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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第一部:教会騎士 第二章:ザクルセスの塔
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実情

 

 聖地コバクで一日を過ごし旅の疲れがとれた三人は、朝、聖地コバクを出発した。目指す首都エストまで、大街道を使いあと十五日。

 出発して二日後。いよいよ、アルトは故郷のあるバラール地方を出る。


「サーリア地方。楽しみです。ミーナがパスタって料理を作ってくれた事があるんですが、あれはとても美味しかったです」


「おっ、惚気か」


 アルトから事情聴取をした二人はニヤニヤとしながら、その時の話を聞き、馬を進めた。


「ここから先がエストがあるサーリア地方だ。パスタって料理が食べれるといいね」


 緩やかな丘を越えた先には平原があった。青い草の香りが風に乗って来る。サーリア地方だ。


 サーリア地方はカバヴィル大陸の中央部にあり、首都エストはバラルト海に突き出たような半島部分にある。

 半島の北には半島に蓋をするような位置でクラブド山脈がある。バラルト海とクラブド山脈の間の狭い地域を通りエストに行ける。これがサーリア地方の南部。

 サーリア地方の北部は平原が多く放牧や農耕が盛んで、大陸西部のウェールド地方ほどの豊かさではないが、恵まれた土地である。それゆえ選任貴族の領地が細かく存在する。


 そして、貴族が多いと起こるのが権力闘争である。北部は広大な領地を持った五つの伯爵家がある。その伯爵家の下にサーリア地方で小さな領地を持った選任貴族達と地方の選任貴族達が集まり、派閥を形成する。そして国政を担う枢機卿団の筆頭者、プルセミナ教皇の第一の臣『首席枢機卿』の椅子を巡り争う。


 これら派閥の長である伯爵家の親族は『伝統的に』枢機卿になり、首席枢機卿の座を求め争う。親族や自派閥からマーラの感知者が出れば、『未来のプルセミナ教皇』として権力闘争は激化する。

 教祖プルセミナから受け継がれ続ける一本の杖。枢機卿院にある石の椅子。この一本の杖と石の椅子を手にした派閥こそカバヴィル大陸の支配者になる。


「はぁ、帰りたくないな・・・」


 アーブの呟きに、ラウも頷く。


「ザクルセスの塔が家だけど、確かに聖地コバクから仕事に出たいな。余計な仕事をしなくていいし」


「余計な仕事って何ですか?」


「護衛と討伐だよ。パーティーがあれば必ず呼ばれて、大勢の不審者への対応。誰かが毒を盛らないかマーラを使って飲み物チェック。選任貴族の領地の第一都市周辺に賊や魔物が一体でも出れば、領軍の代わりに討伐。他の地域で魔物の集団が出ても最優先で対応」


