していた。すると女性がやって来る。


「お話し中、失礼いたします。ルベン殿でしょうか?」


 茶色の長い髪を後ろに纏めた女性が話しかけて来た。ルベンが返事をすると、貴族流の一礼をした。


「はじめまして。プラド地方のダリッサの街を預かるレドロ男爵家の長女エリー・レドロと申します。非選任貴族の義務として参上いたしました」


 穏やかな優しい微笑みを浮かべながら挨拶をした。

 ルベンも改めて一礼をして挨拶をし、アルト達を紹介した。


「この二人はレドロさんと同じエレーデンテです」


 アルトとクラルドは順番に一礼をして挨拶をした。


「はじめまして。バラール地方リンド村出身のアルトです」


「はじめ、まして。ウェールド地方の、ノゴリス村出身の、クラルドです」


「ご丁寧な挨拶をありがとうございます」


 クラルドの声は少し震えていたが、二人の挨拶を受けてエリー・レドロはニコリと笑った。


「よし! それじゃあ、俺の担当するエレーデンテは揃ったか。今後この三人一組が、訓練や諸々の活動で一緒になる。一連の説明が終わったら、時間を作るから親睦を深めてほしい。まずは荷物を置きに寮へ行こうか」


 ルベンの後を三人はついて行った。

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