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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第一部:教会騎士 第二章:ザクルセスの塔
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首都エスト

 

 ヴェドナを出て数十日。当初の予定より遅れてしまったが首都エストにアルト達は到着した。

 道中、教会騎士の名を恐れない盗賊に襲われて戦い、捨てられた村を見つけ火葬するなどあった。

 しかし、一番の道草は、エストのある半島のつけ根部分に領地を持つバグル伯爵領で賊が村を襲撃している現場に居合わせた事だった。襲撃者の人数も多く、護衛対象であるアルトの事を考えると、無視してエストに連れて行くべきと判断した二人をアルトが説得して助けることになった。


「二人が見捨てても、俺は行きます! 目の前で、こんな事が起きているのに、助けれる力があるのに無視するわけにはいかないです!」


 一人馬を駆けさせたアルトを追いかけるように二人も加わって戦った。

 戦いには勝ったがアルトが負傷して、安静をとって一日休んだ。


「勇気と無謀をはき違えるな! 助けるのはいいが、無茶に戦えば怪我をする。お前は、俺達みたいに不破のローブを着ていないんだぞ」


「僕達はマーラを使えるけど、それでも万能じゃないんだ。剣術も大事だけど、戦い方を学んで効率良く戦うんだ。そうすれば、こんな怪我はしなかった」


 二人からの叱責を受け反省するが、『もっと強ければこんなことはなかった』と内心思っていた。

 そんな事情もありながら、やっと首都エストに着いた。


 遠くから見たエストは、山を一つ使って作られているような場所だった。広大な地上の城壁と山の斜面側に城壁が何重にも立っていた。その奥には城が建つ。何より目を引くのが、山頂部分に建てられた白い巨塔だ。アルトの目線に気付いたラウが言う。


「あれが、教会騎士団の本部『ザクルセスの塔』だ」


 白い巨塔は光を反射した。


 近づくとエストの高い城壁と意匠が施された巨大な門に威圧される。扉には、プルセミナが祈る姿が彫刻されていた。城下町に入るため、検問を受ける列ができている。検問の先に見える光景も人混みだらけだ。その行列の横を通りながら、門を目指す。


「すごい行列ですね。門に行ってますけど、ここまま入るんですか?」


「あぁ、教会騎士と上の連中はすぐに入れる」


 門の前に着くと、門番に止められた。


「教会騎士か。腕を拝見する」


 そう言われると、アーブ達は袖を捲り、手首に焼き印で付けられたであろう紋章を見せた。


「よし、次」


「待ってくれ、こいつは教会騎士候補で連れて来たやつだ」


 その言葉に門番は納得して門を通してくれた。


「今のは何ですか? 気付きませんでした」


「あれはエレーデンテを卒業するときに付けられるやつだ。マーラを巡らせると浮かび上がるから、普段は隠れてる。通行証明書みたいなもんだ。まぁ、通じない所もあるがな」


 そんな話をしながら、厚みのある門を越えると首都エストの光景が広がった。門の広場から道が三つに分かれ真っ直ぐに延びている。

 それぞれの大きな道にはたくさんの人だかり。聖地コバクの比ではない。道には店も並び活気がある。道の先には最初の城壁より高い城壁がある。遠くから見ていた時よりも距離がある。山頂にあるザクルセスの塔の存在感が大きい。街並みは古風な立派な建物が並ぶ。


「ここは聖地コバクとは建物の雰囲気が違いますね」


「あぁ。ここは昔、エスト帝国の帝都だったんだ。その名残でこういう建物が多い。別の大通りの先には闘技場もあって、市民の娯楽場だ」


 アルトはキケロ・ソダリスから聞いた町の様子と比べながら中央の道を進む。しばらく進むと、ピシンッと鞭を打つ音が聞こえた。


「あれは・・・」


「獣人族の奴隷だな」


 布切れを纏い首に首輪を着けられた、屈強な体をした獣人達が荷物を抱えながらゆっくりと進む。その進み具合に苛立った様子の人が、また鞭を打つ。


「ッ」


 悲鳴をあげることも無く、道を進む。


(本当に獣人が奴隷にされてたんだ・・・)