「魔物が一体なのに領軍が対応しないんですか?」


「あぁ。貴族間の戦いの為に備えてるんだ。だから、無駄に消耗するわけにはいかないらしい」


「それって、俺達は」


「消耗していい兵士だね」


 ラウの言葉にショックを受けた。


「新人さん。ショックを受けてるところ悪いが、見えて来たぞ」


 村が見えて来た。門や柵も無いので、そのまま入った。特に何もない村だ。


「静かですね」


「あぁ」


 何も無く進むが、あることに気付いた。


「人がいない?」


「村を捨てたんだ。ラウ、休もう!」


「・・・わかった」


 三人は降りて馬を木に繋げて、適当に民家の扉を開けた。鍵は掛かってなかった。アルトに家の中を見ろとアーブは言った。


「っ!」


 荒れた家の中には、二つの死体があった。ベットには小さな子供。側には首をナイフで斬った親の姿。痩せ切った二人の体は腐敗が始まっていた。


 アルトは家を出て遠くへ走った。

 ラウはゆっくりとアルトの方へと歩いて行った。アーブはロザリオを出して祈りを捧げた。


「・・・大丈夫?」


 アルトの背中を擦りながら、心配する。


「ゲホッ! すいません。遺体は何度も見た事あるけど、あれは・・・」


 えずきが収まり、馬の側にいたアーブと合流する。

 アーブはアルト達を見て村の状況を伝えた。


「他の家もダメだったけど数は少ない。使える家と綺麗な水はあった。ラウやるぞ」


「わかった。アルト君は休んでいて」


 ローブを脱ぎ、口を布で覆って家々に行こうとする二人にアルトは何をするか聞いた。


「火葬だ。疫病防止と、せめてマダルモアへ送ってやるんだ」


 マダルモア。プルセミナ教の教えに出て来る女神サドミアが治める神の国。苦しみも痛みも無く、平穏の世界。火葬された灰は天に届き神の国マダルモアへ行く。


「・・・俺もやります」


「無理はするなよ。旅はまだ続くからな」


 三人は家々から、遺体を運び出し重ねて行った。本来なら木の台を作ってそれぞれ並べて火葬するが、三人では出来なかった。


「そこの家は、俺がやります」


 最初にアルト達が入った家だ。とても軽い二人の遺体は山に重ねずに山の側に親子並べて置いた。子供の方にはベッドの脇に置かれていた人形を持たせた。


「天に座す救世の巫女様。マダルモアの扉をお開きください。貴方の慈愛の光で迷える彼らの魂をお導きください」


 祈りを捧げ、火を付ける。じっくりと遺体に火が回り始めていく。周辺には人が焼ける嫌な臭いが漂う。大きくなっていく火を見つめながらアルトは考える。

 遺体が焼き切るまで時間がかかった。日は暮れ始めたので今日はこの村で休むことになった。


 清潔な井戸の水を汲み、体と服を洗う。洗った服を干して、使える家で三人は休んだ。

 少し冷える気候なので、暖炉に火を起こし体を温める。アーブとラウは地図を見ながら明日の予定を話し合い。アルトは暖炉の火をボーッと見ていた。

 普段なら、その話し合いに参加して予定を把握するが今日はその気になれなかった。二人もその気持ちを知っているので何も言わなかった。


「ほら、飲め」


 アーブから渡されたコップにはワインが入っていた。いつもは薄めて飲むが、今日はそのまま一気に飲んだ。


「村を捨てたのって、食べ物が無くなったから、ですか?」


 アルトの空のコップにワインを注ぎ、質問に答えた。


「そうだな。だんだんと人が減って、畑の維持も出来なくなったんだ。全員が飢え死ぬ前に、村を捨てて食料を求めてどこかに行った。武器になりそうな物は無かったから、多分、賊になって食料がある所を襲ってる」


「だんだんと人が減った?」


「税って二種類あるんだ。教会税と領地税。徴税の時、まずは金で払う。払えなければ、作物を。作物が無ければ強制徴兵されるんだ。金の代わりに若い男を奪っていく。食べ物も無いような土地で無駄に若い男を失うくらいなら、兵士にしようって考えだ」


「それって、奴隷みたいじゃ」


「給金が出る奴隷って感じだな。それでだな。教会は貴族達の上の存在。だから、教会税から先に取られる。そこで金や作物を取られたのかもしれない。その後に領地税で働ける男を取られて、村の人口が一気に減って、力が無い女子供や老人が残された。作物もすぐには作れないし、ゆっくりと人が減っていったんだ。それで最後は村を捨てた」


「徴兵された兵士の人って、この事を知ってるのかな」


「知らないだろうな。強制徴兵は家族と故郷を捨てるようなもんだ。あっちはあっちで兵士として暮らしてる」


 その言葉にアルトは何も言えなくなった。無理矢理、家族と故郷を捨てさせる。両方を大切にするアルトにとっては耐え難い悲しみである。


 何も言えず、何も考えれず、コップのワインを飲み干した。そのコップに再びワインが注がれ、アーブから最後の一杯だぞと伝えられた。


 酒のお陰で、その日はスッと眠れた。

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