夢、再び
夜の静かな村の光景をアルトは見ていた。人は誰もおらず、普段の小さいながらも活気のある光景とは大違いだ。
そこに地面から光の粒がゆっくりと湧き上がってきた。それは形を変えていき、亡き弟、ティトの姿をした。ティトはアルトに何かを語りかける。声にならないそれは、アルトには届かない。夜な夜な現れる弟の姿に、罪悪感と後悔が掻き立てられて苦しい。
そんなアルトの様子を気にするでもなく、ティトは指をさす。
その先には、行商の荷車が停められていた。少しすると柵を越えて、暗くて顔は見えないが、誰かが柵を越えて村に入った。
次の瞬間、アルトの視界が真っ赤に染まった。荷車が燃えていた。周りを見ると武器を持った人が戦っている。
そんな中、空のように青い髪色の少女がいた。襲撃者は次第に減り、一部が逃げだした。その逃げた先にいた青い髪の少女を襲撃者は捕まえて逃げ暗闇へと消えていった。その瞬間、アルトの視界は真っ暗闇になった。
暗闇の中でティトが現れ、また何かを伝えるがティトの体は、光の粒へと分解され消えていった。
いつも通りの朝がやってきた。夢にうなされ、まだ覚醒していない頭で起き上がり汗を拭う。
弟を助けれなかったあの日以来、二度と大切なものを失わないように努力をしてきた。しかし、それを嘲笑うかのように毎晩みる夢はアルトを傷つけ苦しめる。
謎の回復薬を作ってから五日が経っていた。その間も、村で変わらない日常を過ごす。仕事を終えて、いつも通り門番のモルと剣の腕を鍛える。
「毎日、鍛えてるだけあって型も整ってきたな。技の方もまぁまぁだ」
「ありがとうモルさん。身体が型を覚えて、まえより筋肉痛がなくなってきた」
「よし。あとは、技は磨くだけだ! 今日はここまでにしよう。しっかり休めよ」
「はい!」
訓練用の剣の手入れなど、片づけをしているときにモルは、そういえばとアルトに尋ねた。
「アルト、まだ変な夢みてるのか? 村が燃えるとかティトがでるとか」
「・・・うん。毎晩見てる。最近は内容がハッキリしてきて、気持ち悪くなる」
「ティトが出てくるからって、思いつめるなよ。でも、毎晩内容が同じ夢を見るって不思議だな。青い髪の女の子も出てくるんだろ? 美人だったか?」
「アリアさんみたいに綺麗な人だったよ」
「そんな美人が出てくる夢をみるなんて、アルト君も、お年頃なんだな~」
ニヤニヤと笑うモルに不快感を感じ睨むと、まぁ、俺にはアリアがいるからなっと、さらっと流された。
日暮れ前、アルトの剣の訓練を終えたモルは門番の仕事に戻ると、ちょうど隣村から郵便が届いた。
郵便物を受け取ったモルはアルトへ一通の手紙を差し出した。宛先はオーロンだった。
「ちょうど良かったよ。オーロンさんに届けてくれ。隣村で大きい宿屋をやってる人からだ。
あそこの宿は贅沢にも新鮮なぺコルの肉を焼いて、果物で作ったソースをつけて食べる料理があるらしい。
新鮮なぺコルの肉なんて猟師くらいしか食べれないのにな。俺なんてアリアとの結婚式で猟師が分けてもらったのを食べたが、あんなに美味いとは思わなかった。そこに果物をたくさん使ったソースなんて考えられない」
「へー、ぺコルなんて塩漬け肉を焼いたものしか食べたことない」
「それが普通だ。新鮮な肉の為に毎日ぺコルを狩ってたら、いつか俺達まで飢え死にする。はぁ、この仕事がなければアリアと一緒にその宿屋に行って新鮮なぺコルの焼き物を食べに行くのに」
「ははは、門番さん。あの料理はペコルを狩った、その日しか出ない料理なんだ。もし行けても食べられないなんて事もあるさ。だいぶ前に、噂を聞いたどっかの金持ちが宿屋に来たらしいんだが、その日は料理を食べれず、食べれるまでずっと泊ってたんだ。しかも、部屋は高級部屋。宿屋はそれはもう儲けたって話だ。ちなみに、料理の名前だがステーキって言うんだ」
馬を休めていた郵便屋が教えてくれた話にモルはがっかりとした表情を浮かべた。
『ステーキ』。美味しそうな言葉の響きにアルトはどんな料理かを想像しながら、オーロンへ手紙を渡すために家に帰った。
「ただいま。これ、隣村の宿屋の人から父さんに手紙だって」
「おかえりなさい、アルト。オーロンはまだ帰ってないわ。もしかしたら、酒場に行ってるのかもね」
「それだったら、モルさんに手紙を渡してもらえばよかったな。母さん、ステーキって料理、知ってる?」
「聞いたことないわ。どんな料理なの?」
隣村の宿屋の料理の話をアルマにも伝えた。
いい香りが部屋に届き今日の夕飯は何かなと思っていたら、ぺコルの塩漬け肉を焼いたものだった。これはこれで美味しいと思いながらペコルの肉を嚙みちぎった。
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