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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第一部:教会騎士 第二章:ザクルセスの塔
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聖地コバク

 

 野生動物に襲われながらも、エストまでの旅路は順調だった。今日は、いよいよ聖地コバクに到着する。

 教会騎士達いわく、朝は旅のお供らしい硬いパンと干し肉を食べた。


(ぺコルの塩漬け肉とか懐かしいなぁ)


 硬いパンと干し肉を食べながら、ゴル村やリンド村で食べた料理の数々を思い出して郷愁にかられた。ただ、その思い出の側で笑顔でいる女性の事も思い出し、胸がチクりと痛んだ。思わず右手首を触る。


 他愛もない話をしながら道を進むとそれは見えた。


「すごい。・・・町が光ってる!」


 アルトの言葉にアーブとラウは笑った。かつて、自分達も驚いた光景だった。


 街は白一色で染められて太陽の輝きを反射する。何重にも白い城壁が巡っている街の奥を見ると城が建てられ、その奥には湖に山が浮かんでいる。山の上には大きな教会があった。ガラスで反射された教会は眩しく目を細める。

 アーブがアルトの側に寄って教えた。


「あれが聖地コバクだ。山の上にある教会が、救世の巫女プルセミナ様が女神サドミア様から信託を受け、最期はエスト帝国に火刑にされた場所。プルセミナ聖堂だ。眩しいだろ」


「はい! こんな景色、想像もしたことなかったです」


「今から、あそこに行くんだ。街も賑やかだよ」


 ラウが先行して聖地コバクに近づいていく。徐々に光は衰えて真っ白な城壁が迫った。そして、城壁の向こうでは人々の声が聞こえる。

 城門で衛兵とラウが話て馬を預け、二人はローブを脱いでから町に入った。


「すごい・・・」


 通りには人が溢れて、所狭しと店が並ぶ。客を呼び込む声、誰かと話合う声。様々な声が飛び交う。


「すごく、賑やかですね!」


「ここまでくると、うるさいくらいだ!」


 アルト達は大声で話す。ラウが城を指差して声をあげる。


「コバク城に行こう! そこで大司教がお待ちだ!」


 色々な店に目移りしながら進んでいると、横からアーブに声を掛けられた。


「興味が湧くのはわかるが、今は前を見てラウを追いかけておけよ! 人混みに慣れてないんだから、その歳で迷子になるぞ!」


 クツクツと小さく笑いながら注意される。悔しいが言われた通りにアルトは従った。


 幾つかの城壁を越えて進んで行くと静かな場所に出た。そこで、アーブがアルトに伝えた。


「ここら辺は、選任貴族の邸宅が多い場所だから人には気を付けろよ。特に子供な」


「子供?」


「あぁ、大人だったら教会騎士って言えば引いてくれるが、子供はダメだ。下手に大事おおごとにする。とりあえず、会ったら会釈程度に頭を下げておけ」


「わかりました」


 その言葉に緊張感を持って街を進む。

 先程の喧騒が嘘のように静かな区画には白に統一された邸宅が並び、アルトが見たことがないくらい大きな家は、人が住んでいる実感が持てなかった。


「ここって本当に人が住んでいるんですか?」


 先頭にいたラウが答える。


「貴族の住む区画はこんなもんだよ。騒ぎがあった方が問題だ。・・・二人とも、人が来るよ」


 向かい側から来た人は、従者を連れて歩いてきた。服は先程の通りの人達が着ていたようなものではなく、光沢がある服だった。

 アーブとラウは立ち止まり、軽く頭を下げた。アルトもそれに習い、頭を下げる。

 昔、キケロ・ソダリスが教えてくれた礼ではなくていいのかと緊張したが、相手の視線は感じたが何も無く通り過ぎて行った。また、歩き始めてから少し経った頃にラウが言った。


「貴族に会った時はあんな感じで、礼をしておけば大概はやり過ごせるから覚えておいた方がいいよ」


「わかりました。緊張したー」


「ははは、確かアーブがエストに来た時に貴族と会って、挨拶をしたら、打ち首になりかけたんだよね」


「あれはビビったな。まさか、通り過ぎる人に挨拶したら『処刑にしてやる』って怒鳴られたもんな」


「その時は、どうしたんですか?」


「連れて来てくれた教会騎士が取り成してくれて、御覧の通り首は繋がってる」


「怖い・・・」


 魔物と人、どっちが怖いのか迷うアルトであった。

 その後も、貴族の子供に会い自分の首が飛ばないか心配しながらやり過ごすと、城に近づいてきた。

 城門に来ると門番らしき人が三人に声を掛ける。


「お待ちください。この先はコバク城とプルセミナ教会の関係者のみ入城できます。どちら様でしょうか?」


「教会騎士のラウとアーブです。こちらは、教会騎士候補のアルトです」


 ラウが紹介すると、二人は仕舞っていた灰色のローブを出した。それを見た門番は、敬礼をした。


「失礼しました。騎士殿。お通りください」


 門番は道を開けて三人を通した。二人はローブを着用して城の敷地に入った。

 遠くからでも大きいと感じた城は、目の前に来ると途方もない大きさだった。

 扉の側にいた兵士にラウが話すと、城内へ案内をしてくれた。


(すごい・・・)


 聖地コバクに来てから、何回呟いたかわからない感想を思う。

 窓が少なく暗い城内をロウソクが照らして神秘的な雰囲気を出す。城内に入って目の前の階段の踊り場には大きなプルセミナの像が置かれていた。村に来る行商が売っているような木彫りではなく、まるで本人がいるかの様な精工な像だった。像の目線を追うと、色付きのガラスで表現された女神サドミアの絵があった。


「アルト君、ついてきてね。それと、この先で大司教と会うから出来るだけ僕達の真似をするんだよ」


 小さな声でラウが呼び、この先の対応を教えた。急いで二人を追って城内を進む。


(高そうな物ばかり。絶対に触らないでおこう)


 決意を固めながら、しばらく進むと大きな扉の前に来た。


「こちらに、テイゾ大司教とグラウェル卿がお待ちしております」


 アーブとラウは身だしなみを整えて、兵士に目配せをした。

 兵士はノックした。


「失礼します! 教会騎士アーブ殿、同じくラウ殿、教会騎士候補アルト殿。お着きになりました!」


「・・・入りなさい」


 扉が開かれた。

読者のみなさまへ


今回はお読みいただきありがとうございます! 


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