 話で聞いていたが、目の前にすると言葉も出なかった。ゴル村の森で戦った、あの獣人もそうだったのだろうかと考えた。

 周りをよく見ると、荷物を運ばされる獣人、店の前に立ち掛け声を上げる獣人。様々な仕事をしている首輪を着けた獣人達がいた。そして、それを眺める人間。


「何をやっているんだ! さっさと拾え!」


「ごめんなさい!」


 小さい獣人がこけて荷物をバラ撒いた。主人であろう人間が、立とうとした子供の獣人を蹴飛ばし叫んだ。

 それを見ても止めようとしない周りの人間。そして、同じ獣人達。子供の獣人を助けようと動くと腕を掴まれた。


「おい、はぐれるぞ。気になる店はあとだ」


「え、いや。あの子を助けないと」


「ん? 獣人の子供か。それがどうした?」


「どうしたって、あれを止めないと」


「なに言ってんだ。行くぞ」


 そのままアーブ達は道を進み、離れないようについて行く。


(どうなってるんだ。何で誰も止めない?)


 チラッと見ると、子供の獣人は蹲っていた。

 モヤモヤした気持ちを抱えながら、山の斜面側の城壁に着く。地上部の城門の時と同じようにアーブ達が紋章を見せて通過となった。


 二層目は喧騒も無く地上とは違い、高級といった雰囲気のする街だった。歩く人も身なりが良く、いかにも貴族っぽさがあった。

 アルトは胸のモヤモヤを解消したくて目の前を歩くラウに聞いた。


「あの、ラウさん」


「ん?」


「さっき蹴られていた獣人の子供を、何で助けなかったんですか?」


「獣人を助ける? 何でと言われても、獣人だしね」


 前を進みながら、なんてこともなくラウは話す。


「獣人だと助けないんですか?」


「獣人というか、オークもエルフも特に何もしないけど?」


「え!?」


「さっきから、どうしたんだ?」


 ラウの言葉に驚き、後ろからアーブに話しかけられた。


「どうしたも・・・。二人こそ、どうしたんですか!?」


「おい。この街で騒ぐな」


 周りを歩いている人が興味深そうに三人を見る。


「小さい子があんなに蹴られていたのに何もしないって、おかしいですよ!」


「ちょっと、こっち来い」


 アーブに引っ張られて路地に入る。そこで声を抑えて話す。


「落ち着け。どうしたんだ?」 


「なんで、あの子を助けなかったんですか?」


「そりゃ、獣人だからだ。他にないだろう」


 アルトの一連の反応を見ていたラウが、そうかと気付いた。


「アルト君。教会の教えって、ちゃんと聞いたことある?」


「無いです。教会なんてなかったから」


 その言葉にアーブも、なるほどと納得した。


「確かにリンド村には教会なかったな。ましてやバラール地方だもんな。何を騒いでるのか納得した」


「うん。知らないと驚くか。この制度も考えもんだね」


「何の話ですか?」


 混乱してるアルトを置いて二人は納得顔だった。


「ごめんごめん。知ってるものだと思っていたから話してなかったよ。

 色々あるけど、平たく言えば、獣人とオークとエルフをまとめて亜人種って言うんだけど、奴らは神の敵なんだ。女神サドミアの敵。

 邪神を崇拝する種族だから、捕まえたら奴隷にする決まりなんだ。邪神を降臨させるかもしれないからね。片づけるのが一番だって意見もあるけど、奴隷の労働力のお陰で経済が成り立ってるって面もあるから一部の貴族が反対しているんだ。命懸けで異教徒を討伐してる身からするとバカげた話だけどね」


「そうだな。金のために危険を冒すバカだよ」


「それに歴代の教皇様の命令で聖地コバクがあるバラール地方には、亜人種の奴隷は入れることを禁止にしているんだ。驚いたかもしれないけど、エレーデンテ課程でプルセミナ様が神託を受けた内容とか習うから、その時に聞くといいよ。

 それと、人間でも亜人種でも奴隷には手を貸しちゃダメだからね。買い取り主に賠償金を払えって言われるかもしれないから。昔、同期が酷い目に遭わされているって人間の奴隷に手を貸した時に、やられたんだよね」


「あぁ、あいつか。ニクス地方の」


「そういう事もあるから気を付けて。まぁ、そのうち慣れるから」


 二人の会話の内容に唖然としながらも三人は二層目を進み、城の目の前まで来た。

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